海外駐在員レポート 

ニュージーランド酪農乳業改革論議の現状について

シドニー駐在員事務所 野村俊夫、藤島博康




1 はじめに

 現在、ニュージーランド(NZ)では、政府による規制緩和・自由化政策の一環
として、ニュージーランド・デイリー・ボード(NZDB)を含む9つの農業関係ボ
ードの組織改革が論議されている。このうち、組織および事業規模の面で突出し
ており、国内外から最も注目を集めているのは、言うまでもなくNZDBである。N
Zの酪農乳業は、国の基幹産業と言えるほどの重要な位置を占めている一方、NZD
Bを頂点として全体が垂直的に統合されているため、NZDBの組織改革は酪農乳業
全体の改革とならざるを得ない。

 このため、今回は、改革の必要性を示す論拠として掲げられた民間調査報告書
や、NZDBが昨年11月に政府に提出した改革案、同会長が1月に公開した改革案な
どを基に、改革論議の現状について報告することとしたい。

表1 NZの農業関係ボード
re-sdt01.gif (6616 バイト)
 資料:Ministry of Agriculture and Forestry
 注1:総収入額は96/97年度の実績
  2:1NZドルは66円


2 NZDBの現状

(1)法律に基づく組織

 NZの各農業関係ボードは、各々、関連する法律に基づいて設立されている。N
ZDBの設立根拠法は、デイリーボード法(Dairy Board Act 1961)である。NZDBは、
組織・業務ともに政府からはほぼ完全に独立しており、政府による関与は、法律
に基づく業務範囲などに関する規則の制定や、一部役員の指名行為などに限定さ
れている。同法のカギとなっているのは、NZDBに乳製品輸出の一元管理の権限
を付与している点である。この一元輸出体制を維持するか否かが、改革論議の最
大の焦点となっている。


(2)酪農組合が資産を所有

 NZの酪農乳業は全体が垂直的に統合されており、ほぼすべての酪農家が、所属
する酪農組合・乳業メーカー*を通じて、NZDBを頂点とする組織体制に組み込ま
れている。NZDBの収益は酪農組合・乳業メーカーを通じて生産者に還元される原
則となっているが、その一部は組織の内部に資産として蓄積された。海外の子会
社や、国内の酪農サービス提供機関、ブランド使用権などがそれに相当し、その
資産総額は膨大なものとなっている。

 ところが、以前はこれらの資産の所有権が法的に明確化されていなかった。こ
のため、96年にはデイリーボード法が改正され、NZDBの資産は、酪農組合によっ
て、生乳供給量に応じた株式の形で所有される旨が明記された。これにより、酪
農家も、所属する酪農組合を通じて、NZDBの資産を間接的に所有することが確認
されたことになる。
 
 また、96年の法律改正はNZDBの解散にも言及し、株主たる酪農組合の同意がな
い場合には、法律上解散された後も組織を分割することなく 1 つの企業組織とし
ての形態を存続させる旨が定められた。

注)* NZの乳業メーカーは、酪農家を組合員とする酪農組合の 1 部門である。


(3)乳製品の輸出が主要業務

 NZDBの業務範囲は、酪農乳業全般の多岐にわたっているが、中心となる業務は
乳製品の輸出販売である。

 NZDBは、乳製品の一元輸出機関であるため、毎年度、国内の酪農組合・乳業メ
ーカーと協議して、各社が輸出向けに製造する乳製品の品目および数量を調整し、
これらの乳製品をいったんすべて購入した上で輸出に仕向けている。

 NZで生産される乳製品の95%が輸出されており、乳製品の輸出額が同国の総輸
出額全体の約20%を占めている現状を考慮すれば、この輸出一元管理の持つ重み
が理解されよう。

 NZDBは、80社を超える海外の子会社または系列企業を設立し、100カ国以上に
またがる販売ネットワークを構築している。また、世界の乳製品貿易総量の約3
割を取り扱っており、世界の企業別乳製品販売額ランキングにおいても、かなり
の上位にランクされている。

表2 乳製品販売額ランキング(96年)
re-sdt02.gif (3966 バイト)
 資料:Rabobank,1998
  注:クラフトの乳製品販売額は総販売額からの推定


(4)酪農全般のサービス業務を実施

 NZDBは、国内の酪農乳業分野でも、幅広いサービス提供業務を実施している。
これらには、家畜改良事業、乳製品品質管理事業、調査研究事業、資金提供事業、
情報提供事業などが含まれ、98/99年度のサービス提供事業予算は総額6千 1 百
万NZドル(約40億円: 1 NZドル=66円)に達している。これらの事業は、主に酪
農研究公社、家畜改良公社、地域開発センターなど傘下の国内サービス提供機関
によって遂行されている。


(5)組織・業務上の制約

 NZDBは、法律で定められた一元輸出機関という特殊性から、他の一般企業とは
異なる制約を課せられている。
これらは、@輸出向けに製造されるすべての乳製品を受託販売する義務を負って
いること、A取り扱うことのできる製品の範囲が制限されていること、B酪農組
合系以外からの資本受け入れが制限されていることなどである。


3 提起された問題点

 NZDBは、現在、一元輸出体制の撤廃を中心とする抜本的な組織改革論議の渦中
にある。当該改革を中心的に推進しているのは政府である。

 ここで、まず、留意すべきことは、NZDBの組織改革を含む酪農乳業体制の改革
が、酪農家のみならず消費者を含む国民全体の利益を最大限に追求するという、
国内的な動機から推進されていることである。

 NZDBの組織改革論議は、日本などの諸外国では、一元輸出体制の貿易わい曲に
関する国際問題であるとの認識が強いが、NZ国内では、一義的には酪農乳業の発
展にかかわる国内問題であり、国際舞台での批判が議論の発端となっているわけ
ではない。

 したがって、政府側からの問題提起においても、@現体制がNZ国内で販売され
る乳製品の価格水準を押し上げ、消費者に不利益を及ぼしていること、A現体制
下の酪農家による乳業部門の所有・管理が、実際には生産者自身の利益に貢献し
ていないことの 2 点が重要な論点として掲げられている。


(1)乳製品の国内販売価格に係る問題

 政府は、酪農乳業改革を推進する論拠として、NZ財界人会議(ビジネス・ラウ
ンドテーブル)が民間調査研究機関に委託調査した 2 つのレポートを掲げている。
そのうちの 1 つは「国内乳製品市場の改革」と題するレポートで、NZDBを頂点と
する現体制が国内乳製品の価格水準を押し上げていることを指摘し、その背景に
ついて考察している。

@飲用乳国内販売価格

 NZでは、85年以降、政府の経済規制緩和政策の下で、飲用乳を含む多くの牛乳・
乳製品の国内流通販売規制が撤廃された。さらに、96年のデイリーボード法の改
正により、NZDBの国内販売価格規制が撤廃された。実際、これらの一連の規制緩
和により、NZ国内では以前よりはるかに多くの種類の牛乳・乳製品が流通するよ
うになり、これらの販売価格も自由化された。

 それにもかかわらず、同レポートは、NZの国内乳製品販売価格が、イギリス、
豪州などと同等またはそれ以上の水準に維持されていると指摘している。

 同レポートに引用された例を見ると、NZの飲用向け生産者乳価は比較対象国に
比べて安いにもかかわらず、飲用乳の小売販売価格は同等またはそれを上回って
おり、中間コスト・マージンが高いとされている。

表3 飲用乳製造コスト等の比較(97年)
re-sdt03.gif (3387 バイト)
 資料:Cost and Margins of NZ Fluid Milk 他

A高価格の背景

 同レポートは、飲用乳の中間コスト・マージンが高い原因として、酪農組合・
乳業メーカーと小売業者の現状について考察している。そして、このうち小売業
者の販売マージンについては、NZの小売市場の寡占化が比較対象国よりも著しい
とは言えず、また、飲用乳を除く他の品目では特に高くないことから、ここに原
因を求めるのは困難とし、酪農組合・乳業メーカーのコスト・マージンが高いこ
とを指摘している。

 さらに、酪農組合・乳業メーカーのコスト・マージンが高い背景としては、NZ
DBが(国内販売価格を定める権限は失ったとは言え)、その一元輸出体制を維持
しているが故に、国内流通販売に対する実質的な影響力を保持していることを挙
げている。すなわち、これらの酪農組合・乳業メーカーは、NZDBの実質的な流通
支配の下で、比較対象国よりも高いコスト・マージンを保護されているとしてい
る。

 また、同レポートは、NZDBが公的な業務監査の対象とならない機関として認め
られているため、その販売活動を客観的に査定することは困難であると問題提起
している。

 一方、既存の酪農組合・乳業メーカーに対抗するべく、小売業者が飲用乳の製
造販売業務に参入することについては、投資リスクが高く、さらに、酪農組合を
離脱して原料乳を供給する生産者の確保も困難だろうとしている。


(2)生産者所有に係る問題

 NZ財界人会議が委託した 2 つの調査のうち、もう 1 つは「酪農家による製造
販売管理はその利益につながっているか?」と題するレポートで報告されており、
現体制下における酪農家による乳業部門の所有・管理の経済的効果について考察
している。

 これによると、酪農家による乳業部門の所有・管理は、過去においては生産者
の利益を保護する一定の役割を果たしてきたが、現状では十分な効果を上げてい
るとは言えず、むしろ、酪農家は本来得るべき利益を喪失しているのではないか
と指摘している。

@生乳供給・受託

 酪農家が乳業部門を所有・管理する最大の利点は、生乳の確実な販売先を確保
できるということである。このため、NZの酪農家の間には、酪農乳業改革が実施
され、酪農組合以外が乳業に参入した場合、この最大の利点が損なわれるのでは
ないかという不信感が根強い。

 しかし、同レポートは、生乳供給の確保が生産者側のみならず乳業メーカー側
にとっても最重要課題であるため、この問題は生産者が乳業メーカーと長期供給・
受託契約を締結することで解決できると指摘している。

 一方、現在のNZDBを頂点とする酪農乳業体制の下では、酪農組合・乳業メーカ
ーは生産される生乳をすべて処理加工する義務を有し、かつ、NZDBは輸出に向け
られる乳製品をすべて受託販売することが義務付けられている。

 このことについて、同レポートは、生乳生産全体の管理が行われていない現状
では、国際乳製品市場の動向を無視した増産を抑制できないことを指摘するとと
もに、NZDBや酪農組合・乳業メーカーにこれらの処理加工販売義務を負わせるこ
とにより、量的な処理を優先せざるを得ないため付加価値の低い乳製品の割合を
高めるなど、収益性の観点から非効率的な運営を強いる結果を招いていると指摘
している。

A生産者乳価

 酪農家にとって、生乳販売先の確保とともに重要なのは、生乳価格の保証であ
る。このため、同レポートは、現体制がNZの生産者に実際に高い乳価を実現して
いるかどうか、豪州の場合と比較して考察している。

 これによると、96/97年度に至るまでの4年間の平均で見ると、豪州ニューサウ
スウェールズ州の平均生産者乳価が乳固形分 1 kg当たり335NZセント(約221円)
であったのに対し、NZの平均生産者乳価は約 7 %高い同358NZセント(約236円)
であったとしている。

 しかし、同レポートは、NZの生産者乳価にはNZDB・酪農組合への投資に対する
配当に相当する部分が含まれており、この配当率は他の分野に投資した場合に期
待できる水準(約10%)よりかなり低い水準( 4 〜 5 %)にあると指摘している。
そして、このことを考慮に入れた場合、NZの実際の生産者乳価は、豪州のそれよ
りも10〜15%低い283〜303 NZセント(約187円〜200円: 乳固形分1kg当たり)に
低下するとしている。

 つまり、NZの酪農家は、NZDBを頂点とする体制に選択の余地なく組み込まれ、
所属組合への生乳出荷という形で効率の低い投資を強いられることにより、実際
は見かけより低い乳価を余儀なくされ、不利益を被っていると指摘しているので
ある。

B市場コントロール

 一般に、酪農家が乳業部門を所有・管理する利点として、生産者の立場で乳製
品市場をコントロールできることが挙げられることが多い。

 しかし、これに対し、同レポートは、市場をコントロールできる反面、競争原
理の導入によるコスト削減が滞りやすいと指摘している。そして、酪農組合以外
の乳業への参入で競合が増すことによって、既存の酪農組合メーカーの製造コス
ト削減が促進され、最終的には生産者の利益として還元されるという側面を見落
としていると指摘している。

 また、同レポートは、現体制の下では、NZDBが取り扱うことのできる製品の範
囲が乳製品および一定の乳成分を含む食品に限定されているため、競合する大手
外国食品企業が広範にわたる食品・飲料を提供できるのと比べ、大幅な制約にな
っているとしている。

C内部投資の拘束

 現体制では、酪農組合・乳業メーカーは、その収益を基本的に酪農家に乳価と
して還元することとされているが、同レポートは、この仕組みが次の両面で経済
効率の悪化を生じさせていると指摘している。

 まず、乳業側から見ると、酪農家は自らに速やかに利益が還元される部門への
投資を望むため、その収益を最も効果的な部門に投資することを困難としており、
長期的かつ総合的な企業戦略を遂行することも困難にしている。

 一方、生産者側から見ると、すべての生産者が所属する酪農組合・乳業メーカ
ーに事実上拘束させられることにより、他の酪農組合、あるいは乳業以外の全く
別の部門への投資によって、さらに高い収益を得る機会を喪失していると指摘し
ている。

D外部資金導入の制約

 また、現体制では、酪農組合・乳業メーカーは外部からの資本の受け入れを規
制され、新たな資本の導入は組合傘下の酪農家からの投資に限定されている。同
レポートは、このことが乳業メーカーの積極的な事業展開に対する大幅な制約と
なっていることを指摘している。特に、近年は乳製品の品目が多様化し、市場の
要求に合わせて幅広い製品開発を行う必要性に迫られていることから、将来に向
けた設備投資の財源を酪農組合以外からも受け入れる体制を整える必要があると
指摘している。

E資産の所有権

 本来、酪農に限らず組合組織は、自由に加盟・脱退できることを基本としてい
る。NZの酪農組合もかつてはそのように位置付けられていたが、NZDBや酪農組合
・乳業メーカーの組織・事業規模が拡大するに従い、累積資産をめぐる権利を明
確にする必要が生じた。この結果、生産者や酪農組合が株式の形でNZDBの資産を
所有する法律が整備され、新規加盟または脱退する場合には、それを取得または
譲渡することが義務付けられた。これにより、資産の所有権問題に一定の整理が
つけられたものの、今なお不明確な部分も多く、さらに、新規参入者や規模拡大
希望者には厳しい条件が付加されることとなった。

 また、一方では、NZDBの株式の所有が、それぞれ生乳の供給量に連動して定め
られていることから、増資を求める生産者が需給を無視した増産に走る危険性を
はらんでいる。

F組織・業務管理

 NZでは、1920年代の最盛期には600近い小規模な酪農組合・乳業メーカーが乱
立していたが、現時点では 2 つの有力な組合を核とする14の酪農組合に統合され、
今なお相互に合併の交渉を進めつつある。中核を担う 2 つの酪農組合は、国内に
広大な集乳地域を抱え、それぞれ年間 3 〜 4 百万トンもの生乳を処理しているほ
か、多様な乳製品の開発・製造を行っている。このため、狭い集乳地域で基礎的
な乳製品のみを製造していた過去の時代と比べると、企業としての組織・業務が
比較にならないほど拡大され、かつ、複雑化している。同レポートは、現状の酪
農生産者による所有・管理体制では、これらの全体の運営を効率的に管理するこ
とは困難となりつつあると指摘している。


4 スコーピング・プラン

 NZDBは、昨年11月、政府からの要求に応じて、スコーピング・プランと称され
る自らの組織改革案を提出した。当該改革案の内容は、大方の予想のとおり、一
元輸出体制の維持を基本とするものであり、政府が求めた改革の方向を明確に否
定する内容のものであった。


(1)一元輸出体制を維持

 NZDBは、スコーピング・プランにおいて、酪農乳業体制改革を進めるに当たっ
て守るべき基本として、@現状の業界資産を保持すること、A業界の収益獲得能
力を損なわないこと、B生産者による業界資産所有を維持すること、C生産者に
よる業界コントロールを維持すること、D協同組合方式を維持すること、E将来
にわたって維持可能な組織形態とすることの 6 項目を掲げた。

 そして、これらの基本を前提として、NZの酪農乳業をさらに発展させるために
は、法律に基づく乳製品一元輸出体制の維持が不可欠であると結論している。

 その根拠として、NZDBは、@近年、NZDBの輸出販売規模が著しく拡大してお
り、国際貿易に占めるシェアも増加していること、ANZDBによる製品開発研究事
業が具体的な効果を上げつつあること、BNZDBの組織活動効率が独自に委託した
民間調査機関による査定で優れた水準にあると評価されたことを掲げている。


(2)必要な改革に着手

 NZDBは、法律に基づく乳製品一元輸出体制の維持が不可欠であるとする一方で、
既に、いくつかの必要な改革に着手していると述べている。

 これらは、@輸出販売における収益性を向上させるための全体的なマーケティ
ング計画の策定、A上記計画を達成するための内部組織改革の実施、B市場志向
を高めた乳製品の新価格決定方式の導入、C資産の所有権をさらに明確化するた
めの規則の見直しなどである。

 さらに、NZDBは、今後、組織としての重要な決定を迅速に下せる環境を整える
ことが必要だとし、逐次国会の承認を得ることなく規則の改正が行えるように法
律を改正することが望ましいとしている。


(3)改革に伴うリスク

 一方、NZDBは、その法律に基づく一元輸出機関としての位置付けを変える場合
には、それに伴って多くのリスクが発生することを指摘している。これらは、@
一元輸出機関としての独占的な市場支配力を失うことに伴う経済的な損失(上記
民間調査機関は年間 1 億 6 千万〜 2 億7千 6 百万NZドル(約105億円〜182億円)
に達すると試算している)、A貿易相手国における税法上の権利義務関係の変更
などに伴うリスク、B貿易相手国の独占禁止法に抵触するリスク、CNZ国内の競
争維持法に抵触するリスクなどである。


(4)単独の組織形態を維持

 また、NZDBは、仮に、その法的な位置付けが何らかの形での変更を余儀なくさ
れる場合においても、上記のリスクを最低限に抑えるべく、組織を分割すること
なく、現状の単独組織の形態を維持するべきだと主張した。


5 スリーポイント・プラン

 昨年11月に就任したNZDBのジョン・ストーリー会長は、就任直後から組織の公
式見解とは別に個人的意見としてサービス事業部門の分離などの組織改革を示唆
していたが、本年 1 月末、ハミルトン市で開催された酪農博覧会において、スリ
ーポイント・プランと称する新たな組織改革案を公表した。

 当該プランは、@輸出販売を効率的に行う新組織の構築、A各種酪農サービス
事業の見直しと分離、B乳製品一元輸出体制の維持などを定めた新デイリーボー
ド法の制定の 3 項目を柱としており、最大の焦点となる一元輸出体制については、
米国との自由貿易協定締結に絡めて見直すことにも言及している。したがって、
前述のスコーピング・プランと比べると、かなり柔軟な内容になったと言えよう。

 ちなみに、スリーポイント・プランは、NZDBが組織として正式に提案した形に
はなっていないものの、ストーリー会長がこれを公的な場で「改革に向けた青写
真」と称して提示したことから、今後の組織改革論議のたたき台として提案され
たものと受け取られている。


(1)新組織の構築

 ストーリー会長は、スリーポイント・プランの発表に当たり「酪農家は収益が
年々低下している現実を直視しなければならない」と述べ、現状維持に固執する
勢力をけん制するとともに、これを機に必要な改革を実施すべきことを訴えた。

 第 1 のポイントとして掲げられたNZDBの組織改革については、@管理運営の
透明化、A会計責任の明確化、B株式所有と生乳供給の分離、Cビジネスに徹し
た組織への転換、D商業面・政治面の独立性の確立、E意思決定プロセスの迅速
化によって、民間企業に近い組織体制を構築するとしている。

 以上の各項目は、いずれも政府をはじめとする改革推進派から改革論議の中で
指摘されてきた点であり、具体的な対応ぶりは明らかではないものの、これらの
改善の方向を自ら提示したことは特筆すべき歩み寄りと言えよう。

 特に、NZDBの株式所有を生乳供給と切り離すことは、需給を無視した増産を回
避できる反面、酪農組合以外からの投資資金の導入に道を開くことにつながり、
生産者組織としての性格が大幅に変わることを意味する。これは、生産者からの
抵抗が最も強いと予想される項目であるため、今後の論議が注目される。


(2)酪農サービス事業の見直し

 これは、牛群検定、精液供給などの酪農サービス事業を輸出販売部門から分離
独立させるというものであり、過去にも繰り返し提案されてきた。NZDBの公式見
解は組織の分割を認めていないものの、輸出販売部門を効率的に運営するという
見地から必要不可欠な改善策として打ち出されたと関係者には受け取られている。


(3)新デイリーボード法の制定

 この提案は、新組織への移行に合わせて現行の法律を全面的に改訂するととも
に、現在、NZDBが保持している法律上の権利を引き続き確保することを目的にし
ている。後者については、NZDBが組織改革に当たってのリスクとして掲げた事態
を回避できる反面、公的な業務監査の対象から外れるなど、かねてから批判され
ている特典を温存することにつながるため、今後、議論の的となることが予想さ
れる。


(4)一元輸出体制の見直し

 ストーリー会長は、スリーポイント・プランの発表に際し、乳製品一元輸出体
制が米国との自由貿易協定締結に障害となる場合には、米国市場へのアクセスの
改善と引き換えに、これを撤廃する用意があることを明らかにした。米国と自由
貿易協定を締結できれば、関税の撤廃や大幅引き下げにより、乳製品輸出の大幅
な拡大が可能になると確実視されていることから、酪農乳業界全体の利益から見
て当然の結論であるとも言える。しかし、NZDBが一元輸出体制の撤廃に自ら言及
したのは初めてであり、この意味で重要な転換点に差しかかったと言えよう。


6 今後の不確定要素

(1)国政選挙

 NZでは、今年、国政選挙が予定されている。シップリー首相率いる国民党を中
心とする現連合政権は、これまで、多くの産業分野で規制緩和・自由化政策を推
進してきた。これらの政策は経済面で一定の成果を上げ、都市部を中心とする国
民から評価を受けた。しかし、経済的恩恵が少なかった地方住民からは当該政策
の性急な進め方に批判が高まっており、その支持率が低下している。

 一方、野党の労働党は規制緩和・自由化政策に消極的であり、酪農乳業改革に
ついても「重要なのは必要な改革を行うことであって急ぐことではない」と慎重
な姿勢を示している。このため、この国政選挙の結果いかんが、酪農乳業改革の
行方を大きく左右するとみられている。


(2)米国との自由貿易協定

 NZDBのストーリー会長によるスリーポイント・プランが、米国との自由貿易協
定の締結を条件に乳製品の一元輸出体制の撤廃を明示したことは既に述べた。ク
リントン政権はファストトラックに係る議会の支持を得られていないため、現状
では当該協定の締結が足踏み状態となっているが、米国内の情勢いかんによって
は事態が速やかに展開する可能性も否定できない。


(3)次期WTO交渉

 米国内の情勢いかんにかかわらず、世界貿易機関(WTO)の次期交渉は年内に
開始される。NZDBの一元輸出体制は、かねてから貿易わい曲的と指摘されており、
貿易交渉の場ではその是正を求められるとみられている。その場合、NZは自由貿
易推進の旗頭であることから、苦しい立場に立たされることになる。


7 おわりに

 NZの酪農部門は、世界で最も競争力の高い生乳生産を実現している。また、乳
業部門も、近年の酪農組合の合併・統合によって急速に規模拡大を推進し、優れ
た処理加工設備を持つに至っている。それにもかかわらず、酪農の収益の低下が
指摘されており、乳業部門も国際競争力向上を目指してさらなる合併・統合を模
索している。

 政府は、ストーリー会長が提案したスリーポイント・プランに好意的な反応を
示しているが、一方では、酪農乳業の将来は生産者自身が決めるべきとして、当
該プランの早急な具体化を促している。また、NZDBも次の酪農シーズンが始まる
本年 6 月までには一定の段階に事を進めたいとしているため、現在は目を離せな
い状況が続いている。

 スリーポイント・プランによって、酪農乳業改革の具体的な方向性が示された
と言えるが、今後は、その影響と効果も含めて、さらに調査を進めていきたい。

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