食肉への放射線照射の利用に向け前進(米国)


USDA、食肉検査規則などの改正案を公表

 米農務省(USDA)は2月24日、食肉および家きん肉への放射線照射に関する内
容を盛り込んだ食肉検査規則などの改正案を発表した。放射線照射は、現在、生
肉中の病原性大腸菌o−157を死滅させる唯一の効果的な方法として知られており、
リステリア、サルモネラおよびカンピロバクターなどの病原菌に対する有効な防
止策の 1 つともされている。米保健社会福祉省食品医薬品局(FDA)は97年12月、
既に食肉への放射線照射を認可しており、放射線照射の利用開始に不可欠なUSD
Aによる食肉検査規則などの改正が待たれていた。今回、FDAの認可後14ヵ月を経
て、ようやくその具体案が発表されたことになる。


放射線照射の表示を義務付け

 今回の改正案によると、放射線照射食肉として販売が認められるのは、冷蔵ま
たは冷凍された未調理の食肉、内臓およびひき肉などの食肉製品である。また、
放射線照射された食肉などは、放射線照射された旨の国際標準のロゴおよびラベ
ルの貼付が義務付けられる。

 一方、家きん肉への放射線照射は、サルモネラ等の病原菌の抑制を目的として
92年に既に認可されているが、今回の食肉に対する規則案の提示と併せてこれを
改正し、食肉との整合性を図るとしている。現在、家きん肉については、パック
されたもののみに対し、放射線照射が認められているが、今回の改正案では、そ
の対象を丸と体やパック前の正肉などに拡大することとしている。なお、現在放
射線照射された家きん肉は、病院向けなどの一部の需要に限られており、その生
産量も非常に限定的となっている。

 また、改正案では、放射線照射された食肉などをソーセージやボローニャなど
の加工品に利用することも可能としている。なお、放射線照射が実施される場合
には、危害分析重要管理点監視方式(HACCP)の下で実施・運用されることとな
る。


コスト面など利用開始に向け多くの課題が残る

 今回の改正案について、一般からの意見が60日間受け付けられ、これらの意見
を考慮し最終規則が策定される。ただし、この他にも放射線照射食肉が実際に流
通するまでには、多くの課題が残されている。

 第1にコストの問題である。USDAによると、放射線照射によるコスト上乗せ額
は、ひき肉でポンド当たり最大 6 セント(16円/kg、 1 ドル=118円で換算)に
上る。また、放射線施設建設会社は、食肉の放射線照射施設の設置費用を 1 千2
百万ドル(約14億円)と見積もっている。

 第 2 に放射線照射が食肉の品質などに与える影響である。あるパッカーの調査
では、放射線照射は食肉の味や色を損なわせるとしている。加えて、その需要は
病院などに限定されるため、放射線照射食肉が大量に生産されることはないと見
込んでいる。

 第3に表示の問題である。全国食品加工協会(NFPA)によれば、現在の放射線
照射済みロゴは、情報開示というよりは、消費者に危険を連想させてしまうこと
から、加工業者が放射線照射食肉を原料として利用することをためらわせるとし
ている。この件については、FDAが放射線照射食品に関する表示のあり方につい
て、現在、一般から意見を募集している。

 いずれにしても、食肉などへの放射線照射が今後普及するかどうかは、このよ
うな食肉に対する消費者の受け止め方が最大のカギになると言える。


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