海外駐在員レポート
シドニー駐在員事務所 野村俊夫、藤島博康
今年も、2 月 3 日から 5 日にかけて、首都キャンベラで、「農業・資源観測 会議」が開催された。 この会議は、第一次産業・エネルギー省配下の豪州農業資源経済局(ABARE)の 主催によるもので、穀物や食肉などといった主要な第一次産品ごとに、気象、経 済、貿易や政策などさまざまな要素を折り込んだ上で、短中期的な需給予測が発 表される。また、需給予測の他にも、農村社会における女性の役割や遺伝子組み 換えなど、時々のトピックスを取り上げ、各分野の専門家による分析、提言が行 われる。 豪州の輸出総額に占める第一次産品の割合は、近年、漸減傾向にあるとはいえ、 依然、5 割を超えており、年に一度の政府公式観測が公表されるこの会議に対す る注目度は高い。このため、参加者は業界内にとどまらず、銀行や投資会社など も名を連ねる。 今回は、ABAREより示された需給見通しのなかから、牛肉と乳製品に関して報告 する。 なお、本文中の年度表記は、特に断りのない限り、すべて 7 月から翌年 6 月 までの 1 年間を示す。
表1に、ABARE観測の骨格となる主要経済指標を示した。 これによると、米ドルに対する豪ドルの通貨レートについては、97/98年度、98 /99年度と、1 豪ドル当たり平均68米セントで推移し、その後、2002/03年度ま ではゆるやかに上昇し、73米セントまで値上がりすると予測している。 また、世界の経済成長については、アジアの経済混乱が大きく響き、98年の成 長率は3.1%のマイナスとしている。アジア経済については、不確定な点が多いと しながらも、99年には回復に向かうと見込まれている。 一方、予測期間の天候については、断続的に干ばつが続いた90年代前半よりは、 降雨に恵まれ改善するとしており、90年代前半から縮小傾向にあった肉牛や羊な どの飼養頭数が、今後、中期的に回復するとともに、作物の作付面積も増加し、 農業による単位当たりの土地利用度は上昇すると予想している。 表1 豪州の主要経済指標 資料:ABARE「OUTLOOK98」 注:経済成長率とインフレ率は前年度比、97/98年度以降はABAREの予測値 表2 世界の主要経済指標 資料:ABARE「OUTLOOK98」 注:(1)98年以降はABAREによる予測値 (2)%は前年比、為替レートは年平均値 (3)OECDは韓国、トルコおよびメキシコを除く加盟国 (4)東アジアは、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、 シンガポール、台湾、タイ
一昨年を底に、牛肉不況とも称された価格低迷からは、徐々に回復しつつある。 ABAREの観測によれば、中期的には、アジア地域向け輸出の増加と、伝統的な市場 である北米地域向け輸出の回復により、市況は緩やかに上昇することから、今後 の供給量は拡大傾向にあると見込まれている。 (1)肉牛の供給動向 昨年後半から、ニューサウスウェールズ州やビクトリア州など、豪州南東部の 多くの肉牛生産地域は、雨不足による草地の悪化から、肉牛農家は牛群の縮小を 余儀なくされており、肉牛出荷頭数は増加傾向にある。 これに加え、近年急増した東南アジア向けの生体牛輸出がアジアの経済危機に より落ち込み、この分が豪州国内市場に振り向けられたことも一因となって、97 /98年度の肉牛と畜頭数は、前年度に続き、例年の水準を上回り、843万頭と予測 されている。 一方、97年の成牛と畜頭数全体に占める雌牛の割合は、例年の水準をかなり上 回って推移したことから、98年 3 月末時点での牛飼養頭数は、前年同期より1.5 %減少し、2,600万頭と予測されている。成牛全体に占める雌牛のと畜割合は、97 年 1 月〜 9 月までの間で48%に達しており、飼養頭数が大幅な減少局面を迎え た70年代後半以来の高水準となった。これは、肉牛経営の収益が過去3年間、低 レベルにとどまっていたことから、経営規模の縮小、他作目への転換が進んでい るためとされる。 しかしながら、中期的には、肉牛価格が上昇傾向にあることから、頭数は増加 に転じ、2001年には、70年代の終盤以来の高水準となる2,660万頭程度にまで回復 するものと予測されている。 肉牛価格の上昇要因の一つとして、ABAREでは、フィードロット飼養頭数の拡大 による需要増を挙げている。 フィードロットに関しては、主な市場である日本の牛肉消費量がわずかながら も上向くことに加え、生産の減少により98年半ばには米国産牛肉の高価格が予想 されることから、日本からの需要は豪州産穀物肥育牛肉に、より強まると見込ま れている。 一方で、飼料価格は比較的安定的に推移し、フィードロットの経営収益は上昇 が見込まれていることから、フィードロット飼養頭数は、ピーク時には及ばない ものの、中期的に拡大傾向にあると予測されている。 (2)価格動向 97/98年度の肉牛価格は、供給の増加基調にもかからわず、前年度より15%上 昇し175セント/キロ(生体市場価格)に上るとみられている。 中期的には、昨年来のアジアの経済混乱が沈静化するにしたがい、アジアでの 牛肉消費の回復と、米国の牛肉生産の減少に助けられ、豪州からのアジア向け輸 出は増加すると見込まれることから、肉牛価格は1999年から2001年には上昇傾向 にあるとしている。 しかしながら、2000年以降、米国の牛肉生産量が再び増加基調に転じ、豪州産 の牛肉輸出を圧迫するとみられるため、肉牛価格は2000/01年度をピークに、20 01/02年度には低下すると見込んでいる。 一昨年の牛肉不況とも称された価格低迷が、米国のキャトル・サイクルのピー クに端を発していたことにみられるように、現状の豪州の肉牛および牛肉市況に は、アジア市場の消費動向、また輸出市場で競合する米国産牛肉の輸出動向が強 く影響する。 表3 牛肉の需給予測 資料:ABARE「OUTLOOK98」 注:(1)97/98年度の豪ドルを基に算出 (2) 3 月31日現在 (3)船積重量 (4)1997/98年度以降はABAREによる予測値 (3)輸出動向 豪州の牛肉輸出は、米国の牛肉生産量が減少局面に入ったことから、昨年来、よ うやく回復傾向に転じた。 しかしながら、アジアの経済混乱という不測の事態に見舞われ、今度はアジア の景気回復が豪州の牛肉輸出のカギを握るとみられるが、ABAREでは、比較的、短 期間のうちに回復すると予想している。また、米ドルに対し豪ドルが弱含みで推 移することによって、豪州産牛肉の国際市場での価格競争力は強まるとみている。 以下に、豪州産の輸出に影響を与えるとみられる主要国についてのABAREによる 牛肉需給見込みを示した。 @ 米国市場 キャトル・サイクルが96年には減少局面を迎えたことから、98年から99年の肥 育素牛の供給は減少するとみられ、米国の98年の牛肉生産量は前年より約2%の 減少と見込まれている。 米国での加工原料用牛肉(カウ・ミート)の価格は、キャトル・サイクルが減少 局面に入ったことにより、上昇傾向にあるとし、豪州からの米国向け輸出も増加 し、90年代初期の30万トン台には及ばないものの、2002/03年度では26万5千ト ンまで回復すると予測されている。 A 日本 牛肉消費は一昨年より回復傾向にある一方で、米ドルに対する豪ドル安により、 豪州産牛肉の価格競争力は、米国産に比べ相対的に高まるとし、97/98年度の日 本向け輸出量は前年度より 5 %の増加と予測されている。 日本の牛肉関税率の低下に伴い、対日輸出量は、今後、一貫して増加すると予 測しており、2002/03年度には34万トンに達すると見込まれている。 B 韓国 経済混乱による景気後退や輸入品の価格上昇などにより、韓国の牛肉消費は、一 時的に低迷すると予想されている。しかし、ガット・ウルグアイラウンド合意に より、2001年には牛肉市場の自由化、その後は関税の段階的削減が約束されてお り、同国の牛肉輸入量は大きく拡大していくとみられる。関税は、98年には42.4 %、以降、2004年の40%まで段階的に引き下げられる。 自由化までの過渡期には、マーケットの意向が強く反映される入札方式(SBS入 札)での輸入枠が拡大していくことから、豪州産牛肉への需要は低価格品に移る 一方で、需要の多くは米国産のショートリブなどに集中するとし、米国に市場シ ェアを奪われると予想している。 2001年以降に関しては、自由化による牛肉価格の低下と、一般家庭での可処分 所得の増加により、牛肉消費はさらに拡大するとし、2002/03年度の豪州産の韓 国向け輸出量は、96/97年度より 2 倍近く増加し、10万 8 千トンに達すると予 測している。 C 東南アジア諸国 昨年来の経済危機により牛肉消費が低迷していることから、97/98年度の豪州 産生体牛および牛肉の東南アジア向け輸出は、大きく減少すると予想されている。 この地域全体として輸出市場としては縮小傾向にあるものの、需要の根強い牛肉 加工品などは、米ドルに対しての豪ドル安から、豪州産の市場シェアは増加する と見込まれている。 D 南米 昨年、ウルグアイの日本向け輸出が解禁された。また、米国は、昨年6月、ア ルゼンチンに対して、 2 万トンの輸入割当枠を設定した。 しかしながら、ABAREでは、南米地域からの北アジア向け輸出は、距離的な問題 により冷凍品に限られることから数量的にも限定され、北アジア市場での豪州産 牛肉の市場シェアに対する影響はほとんどわずかなものにとどまると見込んでい る。 E EU 牛肉介入在庫は98年には100万トン、2005年には150万トンに達すると見られる。 域内共通農業政策(CAP)の見直しの一環として、牛肉政策では輸出補助金の削減 などが予想されている。このため、中東、リビア、エジプトや旧ソ連諸国などの 伝統的なEUの補助金付き輸出市場で、豪州産生体牛や牛肉の価格競争力が高ま るとみられ、輸出拡大が期待されている。 (4)生体牛輸出の行方 生体牛輸出は、90年代に入って、インドネシア向け肥育素牛を中心に東南アジ ア向けが急増し、96年までの間、年率40%もの勢いで拡大していたが、その分、 アジア経済危機による反動も大きく、豪州からアジアへの輸出品のなかでも、最 も打撃を受けているものの一つといえる。 97年(1〜12月)の輸出頭数は、年前半の伸びが著しかったことから88万2千 636頭と、前年の72万 3 千85頭を上回ったものの、97年初めの豪州食肉畜産公社 などの予測では、100万頭を超えるとみられていただけに、やはり予想外の低水準 にとどまったともいえる。 今後の東南アジア向け生体牛輸出は、経済の回復状況もさることながら、各国 政府による財政引き締め策が、これまで国内産業保護のために優遇してきたフィ ードロットやと畜処理加工などの分野にどのように波及するのか、政策的な行方 も大きなポイントとなる。 これに、天候という大きな不確定要素もあり、インドネシアなどで今後も干ば つ傾向が継続した場合は、たとえ経済が好転したとしても、飼料生産への悪化か ら豪州産肥育素牛への需要は回復しないと見られている。 今後、経済の回復に応じて、牛肉消費は増加すると見られるが、これまでのよ うに生体牛として輸出されるのか、もしくは部分肉で輸出されるのかは、不透明 なものとなっている。 一方、東南アジア市場に代わる新たな生体牛の輸出市場として注目されている のが、北アフリカ地域であり、同地域への輸出頭数は96年の 5 万 7 千22頭から、 リビア向けとエジプト向けが大きく拡大したことによって、97年には13万9千48 頭までに増加した。また、まだ小規模ながらも、メキシコや、中国向けなどに、 生体牛の輸出が拡大している。 最盛期には、豪州全体のと畜頭数の1割に当たる頭数が生体で輸出されたこと から、牛肉需給にも大きな影響を与え、一部ではと畜加工分野での空洞化を懸念 する声さえ上がっていたが、アジア経済危機によって、このような声はかき消さ れたようだ。
国内政策面に関して不確定要素があるものの、国際的な貿易自由化の進展を背 景に、生乳生産、乳製品輸出ともに、いくぶんペースを緩めつつも、今後も拡大 傾向にあると見込まれている。 (1)生乳の生産動向 97/98年度の生乳生産量は、前年度より4%増加し、94億リットルと予測され ている。生産量は、今後、中期的にも拡大が見込まれており、乳用経産牛頭数と 1頭当たり乳量の増加により、2000/01年度には100億リットルの大台を越え、20 02/03年度には110億リットルに達すると予測されている。 現在の生産の拡大傾向は、90年代に入ってから続くもので、好調に推移する乳 製品の国際市況を背景とした酪農家収益の向上が、経営規模の拡大や新規参入を 促しているとみられ、経産牛頭数は91年から現在まで年率 2 〜 3 %の割合で一 貫して増加している。 経産牛頭数は、96/97年度には前年度より 9 %増加し 2 百万頭に達した。97 /98年度は、さらに前年度より約2%増加し、その後も緩やかに増加すると予測 されている。 一方、96/97年度の1頭当たり乳量は、これまで長期的な増加傾向を維持して きたが、主要生産地域であるビクトリア州やタスマニア州で、雨不足による草地 の悪化や酷暑などから、前年度より減少した。97/98年度は前年度より2%の増 加が予測されている。 1頭当たり乳量の増加は、乳用牛の遺伝的な改良や、草地改良など経営技術の 進歩によるところが大きく、今後も継続した傾向とみられるが、90年代初期の増 加ペースよりは鈍化すると見込まれている。 (2)生乳の価格動向 97/98年度の加工原料乳価格は、前年度よりわずかな上昇にとどまり、23.9セ ント/リットルと予測されている。 これは、輸出が低成長にとどまるとの予想によるもので、バター国際価格の上 昇と、対米ドルでの豪ドル安による価格競争力の向上がプラス要因となる一方で、 アジアの経済危機により、同地域での乳製品の消費低下がマイナス要因として作 用すると見られている。 今後、中期的には、アジア市場での需要回復と、主要輸出国の輸出補助金の削 減など国際貿易の自由化の進展が、豪州の輸出に追い風となり、加工原料乳価格 (実質価格)は、2002/03年度には、97/98年度より5%上昇し、25セント/リ ットルに上昇すると予測されている。 一方、飲用乳価格は、わずかな上昇にとどまり、2002/03年度には52.3セント /リットルと見込まれている。 しかしながら、後述するように、飲用向け乳価に関する行政介入に関する規制 緩和の進展によっては、生産構造も含め、価格状況は大きく異なる可能性もある。 (3)乳製品の生産動向 飲用乳(牛乳)消費がほぼ横ばい状態にあることから、近年、生乳生産の拡大 分のほとんどが、乳製品生産に向けられている。 96/97年度の生乳の加工仕向量は、前年度より 4 %増加し、71億7,100万リッ トルだった。2002/03年度までには、96/97年度より28%増の91億8,700万リット ルまでに拡大すると予測されている。 今後、チーズ市況に関しては堅調に推移する反面、バターと脱脂粉乳の市況に ついては、比較的、弱含みの展開が予想されることから、豪州全体の乳製品生産 はチーズにシフトしていくと見込まれている。2002/03年度のチーズの生産量は、 96/97年度よりも33%増、一方、同期間のバターおよび脱脂粉乳の伸び率は28% にとどまると予測されている。 飲用乳に関しては、90年の消費のうち、低脂肪牛乳の割合は19%に過ぎず、普 通牛乳が72%を占めていたが、97年には、低脂肪牛乳が25%に拡大する一方で、 普通牛乳は61%に低下した。飲用乳としての全体の消費量はわずかな伸びにとど まるものの、普通牛乳から低脂肪牛乳へのシフトおよび乳脂肪の余剰傾向は、今 後も続くとみられている。 表4 生乳と牛乳乳製品の需給予測 資料:ABARE「OUTLOOK98」 注:(1) 3 月31日現在 (2)97/98年度の豪ドルを基に算出 (3)97/98年度の米ドルを基に算出 (4)1997/98年度以降はABAREによる予測値 (4)乳製品の輸出動向 豪州の乳製品は輸出依存度が高く、チーズ生産の約4割、バター生産の約7割、 脱脂粉乳や全粉乳では生産の8割以上が輸出に向けられており、生乳生産の半分 以上が輸出向け乳製品として加工されている。 また、豪州国内の乳製品消費量は、横ばい、もしくは微増傾向にあることから、 乳製品生産の増加分のほとんどは輸出に振り向けられている。 国際乳製品需給をみると、世界貿易機関(WTO)下での自由貿易の進展に加え、 世界的なファストフード分野や調理済食品などの需要増により、消費量は増加傾 向にあることから、豪州の乳製品輸出量は今後も拡大すると予想されている。 乳製品輸出は、金額(実質)ベースで、97/98年度の18億8千万ドルから、20 02/03年度には28億1千万ドルに拡大すると予測されている。近年の世界的な需 要増は、アジアや中近東地域における経済成長が原動力となっていただけに、ア ジアの経済混乱は豪州の輸出にとってマイナス要因となるものの、短期的な影響 にとどまり、中期的に輸出は拡大すると見込まれている。 乳製品の国際価格は、最大の輸出シェアを占めるEUのオファー価格に強く影 響されるが、97/98年度のEUの生乳生産量は減少傾向にあると予想されている ことから、98年の全般的な乳製品市況は堅調に推移すると見込まれている。以下 に、主要乳製品別の輸出動向を示した。 @ チーズ チーズの輸出量は、90/91年度から96/97年度までの間に約2倍に増加した。 主な輸出先は、日本が最大で5割近くを占め、これに、サウジアラビア、イギリ ス、米国などが続く。 豪州のチーズ輸出に占めるアジア市場向けシェアは、年々高まる傾向にあり、 90/91年度の59%から、96/97年度には65%に増加した。このため、アジア諸国 の経済危機によって、豪州のチーズ輸出は、96/97年度が前年度比8%の増加だ ったのに対し、97/98年度は前年度比2%以内の増加にとどまると予測されてい る。中期的には、過去10年の拡大ペースは減速するものの、今後も増加傾向を維 持すると見込まれている。 今後、EUのチーズ輸出補助金の段階的な削減は、国際価格の上昇をもたらす ことから、もともと生産コストの低い豪州産チーズの輸出に好影響を及ぼすと予 想されている。 A 脱脂粉乳および全粉乳 96/97年度の豪州産脱脂粉乳および全粉乳の主要輸出先は、フィリピン、マレ ーシア、タイで、それぞれ豪州の輸出量全体の23%、15%、11%を占める。この ため、アジアの経済危機により、脱脂粉乳を中心に輸出は、一時的に減少すると 見込まれている。97/98年度は前年度比10%程度の減少、翌98/99年度は前年度 並みの輸出量にとどまるものと予測されている。 脱脂粉乳の国際価格は、97/98年度の下半期からは価格上昇が見込まれるもの の、平均では前年度より4%値下がりすると予測されている。中期的には、アフ リカや中南米地域で消費が増加する一方で、飼料用脱脂粉乳への需要低下が予想 されており、価格は横ばい傾向で推移するとみられている。 B バター 世界的に、乳脂肪の供給過剰がみられるなかで、最大のバター輸入国であるロ シアの需給動向がカギを握る。ロシアのバター生産量は、構造的な問題から減少 傾向にある反面、1 戸当たり収入の増加などにより、消費量は増加傾向にあるこ とから、輸入量は緩やかに拡大していくと見込まれている。 これに、中期的には、安定したアジア地域での需要と、中近東での消費増より、 バター価格は安定的に推移すると見込まれている。 (5)国内乳価支持の規制緩和 現在、豪州の生産者乳価は、加工向けに関しては乳業メーカーと生産者による 自主交渉、飲用向けに関しては各州の行政機関が決定している。飲用向け乳価は、 年間を通じた生産量の確保などを目的に、高水準に維持されており、加工原料と の格差は 2 倍前後にも上る。 一方で、加工原料乳向けの生乳生産者に対しては、国内市場支持交付金制度に より、飲用乳生産者と、豪州国内市場向け乳製品メーカーに付される課徴金を原 資として、交付金が給付されている。国内市場支持交付金制度は、基本的には、 比較的高値に維持された国内市場での利益を、輸出向け仕向け割合の高い加工原 料乳に還元する仕組みとなっている。 国内市場支持交付金制度については、今後、加工原料乳生産者への補助率が段 階的に削減され、2000年6月30日には廃止されることが決定されている。この場 合、国内の生乳や乳製品価格も、これまで以上に国際需給に左右されるようにな るとみられる。 一方で、飲用乳価については、現在、行政規制の緩和が議論されている。現在 の飲用乳価に関する行政介入に対しては、生乳生産コストの引き下げが阻まれ消 費者への不利益になっているとの批判も強い。 仮に、飲用乳価が自由化された場合は、飲用向け、加工向けという現在の二重 価格は消滅し、市場の需給に応じた一本値になるとみられる。この場合の乳価は、 豪州全体の6割を生産し、豪州でも最も低水準にあるビクトリア州の生乳生産コ ストが建値になるとの見方が強く、このケースでも国際需給を強く反映した価格 となることが予想される。 また、大消費地を控え、飲用向けの高乳価に支えられてきたニューサウスウェ ールズ州やクインズランド州の少なからぬ生乳生産者が廃業に追い込まれること によって、豪州の生乳生産構造は一変するとの見方もある。 現状では、生乳生産者団体の多くは規制緩和に対し反対の立場を取っているが、 自由化されるかどうかは政治的な背景もあり、微妙な状況となっている。 今後の牛乳乳製品の生産動向を占う上で、以上の二つは大きな不確定要素であ り、ABAREでも、今回の予測については、現状の条件下でのものであり、政策次第 では、需給状況は大きく異なってくるとしている。
これまで見てきたABAREの予測を要約すると、牛肉、乳製品ともに、アジアの経 済危機によって、一時的に輸出量は低下するものの、早期に回復に向かうと予想 している。また、米ドルに対しての豪ドル安を、輸出拡大の大きな要因として挙 げており、アジアの経済危機に関しては比較的、楽観的に折り込まれているよう に感じられる。 しかしながら、現実のアジア経済危機の影響は、予想外に拡大する気配も見せ ている。豪州の貿易収支は、97年12月、98年 1 月と、30ヵ月ぶりの 2 ヵ月連続 しての赤字となった。 1 月の輸出をみると、全体では前月より 2 %の減少だっ たものの、羊毛および羊皮が同29%減、食肉および食肉加工品が同35%減となる など、農産物が不振を極めており、農産物全体では同11%の減少となった。 また、アジア経済が現在の危機的状況から回復するには、当初の大方の予想よ り長期化し、3 年から 5 年を要するだろうとの見方が広がっており、ABAREの予 測よりもずれ込む可能性が高くなってきている。 出席者が、さまざまな観点からアジア経済動向を取り上げていたものの、ABAR E以外の招待プレゼンテーターのほとんどは、米国、もしくはヨーロッパのエコノ ミストであり、アジアの中から当事者として経済危機を分析する視点に欠けてい たことは否めない。 一方、輸出回復のもう一つの要因として、ABAREが指摘する豪ドルの通貨レート に関しては、現在、世界で最も過小評価されている通貨だとする米大手金融会社 による分析もある。この分析によると、豪ドルは今年から来年にかけて急伸し75 米セントまで上昇すると予想しており、今後、ABAREの予想通貨レートをかなり上 回る水準で推移する可能性もある。 ABAREの予測に関しては、これらの点に留意してみる必要もあろうかと思われる。
広い会場に空席の目立つ牛肉の会議会場、一方、小さな酪農の会議会場はほぼ 満席に近い状態だった。この対照的な会議場は、牛肉不況とも称された価格低迷 からようやく抜け出しつつある牛肉業界と、90年代に入って生乳生産が毎年のよ うに過去最高を塗り変えている酪農業界業界との「勢い」の違いを象徴している といえるかもしれない。 肉牛業界は、他の牛肉輸出国と比較して非効率なと畜加工部門の再編や、南米 諸国のグラスフェッド牛肉市場への新規参入が見込まれるなど、今後も克服しな ければならない課題は多い。 一方、酪農乳業界は、EUや米国の輸出補助金の削減、輸入障壁の撤廃など、 国際貿易が進展していく中で、低生産コストという豪州酪農の最も基本的な特徴 は、世界の乳製品供給国として、さらにその優位性を発揮していくものとみられ る。 付録表1 羊肉の需給予測 資料:ABARE「OUTLOOK98」 注:(1)97/98年度の豪ドルを基に算出 (2) 3 月31日現在 (3)船積重量 (4)1997/98年度以降はABAREによる予測値 付録表2 豚肉と家きん肉の需給予測 資料:ABARE「OUTLOOK98」 注:(1)97/98年度の豪ドルを基に算出 (2)豚肉加工品は除く (3)1997/98年度以降はABAREによる予測値 付録表3 粗粒穀物の需給予測 資料:ABARE「OUTLOOK98」 注:(1)在庫調整済 (2)豪州生産者の総販売額の単価 (3)1997/98年度の豪ドルを基に算出 (4)米国産トウモロコシFOBメキシコ湾価格の10− 9 月平均 (5)1997/98年度の米ドルを基に算出 (6)1997/98年度以降はABAREによる予測値
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