特別寄稿 

台湾の酪農・乳業及び牛乳・乳製品の市場動向

行政院農業委員会 畜牧処 邱 紹清



1. 台湾乳業発展の歴史



 台湾の酪農・乳業は、 約100年前 (1896年) に始まっている。 牛乳が市場で販
売されるようになったのは、 1897年に業者が日本からホルスタイン牛を導入し、 
牛乳を人々に提供するようになってからで、 その後、 乳牛販売業者が頻繁に日本
から乳牛を輸入して、 牧場に販売するようになっていった。 とは言っても、 当時、 
牛乳は、 まだ、 裕福な家庭や栄養を取らなければならない病人にしか飲むことが
できなかった。 第二次世界対戦前 (1940年代初期) には、 乳牛の総飼養頭数は約
1,500頭、 酪農家は約70〜80戸になっていた。 大戦の影響で、 戦時下では酪農・
乳業が縮小してしまい、 1945年の大戦終了時には、 乳牛の数は873頭、 酪農家は
47戸に減少してしまった。 戦後、 台湾の統治権が移ったことに加えて、 戦時中滞
っていた多くの事業が再開を待っていたことや、 外国の乳製品が大量に輸入され
たことで、 台湾の酪農・乳業は一層細々としてものになってしまった。 1955年に
なってからようやく、 政府からの支援を受けて乳業は発展しはじめた。 乳牛の数
も徐々に増えて、 1956年には酪農家は78戸、 乳牛は1,874頭にまで回復した。 し
かし、 生乳の生産設備や加工整備に関しては、 まだ粗末なものであった。 

 1957年、 政府は乳業の育成や高タンパク畜産品の開発、 および農村余剰労力を
活用するために、 酪農事業の振興をはじめた。 農民に副業的経営としての牛乳の
飼養を指導し、 農民の収益を増やした。 1964年末には酪農家は356戸、 乳牛は4,9
51頭になった。 しかし、 乳牛の数が急激に増加して、 その上、 価格の安い粉乳が
大量に輸入されたため、 牛乳の販売は滞り乳業の発展は壁にぶつかることになっ
た。 1965年の“乳業改革原則”、 および台湾省乳業発展グループの設立、 牛乳の
販売調整企画や乳業の発展促進計画などが台湾乳業の発展に大いに貢献し、 1971
年末には、 酪農家は408戸、 乳業は8,014頭になった。 1972年から政策的に、 さら
に積極的に酪農振興事業が推進され、 専業区域の指定や、 酪農家891戸の支援を
通じて乳牛飼養頭数は5,513頭増加した。 また、 生乳収集所の設置や公共施設の
建設や酪農生産設備の改善などの指導も行った。 1976年には、 酪農家が1,326戸、 
乳牛飼養頭数は23,200頭に達した。 しかし、 1975年には、 政策上の理由から牛肉
の輸入が自由化されたため、 牛の淘汰が増えた影響で雌牛の価格は暴落し、 また、 
生産コストが大幅に増える要因もあったことから、 乳業の発展が阻まれた。 5年
間で酪農家は半分ほどに減り、 乳牛の飼養頭数もほとんど増加せず、 1981年末の
酪農家は699戸、 飼乳牛数は23,636頭となった。 1981年からは、 連続して2つの
乳牛飼養事業発展5ヶ年計画が開始された。 酪農を拡大して乳牛の飼養頭数を増
やし、 フレッシュ牛乳の消費市場を開拓した。 投機の余剰乳の問題は出たが、 そ
れでも台湾の酪農・乳業は新しい段階へと入っていった。 1991年末には酪農家は
1,113戸、 乳牛飼養頭数は85,060頭、 生乳の年間生産は225,656トンとなった。 そ
の後、 さらに台湾の国民生活水準が向上し、 フレッシュ牛乳への需要が伸びたこ
とから、 乳業は引き続き成長した。 1995年末には、 酪農家は968戸に減少したが、 
飼養規模が拡大したため、 乳業飼養頭数は111,305頭となり一戸当たり平均飼養
頭数は115頭となった。 また、 生乳の年間生産は317,806トンとなった。 

 近い将来、 台湾は世界貿易機関 (WTO) に加入することになろうが、 液状乳の
輸入自由化は台湾の乳業界に影響を及ぼす大きな要素となるだろう。 

2. 酪農および乳業の概況



(1) 酪農家戸数

表1 酪農家戸数の推移

 注釈:データはその年の12月の調査資料に基づくものである。
 資料:農林省畜産科

(2) 乳牛飼養頭数

 飼養されている乳牛の品種は、 すべてホルスタインである。 

表2 乳牛飼養頭数の推移

 注釈:データはその年の12月の調査資料に基づくものである。
 資料:農林省畜産科

(3) 乳製品加工工場

 台湾区乳製品工業同業者団体に参加している乳製品工場は、 全部で25社ある。 
そのうち光泉、 味全、 統一および台湾農業などの4社の生乳処理量が最も多く、 
全体の約4分の3を占めている。 農業組合系統および小型の乳工場は、 主に乳製
品を生産しているが、 大工場では、 一般にその他の飲料や食品の製造を行ってい
る。 なお、 味全および統一社は、 株式上場会社である。 現在、 台湾の乳業工場で
使用されている生乳殺菌機は、 ほとんどUHT方式のもので、 そのうち2工場は、 H
TST殺菌機も使用している。 

(4) 生乳の生産コスト

 1996年度の酪農モデル農家の1キロあたりの生乳生産コストは、 平均21.27元
である。 そのうち直接コストは16.02元で75.29%を占め、 間接コストは5.26元で
24.71%を占めている。 

表3 生乳の生産コスト(1996年)

 資料:台湾省政府農林庁

(5) 牛乳の成分

表4 牛乳の成分

 資料:DHI計画酪農家資料

(6) 1頭当たりの泌乳量

表5 1頭当たりの泌乳量の推移

 資料:台湾政府農林庁調査

 

3. 生産量および消費量



(1) 生乳生産量

表6 生乳生産量の推移

 資料:台湾省政府農林庁

(2) フレッシュ牛乳等の消費量

表7 フレッシュ牛乳等の消費量の推移

 資料:台湾区乳製品工場同業者団体

(3) WTO加入後、 液状乳の輸入が自由化されれば、 生乳の生産が影響を
  受けると思われるため、 その予想生産量は、 短期的には年産32万トン前後、 中
  期的には30万トン前後、 長期的には再び25〜28トン前後に低下するものと思わ
  れる。 その他の分野では、 アイスクリームや発酵乳の生産は、 引き続き伸びる
  ものと思われる。 

4. 輸出量、 輸入量



(1) 乳製品に関して、 台湾は輸入国である。 輸出している乳製品もあるが、 量
  が非常に少ない。 

(2) 輸入情況

表8 牛乳・乳製品輸入量の推移

 資料:財政部税関統計/農業貿易統計要覧、1995

(3) ニュージーランドは、 台湾にとって最大の乳製品輸入相手国である。 次が
  オーストラリア、 第3位がアメリカとなっている。 1995年の総輸入量はそれぞ
  れ49,345トン、 31,009トン、 23,386トンである。 

(4) 1993年〜1995年の乳牛輸入頭数はそれぞれ3,577頭、 2,112頭および2,162
  頭であった。 そのうち、 カナダからは935頭輸入し、 アメリカからは968頭、 オ
  ーストラリアからは314頭、 日本からは44頭が輸入された。 

(5) バター、 練乳類、 粉乳類の輸入の伸びは緩やかになり、 粉乳類ではマイナ
  ス傾向にさえなっている。 ヨーグルト、 チーズの輸入は引き続き伸びている。 
  1995年下半期から乳牛の輸入を1年間停止することになり、 その後は、 国産生
  乳の生産販売状況を見てから、 乳牛を輸入するかどうかを検討することになっ
  ている。 

5. 牛乳の生産販売ルート



 乳業の管理規則により、 生乳は直接飲用することや販売することが禁止されて
いる。 また、 同規程では、 乳製品工場登記者の代理加工業への委託手続や、 受託
に関することを規定している。 乳製品の生産販売ルートの様子を下記に示す。 

◇図1 牛乳の生産販売ルート◇

 

6. 価格動向




(1) 1990年12月から、 3段階方式の生乳価格を採用することになった。 そのう
  ち夏期は6月から9月、 暖期は4・5・10および11月、 冬期は12月から翌年3
  月までとなっており、 基準価格は、 それぞれ20.73元/kg、 18.73元/kgおよび
  13.24元/kgとなっている。 各乳業工場はこの価格を基本とし、 品質の良否の
  いかんによって、 価格を決定する。 フレッシュ牛乳の小売価格は、 生乳の購入
  価格に加工、 包装、 販売管理および利潤等の費用を足した価格であり、 生乳価
  格の約2.5倍となる。 つまり、 生乳価格は、 小売価格の約40%を占めるという
  ことである。 各工場 (会社) の経営方法や販売管理コスト等は異なるため、 フ
  レッシュ牛乳の小売価格にも格差が出てくる。 

(2) 6年あまり生乳価格はすえ置かれていたが、 その間に物価は上がり、 飼料
  や人件費も上昇しているため、 酪農家は1996年半ばから、 生乳価格を1キログ
  ラムあたり4元値上げすることを求める提案をした。 工場と農民による数回に
  わたる協議を通じて、 すでに共通の認識が得られており、 生乳価格を引き上げ
  ることになっているが、 値上げ幅や如何に調整するか、 また実行スケジュール
  などについては、 引き続き協議を行うこととしている。 

(3) 将来台湾がWTOに加入すれば、 液状乳は輸入自由化という競争にさらされ、 
  生乳価格は新たな挑戦を受けることになる。 

7. 生乳の商品形態



(1) 包装等材料:

(1) ガラス・ビン−主に保存牛乳 (日本のLL牛乳に類するもの)。 
(2) プラスチック容器−主にフレッシュ牛乳。 
(3) pure pack 紙パック−主にフレッシュ牛乳。 
(4) tatra pack 紙パック−主に保存牛乳。 
(5) プラスチック容器−主にフレッシュ牛乳・保存牛乳。 

(2) 容量:

(1) 180CC−主に保存牛乳 (ガラス・ビン) 
(2) 200CC−主に保存牛乳 (tetra pack) 
(3) 230CC−フレッシュ牛乳 (pure pack) 
(4) 250CC−フレッシュ牛乳 (プラスチック容器) 
(5) 500CC−フレッシュ牛乳、 保存牛乳 (プラスチック容器) 
(6) 946CC−フレッシュ牛乳、 フレーバー牛乳 (プラスチック容器、 紙パック 
            (pure pack)) 
(7) 1892CC−フレッシュ牛乳 (プラスチック容器) 

(3) 変化

(1) ガラス・ビンやスチール缶の使用は、 保存牛乳の生産が減るにつれ、 比例
  して徐々に低下している。 

(2) 946CCおよび1892CCの家庭向け容量の販売が主流となり、 引き続き成長して
  いく傾向がある。 

(3) プラスチック容器の回収問題は、 乳製品工場を困惑させている。 コストア
  ップにつながるからである。 

8. 牛乳販売の実態



(1) 販売方法および小売店

 スーパー・マーケットやコンビニエンス・ストアが、 乳製品の主な販売拠点で
半分以上を占めており、 近年では、 量販店が重要な販売拠点となっている。 販売
方法は冷蔵ケースで展示販売されている。 保存牛乳は常温で販売されるため、 台
農の保存牛乳は各家庭に配達されて箱が開けられる。 ひとビン236CCである。 

(2) 小売価格

 生乳価格に基準価格が設けられているため、 各工場の原材料コストに大きな差
はなく、 差は販売管理費やブランドで生じてくる。 946CCプラスチック容器を例
にとると、 夏の小売価格は45元〜65元と一様でないが、 ほとんどのものは45元〜
50元の間にあり、 一部少数のものだけがブランドによって高価格で販売されてい
る。 例えば東海大学 (プラント) の製品は55元、 土銀初鹿牧場の製品は65元など
である。 

9. 国家の乳業政策、 指導や対応機関など



(1) 生乳の生産対策

 中央行政院農業委員会より農会 (農協に類似の組織) 系統、 省 (市) 政府農林
部署、 県 (市)、 町村部署を通じて、 生産対策が執行される。 

(2) 乳製品の生産対策

 農会系統以外に、 行政院衛生署および経済部工業局 (工場) の衛生部署や建設
部署を通じて行なわれるものがある。 

(3) 酪農発展対策

 乳牛の増加、 給餌の自動化などを通して規模を拡大する。 

(4) 価格政策および運送販売の近代化

 生乳価格は、 工場と農民の、 生産コストや合理的な利潤、 さらには消費動向要
素を考慮して、 協議決定される。 

 地域の集乳所は、 すでに全土でわずかに5箇所に減少しており、 大部分の生乳
や飲用乳は、 冷蔵または保温車で、 輸送されている。 そのほか、 工場と農民を指
導して、 衛生牧場制度を成立させ、 工場と農民の協調を促す。 

(5) 輸入管理制度

 現在乳製品では液状牛乳が輸入管理規制品目とされていることを除けば、 その
他の乳製品、 例えば粉乳、 ヨーグルト、 チーズおよびれん乳などはすべて自由化
品目になっている。 なお、 国産乳製品は国内市場で、 21%前後を占めている。 

 乳製品の現行関税率は、 下記のとおりである。 

 粉乳15%、 ヨーグルト10%、 チーズ15%、 練乳40%、 バター20%、 フレッシュ
牛乳35%、 フレーバー牛乳32.5%、 発酵乳−凝固32.5%、 その他20%となってい
る。 

 目下、 WTOへの加入に関する諮問協議が行われており、 各関税率は調整される
可能性がある。 

(6) WTOに加入する産業の対策

(1) 産業構造の調整:ロングライフ牛乳の生産を減らし、 発酵乳の生産を増や
  す。 また、 フレーバー牛乳を増やすこと。 

(2) 競争力の強化:生産コストを下げ、 かつ、 牛乳の品質を高めること。 フレ
  ッシュ牛乳と保存牛乳市場を分けること。 国産フレッシュ牛乳ブランドを作る
  こと。 

10. 海外乳業企業の投資情況



(1) A社 (日本資本) 

 製品は液状発酵乳を主として、 近年ではフレッシュ牛乳製品への発展を拡大し
ている。 

(2) B社 (台湾資本) −日本との技術協力

 製品はフレッシュ牛乳、 フレーバー牛乳、 保存牛乳を主としつつも、 近年では、 
発酵乳製品へと業容を拡大している。 

(3) C社 (オランダ資本) 

 製品はフレッシュ牛乳などの飲用牛乳を主としつつも、 近年は、 アイスクリー
ム市場へ進出し、 業容が拡大している。


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