EUの豚肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○民間在庫補助制度を実施



約 3 年ぶりに 9 月28日から実施

 EU豚肉管理委員会は 9 月15日、豚肉の民間在庫補助制度(PSA;Private Stor
age Aid)を約 3 年ぶりに9月28日から実施することを決定した。これは、豚肉
流通業者を対象として在庫補助を実施することにより、豚肉の民間在庫保管を促
進し、市場流通量を抑制して、域内豚肉需給の引き締めを図るための措置である。

 同委員会は、今回対象となる在庫数量を7万トン以内としている。補助金の対
象として契約する豚肉の在庫期間は、 4 カ月、5 カ月または 6 カ月のいずれか
である。ただし、EU域外に輸出する場合に限って、当該契約期間満了前であって
も豚肉を出庫することができるが、この場合には在庫の日数(月数)の変更に応
じて補助金額が削減されることとなる。また、補助金の交付条件として、豚肉は
契約期間満了後、全量が遅くとも6カ月以内に輸出されなければならないと規定
している。1契約当たりの最低数量単位は、骨なし豚肉で10トン、骨付き豚肉で
15トンとなっている。

PSAの部位別および在庫期間別の補助単価

 注 1   1 ECU=162円
   2  対象となる豚肉は、冷凍して保管される
   3  補助単価は骨なし、骨付きともに同じ


ロシア経済危機の深刻化が最終的な引き金

 現在、EUの豚肉価格は近年の最安値を更新している状況にある。98年9月の豚
枝肉卸売価格(15カ国平均の市場参考価格、以下「豚肉価格」)は、前年同月を
38.2%と大幅に下回る(前月を7.4%下回る)108.2ECU(約17,500円、1ECU=162
円)/100kgとなった(左図参照)。また、各国においても、価格は軒並み大幅に
下落している。

 この要因としては、ドイツやフランスなどの主要国で繁殖用雌豚頭数が引き続
き増加し、肉豚供給が増加していることが挙げられる。その背景には、96年3月
の牛海綿状脳症(BSE)問題による牛肉からの代替需要や、97年のオランダなどに
おける豚コレラ発生などにより、同年上半期堅調であった豚肉価格に養豚農家が
増頭意欲を刺激された影響がある。また、@オランダの繁殖用雌豚頭数が、豚コ
レラの影響が深刻化する以前の水準にほぼ回復したこと、Aデンマークなどの主
要輸出先である韓国ほか一部のアジア諸国で、通貨急落の影響から輸入需要が減
退していることなどが価格低下に一層の拍車をかけている。

 このため、EUでは需給回復に向けた対応策が急務となり、その対策の一つとし
て 8 月から豚肉の輸出補助金引き上げ措置などが取られた。しかし、 8 月中旬
にEU最大の豚肉輸出先であるロシアで経済危機が深刻化したことが、価格低迷に
さらに追い討ちをかけ、今回のPSA実施に至る最終的な引き金となった。


PSA実施などが逆に生産を刺激するとの指摘も

 しかし、EU委員会は7月に取りまとめた「養豚生産構造に関する報告書」の中
で、PSA実施や輸出補助金のこれ以上の増額が、逆に生産を刺激する危険性を指摘
しており、一部のEU委員会関係者も今回のPSA実施による今後の域内豚肉需給への
影響を懸念している。また、現在、フランスやドイツなど多くの加盟国は、EU委
員会に PSA実施に続く需給テコ入れの追加対策として輸出補助金の再度引き上げ
を要求しているが、同委員会は慎重な姿勢を示している。

 このように、輸出環境が一段と悪化し、EU委員会があまり有効な需給回復対策
を見出せない中で、フランスやドイツは国内の養豚農家に対して特別融資制度を
導入するなど、独自の救済対策を始めた。今後、豚肉価格の低迷が続いた場合、
加盟国からの圧力は一層強まることが予想されるだけに、EU委員会はさらに苦し
い立場に追い込まれそうだ。


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