特別レポート 

第8回アジア・大洋州畜産学会報告
韓国における畜産業とその自由化への対応

韓国ユンナム大学、 畜産経営学部教授 スク・ジン チョ (Suk-Jin Cho)
 本稿の目的は、 韓国における畜産業の現状を示すとともに、 世界貿易機関 (WT
O) の下で韓国の畜産業抱える諸問題を探り、 そして最後に、 厩肥の管理と持続
可能な畜産業に関する施策を提言することである。

I. 韓国の畜産業


1. 生 産
 韓国で畜産業が盛んになったのは、 1960年代の半ばになってからのことで ある。 それ以来、 急速に増え続ける畜産物需要を満たすべく、 家畜飼養頭羽数は、 ここ30年間 (65〜95年) 、 着実に増加してきた。 中でも最も急速に増加し たのが乳牛であり、 次いで鶏・ブロイラー、 豚そして肉牛と続いている。 肉牛の 増加率が一番低くなっている理由の1つは、 70年代からの牛肉輸入の増加であ る。 表1−1 韓国の家畜飼養頭羽数および畜産農家戸数 (単位:千頭、千羽、千戸、%) ────────────────────────────────────── 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 平均増減率 ────────────────────────────────────── 肉牛 1,315 1,286 1,556 1,361 2,553 1,622 2,594 2.2 1,157 1,120 1,277 948 1,048 620 518 -2.6 乳牛 7 24 86 180 390 504 553 15.6 1 3 9 18 44 33 23 - 6.32 豚 1,382 1,126 1,247 1,784 2,853 4,528 6,461 5.3 1,083 884 654 503 251 133 45 -10.1 鶏ブロイラー 11,893 23,633 29,939 40,130 51,081 74,463 85,799 6.8 1,320 1,338 1,094 692 303 161 203 - 6.0 ──────────────────────────────────────  注:1. 上段は飼養頭羽数、 下段は農家戸数。    2. 酪農家戸数の平均増減率は、 85〜95年の平均としている。  資料:韓国農林水産省 「農業統計」  家畜飼養頭羽数とは逆に、 畜産農家戸数は減少傾向にある。 ただし、 酪農家戸 数に関しては、 85年まで増加を続けていた。 このことは、 韓国における酪農生 産が、 乳牛飼養頭数の少ない小規模経営を中心として発展してきたことを示して いる。  一方、 農業総収益額に占める畜産の割合は、 表1−2に示されているように、 65年の2. 6%から、 94年には22. 3%へと増加した。 一方、 米作の占 める割合は、 65年の56. 9%から、 94年には36. 5%に低下した。 こ のように、 畜産部門は、 園芸部門とともに、 韓国の農業経済において重要な部門 に成長していったのである。 表1−2 韓国の部門別農業収益割合の推移 (単位:%) ─────────────────────────────── 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1994 ─────────────────────────────── 米作 56.9 55.6 54.8 48.7 48.0 48.2 36.5 園芸 9.5 13.3 13.5 25.7 28.0 28.1 36.6 畜産 2.6 5.6 7.4 12.1 17.0 17.5 22.3 その他 31.0 21.5 24.3 13.5 7.0 6.2 4.6 ─────────────────────────────── 資料:韓国農林水産省 「農業統計」  韓国の農業政策においては、 これまで、 外貨の蓄積、 戦略的に重要な農産物の 自給、 さらには地方と都市の所得差を縮めることが重視されてきた (Girardot-B erg、 1982) 。  表1−3には、 畜種別の農家戸数および収益額の割合、 並びに平均飼養頭羽数 が示されているこれによると、 94年には、 総農家戸数の35.8%が肉牛経営、 12.0%が鶏・ブロイラー経営、 4.4%が養豚経営、 1.8%が酪農経営と なっている。  また、 農家戸数の割合には大きな差が見られるが、 それぞれの収益額の割合は、 肉牛経営が26.9%、 養豚経営が27.8%、 酪農経営が22.6%、 そして 鶏・ブロイラー経営が20.0%と、 比較的近い割合を示している。 表1−3 畜種別の農家戸数・収益額の割合および平均飼養規模   (単位:%、頭、羽) ─────────────────────────────────── 肉牛経営 酪農経営 養豚経営 鶏・ブロイラー経営 ─────────────────────────────────── 全農家戸数に占める 畜産農家戸数の割合(94年) 35.8 1.8 4.4 12.0 全農産物収益額に占める 畜種別収益額の割合(93年) 29.6 22.6 27.8 20.0 平均飼養頭数(94年) 4.4 21.2 110.3 426.3 ─────────────────────────────────── 資料:韓国農林水産省 「農業統計」  韓国の畜産経営者は、 生産コストを低減するべく、 過去10年間、 経営規模の 拡大に努めてきた。 その結果、 豚の平均飼養頭数は、 85年の11頭から94年 の110頭へと、 10倍に拡大した。 しかし、 韓国の平均家畜飼養頭数は、 日本 (480頭、 94年) や台湾 (402頭、 95年) と比べるとはるかに少なく、今 後、 さらに増加することが予想されている。  乳牛に関して言えば、 85年の9頭から94年の21頭へと、 10年間で2. 4倍に増加した。 しかし、 今後、 飼養頭数をさらに増加させるには、 開放牛舎や 搾乳施設の整備といった技術面の整備が求められるだろう。  鶏・ブロイラーの平均飼養羽数は、 85年の168羽から、 94年には426 羽にまで増加した。  一方、 肉牛の平均飼養頭数は、 85年の2頭から94年には4頭へと、 2倍に 増加した。 しかし、 肉牛農家戸数は、 上記のように全農家戸数の35.8%にも 上っている。 これは、 肉牛経営が、 いまだに小規模単位であることを示しており、 逆に言えば、 肉牛は、 韓国の農家レベルで比較的容易に導入できる、 唯一の家 畜であるといえる。 従って、 韓国農業における肉牛生産は、 過大評価し過ぎるこ とはない程、 重要な位置を占めている。 2. 消 費
 韓国における畜産物の消費量は、 表1−4に示されているように、 過去30年 間 (65〜94年) にわたって、 一貫して増加を記録してきた。 表1−4 1人当たり畜産物消費量 (単位:kg、%) ──────────────────────────────────── 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 平均伸び率 ──────────────────────────────────── 牛肉 1.0 1.2 2.0 2.6 2.9 4.1 6.1 6.4 (自給率) (96.1) (52.5) (54.6) 豚肉 1.9 2.6 2.8 6.3 8.4 11.8 14.2 7.2 鶏肉 0.5 1.4 1.6 2.4 3.1 4.0 5.5 8.6 卵 1.6 4.2 4.5 6.5 7.2 9.1 9.9 6.4 牛乳 0.3 1.6 4.6 10.8 23.8 42.8 46.8 19.2 ────────────────────────────────────  注 :牛乳は乳製品を含む生乳換算数量  資料:韓国農林水産省 「農業統計」  畜産物の中で、 消費量の増加率が最も高いものは、 牛乳であり、 鶏肉、 豚肉そ して牛肉と続いている。 しかし、 近年 (85〜94年) では、 牛肉の消費量が、 年平均8. 6%と、 最も急速に増加した。  これは、 韓国政府が、 88年に輸入を再開したことに深く関係している。 それ 以降、 低価格の外国産牛肉が、 割当数量をはるかに越えて大量に輸入されてきた。 93年以降は、 表2−1に示されているような、 新しい割当制度のもとで牛肉が 輸入されている。 この制度下で、 低価格な牛肉の輸入が増加したことにより、 近 年、 消費者は、 より多くの牛肉を消費することができるようになった。 その結果、 1人当たり牛肉消費量は、 90年の4. 1kgから、 94年には6. 1kgへと大 幅に増加した。  また、 国民の実質所得の上昇は、 高品質の韓牛 (Hanwoo) 肉の消費量の増加に 貢献した。 こうした消費パターンの変化と、 高級牛肉の生産に向けた努力の結果、 韓牛肉の消費量は近年増加している (Cho氏、 1993) 。 表2−1 韓国の牛肉に関するウルグアイ・ラウンド合意内容 ───────────────────────────────────── 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 ───────────────────────────────────── 輸入割当量(千トン) 99 106 123 147 167 187 206 225 SBSの割合(%) 10 20 30 40 50 60 70 70 関税率(%) 20 20 43.6 43.2 42.8 42.4 42.0 41.6 マークアップ(%) 100 95 70 60 40 20 10 0 ─────────────────────────────────────  注1.SBSは、 同時売買方式による輸入   2.関税率は、 2004年に40%になるように設定されている。  資料:韓国農林水産省 「農業統計」

II. 予想されるウルグアイ・ラウンドの影響および畜産業の展望


 ウルグアイ・ラウンドの合意は、 韓国の畜産業にとって決して有利なものでは ない。 韓国は、 95年には国内消費量の1%、 2004年には4%に相当する数 量のミニマムアクセスを設定するという約束のもとに、 2004年までコメの関 税化を免除された。 コメに関する韓国特有の問題に配慮して、 特別の協定が結ば れた訳である。 しかし、 畜産部門における韓国特有の問題については、 ほとんど 特別の配慮がなされなかった。 以下の項では、 予想されるウルグアイ・ラウンド 合意の影響について検討する。 1. 牛 肉
 表2−1を見れば、 93年から8年間にわたり実施されるウルグアイ・ラウン ド合意によって、 韓国の牛肉生産者が、 多くの困難に直面することは明らかであ る。 韓国は、 2000年までに、 徐々に輸入割当量を増加させ、 関税率およびマ ークアップを削減しなければならない。  韓国は、 牛肉のセーフガード発動時に、 高率の関税率を適用する権利を保持で きなかった。 従って、 関税率およびマークアップの削減後の水準に見合うレベル にまで、 生産費を抑えられなければ、 国内生産は縮小せざるを得ないことになる。  このような状況下でも、 適切な水準の国内牛肉生産量を維持するためには、 生 産費を抑えるとともに、 韓牛肉の品質を改善する努力がなされなければならない。 しかし、 生産費削減の実現性は非常に限られている。  表1−3からわかるように、 94年には、 肉牛の平均飼養頭数は4.4頭でし かなかった。 さらに、 韓国には、 日本の 「不足払い制度」 のような政府による補 助も存在しない。 このため、 肉牛農家の経営は不安定であり、 飼養頭数を増加さ せる意欲をもてない状況にある。 さらに、 大部分の肉牛生産者は高齢なので経営 上のリスクを避ける傾向がある。 その結果、 関税率とマークアップの削減に見合 う経費の削減を期待するのは難しい状況に置かれている。  一方、 高品質牛肉の生産は、 輸入牛肉と競争するためのもう1つの戦略となり うる。 この戦略の目標は、 品質面で輸入牛肉との競合を避けられる高品質牛肉を 生産することである。 しかしこの場合、 当該牛肉の消費者価格は、 国内の市場規 模が大幅に縮小するほど上昇すると見られる。  さらに、 韓国の牛肉消費パターンは、 伝統的に、 霜ふり肉による 「しゃぶしゃ ぶ」 や 「すき焼き」 の人気が高い日本とは異なっている。 韓国では、 「プルコギ (焼肉) 」 が、 最も人気のある牛肉の使用法である。 プルコギを作るには、 スラ イスした牛肉を、 焼肉向けに味付けし、 しばらく熟成させる。 したがって、 牧草 肥育の牛肉であっても、 ほとんど問題なく利用することができる。 「日本では牧 草牛肉は牛肉でない」 という神話を生み出すことは、 (韓国では) ほとんど幻想 だった (Hwang氏、 1994) 。 従って、 韓牛肉が、 輸入冷蔵牛肉との直接の競 合を避ける可能性は非常に低い。  また、 90年代初期までは、 韓国の牛肉生産者は霜ふり肉の生産に興味を持っ ていなかった。 これは、 主として、 消費者側に高品質牛肉の需要が弱かったから である。 その結果、 必要な去勢や肥育技術が、 農家レベルで十分に確立していな い。 しかし、 ここ数年、 高品質牛肉の需要が徐々に増加している。 このように見 ると、 冷蔵牛肉の輸入は、 国内の肉牛生産者に、 かなりの影響を及ぼすことにな るだろう。 2. 酪農製品
 酪農製品に関するウルグアイ・ラウンド合意の内容が表2−2に示してある。 95年の基本関税率は、 全般的に、 国内価格と輸入 (CIF) 価格の違いを適切に 反映していない。 その結果、国内価格と輸入価格の比は、脱脂粉乳の場合の1.1 からチーズの2. 7まで、 1. 0を完全に上回っている。 したがって、 韓国が 表2−2に記されているウルグアイ・ラウンド合意内容を遵守するためには、 酪 農産業の構造的改革が不可欠であると思われる。 表2−2 韓国の酪農製品に関するウルグアイ・ラウンド合意内容 (単位:%、トン) ────────────────────────────────── 項 目 輸入自由化年月 関税率 アクセス水準 1994 1995 2004 1995 2004 ────────────────────────────────── 脱脂粉乳 1995. 1 (20) 215.6 176 621 1,034 全乳パウダー 1995. 1 (40) 215.6 176 344 573 コンデンスミルク 1996. 7 (40) 98 89 78 130 ホエーパウダー 1995. 1 (20) 94.1 49.5 23,000 54,233 バター 1996. 7 (40) 98 89 250 420 チーズ 1995. 1 (40) 39.6 36 - - 幼児用粉乳 1995. 1 (40) 39.6 36 - - ────────────────────────────────── 資料:韓国農林水産省  まず、 第一に、 国内生産は飲用乳に限られることになるだろう。 94年には、 飲用乳の仕向率は、 国内生乳生産の76. 9%、 総消費量の71. 0%であっ た。 同年の1人当たりの年間消費量は、 生乳換算で46.8kgであり、 そのうち 33. 2kgは飲用乳として消費された。  韓国の飲用乳のこの消費レベルは、 79年の日本 (飲用乳の消費が減ったため に生産過剰となり、 初めて生産割当方式が導入された年) と同水準である。 日本 における過去の経緯は、 過去30年間に渡った韓国の飲用乳消費の急成長が、 近 い将来には減速する可能性を意味している。  その代わり、 チーズやヨーグルトなどの高品質乳製品の消費の増加がもたらさ れると見られる。 しかし、 残念ながら、 これらの乳製品は、 輸入価格と国内価格 に大きな差があるため、 韓国はこれらの供給を、 輸入に頼らなければならない。 従って、 韓国の酪農産業の成長は、 飲用乳の消費パターンの変化と乳製品の小売 価格の動向に大きく影響されるだろう。  第二に、 生乳生産割当制度の導入が不可避になると見られる。 飲用乳消費の伸 び率が緩慢になり、 安価な乳製品の輸入が急増したため、 ここ数年、 深刻な生乳 の余剰が発生している。  乳製品の輸入は、 90年の27, 384トンから95年の98, 793トン まで、 361パーセントも増加した。 これは主に、 「その他」 として分類される、 脱脂粉乳75%とホエー25%からなる混合粉乳 (HSコード:0404−90− 0000) の輸入の増加が原因となっている。 当該粉乳の輸入量は、 同期間に、 344トンから28, 006トンへと8, 141パーセントという驚異的な増 加を示した。 その結果、 乳製品の自給率は、 92年の82パーセントから95年 の70パーセントへと、 徐々に低下した。  また、 国産の粉乳はユーザーを失い、 粉乳の在庫は96年6月現在で15,0 00トンに達した。 このように、 現在、 韓国の酪農産業は危機に直面しており、 生産者はその生乳生産量を止むなく制限させられている。 この問題は、 混合粉乳 の低関税率 (96年には40%) が高率に引き上げられない限り、 解決されない と見られる。 3. 豚肉および鶏肉
 豚肉と鶏肉に関するガット・ウルグアイ・ラウンド合意内容が、 表2−3に示 されている。 韓国の豚肉や鶏肉の生産者は、 絶えず、 経営の大規模化を進めるこ とにより経済性を追求してきた。 その結果、 豚肉部門では、 豚肉生産量の62. 2%が、 500頭以上を飼養する7. 5%の生産者により生産されている。  この傾向は、 鶏肉生産でさらに顕著である。 全生産者の1.3%にあたる、 1 0, 000羽以上規模の生産者が、 全生産量の82. 2%を生産している。 こ れは、 豚肉や鶏肉の生産者が、 労働集約的な技術や生産統合システムの導入によ って、 絶えず規模を拡大してきた結果である。 表2−3 豚肉と鶏肉に関するウルグアイ・ラウンド合意内容 (単位:%、トン) ───────────────────────────────── 項 目 輸入自由化月日 関税率 割当量 1994 1995 2004 1995 1997 ───────────────────────────────── 豚肉 冷凍 97. 7 25 35.8 25 21,930 18,275 冷蔵 94. 1 25 29.6 22.5 - - 鶏肉 冷凍 97. 7 20 33.5 20 7,700 6,500 冷蔵 94. 1 20 20 20 - - ─────────────────────────────────   注:1997年の割当量は6ヵ月 (1〜6) に対するもの。  資料:韓国農林水産省  以上のように、 冷凍豚肉・鶏肉の輸入は、 97年7月に自由化されることにな っている。 94年にすでに自由化されている冷蔵肉と異なり、 冷凍肉の輸入自由 化は、 主にその保管期間の長さと価格の安さのため、 国内生産にかなりの影響を 及ぼすと見られている。 その結果、 生産者は生産費をさらに削減することを迫ら れるだろう。 このため、 国産製品は、 新鮮さと安全性に関する品質向上の努力が 要求されている。

III. 厩肥管理と持続可能な家畜生産


 韓国では、 環境保護に対する意識が高まり、 家畜排出物の河川水域への流出等 が、 たびたび社会的問題を引き起こしている。 このため、 韓国の家畜生産者は、 厩肥管理に関するさまざまな規則を遵守するよう要求されている。 これは、 畜産 業を環境的に持続可能なものとする必要性が徐々に増加していることを意味する。 このことは、 特に、 厩肥に関する問題を最も多く生起している豚肉産業にあては まる。 環境規則を遵守させ、 マイナスの外部要因を排除し、 持続可能な畜産業を 確立するために、 以下の方策が望まれる。  第一に、 売買可能な 「 (厩肥) 排出権」 を導入し、 個々の生産者に、 自らが生 起する環境保護の責任を負わせることにより、 「汚染者負担原則」 を確立する必 要がある。  第二に、 厩肥を、 汚染物質ではなく、 資源とみなさねばならない。 そのために は、 生産者レベルで有機肥料を生産するための効率のよい方法と施設を導入しな ければならない。 同時に、 リサイクルにより厩肥の利用効率を高めるための、 農 場内および農場間の利用システムを確立しなければならない。  最近、 韓国では、 畜産物の安全性に対する消費者の関心が非常に高まっている。 そのニーズに応えるため、 残留物質のない畜産物を生産する努力がさまざまな方 法で行われてきた。  この問題については、 通常の家畜生産から有機家畜生産へと変換した生産者の 収益性に関するドイツの調査結果が、 有益な方向を示唆している (Nieberg and Schulze 1996)。 これによると、 有機畜産を確立するためには、 限られた期 間、 政府の補助金が必要であるとされている。 そして、 有機畜産への転換は、 生 産性の低下を補完するだけの価格差を生み出さなければ利益にはつながらない。 そのためには、 有機畜産物の流通経路と、 それに対する信頼関係が、 生産者と消 費者の間で確立されなければならない。 さらに、 有機畜産物であることに対する 消費者の確信を得られるように、 有機畜産物の品質を保証する適切な方策が取ら れなければならない。 これは、 有機畜産物の生産者を保護することにもつながる ことになる。

IV. 結  論


 韓国の畜産業は、 60年代の中頃から、 輸入飼料を利用することによって成長 してきた。 これは、 市場介入政策と貿易障壁の設定により、 都市の消費者に負担 を負わせることによって可能となった。 外貨を維持し、 戦略的に重要な物質を自 給し、 農業部門と非農業部門との所得差を狭めることが、 経済成長の過程で国内 畜産物生産を促進する主な目的であった。  しかし、 韓国は、 世界貿易機関 (WTO) 体制のもとで、 ウルグアイ・ラウンド 合意に基づき、 畜産物の市場を開放するよう要求されている。 一方、 適切な自給 レベルを維持使用とする要求はまだ大きい。 国内生産者は、 環境対策 (厩肥管理) 等の経費が増加する中で、 生産性の向上と高級化の推進を強いられている。  肉牛は、 韓国の一般農場レベルで容易に導入できる唯一の家畜であり、 国内生 産を維持するための特別の政治的配慮が必要に思える。 これは、 特に、 利益追求 型の生産に不向きな条件不利地域に当てはまる。 国内生産を維持することの社会 的利益は、 直接的に数量化することはできないものの、 保護による効率の低下に 優先し得ると考えられる。 この観点から、 地域特有の資源に基づく持続可能な畜 産を維持する必要があり、 適切な政治的配慮をすることが認められるべきと思わ れる。
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