農業・経済のバランス路線を堅持した全人代(中国)




新たな布陣で臨む「三大改革」

 中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が、 3 月 5 日〜19日まで
北京で開催された。冒頭で季鵬首相は、首相として最後の全人代政府活動報告を
行ったが、この施政方針は国有企業や金融システムなどの改革と並行して、農業・
農村基盤整備や郷鎮(農村)企業の発展を促すものとなっており、バランスを重
視した政策運営を目指すとしている。

 今回の全人代は 5年に一度の人事刷新の年に当たり、江沢民国家主席(共産党
総書記、中央軍事委員会主席)の再任が確定したほか、経済担当の副首相だった
朱鎔基氏を首相として選出した。なお、季鵬首相は、喬石氏の後任の全人代常務
委員長に就任した。

 新首脳部が取り組む政策の「目玉」となるのは、計画経済時代から継続してき
た国家体制を市場経済型に切り替える行政機構改革、国有企業の赤字脱却を目指
して現代型の企業体制の確立を全面的に推し進める国有企業改革、およびアジア
通貨危機を教訓とした健全な金融システムを構築する金融体制改革の「三大改革」
である。首脳部は 3年以内をめどにこれらの改革を断行することとしており、次
世紀の市場経済国家体制へ向けて、78年に始めた「改革・開放」政策は新段階に
入ったと言える。


引き続き重要視される農業分野

 今回の全人代では、首脳部の人事や新たな政策方針である三大改革が全面に押
し出されたことや、穀物生産が 3年連続で豊作となり、穀物在庫が史上最高のレ
ベルにあると伝えられることから、この数年、最重要政策とされてきた農業政策
にかける意気込みが若干トーンダウンしている感は否めない。

 しかしながら、12億 2千万人の人口を抱える中国においては、穀物や畜産物を
はじめとした農業生産は国家安定の根幹に係わる重要事項であるため、今回の全
人代においても諸任務の最重要課題として掲げられている。具体的な施策として
は、作付面積の確保や農業基盤整備への投資を増やすことなどにより、穀物生産
目標を史上2位となった昨年並の水準(4億9,250万トン)に設定している。中国
では、家計に占める食糧費の割合が高いだけに、豊作によって小売物価が大きく
引き下げられることは極めて重要な意味を持っており、このような農業重視政策
は今後も堅持されるとみられる。


「ハードル」が高い98年の経済目標

 また、今回の全人代では、次のマクロ経済目標値が了承されたが、従来の高成
長・低インフレ基調を堅持する姿勢が浮き彫りとなってい(( )内は97年の実
績値)。

 @国内総生産(GDP)の伸び率を8%とする(8.8%)
 A小売物価上昇率を 3 %以下に制御する(0.8%)

 経済成長目標については、昨年実績の8.8%よりも低めに設定されているものの、
アジア通貨危機のあおりを受け、輸出が減速するとみられることから、「高い目
標」と評価されている。 8%成長という高めの目標を掲げたのは、国有企業改革
に伴う失業者を救済するためには、この成長水準が最低限必要とされているため
である。

 今や世界経済にも大きな影響を及ぼす中国のかじ取りは、新首脳部の手腕に負
うており、世界が注目している。 



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