タイ政府、国営乳業会社を民間へ売却


販売不振が売却の引き金に

 タイ政府はこのほど、総額約 6 億 5 千万バーツ(約21億 5 千万円:1バーツ
=約3.3円)の負債を抱えて、経営が行き詰まっている国営の乳業会社、タイ酪農
振興公社(DFPO)を民間へ売却すると発表した。

 DFPOは、デンマーク政府の支援の下に61年に設立された酪農場を母体とする歴
史ある国営企業であり、現在、 1 日当たり200トンの処理能力を持つ工場 1 カ所
と、60トンの工場 3 カ所を所有している。これらの工場ではLL牛乳を主に製造し
ており、赤牛印ブランドの牛乳として、一時はLL牛乳の国内流通量の30%近くを
占めていた。

 しかし、最近では、外資系の大手乳業メーカーが市場に参入したことなどから、
徐々にそのシェアが低下し、20%を下回る状況となっている。また、DFPOは製品
の卸売先を一元化していたが、97年の卸売会社への売上高が 3 億バーツ(約 9 億
 9 千万円)と、予定していた15億バーツ(約49億 5 千万円)を大きく下回るなど、
販売不振に陥っていた。さらに、以前契約していた卸売業者との間で、約 1 億バ
ーツ(約 3 億 3 千万円)の未回収金の問題があり、これらの状況からDFPOでは、
酪農家に支払う生乳代金の未払いが生じるなど、経営に困難を来していた。


生乳の安定出荷を求め、酪農家は反対行動

 同国政府は、国際通貨基金(IMF)との合意に基づき、政府機関の簡素化を進め
ているが、DFPOも民間への払い下げを行うこととし入札を開始した。

 一方、同社に生乳を出荷している約5千戸の酪農家は、未払いになっている生乳
代金の即時支払いを要求するとともに、安定的な生乳の出荷が約束されない同社
の民間への売却に反対し、道路に生乳をまき散らしたり、牛乳の運搬経路である
高速道路を封鎖するなど、抗議行動を行った。また、同社の約500人の労働者も、
大幅な人員削減を含む売却に反対するとともに、解雇された労働組合の代表者を
含む 5 人の復職を求めて、この行動に同調しており、反対運動は拡大している。


政府は緊急融資の決定などで事態の収拾に乗り出す

 政府は、出荷先に困っている酪農家のため、他の乳業メーカーに生乳の買い取
りを交渉したり、また、酪農家への支払いを中心としたDFPOへの緊急融資を約30
億バーツ行うこと、解雇された 5 人の復職について再度話し合うこと、払い下げ
の入札の締め切りを 5 月まで延期することなどを決定し事態の収拾に乗り出して
いる。これらの措置により一応の決着はつくものとみらているが、今後の政府の
動向が注目されている。

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