海外駐在員レポート 

豪州の肉用牛及び酪農産業の見通し −97年 (第27回) 農業観測会議報告から−

シドニー駐在員 鈴木 稔、 石橋 隆



はじめに



 豪州では、 毎年、 2月初旬に、 豪州農業資源経済局 (ABARE) が主催して、 「農
業観測会議 (OUTLOOK CONFERENCE)」 が、 首都キャンベラで開催されている。 

 この会議は、 ABAREが、 今後の経済成長、 農業・貿易政策、 気象条件などを総
合的に勘案して作成した主要な農産物ごとの需給、 貿易に関する短中期的な見通
しを示すとともに、 豪州農業が抱える諸問題について、 関係者と討議を行うもの
である。 

 農業立国である豪州は、 主要農産物の多くが輸出に向けられており、 これらの
輸出動向が農業経済に大きな影響をもたらすことから、 この会議への関心は極め
て高い。 今年も、 2月4日から6日までの3日間にわたり、 活発な論議が交わさ
れ、 また、 会議の一部は国営テレビで全国放映された。 

 今回は、 この農業観測会議の中から、 肉用牛産業及び酪農産業を中心に、 ABAR
Eが作成した短中期的な需給見通しを紹介する。 

1 農業全般の見通し



 最近の豪州農業は、 海外の需給事情に強く影響され、 生産する農産物によって
大きな収益性の格差を生じており、 明暗がはっきりと分かれている。 すなわち、 
穀物、 酪農産業は輸出需要の増大を背景とした生産拡大によって、 良好な収益性
が確保される一方、 肉用牛、 羊産業は、 長引く輸出需要の低迷、 価格低落によっ
て厳しい経営環境に置かれている。 

 ABAREの見通しによれば、 肉用牛、 羊産業においては短期的に厳しい状況が続
くものの、 国際需給は徐々に好転し、 中期的には海外からの需要増大によって農
業生産は全般的に拡大基調で推移すると見込まれており、 明るい展望となってい
る。 

(1) 農産物の輸出額

 95/96年度 (95年7月〜96年6月) の農産物の輸出額は、 穀物価格の急騰によ
り前年比14%増と大幅な伸びを記録した。 しかしながら、 96/97年度の見通しで
は酪農産業が順調に拡大するものの、 穀物、 肉用牛及び羊産業では前年度を下回
り、 全体の輸出額は0.8%減の203億豪ドル (1兆9千億円) になると見込まれて
いる。 

 それぞれの農業分野別に96/97年度の動向をみると、 穀物部門では、 小麦を中
心に作付面積が拡大し、 また天候にも恵まれたため、 小麦生産量は前年比36%増
の2,312万トン、 大麦は10%増の605万トンと見込まれている。 しかしながら、 輸
出価格の低下により、 小麦の輸出金額は9.2%減の30億7千6百万豪ドル (2千
9百億円) に、 また、 穀物全体でも3.7%減の79億5千6百万豪ドル (7千5百
億円) になると見込まれている。 

 また、 酪農部門は、 生乳生産のピークに当たる春季 (9〜11月) に天候に恵ま
れたことや、 アジア諸国を中心とする順調な乳製品需要に支えられたことにより、 
生乳生産は5.5%増の92億リットル (約920万トン) に、 また輸出金額は20%増の
19億3千5百万豪ドル (1千8百億円) に拡大すると見込まれている。 

 一方、 牛肉部門は、 主要な海外市場の需要低迷と価格低落の影響を受け、 輸出
量は1.4%減の72万8千トン、 輸出金額も13.7%減の20億5千8百万豪ドル (1
千9百億円) に減少すると見込まれている。 

 さらに、 羊毛部門は、 国際価格が下落しており、 輸出量は6.9%増の78万トン
に拡大するものの、 輸出金額は3.4%減の34億8千2百万豪ドル (3千3百億円) 
に減少すると見込まれている。 

◇図:農業粗生産額及び農産物輸出金額の推移◇

 

(2) 農家所得

 豪州農業は、 生産した農産物の多くを輸出に向けるとともに、 農産物の需給・
価格安定政策をほとんど有していないことから、 海外需給による価格変動が直接
的に農家所得に反映される。 

 95/96年度の小麦/穀物農家の現金収入は、 国際需給のひっ迫を背景とした穀
物価格の急騰により、 17万8千豪ドル (1,670万円) と記録的な水準に達した。 9
6/97年度は、 収穫量は高レベルに達するものの、 穀物価格の下落により12万9
千豪ドル (1,210万円) に減少すると見込まれている。 しかしながら、 小麦/穀
物農家の収入は、 他の農業分野と比べ引き続き群を抜いて高い。 

 また、 酪農家は、 他の農業分野と比べ安定した経営が続いている。 96/97年度
の一戸当たり現金収入は、 加工乳価が12%引き下げられるものの、 生産拡大によ
って1%増の6万7千豪ドル (630万円) と見込まれ、 小麦/穀物農家に次いで
高い水準にある。 

 一方、 肉用牛農家は、 牛肉輸出の低迷で肉牛価格が12%低下することから、 経
営環境はさらに厳しさを増し、 96/97年度の一戸当たり農業収益は3万6千ドル 
(341万円) 余りの赤字という、 過去19年間で最悪の状況と見通されている。 

◇経営形態別の一戸当たり農家現金収入の推移◇

◇経営形態別の一戸当たり農業収益の推移◇

 

2 肉用牛産業の見通し



 豪州の牛肉産業は輸出依存型の産業構造を成しているが、 95年以降、 米国の生
産拡大に伴う海外市場での米国産牛肉との競合激化、 イギリスで端を発した牛海
綿状脳症 (BSE) 問題による牛肉需要の低迷などの輸出環境の悪化が、 牛肉輸出
量の減少、 肉牛価格の下落を招いている。 しかしながら、 ABAREでは、 長期にわ
たって低迷してきた牛肉産業も96/97年度に底を打ち、 その後、 緩やかに回復す
ると見通している。 

表1 豪州における牛肉需給の見通し

 注:(1)96/97年度の豪ドル価格による実質価格
   (2)3月末現在
   (3)船積数量
資料:ABS、AMLC、ABARE

 

(1) 供 給

 97年3月末の肉用牛飼養頭数は、 農家の収益性が悪化しているにもかかわらず、 
生産主力地帯に当たるクィーンズランド州、 ニューサウスウェールズ州で適度な
降雨に恵まれたことから、 前年比1.7%増の2,450万頭に達すると見通されている。 
96年1〜9月の9ヶ月間の雌牛のと畜率は、 44%と高い水準にあるものの、 飼養
技術の向上などにより、 今後の飼養頭数はわずかに増加すると見込まれている。 

 今後5年間の見通しにおいても、 肉用牛頭数はわずかに増加し、 2002年3月に
は現在 (96年3月) より5.4%増の2,540万頭と70年代後半以降、 最も高い水準に
達すると見通されている。 このような見通しとなった要因は、 97年から2000年に
かけて羊産業の低迷によって、 肉牛−羊農家が経営の中心を羊から肉用牛にシフ
トすると予想されているためである。 しかしながら、 気象条件や穀物価格、 さら
に近年急速に拡大している生体牛輸出の動向によっては、 この見通しを下回るこ
とも考えられている。 

 また、 96/97年度のと畜頭数は800万頭台には届かないものの、 2%増の795万
頭に回復すると見込まれている。 なお、 クィーンズランド州のと畜頭数は、 牧草
の生育状況が良好なことに加え、 生産者が肉牛価格の低迷を嫌って出荷を見合わ
せたこと、 さらに生体牛輸出の拡大によって減少すると見込まれている。 

 それ以降のと畜頭数は、 輸出需要の回復とともに、 比較的順調に拡大し、 97/
98年度には再び800万頭を突破、 2000年以降は伸び率の鈍化がみられるものの、 2
001/02年度には、 現在 (95/96年度) より13%増の884万頭に達すると見通され
ている。 

 さらに、 96/97年度の枝肉生産量は、 と畜頭数がわずかに増加することから、
2%増の173万9千トンと見込まれている。 それ以降は、 と畜頭数の拡大に加え
一頭当たりの枝肉重量が増加することから、 2001/02年には現在より17%増の19
9万トンと200万トンに近い水準に達すると見通されている。 

(2) 価 格

 96/97年度の肉牛価格は、 前年度より12%下落し、 155セント/kgに低下する
と見込まれている。 前年度の水準自体、 94/95年度と比較して15%低いことから、 
厳しさが増しているといえる。 この厳しい市況の要因は、 米国の牛肉生産拡大と
海外市場の需要低迷にある。 97年も米国の生産が高水準で推移すると予想される
ことから、 しばらくは厳しい状況が続きそうである。 肉牛価格の回復は、 米国の
キャトルサイクルが下降し、 生産が減少に向かう97/98年度以降になるとみられ
ている。 

 97/98年度以降は、 アジア市場を中心とした牛肉需要の増大によって、 肉牛市
況は徐々に回復し、 2000/01年度に再び200セント/kgを上回り、 2001/02年度
には現在より19%上昇し、 実質216セント/kgに達すると見通されている。 なお、 
ABAREでは、 中期的にはアジアの牛肉需要が豪州の肉牛価格の動向に大きな影響
力を及ぼすとみている。 

(3) 国際市場の見通し

 90年代当初の豪州の牛肉輸出は、 巨大な牛肉消費国である米国市場と日本市場
の急速な需要増大に支えられ順調に拡大し、 92/93年度には81万トン (船積ベー
ス) に達した。 

 しかしながら、 それ以降は、 干ばつによる生産コストの上昇、 米国の生産拡大
による海外市場での競合激化などに直面して低迷を余儀なくされ、 94/95年度は
78万5千トン、 95/96年度は73万8千トンと80万トンを下回る水準で推移し、 96
/97年度はさらに72万8千トンに減少すると見込まれている。 

 しかしながら、 それ以降は、 米国のキャトルサイクルが下降局面に向かい、 生
産が減少することに加え、 日本の関税率引き下げ、 韓国の輸入枠拡大、 東南アジ
ア諸国の需要増大などを背景に、 牛肉輸出は拡大し、 98/99年度には再び80万ト
ンを突破、 2001/02年度には現在より20%増の88万5千トンに達すると見通され
ている。 

(1) 日 本

 96/97年度の対日牛肉輸出は、 前年比4.4%減の30万5千トンとなり、 2年連
続の減少と見込まれている。 

 その最大の要因は、 米国産牛肉との競合激化が挙げられるが、 日本市場の輸入
牛肉のうち豪州産の占める割合をみると、 94/95年度 (4〜3月) の53%から95
/96年度には48%と過半を割り込み、 さらに96/97年度 (4〜1月の10カ月間の
累計) では44%にまで低落している。 一方、 米国産牛肉の占める割合をみると、 
94/95年度が43%、 95/96年度が47%、 96/97年度 (4〜1月) が50%に拡大し
ており、 明らかに豪州産牛肉が米国の輸出攻勢に押されたことを示している。 特
に競合の激しいグレインフェッド牛肉は、 96年の輸出実績をみても14%減と不
振が目立った。 

 また、 96年の為替相場は全般的に円安基調で推移したが、 円に対する米ドルレ
ートが前年に比べ16%上昇したのに対し、 豪ドルは21%も上昇したことも豪州産
牛肉の価格競争力を低下させた要因と考えられる。 

 さらに、 イギリスで端を発したBSE問題、 日本での病原性大腸菌O−157による
集団食中毒事件などによって、 消費者の牛肉に対するイメージが大きく損なわれ、 
一時的ではあるが牛肉消費の停滞を招いたことが苦境に追い撃ちをかけ、 豪州の
対日輸出はたいへん厳しい環境に置かれた。 

 しかしながら、 中期的にみれば、 日本の牛肉消費量は96/97年度の119万トン
から2001/02年度には14%増の136万トンと着実に拡大することが見通されてい
る。 さらに、 ウルグアイ・ラウンド (UR) 交渉の国際約束に基づき、 牛肉の関税
率は現在の46.2% (フローズン牛肉は96年8月以降セーフガード発動により50%) 
から2000年には38.5%に漸減すること、 また国産牛肉の生産量は、 96/97年度の
57万7千トンから2001/02年度には58万6千トンと2%増にとどまることから、 
2001/02年度の牛肉総輸入量は22%増の95万8千トンに達すると見通されている。 

 一方、 日本市場での最大のライバルである米国の牛肉生産もピークを過ぎるこ
とから、 豪州の対日輸出量は96/97年度の30万5千トンから、 2001/02年度には
22%増の37万2千トンに増加すると見通されている。 なお、 グレインフェッド牛
肉とグラスフェッド牛肉の割合は、 96年の41:59から43:57と、 グレインフェッ
ド牛肉の割合がやや高まるとみられている。 

◇図:対日牛肉輸出の推移と今後の見通し◇

 

(2) 米 国

 輸出に依存する豪州の牛肉産業は、 世界最大の牛肉生産国かつ消費国である米
国の牛肉需給に強く影響される。 

 米国の牛肉生産は90年代半ばにかけて増大し、 供給過剰となったことから、 豪
州の対米輸出は急減し、 91/92年度の37万7千トンから95/96年度には18万7千
トンに、 さらに96/97年度には17万トンに落ち込むと見込まれている。 輸出量は
5年連続の減少となり、 この間で実に半減以下と不振を極め、 対米輸出シェアは
91/92年度の47%から96/97年度には23%に低下すると見込まれている。 

 一方、 米国の牛肉輸出をみると、 95年は日本、 韓国市場への輸出増から前年比
13%増の82万6千トン (枝肉換算) に拡大した。 また、 96年は、 キャトルサイク
ルがピークに差し掛かったことに加え、 穀物価格の急騰などによってと畜頭数が
増加したことから、 生産量は前年比2%増、 輸出量も8%増を見込んでいる。 さ
らに、 短期的には、 米国の牛肉生産は比較的高レベルで推移することや、 米国内
の牛肉消費の減少傾向に歯止めがかからないことから、 97年の輸出はさらに14%
増加すると見込まれている。 それらの多くはメキシコ、 カナダ、 アジア諸国など
環太平洋諸国に向けられることから、 これら輸出市場で豪州産牛肉との競合は続
くものと予想されている。 

 今後の豪州の対米輸出は、 米国のキャトルサイクルが下降局面に向かうことか
ら、 96/97年度に底を打ち、 97/98年度以降は増加に転じ、 2001/02年度には現
在より22%増の22万3千トンに回復すると見通されているものの、 従来のような
30万トン台には遠く及ばないとみられている。 

(3) 韓 国

 ここ数年、 豪州産牛肉は韓国市場においても苦戦を強いられ、 グレインフェッ
ド牛肉は米国に、 グラスフェッド牛肉はニュージーランドにシェアを奪われてい
る。 このため、 95/96年度の輸出量は5万7千トンと91/92年度のピーク時から
半減した。 

 しかしながら、 中期的にみれば韓国は豪州にとっては輸出拡大を期待できる市
場とされている。 その主な要因として、 韓国の肉用牛農家の廃業などにより2001
/02年度の牛肉生産が5%程度減少する一方、 牛肉消費量は32%増の64万7千ト
ンと順調に拡大すると見通されていることがある。 

 さらに、 同国は2001年に牛肉の輸入自由化を決定しており、 2000年までに輸入
割当数量を22万5千トンに拡大、 同時に関税率も44%から42%に漸減、 さらに、 
自由化までの間、 民間の牛肉需要をベースとしたSBS (売買同時入札) 方式によ
る取扱量を70%に拡大することとしている。 

 このような需要増大と市場アクセスの改善によって、 韓国への牛肉輸出は順調
に拡大し、 2001/02年度には現在より93%増の11万トンに達すると見通されてい
る。 しかしながら、 米国やカナダが対韓向け牛肉輸出を強化する動きがみられる
ことから、 必ずしも楽観視できない。 

 さらに、 韓国では、 グレインフェッド牛肉に対する需要増が顕著に見られるこ
とや、 また、 チルドビーフのシェルフライフに関する規制が緩和されたことから、 
米国産牛肉に有利に働くともみられている。 

(4) 東南アジア諸国

 東南アジア諸国の食肉消費は、 これまで豚肉、 鶏肉が中心であり、 牛肉消費量
は必ずしも多くなかった。 しかしながら、 近年の経済発展に伴う所得向上などか
ら牛肉需要は急速に高まっており、 また、 これらの国々が抱える人口を勘案する
と、 将来、 巨大な牛肉市場に成長することも予想されている。 さらに、 東南アジ
アは豪州にとって地理的にも近いことから、 この地域の牛肉需要の高まりは、 今
後の豪州の牛肉産業に多大な利益をもたらすと考えられている。 

◇図:ASEAN諸国の食肉消費の推移◇

 主要東南アジア諸国 (マレーシア、 シンガポール、 フィリピン、 タイ、 インド
ネシアの5カ国) への牛肉輸出量は、 91/92年度の5千6百トンから95/96年度
には4万4千トンと実に8倍近い伸びを示した。 日本、 米国の2大輸出国の需要
低迷がみられる中、 これらの国々は、 豪州にとっては新たな輸出市場として急浮
上してきた。 

 また、 東南アジア諸国は、 生体牛輸出という面からも注目されている。 豪州の
生体牛輸出頭数は、 92/93年度の18万2千頭から95/96年度には62万8千頭に達
し、 この3年間で実に3.5倍と急速な拡大を遂げてきた。 そのうち、 約9割に当
たる55万5千頭は、 インドネシア、 フィリピン、 マレーシア向けであり、 これら
を枝肉重量に換算すると約9万8千トンに相当する。 これら東南アジア向けに、 
主に豪州北部のクィーンズランド州とノーザンテリトリーから熱帯品種のブラー
マン種が中心に輸出されている。 

 このように生体牛輸出が拡大した要因としては、 輸入国側のフィードロット産
業が急速に成長し、 国内の素牛供給では需要をカバーしきれず、 豪州にその供給
先を求めてきたことが挙げられる。 

 さらに、 これら輸入国では、 肉用牛産業が地域振興策として重要になっている
こと、 他の食品加工産業から排出される副産物を低コスト飼料として活用可能な
こと、 さらに、 冷蔵・冷凍施設の普及が十分でないことも、 牛肉ではなく、 生体
牛という形態での輸入を助長していると考えられる。 

◇図:主要東南アジア諸国向け豪州産牛肉輸出の推移◇

 一方、 豪州サイドでは、 牛肉輸出不振による肉牛価格の低迷によって、 相対的
にパッカーとの取引価格より輸出向け生体価格のほうが農家にとって有利であっ
たことが挙げられる。 また、 輸出向け生体牛は、 18〜22カ月齢を対象としており、 
パッカー取引よりかなり若齢なことから、 農家にとっては、 家畜回転率の向上な
ど経営上のメリットも大きいようである。 

 このように、 生体牛取引は、 輸入国側と輸出国側の双方にメリットがあったこ
とから、 急速な拡大を遂げてきたといえる。 

 今後、 豪州では、 国内外の牛肉需要の回復による肉牛価格の上昇が見込まれる
こと、 また、 輸入国側の一部に生体牛輸入に対する規制を強化する動きもみられ
ることから、 輸出頭数は95/96年度の62万8千頭から2001/02年度に42%増の89
万頭に拡大するものの、 増加速度はこれまでより緩やかなものになると見通され
ている。 

◇図:豪州産生体牛輸出頭数の推移◇

 

(5) E U

 昨年、 イギリスで端を発したBSE問題は、 発生して1年近くが経過したが、 現
在もなお、 牛肉消費の低迷など牛肉産業全体に深刻な爪あとを残している。 96年
におけるEUの牛肉消費量は10〜15%の減少が見込まれ、 また肉用牛農家は先行き
が不透明なことから、 肥育完了前の若齢牛を早期出荷に向け、 結果として供給過
剰による価格低落を招いている。 このため、 EUの牛肉在庫は、 96年の46万トンか
ら97年には65万トンに達すると見込まれている。 

 このBSE問題が中期的に、 EUの牛肉消費や生産にどの程度の影響を残すかは明
らかでないが、 場合によっては、 今後の牛肉在庫量がさらに膨れ上がることも考
えられる。 このことは、 豪州の牛肉産業にとって、 潜在的な脅威になるとともに、 
仮にこれらを輸出市場に向けた場合、 何らかの悪影響を及ぼすことも予想されて
いる。 

(6) 南 米

 南米諸国にとってEUは重要な牛肉輸出市場になっている。 したがって、 EU諸国
の牛肉消費の低迷が長期化すると、 ブラジル、 ウルグアイ、 アルゼンチンなどの
牛肉輸出国が環太平洋諸国に市場を求めることも考えられ、 これらの市場で豪州
産牛肉と競合することも予想される。 

 また、 豪州にとって、 南米諸国の口蹄疫清浄化の動きは、 大きな関心事のひと
つである。 一昨年に、 米国は、 ウルグアイを口蹄疫非汚染国と認定したのを始め、 
アルゼンチンでは口蹄疫の撲滅がほぼ達成されたといわれ、 また、 ブラジルでも
一部地域ではかなり清浄化が進んでいると言われている。 これら国々の牛飼養頭
数は2億頭以上と壮大な規模を有しており、 牛肉輸出の潜在能力はかなり高い。 

 このように、 南米諸国の口蹄疫清浄の進展は、 世界の牛肉貿易に大きな影響を
及ぼすことが考えられ、 豪州の牛肉産業にとって、 これらの国々の動向は目を離
せないものとなっている。 

3 酪農産業の見通し



 90年代に入ってからの豪州酪農は、 海外からの酪農品需要の増大とともに急速
に成長してきた。 生乳生産量は、 ここ5年間で36%増と順調な拡大を遂げている
が、 その増加分の多くは輸出向け乳製品の生産に向けられている。 特に、 アジア
諸国は、 従来から豪州の伝統的な乳製品市場であるが、 近年の乳製品需要の増大
は目覚ましいものがあり、 輸出拡大の原動力となっている。 

 中期的にみても、 アジア諸国を中心とした酪農品に対する需要増大は継続し、 
また、 UR合意に基づく市場アクセスの改善、 輸出補助金のさらなる削減などによ
り乳製品貿易は活発化することが予想される。 このような見通しから、 豪州酪農
の展望はたいへん明るいものになっている。 

(1) 生 産

(1) 3年後の生乳生産は100億リットルを突破

 96/97年度の生乳生産量は、 生乳生産のピーク時に当たる春季の天候に恵まれ
たことから、 前年比5.6%増の92億リットルに達すると見込まれている。 

 また、 中期的見通しにおいても、 引き続き良好な輸出環境が継続するとみられ、 
生乳生産量は年率4〜6%の割合で着実に増加し、 99/2000年度には100億リッ
トルの大台を突破、 2001/02年度には95/96年度より27%増の111億リットルに
達すると見通されている。 その仕向先をみると、 飲用向けは7%増の20億リット
ル、 加工向けは33%増の91億リットルとなり、 飲用向けと加工向けの比率は、 95
/96年度の21:79から、 2001/02年度には18:82となり、 さらに加工向けの比率
が高まるとみられている。 

 ABAREでは、 このような生産拡大は、 経産牛頭数の拡大と一頭当たりの乳量拡
大の両面によってもたらされるとみている。 

 経産牛頭数は、 93年以降、 酪農の収益性が向上したことから増加に転じ、 96年
には196万頭になった。 なお、 この間の酪農家戸数は一貫して減少しており、 経
産牛頭数の増加は酪農家の規模拡大に起因するものである。 

 今後も経産牛頭数は増加傾向で推移し、 98年には200万頭を突破、 2002年には2
10万頭に達するとみられている。 

 また、 一頭当たりの乳量は、 95/96年度の4,445リットルから2001/02年度に
は19%増の5,296リットルに増加すると見通されている。 この乳量増加は、 全般
的な飼養管理技術の向上によるものであるが、 具体的には、 遺伝改良による能力
アップ、 濃厚飼料の給与割合の増加、 さらに草地の改善などに起因するとみられ
ている。 

表2 豪州における酪農及び乳製品の需給見通し

 注 :(1)3月末現在
    (2)96/97年度の豪ドル価格による実質価格
    (3)バターオイル等含む
    (4)96/97年度の米ドル価格による実質価格
 資料:ABARE

(2) 生産者乳価はほぼ横ばい

 96/97年度の加工乳価は、 前年度より約12%下落して23.1セント/リットルに
なると見込まれている。 乳価下落の要因は、 95年後半に乳製品の国際価格が急騰
したことを受けて、 95/96年度の加工乳価が18%と大きく上昇したものの、 その
後、 国際需給は緩和基調で推移し、 しかも為替レートが豪ドル高で推移したこと
などがある。 しかしながら、 引き下げ後の乳価でも、 2年前と比較すると約4%
高く、 当時でも生乳生産が拡大したことを勘案すれば、 酪農家にとっては引き続
き生産を刺激する水準となっていると考えられる。 

 また、 2001/02年度までの加工乳価をみると、 乳製品の国際価格は上昇するも
のの、 豪ドルレートがさらに強含みで推移し相殺されることから、 大幅な上昇は
期待できず、 実質23〜24セント/リットルと、 ほぼ横ばいで推移すると見通され
ている。 

 一方、 2001/02年度までの飲用乳価も、 実質51セント/リットル前後と、 ほぼ
現行水準で推移すると見通されている。 しかしながら、 98年までにニューサウス
ウェールズ州とクィーンズランド州で飲用乳の流通規制が撤廃されることになっ
ており、 これらが飲用乳価にどのようなインパクトを与えるか注目されている。 

(3) 乳製品の生産は軒並み増加

 96/97年度の乳製品の生産量は、 生乳生産が順調なことからバターが前年比3
%増の15万トン、 チーズが5%増の28万1千トン、 脱脂粉乳が3%増の22万2千
トンに拡大すると見込まれている。 

 中期的な見通しにおいても、 豪州にとって地理的に近い東南アジア諸国で、 人
口増加と経済発展による所得向上などによって乳製品需要が急速に拡大すること、 
さらに、 UR合意による市場アクセス改善や輸出補助金のさらなる削減が見込まれ
ることから、 豪州の乳製品輸出は順調に拡大するとみられている。 

 このようなことから、 2001/02年度の主要乳製品の生産量は、 バターが95/96
年度より34%増の19万5千トン、 チーズが36%増の36万5千トン、 脱脂粉乳が29
%増の27万7千トンに拡大すると見通されている。 また、 この間、 国内の乳製品
消費は、 チーズを除きほぼ横ばいと見込まれ、 生産拡大分の多くは輸出に向けら
れるとみられている。 

 その結果、 生産に占める輸出の割合は、 バターが95/96年度の41%から2001/
02年度には72%に、 チーズが44%から54%に、 脱脂粉乳が78%から97%に増加す
ると見通され、 豪州酪農は、 ますます輸出依存型の産業構造に進展するといえる。 
また、 中期的には付加価値の高いチーズと全粉乳の需要増大が予想され、 両者の
生産が他の乳製品より高く伸びることが予想されている。 

 このような状況から、 乳製品の輸出金額は、 量的拡大に加え輸出価格も上昇す
ることから、 95/96年度の16億5千6百万豪ドル (1千6百億円) から2001/02
年度には実質28億5千4百万豪ドル (2千7百億円) と実に72%の増加と見通さ
れている。 

◇図:豪州の乳製品輸出金額の見通し◇

 

(2) 貿 易

 これまで、 乳製品の国際貿易はEU諸国がその過半のシェアを占め、 価格形成面
でも主導権を握ってきた。 しかしながら、 今後UR合意による輸出補助金の量的、 
価額的削減がさらに進むことによって、 EU諸国は輸出競争力を失い、 相対的に豪
州の国際市場における地位は向上するとみられている。 

 しかしながら、 世界一生産コストの低いニュージーランドも、 急速に生産を拡
大しており、 アジア諸国を中心とした輸出市場でのシェア獲得に乗り出している。 
さらに、 米国酪農は96年農業法によって、 より市場原理を強めることとしており、 
これによって中長期的には価格競争力の強化、 ひいては海外市場へ本格的に参入
することも予想されている。 

 また、 短中期的には、 米国が乳製品の輸出補助金制度である乳製品輸出奨励計
画 (DEIP) を2002年まで存続させ、 UR合意で認められた水準まで最大限に実施す
ることとしており、 豪州の乳製品輸出に悪影響を及ぼすことが懸念されている。 

 いずれにしても、 農産物の貿易体制が自由化の方向に向かう中で、 将来的に豪
州酪農は、 乳製品貿易のシェア拡大を果たすとともに、 国際市場での影響力を強
めていくと考えられる。


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