ホルモン牛肉問題の解決期限迫る(EU)


期限は 5 月半ば

 EU委員会はこのほど、ホルモン牛肉問題の解決期限を目前にして3つの対応案
を示し、EU理事会やEU議会に至急検討するよう求めた。

 EUのホルモン牛肉輸入禁止措置は、昨年、世界貿易機関(WTO)で同協定違反
と裁定された。科学的に正当な根拠(危険性の評価)が無いことが理由である。
EUは、裁定理由を根拠に調査試験を開始し、科学的な正当性の追求を最優先する
方針を採った。17件の調査試験が開始され、本年から来年にかけて結果が判明す
る。一方、紛争対立国の 1 つである米国は即刻解決を求めたため、裁定をめぐる
紛争当事国の見解は全く異なるものとなった。

 このため、裁定の実施に関する仲裁が行われた。この結果、EUは本年 5 月13日
までにWTO協定に基づいた解決を求められている。この期限は、EUが関連規則の
改正に要する期間を踏まえて決定され、調査試験期間は裁定の実施期間決定の判
断材料にはならないとされた。


今後も輸入禁止を継続というEUの姿勢は変わらず

 今般明らかにされた対応案は、この期限をにらんで示されたものである。ただ
し、あくまで調査試験結果に固執するEUの姿勢は変わっていない。したがって、
いずれの対応案も、科学的に白黒がつくまでの暫定措置であると念を押している。
示された対応案とその評価は次の通りである。

[第 1 案]

 輸入禁止を維持する代わりに、紛争当事国間での代償措置の交渉を実現させる
(国境措置の譲許、マーケットアクセスの増加)。

評価:実現すれば、相互の合意に基づくため、EU内外での調査試験を淡々と推進
し、十分客観的、かつ、正確な判断ができる。代償措置は莫大な金額に上ると予
想されるが、その分野は交渉可能である(EUの禁止措置による米国などの被害額
は年間2億 5 千万ドルとも 5 億ドル(約290億円から約590億円: 1 ドル=118円)
とも言われている)。さらに、科学的根拠が明らかになれば即座に撤回できる。

[第 2 案]

 WTO協定では検疫措置が科学的根拠に乏しい場合は、現在入手できる知見に基
づいて、暫定措置を講ずることができるとされている。この規定に基づき、輸入
禁止措置を暫定措置とする。

評価:恒久措置か暫定措置かの違いだけである。したがって、この案を押し通し
ても、紛争対立国の理解は得られず、新たな紛争が必至である。

[第 3 案]

 ホルモン牛肉である旨の表示を条件に、輸入を解禁する。

評価:WTO協定の遵守が一目瞭然であり、また、代償措置や譲許の停止を伴わな
い。しかし、潜在的に危険と判断している製品の流通を許すこととなる。調査試
験の結果次第では、解禁の判断自体が問題となる可能性もある。さらに、紛争対
立国から異論が出ない表示規則を設定することも困難である。

 EU委員会は、これらの対応案に優先順位をつけていない。しかし、自ら下した
それぞれの対応案への評価からは、第1案を推進しようとする姿勢が浮き彫りと
なる。


今後、EUは極めて厳しい立場に

 一方、米国政府は、EU委員会に対して、原産国表示を行うことを条件に輸入解
禁を求めてきており、EUと米国の間で既に話し合いが始まっている。米国政府は、
WTO協定に基づく裁定に従ってEUが期限までにホルモン牛肉の輸入を解禁しなけ
れば、制裁措置を検討すると警告している。しかし、EU委員会は今のところ、米
国案はEUの表示に関する希望とはかけ離れているとして、受け入れる様子を見せ
ていない。このような状況から今後、EU委員会がいずれの対応案を採った場合で
も、この問題をめぐるEUの立場は極めて厳しいものとなりそうだ。

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