海外駐在員レポート 

EUにおける家畜の動物愛護に関する規則について

ブラッセル駐在員事務所 井田俊二、島森宏夫




T はじめに

 EUの畜産は、共通農業政策(CAP)が成立した60年代から70年代にかけて、国
家補助を背景とした施設の更新が進み、生産の専業化、大規模化および企業化が
急速に進展した。こうした生産構造の変化に伴い、新たな施設では、スレート床
の普及や同一区画における豚、鶏の過密飼養方式の一般化等家畜の動物愛護面に
おける環境の低下が見られた。

 家畜の動物愛護は、家畜に無用なストレスや苦痛を与える要因となっている家
畜の過密飼養や長距離輸送といった状況を改善し、家畜を保護することを目的と
している。

 EUにおける動物愛護施策は、日常化する家畜の過密飼養等家畜を取り巻く環境
の悪化を背景として、74年に家畜を保護するための規則が制定されたことに始ま
る。その後、新たな規則の制定および規則の改正が行われ現在に至っている。EU
における現在の動物愛護に関する規則は、家畜の生産・処理過程および家畜の種
類ごとに制定されており、複数の規則が並立している。さらに、各規則の内容は
関連性を持つことから、動物愛護に関する規則の全体像がつかみにくい。

 本稿では、現行のEUにおける動物愛護に関する規則の概要を区分別に紹介する。

 また、EU加盟国で最も動物愛護に関心が高いとされるイギリスの状況等につい
て紹介する。


U EUにおける家畜の動物愛護に関する規則の概要

1 動物愛護に関する規則の区分

 EUにおける動物愛護に関する規則は、家畜の生産・処理過程および畜種で次の
通り大別できる。このうち家畜の生産・処理過程は、生産者による家畜の飼養、
家畜輸送業者等による家畜の輸送およびと畜業者等による家畜のと畜の3段階に
区分される。


2 各規則の概要

(1)生産者による家畜飼養に関する規則の概要

ア 子牛の飼養に関する規則

 子牛の飼養に関する保護を目的とした規則は、長年にわたる検討の末、91年に
理事会指令(91/629/EEC)として定められた。この指令は、6カ月齢以下の子
牛を対象とし、生産者が子牛を飼養する際に無用なストレスや苦痛を与えないよ
う家畜を保護するため、畜舎の基準、家畜の取り扱い、給餌および給水等の基準
を定めている。

 また、95年にEU委員会が理事会に提出した調査レポートに基づき規則の見直し
が行われた結果、97年に理事会指令(97/2/EC)および委員会決定(97/182/
EEC)が定められその内容の一部が改正された。この改正では、8週齢以上の子牛
を個別にクレーツ(1頭ごとに飼養するための囲い)で飼養することを禁止する
措置等が定められた。この指令は、94年1月1日から実施されている。

 現在適用されている規則の主な内容は次の通りである。

@畜舎の設備等要件

 (94年1月1日以降畜舎を新・改築する場合の最低基準(6頭以下の飼養は適用
外))

 ・群飼養する場合には、自由に子牛が動き回れる床面積の確保(150kgの子牛1
  頭当たり1.5m2以上)

 ・仕切りで個別飼養またはつなぎ飼育する場合、仕切りに空間、仕切りの幅は
  90cmプラスマイナス10%、または馨甲(肩甲骨隆起)の高さの0.8倍

 ・この基準は、2006年12月31日以降すべての生産者に適用される。
 
 (98年1月1日以降畜舎を新・改築する場合の最低基準(6頭以下飼養の場合お
よび授乳目的として母牛と一緒に飼育している場合は適用外))

 ・8週齢以降、子牛を個別のクレーツで飼養することを禁止 

 ・個別のクレーツの高さは馨甲の高さ以上、長さは体長以上 

 ・群飼養する場合、障害物がなく子牛が動き回れる床面積の確保(150kg以下
  の子牛1頭当たり1.5m2以上、150〜220kgの子牛1頭当たり1.7m2以上、220kg
  以上の子牛1頭当たり1.8m2以上)

 ・この基準は、2006年12月31日以降すべての生産者に適用される。

A域外からの家畜の輸入

 子牛を域外から輸入する場合、この指令に基づき飼育したことを証明する輸出
国政府の証明を添付

B規則の遂行状況の確認

 加盟国当局による遂行状況調査の実施およびEU委員会への報告(96年から2年
に1度実施)

Cレポートの作成および報告

 EU委員会は、2006年までに子牛の過密飼養に関するレポートを作成し理事会に
報告

D子牛の飼養に関する主な要件

 ・畜舎の暖房、換気等快適性の確保 
 ・適度な照明または自然光の照射 
 ・飼養管理者等による子牛の点検(畜舎内は2回/日、畜舎外1回/日) 
 ・群飼の授乳時(1時間以内)を除き子牛はつなぎ止め禁止
 ・滑らか、かつ、滑りにくい床の設置、敷料の設置
 ・日齢、体重等に応じた適切な栄養価の飼料 
  十分な鉄分を供給(血中ヘモグロビン濃度が最低4.5ミリモル/リットル)
  繊維質飼料を供給
 ・1日最低2回の給餌
 ・飼料、飲料水の設備(飼料、飲料水の汚染回避)
 ・生後の初乳(分娩後6時間以内)

イ 豚の飼養に関する規則

 豚の飼養に関する保護を目的とした規則は、91年11月に理事会指令(91/630
/EEC)で定められた。EU委員会は、日常化する豚の過密飼養や豚の断尾等とい
った実態を背景として89年6月に規則の提案をした。EU議会が再三にわたりEU理
事会およびEU委員会に対し豚の飼養実態の改善措置を要請していたことからこの
提案に至ったものである。

 この指令は、飼養するすべての豚を対象とし、生産者が豚を飼養する際に無用
なストレスや苦痛を与えないよう保護するため、畜舎の基準、家畜の取扱い、給
餌および給水等の基準を定めている。この指令は、94年1月1日から実施されてい
る。

 現在適用されている規則の主な内容は次の通りである。

@1頭当たりの飼育密度基準(6頭以下(子豚のいる繁殖雌豚は5頭以下)の小
規模生産農家では適用外)

 94年1月1日以降畜舎を建築した場合、1頭当たりの飼養密度の最低基準は次の
とおりである。この基準は、98年7月1日以降すべての生産者に適用される。

re-eut01.gif (6578 バイト)

◇図1:家畜飼養頭数◇

re-eut02.gif (2651 バイト)

A繁殖雌豚のつなぎ飼育用の設備の設置を禁止(6頭以下(子豚のいる繁殖雌豚
は5頭以下)の小規模生産農家では適用外)

 95年12月31日以降、繁殖雌豚のつなぎ飼育用の設備の設置を禁止する。ただし、
96年1月1日時点において、新たな基準に適合しない設備を設置しており、かつ、
加盟国当局の許可がある場合には2005年12月31日まで設備を使用できる。

BEU委員会によるレポートの作成

 EU委員会は、97年10月1日までに豚の過密飼養に関するレポートを作成し理事
会に報告しなければならない。
 
C遂行状況の調査

 加盟国当局は遂行状況を調査し、EU委員会に定期的に報告する(96年から2年
に1度実施)。

D生体豚を域外から輸入する場合の証明

 生体豚を域外からの輸入する場合、この指令に基づき飼育したことを証明する
輸出国政府の証明を添付。

E豚を飼養する際の主な要件

 (一般要件)

 ・畜舎の暖房、換気等
 ・適度な照明 
 ・飼養管理者等による豚の点検(畜舎内は2回/日、畜舎外1回/日)
 ・家畜に適した畜舎(横臥、規律等行動の自由が確保、衛生的、他の個体の視
  覚確認が可能)
 ・つなぎ縄を使用する場合、事故等安全性への配慮
 ・滑らか、かつ、滑りにくい床の設置、敷き料の設置
 ・日齢、体重等に応じた適切な栄養価の飼料 
 ・1日最低1回の給餌
 ・尾切断等の慣習は通常行わない
  
 (豚のタイプ別要件)

 ・繁殖雄豚成畜(豚房の最低面積6m2)
 ・繁殖雌豚(妊娠中の衛生面の確保ほか)
 ・ほ乳子豚(暖房および横臥スペースの確保、繁殖雌豚が分娩用クレーツを使
  用した場合のほ乳しやすさの確保、4週齢以上の子豚の去勢は獣医または資
  格を有する者が麻酔の上実施、慣習的な尾の切除、歯の切除の禁止、最低3
  週齢のほ乳期間)
 ・育成豚・肥育豚(離乳後すぐに群飼育、群は基本的に固定)
 
ウ 採卵鶏の飼養に関する規則

 採卵鶏の飼養に関する保護を目的とした規則は、88年3月の理事会指令(88/
166/EEC)で定められている。この指令は、86年の理事会指令(86/113/EEC)
の廃止に伴い制定された。すべての採卵鶏を対象とし、生産者が鶏を飼養する際
に無用なストレスや苦痛を与えないよう保護するため、1羽当たりのバタリーケー
ジの面積等鶏舎の設備、採卵鶏の取り扱い、給餌および給水等の基準を定めてい
る。この指令は、95年1月1日から実施されている。

 ただし、99年6月15日の農相理事会で新たな理事会指令が承認された。この理
事会指令は、96年10月にEU委員会が理事会に提出したレポートに基づき、98年3
月、EU委員会が新たな提案をしたものである。採卵鶏1羽当たりのバタリーケー
ジ面積基準の強化やバタリーケージ以外の飼養方法に関する基準を規定するなど
一層動物愛護基準の強化が打ち出されている。この指令は、2001年1月1日から実
施されることとなっている。

 88年3月の理事会指令および99年6月に承認された理事会指令の主な内容は次の
通りである。
 
(ア)88年の理事会指令(88/166/EEC)の概要

@バタリーケージの要件

 ・1羽当たり最低450cm2の障害物のない床面積
 ・1羽当たり10cm以上の給餌、給水場所の確保。カップまたはほ乳型の給水の
  場合最低2基以上設置
 ・ケージの高さは40cm以上
 ・ケージの構造(素材および鶏舎内の環境条件)
 ・くちばしの切除は行わない
 
A加盟国およびEU委員会による遂行状況の調査の実施および報告
 
(イ)99年6月に理事会で承認された理事会指令(ただし、最終合意内容はまだ
明らかにされていないため、EU委員会提案および関連記事による)

@新たな飼養方式の要件(2001年1月1日以降ケージを設置する場合)

 ・産卵に適した巣を配置(最低8羽に1つ、または100羽に1m2)
 ・適切なとまり木の設置(ケージより最低10cm以上の位置に設置、15cm以上
  の大きさ、とまり木間の上下の間隔は1m以内)   
 ・砂浴びするための砂場の設置
 ・並列型給餌槽の場合1羽当たり10cm以上の給餌間隔
 ・不断給水槽の場合1羽当たり3cm以上の給餌槽、循環給水槽の場合1羽当たり
  1.5cmの給水槽、カップまたはほ乳型給水の場合10羽に1つ以上、10羽未満の
  場合には最低2つ設置。  
 ・床は前爪を保護するための構造
 
(鶏が垂直的に自由に移動できる飼養方式の場合の追加要件)

 ・床表面積1m2当たり20羽以下(巣の面積は含まない)
 ・ケージの高さの差は50cm以上
 ・給餌および給水設備は等間隔で設置
 ・10日齢以内の実施であればくちばしの切除は認められる
 ・表面積の3分の1以上は砂浴び用の砂を配置
 
(改良型ケージを設置した場合の追加要件)

 ・ケージのすべての高さは50cm以上
 ・一面が完全に開いているケージの場合には鶏がけがをしないための設備
 ・ケージの列の間隔は1m以上(鶏の出し入れ、検査)
 ・くちばしの切除は行わない
 
A従来型のバタリーケージ

 99年7月1日時点で88年の指令に則した従来型のバタリーケージ(ただし設置後
10年以内)が現存する場合、2008年12月31日まで利用可能。ただし、2006年1月
1日以降は、1羽当たりのケージの最低面積を450cm2から550cm2とする。
 
B加盟国およびEU委員会による立ち入り調査の実施、定期的な報告
 
C採卵鶏を飼養する際の主な要件

 ・安全かつ衛生的な設計の鶏舎
 ・畜舎の暖房、換気等
 ・適度な照明 
 ・飼養管理者等による鶏の点検(最低2回/日)
 ・上段の鶏の検査および出し入れが可能な設備および常設通路が設置されてい
  る場合、4段以上のケージの設置を許可
 ・翼切断等は通常行わない

エ 畜産物生産を目的とする家畜の保護に関する規則

 畜産物生産を目的として飼養する家畜の動物愛護に関する規則は、98年7月の
理事会指令(98/58/EC)で定められている。この指令は、92年にEU委員会で提
案したが合意に至らず、98年にようやく理事会で採択された。食肉、生乳、羊毛、
毛皮等畜産物の生産を目的とする家畜を対象として、生産者が家畜を飼養する際
に無用なストレスや苦痛を与えないよう保護するため、畜舎の基準、家畜の取扱
い、給餌および給水等の基準を定めている。この指令は、99年12月31日から実施
されることとなっている。

 これまで飼養する家畜の動物愛護に関する規則は、特定の家畜ごとに定められ
ていたが、この指令が制定されようやく包括的な基準が定められた。ただし、そ
の基準となる内容は最小限に止められており、EU委員会における調査結果を踏ま
え、今後より具体的な基準の設定を検討することとしている。なお、将来的には、
並立する既存規則(子牛、豚および採卵鶏の飼養に関する理事会指令)と統合し
一本化する構想がある。

 この規則の主な内容は次の通りである。

@調査レポートの作成および提出

 EU委員会は、99年6月30日までに次の項目を調査し理事会にレポートを提出す
る。

 ・EUと第3国間の動物愛護に関する規定の比較・検討
 ・EUの動物愛護に関する規定が国際的に認知される見込み
 ・EUにおける動物愛護に関する規定の普及が、第3国間との国際競争力を低下
  させる可能性

A家畜を飼養する際の主な要件

 ・飼養管理技術に優れた職員による飼養
 ・適切な家畜の検査(回数、畜舎内の照明、病畜等の適切な措置)
 ・家畜の記録(病畜等手当の記録、最低3年の保管期間)
 ・家畜の行動(けがを伴わない行動の自由、十分な飼養空間)
 ・畜舎(けがを伴わない安全な設備、換気、空調)
 ・畜舎内の照明(適度な自然光または人口光の照射)
 ・舎外飼養の安全性確保(天候、外敵、衛生面)
 ・自動機械装置による安全性の確保
 ・給餌・給水等(月齢、畜種等に適した栄養価の飼料、十分な給水機会の提供)
 ・繁殖(苦痛、けが等の原因とならない安全な環境下での繁殖、安全な遺伝子
  型、表現型の維持)

(2)家畜輸送業者等による家畜輸送に関する規則

 輸送時に家畜を保護するための規則は、91年の理事会指令(91/628/EEC)お
よび97年、98年の理事会規則(1225/97/EC、411/98/EC)で定められている。
この指令は、家畜を輸送(道路、鉄道、船舶および航空)する際に家畜に無用な
ストレスや苦痛を与えないよう保護するため、家畜の取り扱いおよび輸送機関に
関する設備要件等について基準を定めている。

 家畜輸送に関するEUレベルの規則は、77年(理事会指令77/489/EEC)で定め
られたが、EU域内における単一市場の確立に伴うEU域内流通の簡素化等の見直し
が行われ、91年に新たな理事会指令(91/628/EEC)が定められた(93年1月1日
から実施)。その後、EU委員会は、91年理事会指令の一部改正として、給餌・給
水回数や休息時間、最低面積等の追加基準を提案した。この提案は、長期間の議
論の末、95年6月に採択され(理事会指令(95/29/EEC))、一層包括的な内容
となった(97年1月1日から実施)。

 なお、91年の理事会指令では、規定輸送時間後、家畜を下車させ24時間以上の
休息を取ることを定めているが、97年6月には、理事会規則(1225/97/EC)で
その途中寄宿地における、家畜の取り扱いおよび設備等の基準が定められた。こ
の理事会規則は99年1月1日から実施される。

 さらに、98年には、91年の理事会指令の細則となる理事会規則(411/98/EC)
が定められた。この指令は、道路車両で牛および豚等の家畜を連続8時間以上輸
送する場合の車両設備等の基準について具体的に定めている。この理事会規則は
99年7月1日から実施される。

 また、関連として委員会規則(615/98/EC)には、家畜輸送中にこの動物愛
護基準に反した行為が確認された場合、輸出補助金の非交付が規定されている。

 現在適用されている規則の主な内容は次の通りである。

ア 理事会指令(91/628/EEC)について

(一般的な要件)

 ・家畜輸送者の加盟国当局への登録
 ・家畜輸送者は家畜の輸送、取り扱いに対する特別の訓練を受けること
 ・家畜輸送者は、8時間以上の家畜輸送をする場合、家畜輸送計画の作成、加
  盟国当局における衛生証明の携行
 ・加盟国当局による輸送時点における検査
 ・加盟国当局によるモニタリング検査の実施と年次報告書の作成
 ・EU委員会によるスポット検査の実施
 ・違反者に対する罰則の規定
 ・EU委員会は理事会に対して、99年12月31日までにこの指令の遂行状況につい
  て報告する。

(牛、豚等の輸送要件)

 ・出産前後の家畜の輸送禁止(輸送中に分娩予定、出産後48時間以内、新生子
  牛でへその緒の完治していないもの)
 ・十分な広さの仕切りおよび換気設備 
 ・異なった畜種を輸送する場合、育種ごとに区分して積載
 ・輸送中の家畜の懸垂を禁止、家畜の積み降ろしに必要な架橋等器材の装備、
  携行
 ・家畜輸送に耐えられる強度および安全な床の設備、十分な敷き料の供給

 (このほか、道路、鉄道、船舶および航空輸送ごとの追加要件が定められてい
る。)

(輸送時の家畜密度)

 輸送時の家畜密度は、畜種別、輸送手段別に次の通り家畜1頭当たりの輸送面
積が定められている。

 ・牛を輸送する場合の輸送密度

◇図2:家畜輸出頭数◇

◇図3:家畜輸入頭数◇

(道路または鉄道輸送の場合)
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 注:タイプ別1頭当たりの面積は、家畜の大きさおよび体重以外に
   個体の身体的状況、輸送時間等により変動する。

(航空輸送の場合)
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(船舶輸送の場合)
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 注:妊娠牛は1頭当たり面積の10%増し。

・豚を輸送する場合の輸送密度

(道路または鉄道輸送の場合)

・すべての個体は自然状態で横臥、規律可能な面積
・体重100kgの豚1頭当たり面積は235kg/m2以下
・1頭当たりの最低面積は、家畜の大きさおよび体重以外に個体の身体的状況、
 輸送時間等により20%増加

(航空機輸送の場合)
re-eut06.gif (1852 バイト)

(船舶輸送の場合)
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・鶏を輸送する場合の輸送要件(コンテナによる輸送)
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 注:タイプ別1頭当たりの面積は、家畜の大きさおよび体重以外に
   個体の身体的状況、輸送時間等により変動する。

 (給餌・給水間隔、輸送時間および休息時間)

 ・輸送時間は8時間以内
 ・輸送時間が8時間を超える場合、輸送機関に適切な設備等の追加輸送要件

 (給餌、給水間隔(8時間以上の道路輸送の場合))

 ・豚の輸送時間は24時間以内(輸送中は不断給水)
 ・8時間輸送経過後は、家畜を車両から降ろし給餌・給水と24時間以上の休息
 
イ 理事会規則(1225/97/EC)について

 91年の理事会指令では、家畜を規定時間輸送した場合、家畜を降車し24時間以
上の休息を取ることと定めているが、この途中寄宿地における設備要検討につい
て定めている。

 この規則は、単蹄動物および牛、羊、山羊および豚を対象としている。

 主な要件は次の通りである
 
(家畜寄宿地の承認)

 家畜寄宿地は、加盟国当局の承認を得なければならない。また加盟国当局はそ
の承認リストをEU委員会に提出する。
 
(設備等の要件)

 ・衛生面を配慮した施設、家畜搬出後の清掃・消毒
 ・ 家畜積み降ろし時の家畜のけが等安全性に配慮した設備
 ・途中寄宿地建物の設備(照明、換気、家畜つなぎ設備等)
 ・病畜用の寄宿施設の設置
 ・家畜積み降ろし時の家畜の取り扱い
 ・寄宿時の十分な給餌・給水
 ・家畜の検査の実施(12時間に1度以上実施)
 ・記録の整備(家畜の寄宿時間、病気の手当、輸送業者等)

ウ 理事会指令(98/411/EC)について

 91年の理事会指令で、家畜の連続輸送時間の基準を連続8時間以内と定めてい
る。98年の指令では、家畜輸送の大半を占める道路輸送について、牛、山羊、羊
および豚を長時間輸送(連続8時間以上)する場合に必要な家畜の取り扱いおよ
び車両設備等について要件を定めている。この規則は、99年7月1日から実施され
ている。

 主な要件は次の通りである。

(輸送上の要件)

 ・敷き料(畜種、頭数、輸送時間および天候に応じて快適な敷き料、家畜ふん
  尿を配慮した敷き料)
 ・給餌(畜種、輸送時間に応じて、十分な量、雨等汚染要因からの保護、家畜
  が摂食するための適切な設備等)
 ・換気(適切な換気装置の設置)
 ・仕切り(畜種、輸送頭数に応じた適切な広さの仕切りを設置)
 ・給水(給水設備の設置)

エ 委員会規則(615/98/EC)

 98年の委員会規則(615/98/EC)では、生体牛をEUから第3国に輸出する場合
の輸出補助金の措置を定めている。EU域外への家畜輸送時に動物愛護の基準に反
した行為が確認された場合の輸出補助金の非交付措置等が定められている。

 主な規定は次の通りである。

(家畜の検査)

 ・生体牛をEUから第3国に輸出する場合、EU域外に搬出する際に指定された場
  所での獣医師の検査、証明

 ・最終輸出国で、最初に家畜を降車させる際に、EUが承認した検査官により検
  査、証明

(輸出補助金)

 ・輸送中に死亡した家畜または動物愛護基準に適合しない家畜については輸出
  者に輸出補助金を交付しない。

 ・この輸出補助金の交付対象とならないケースは、非交付対象頭数が輸出頭数
  の3%以上(ただし、2頭以上)、または、非交付対象頭数が5頭以上の場合
  である。

(3)と畜業者等によると畜に関する規則

 と畜時に家畜を保護するための規則は、93年12月の理事会指令(93/119/EC)
で定められている。この指令は、家畜(食肉、皮革、毛皮およびその他の製品の
生産を目的とする動物)をと畜場に搬入する時点から休息、スタンニング(失神)
およびと畜までの間、家畜に無用なストレスや苦痛を与えないよう家畜を保護す
るため家畜の取り扱いおよび設備要件等について定めている。

 と畜に関するEUレベルの規則は、74年(理事会指令(74/577/EEC))に定め
られた。この指令は、その後、家畜のと畜方法等技術的な見直しや幾つかの問題
点(病畜のと畜対策等)を改善するため、93年に現行の理事会指令に置き換えら
れた。この指令は、95年1月1日から実施されている。

 この規則の主な内容は次の通りである。

◇図4 家畜と畜頭数◇

@と畜等管理者

 家畜を搬入してからと畜するまでの家畜の取り扱いは、十分な知識と熟練を備
えた者が実施。

Aレポートの作成、提出

 EU委員会は、SVC(常設獣医委員会)の報告を基に、スタンニング、と畜方法
に関する調査を実施し、理事会にレポートを提出する。

B家畜の搬入からと畜までの各段階の主な規定

(移動および休息)

 ・と畜場における家畜搬入時の設備の整備(94年6月30日以降に操業開始した
  と畜業者は即時整備、それ以前からのと畜業者は96年6月までに整備)
 ・高温多湿時の家畜冷却
 ・家畜の健康状態の確認(最低朝と晩)
 ・搬入時までに傷害が生じた家畜の即時と畜(最低2時間以内)
 ・長時間待機時の給餌、休息
 
(スタンニング、と畜前の家畜の拘束)

 ・家畜がリラックスした状態でスタンニングおよびと畜に至る環境の確保
 ・と畜前の脚の緊縛、家畜懸垂等の禁止
 
(スタンニングおよびと畜(毛皮を目的とする家畜を除く))

  スタンニングの方法

 ・ボルトピストル(Captiveboltpistol)
 ・打撲(Concussion)
 ・電殺(Electronarcosis)
 ・ガス麻酔(CO2)(Exposure to carbon dioxide)

  と畜の方法

 ・銃弾(Free bullet pistol or rifle)
 ・電殺(Electrocution)
 ・ガス麻酔(CO2)(Exposure to carbon dioxide)

 (さらにスタンニングおよびと畜についてその方法ごとに詳細な規定が定めら
 れている。)
 
(放血)

 ・スタンニング後速やかに放血  
 ・スタンニングから放血に至るまでの作業は、1個体の処理が完了するまで1人
  で管理


V イギリスにおける家畜の動物愛護

 イギリスでは、60年代に食糧の安定的な供給を図るため農業の集約化、大規模
化を目指した政策が進められた。この結果、畜産においては、家畜管理の低下や
日常的な家畜の過密飼養といった状況をもたらした。

 こうした状況下、64年にイギリス政府は、家畜に無用なストレスや苦痛を与え
ず快適な環境等を確保すること等を検討するための委員会を設置した。その結果、
68年にはこうした観点から動物愛護の基準を定めた規則が制定された。その後、
新たな規則の制定および改正が行われ、家畜の動物愛護に関する基準が整備され
てきた。

 イギリスにおける動物愛護は、日常的な家畜の過密飼養が行われる状況下、64
年に政府が対策を検討するための委員会を設置したことに始まる。その結果、68
年に動物愛護の基準を定めた規則が制定された。その後、新たな規則の制定およ
び改正が行われ整備された。

 現在の動物愛護に関する規則は、EUと同様に家畜の生産・処理過程および家畜
の種類を区分の基準として制定されており、複数の規則が並立している。このう
ち家畜の生産・処理過程の区分は、生産者による家畜の飼養、家畜の輸送、家畜
市場およびと畜場の4段階で動物愛護に関する基準が定められている。

 大部分の規則は、EUの規則に基づき定められているが、まだEUで規定されてい
ない畜種や生産・処理過程での基準や、EUで定める基準以上の厳格な基準の適用
など動物愛護に関する対策がEUレベルより一段と整備されている。

 イギリスにおける動物愛護に関する規則および現状は次の通りである。


1 家畜飼養時の動物愛護に関する基準

 イギリスにおける家畜の動物愛護に関する規定は、1911年の動物保護に関する
法律に一般的な家畜の取り扱いに関する項目が規定されている。

 EUの家畜飼養時の動物愛護に関する理事会指令に対応するイギリスの法律は、
68年の農業法(雑則)で包括的な事項が定められており、この法律に基づき、細
則としていくつかの規則、指令が定められている。EUの指令で定められている子
牛、豚および採卵鶏の規定に対応する規則名および特記事項は次の通りである。

(1)子牛(94年家畜愛護規則別表2、98年家畜愛護規則(改正)(SI 1709))

 イギリスでは、既に90年から子牛を閉鎖的なクレーツで飼養することを禁止し
た。

(2)豚(94年家畜愛護規則別表3)

 豚の飼養に関する動物愛護の基準は、他のEU諸国と比較して高い。例えば、繁
殖雌豚のつなぎ飼育や閉鎖的なストールの飼養を禁止(91年10月1日から設備の
新設、99年1月1日から全面禁止)することとしている。

(3)鶏(94年家畜愛護規則別表1、4)


2 家畜輸送時の動物愛護に関する基準

 EUの理事会指令(91/628/EC)およびその一部改正理事会指令(95/29/EC)
に対応するイギリスの法律は、97年の動物愛護(家畜輸送)に関する法律(WAT
O)である。

 家畜を規定時間輸送した後の途中寄宿地における基準を定めたEU理事会規則
(1255/97/EC)には98年の動物愛護に関する法律(途中寄宿地)が対応して
いる。

 また牛、豚、羊、山羊、豚および馬を道路車両で8時間以上輸送する場合の基
準を定めたEU理事会規則(411/98/EC)には、98年の動物愛護に関する法律
(輸送・改正)が対応している。

 イギリス政府は、従来からと畜または肥育用の家畜輸送を禁止し、食肉による
輸送を主張していたが、欧州裁判所の裁定により、このような措置が法的に認め
られなかったことから、現在では動物愛護に関する規則の厳格な運用を図ること
としている。


3 家畜市場における動物愛護に関する基準

 家畜市場における家畜の保護に関する規則は、90年の2つの法律(市場におけ
る動物愛護に関する法律、市場における馬の愛護に関する法律)により定められ
ている。この法律は、家畜を市場に搬入する時点から家畜を搬出するまでの家畜
の取り扱いについて基準を定めている。さらに家畜市場における給餌・給水、照
明および換気といった設備要件を定めている。主な規定は次の通りである。

(家畜愛護官)

 家畜市場には、任命された家畜愛護官を置き、市場内における家畜の取り扱い
について監視し、アドバイスする。

(家畜の積み降ろし)

 家畜を積み降ろす場所は、家畜の移動が最小限となる場所を指定して行う。

(家畜のペン)

 家畜のペン、競り場では、家畜のけがを防止するための床を設置する。

(給餌、給水)

 競りの前日または翌日市場内に残っている家畜には市場で給餌、給水をする。

(上場)

 健康でない家畜の上場の禁止。

(子牛の取り扱い)

 7日齢以下およびへその緒が完治していない子牛は市場への上場を禁止。12週
齢以下の子牛は、子牛の最終の販売後4時間以内に市場から搬出し、28日以内に
再上場することを禁止。


4 と畜時の動物愛護に関する規則

 と畜時の動物愛護に関する規則は、93年12月の理事会指令(93/119/EC)に
対応して95年の動物愛護(と畜)に関する規則で定められている。

 規則の運用に当たっては、政府エージェンシーの獣医師が、と畜場において規
則による業務の執行状況を管理し必要に応じて指導している。

 98年6月に公表された2年に1度の食肉衛生サービスの調査によると、執行状況
はおおむね良好とされているが、と畜場職員の訓練の必要性が指摘された。


5 家畜愛護協議会(FAWC(FARM ANIMAL WELFARE COUNCIL))

 イギリス政府は、79年にFAWCという独立組織を創設した。各分野の専門家が
家畜の動物愛護に関する調査・研究を行い、この調査・研究結果を基に政府や生
産者に対して施策等のアドバイスを行っている。


W 家畜の動物愛護をめぐる最近の情勢

1 BST(牛ソマトトロピン)

 EUでは、90年から乳牛へのBSTの使用を禁止しており、99年12月31日までこの
措置を継続することとしている。BSTは、乳牛の乳量の増加に効果があることが
知られているが、一方でその牛乳を摂取した人の発ガン性を指摘する研究報告も
見られる。さらに99年3月にEU委員会が公表した研究報告によると、BSTを使用し
た乳牛と乳房炎、四肢の異常との関連性が指摘されており、動物愛護団体はBST
の使用禁止措置の継続を求めてい
る。


2 クローン家畜生産

 FAWCは、イギリス政府の要請により98年に動物愛護の観点から見たクローン
家畜技術に調査結果を報告した。家畜クローン技術の方法は問題ないとしたもの
の、適正な受精卵受容個体の選定等の勧告が行われた。


X おわりに

 EUでは、動物愛護に関する規則が制定されてから既に長い年月が経過した。そ
の間、長期間にわたる議論の結果、規則の整備・改正が図られてきた。

 EUの動物愛護に関する規則は、その中で今後の課題点に関する調査・報告の実
施を義務付けており、この結果を基に多面的な検討が図られ、新たな規定の導入
や現行規定の改正が行われている。例えば、99年6月に理事会で承認された採卵
鶏のバタりーケージの基準の見直しにおいては、EU委員会の調査・報告を基に鶏
が本来有している動物行動学的、生理学的な機能を十分発揮できる環境づくりと
いう観点から検討が行われた。この結果、鶏が生来有する行動(羽ばたき等)を
回復するためバタリーケージの面積を拡大することや、巣に産卵するという鶏の
本来の欲求を満たすため産卵用の巣を設置すること等を定めた新たな飼養方法が
提案された。今後も引き続き、社会情勢や技術革新等の状況に適応した新たな規
則の導入や規則の見直しが行われていくものとみられる。

 EUの家畜の動物愛護に関する規則は、世界で最も整備されていると思われる。
しかし、このEUの動物愛護施策は、概して経済性と相反する結果を生みだしてい
る。このことは、EUにとって大きな関心事であり、現在、施策導入による国際競
争力の低下、EU域外における動物愛護関連施策の状況およびEUの施策が受け入れ
られる可能性等に関する調査が進めている。食糧流通のグローバル化が進展した
現状において、この施策がEU域内だけでは完結しないことは明らかである。EU委
員会は、EUの動物愛護基準をグローバルスタンダードとして認知させるため、今
後国際交渉の場で提唱することを表明している。

 EUの動物愛護に関する施策は、他の施策の中においてもその方向性が明確に位
置付けられている。このように家畜の動物愛護基準が、ヨーロッパ型農業に着実
に組み込まれる一方、今後いかにして国際的に位置付けられていくか長期的な視
点で注目したい。

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