ロシア経済危機で懸念される畜産物への影響(EU)


近年、域外向け輸出のかなりの割合を占める

 EUでは、8月中旬に発生したロシアの経済危機により、畜産物生産者および輸
出業者などの間で、EUの畜産物市場に及ぼす影響を懸念する声が高まっている。
これは、近年、EUの畜産物域外輸出のうち、ロシアの占める割合が大きくなって
いるためである。品目別の主な輸出国は、牛肉ではドイツ、オランダおよびアイ
ルランド、豚肉ではデンマーク、鶏肉ではフランス、オランダ、バターではオラ
ンダ、フランスおよびドイツ、チーズではドイツ、フランスおよびデンマークと
なっている。なお、97年のEUからロシアへの農産物輸出総額は54億ECU(約 8 千
7百億円、 1 ECU=162円)となった。


EU畜産物のロシア向け輸出(97年)


注1 牛肉は枝肉ベース、豚肉は製品重量ベース、
   鶏肉は骨付きベース、バターおよびチーズ
   は製品ベース
 2 輸出比率は、全域外向け輸出のうちロシア
   向けの占める比率


影響が特に大きい豚肉は民間在庫補助制度を発動

 今回の経済危機の影響が大きいのは、食肉とみられているが、特に豚肉につい
て影響が大きい。EUの豚肉需給は、96年の牛海綿状脳症(BSE)の影響による需要
増加および昨年のオランダなどで発生した豚コレラの影響により、主要生産国で
増産が進んだ結果、急激に市場価格が下落し記録的な低迷を続けている。今後、
さらに豚コレラが終息したオランダの出荷再開により一層の供給過剰が見込まれ
るため、豚肉の需給回復対策が緊急の課題となっている。この対策の一つとして、
98年8月から豚肉輸出補助金の引き上げ措置の実施や、イギリスなどでは繁殖雌
豚のとう汰などが実施されている。

 こうした中で、今回のロシアの経済危機は、EUの豚肉市場にさらに追い打ちを
かける結果となった。一部加盟国からは、民間在庫補助制度の発動や豚肉輸出補
助金の一層の引き上げなど追加的な市場改善措置が要請された結果、EU豚肉管理
委員会は、9月15日に豚肉の民間在庫補助制度の発動を決定した(詳細はEU豚肉
需給編参照)。


今のところ静観も、注視が必要か

 一方、EU委員会では、このようなロシアの状況に対して静観の姿勢を取ってお
り、支援措置も91年から実施している技術的な援助の範囲内で行うと表明してい
る。また、9月28日に開催されたEU農相理事会では、ロシア向けの食料援助につ
いて議論が行われた結果、これまで同国からの正式な援助要請がないことや財政
的な問題などから、当面の間、食料援助を実施しないことが決定された。

 しかし、今後、ロシア経済の悪化の程度によっては、EUの畜産物需給は一段と
深刻な影響を被ることが予想されるだけに、EUの畜産関係者は、同国の経済動向
から目が離せない状況にあるとみられる。


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