波紋を広げる米・加間の農畜産物貿易紛争


米サウスダコタ州、カナダ産生体牛や穀物などに対する検疫を強化

 米サウスダコタ州は、カナダが穀物の輸入に際して、必要以上の検査を要求す
るとともに、生体牛のダンピング輸出を行っているとし、その対抗措置として、 
9 月16日からカナダ産の生体牛、生体豚および穀物に対する検疫強化措置を実施
した。

 家畜については、カナダで認可されているが、米国では認可されていないとす
る6種類の動物用医薬品の残留がないことを、また、小麦については、カーナル
・バント(黒穂病)の病害がなく、かつ、カラス麦の混入がないことをそれぞれ
カナダ政府などが証明する必要があるとしている。

 しかし、カナダ政府などは、このような証明書の発行を行っていないため、カ
ナダからこれら産品を輸送するトラックは、事実上、同州を通過できない状況に
なった。加えて、カナダと国境を接し、サウスダコタ州の北側に隣接するノース
ダコタ州は、サウスダコタ州の措置を支持するとともに、カナダからのトラック
の検査を強化した。


カナダ政府は強く反発、米国内でも検疫強化措置の正当性に疑問の声

 これに対し、カナダのバンクリフ農業大臣は、同日、カナダ産農産物は米連邦
規則に合致しているとして、サウスダコタおよびノースダコタ両州を非難する声
明を発表するとともに、今回の措置は、農産物の安全性や品質、衛生上の問題で
はなく、単に今秋に行われる州知事選対策のため、政治的に利用されているに過
ぎないとして、これを厳しく批判した。

 今回の措置により、カナダから生体豚などを輸入しているサウスダコタ州など
に所在するパッカーは、少なからぬ影響を受けるものと見込まれている。また、
サウスダコタ州が、米国で認可されていないとしている動物用医薬品の中には、
既に食品医薬品局(FDA)が認可しているものが含まれていることや、事実上、ペ
ット用にしか使用されていない医薬品が含まれていることが指摘されており、今
回の措置の正当性に対して、米国側からも疑問を呈する声が上がっている。


検疫強化措置の他州への拡大を受けて、カナダは米国に対し
国際協定に基づく協議を要請

 一方、アジアなどの経済危機に伴う輸出不振等により米国産農産物の価格が低
迷していることから、生産者の不満は大きくなっており、今回の検疫強化策に呼
応して、ノースダコタ州やモンタナ州では、生産者によるカナダ産農産物の輸入
反対デモが行われた。また、カナダに隣接する両州に加え、ミネソタ州やアイダ
ホ州でも、程度の差はあれ、同様の措置が導入されることとなった。(注:カナ
ダ側の発表によれば、ワイオミング州を含め合計 6 州)

 このため、9月下旬、カナダ政府と米国政府はニューヨークで会合を持ったも
のの、カナダ政府は、満足のいく回答が得られなかったとして、今回の措置を即
時撤廃するよう、北米自由貿易協定(NAFTA)および世界貿易機関(WTO)協定に
基づく貿易紛争解決のための協議を要請した。


米・加二国間の農畜産物貿易問題に関する協議を開始

 さらに、こうした事態の展開を受けて、米国の肉用牛生産者団体によって組織
された法律問題を所管する団体である牧場主−肉用牛生産者行動法律財団(R-CA
LF)は、10月 1 日、米国の国際貿易委員会(ITC)に対して、カナダなどからの
生体牛の輸入に対するアンチダンピングなどに関する提訴を行った。R - CALFの
主張によれば、同国などから輸入される生体牛の価格は生産コストを下回ってお
り、ダンピング相当のペナルティを加えるべきであるとしている。

 事態が紛糾する中、両国政府は、一連の二国間貿易問題を議論する枠組み作り
のための協議を行うことを前提として、米国は州政府による輸入規制措置を撤回
する一方、カナダはNAFTAおよびWTO協定に基づく協議の要請を撤回するという合
意に達した。本合意を受けて、両国政府は10月8日、最近の貿易問題を論議する
ための協議を開催したが、紛争解決までには今しばらく時間がかかるものと見込
まれる。


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