WTOが成長ホルモン使用食肉の輸入禁止措置を違反と報告 (EU)




● WTOの紛争処理小委員会が違反と報告

 世界貿易機関(WTO) の紛争処理小委員会は、 EUが取っている成長ホルモンを使
用した食肉に対する輸入禁止措置は、WTO協定に違反しているとの最終報告を行っ
た。 

 EUは、 80年代初頭からの消費者の強い反対運動に応えて、 88年には家畜生産に
おける成長ホルモンの使用を禁止したが、 89年1月からは、 成長ホルモンを使用
した食肉の輸入も禁止した。 その結果、 EUへの牛肉輸出が困難となった米国は、 
95年7月に国連のコーデックス委員会 (食品の安全基準等に関する国際協議の場) 
が食肉についての成長ホルモンの残留基準を定めたのを受けて、 96年1月にはEU
の輸入禁止措置を非関税障壁としてWTOに提訴した。 

 また、 この動きに対して、 EUへの牛肉輸出国であるカナダ、 オーストラリアお
よびニュージーランドも同調した。 その後、WTOの下での2国間協議が行われてき
たが妥結に至らず、 96年5月には、 米国の要請により紛争処理委員会が設置され、 
審査が行われてきた。 なお、 今回の報告の詳細は明らかではないが、 97年5月の
同小委員会の中間報告を、 ほぼ踏襲しているものとみられる。 


● 米国はコーデックス指名委員の安全認定が奏効と分析

 ちなみに、 米国側は、 今回、 EUの主張が否定された背景として、WTOに専門的な
アドバイスを行うコーデックスの指名委員が、 ヒトの健康に影響を及ぼす危険性
があるとされる6種類の成長ホルモンのうち、 5種類は安全であり、 もう1種類
はめったに家畜生産に使用されることはないと結論付けたことを挙げている。 ま
た、 別の観点では、 EUにおける成長ホルモンの取扱基準が、 牛肉とそれ以外の食
品、 また、 用途により必ずしも統一されていないことを挙げる向きもある。 


● 今後、 EUはさらに苦しい立場に

 EUが今回の報告を受け入れた場合、 EUは相応の代償を支払うか、 あるいは成長
ホルモンを使用した食肉の輸入再開を迫られることとなる。 

 しかしながら、 EUの現状では、 (1)昨年3月にBSE (牛海綿状脳症) 問題が発生
して以降、 消費者が食肉の安全性に対して一層敏感になっていること、(2)成長ホ
ルモンを使用した食肉の輸入を許可するとすれば、 域内での成長ホルモン解禁を
求める論議が起こるのは必至とみられ、 加盟国間で対立の激化が予想されること、 
また、 (3)域内の牛肉需要の回復が依然として芳しくない中で、成長ホルモンの解
禁により域内生産が刺激されたり、 あるいは域外からの輸入が増加した場合、 牛
肉の供給過剰傾向が増幅されることにもなりかねないことなどから、 今回の報告
を受け入れられる余地は極めて乏しい。 したがって、 EUは、 今回の報告に対して
何らかの異議申し立てを行うものとみられる。 その場合には、 新たに技術専門家
委員会が設置され再検討が行われることとなるが、 EUは成長ホルモンを使用した
牛肉がヒトの健康に及ぼす危険性について、 新たな科学的根拠を求められること
になる。 

 一方、 今回の同小委員会の報告に対して、 フィシュラー農業委員は、WTOはEUの
提出した科学的な証拠を十分に考慮していないなど、 民主的な機能が欠如してい
ると指摘し、 依然として強気の姿勢を示している。 これに対して、 通商政策担当
のブリタン副委員長は、 同委員の発言を非難しており、 EU委員会内部の足並みの
乱れもあることから、 今後、 EUはさらに苦しい立場に追い込まれそうだ。 



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