◇絵でみる需給動向◇
イギリス食肉家畜委員会(MLC)によると、97年に豚コレラの深刻な被害を受 けたオランダの98年上半期の生体豚輸出(子豚を含む)は、 3 月まで輸出禁止措 置が行われていたこともあり、前年同期比80%減の約29万 3 千頭と前年に引き続 き激減した。国別では、最大の輸出先であるドイツ向け(と畜向けの肥育豚)が 前年同期比66.1%減の約13万 9 千頭、イタリア向けが73.4%減の約 4 万 7 千頭な ど軒並み前年の 2 〜 3 割の水準に落ち込んだ。 オランダは豚コレラの発生以前、EU最大の生体豚輸出国であり、96年は子豚を 含め約586万 1 千頭を輸出した(そのほとんどは域内向け)。98年上半期の輸出 頭数を発生前の96年同期と比べると、93.3%減と 1 割以下となっている。 なお、98年上半期の豚肉輸出(枝肉ベース、域外向け輸出を含む)は、ドイツ やイタリア向けなどが大幅に増加したことから、前年同期比21%増の約37万 3 千 トンとなった。これは、豚コレラ発生以前の実績を上回るものである。 表1 上半期のオランダの生体豚輸出頭数 資料:MLC「European Market Survey」 注1:国別の頭数はと畜向け肥育豚のみ、合計は子豚も含む。 2:ベルギーにはルクセンブルグを含む。 表2 オランダの豚肉需給 資料:MLC「European Market Survey」 注1:生産量および輸出量は枝肉ベース。 2:輸出量には、生体豚の輸出量を含まない。
一方、EU最大の豚肉生産国であるドイツからの引き合いが急増し、97年に約11 8万頭(子豚を含む)を同国向けに輸出したデンマークは、98年においてもその動 きが止まっていない。1月から9月までの輸出頭数は、前年同期比66%増の約139 万 2 千頭と既に97年の実績を上回った。 また、ドイツの輸出も極めて好調で1月から 9 月までの輸出頭数は、87.6%増 の約82万8千頭となった。同国は逆に、以前、最大の輸入相手であったオランダへ の輸出が増加している。さらに、フランスやベルギーの生体豚輸出も好調である ことが報告されている。このように、オランダの豚コレラは、これまでほぼ同国 の独占状態に近かったEUの生体豚貿易を大きく変えることになった。
オランダを取り巻く状況は今後とも厳しい。同国では、豚の過密飼養により南 東部を中心に深刻化している環境問題や家畜伝染病への対策として、昨年 9 月か ら「豚生産の再編法」を施行した(詳細は、本誌98年12月号「駐在員レポート」 参照)。この法律により、オランダの豚の飼養頭数は、2000年までに25%削減さ れることとなっている。 この結果、98年 8 月には豚コレラ発生以前の水準にほぼ回復した同国の12月現 在の総飼養頭数は 8 月に比べ0.9%減の1,341万 8 千頭となった。また、繁殖用雌 豚頭数は、4.9%減の86万 2 千頭となった。オランダの業界関係者は、99年の生 体豚輸出頭数は、回復しても96年の半分以下の約264万頭と推測している。こう した中、多くの大規模生産者が、旧東ドイツ地域やポーランドに生産拠点を移し ている。また、一部の小規模生産者の中には、国内消費や輸出が順調な家きん生 産に経営転換している者もいると伝えられる。 このような状況から、オランダの生体豚輸出がある程度回復するとしても、豚 コレラ発生以前の水準に回復するとは考えにくい。したがって、今後は現在のよ うな輸出国の分散化が定着していくとみられる。一方で、近年、生体豚輸出を大 幅に伸ばしているEU最大の豚肉輸出国、デンマークの今後の動向が注目される。
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