EU委員会、持続可能な農業に向けた報告書を発表(EU)


環境対策の理念を強調し、配慮を求める

 EU委員会はこのほど、「持続可能な農業に向けて」と題する報告書を発表した。
この報告書で、今後の持続可能な農業に向けた環境対策の理念を強調するととも
に、関係者にこの対策への適切な配慮を求めている。


環境問題の主因は、農業の集約化および耕作地の放棄

 EUは、その憲法である単一議定書(87年)およびマーストリヒト条約(93年)
で、環境対策を個々の政策に盛り込まなければならないことを定めた。また、第 
5 次環境行動計画(93年)を定め、農業は今日の必要性を満たすとともに、環境
や自然資源の恵みを次世代が十分享受できる形で継承すべきとする、いわゆる
「持続可能な農業」の実現を目標とした。

 EUの総面積の44%は農地、33%は山林であり、持続的農業が農業そのものだけ
でなく、水質保全や国土保全など社会的に果たす役割も大きい。報告書はまずこ
のような環境対策の発展を再確認した上で、環境問題を引き起こしている主な原
因として、農業の集約化および耕作地の放棄を挙げている。

 集約化の状況を見ると、酪農部門では、EU平均の 1 戸当たり搾乳牛飼養頭数は
約30頭だが、搾乳牛の40%以上は50頭以上の大規模経営の下にある。また、養豚
部門では、イギリスやアイルランドが1戸当たり平均母豚飼養頭数が300頭以上、
デンマーク、オランダ、ドイツなどでは200頭以上となっている。

 EU委員会は環境問題の例として、地下水の硝酸塩濃度が農地の87%以上でEUの
指標濃度(25mg/リットル)を超え、22%で上限値(50mg/リットル)を超えて
いると指摘している。また、1億 2 千万ヘクタールの農地が水食、4千 2 百万ヘ
クタールが風食の被害を受けていると述べている。このほか、畜産に起因するア
ンモニアガスやメタンの問題、生け垣や石垣の撤去、および土地改良による生態
系の変化などを挙げている。


「社会が求める一定レベル以上の環境対策活動には、財政補助が必要」と指摘

 この対策として、EU委員会は、92年のCAP改革で拡充された農業と自然環境措
置、硝酸塩指令の施行などを柱として挙げている。ただし、前者は適用範囲が既
に当初目標を上回る農地の 2 割以上に達しているものの、環境対策予算執行額の
86%以上が 5 カ国に集中していること、後者は12カ国で何らかの不備があるなど、
改善の必要性があることを指摘している。今後のCAP改革案への環境対策の盛り
込みに当たって、基本的措置は汚染者、すなわち農業者が負担すべきであるが、
これを超えた社会的ニーズに応える活動には、財政負担を伴うべきであることを
強調している。

 また、対策の立案や評価に当たって、「環境指標」づくりが重要であると述べ
ている。この際、国だけでなく、地域レベルでの指標が必要なこと、あるいは複
数の指標の相互関係を把握することが重要であると指摘している。

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