EUの豚肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○豚肉価格が暴落



98年11月はついに100ECU割れ

 97年12月以降、近年の最安値を更新しているEUの豚枝肉卸売価格(15カ国平均
の市場参考価格、以下「豚肉価格」)の98年11月の価格は、前月を10.8%、前年
同月を42.0%それぞれ下回る89.4ECU(約13,200円: 1ECU=148円)/100kgと、
ついに100ECUを割った(左図参照)。また、これを国別に見ると、繁殖用雌豚の
とう汰などを積極的に行ったイギリスを除き、各国とも軒並み大幅に下落してい
る。EU最大の豚肉生産国であるドイツは前月を13.9%下回る85.8ECU(約12,700円)、
第 2 位の生産国であるスペインは16.8%下回る76.3ECU(約11,300円)、オラン
ダは14.4%下回る68.8ECU(約10,200円)などとなった。

◇図:主要国の豚枝肉卸売価格(市場参考価格)◇


依然として続く主要生産国の肉豚供給増加・ロシア経済危機が原因

 この原因は、EU最大の豚肉生産国であるドイツや第2位の生産国であるスペイ
ンなど主要生産国で繁殖用雌豚頭数が増加しており、依然として域内の肉豚供給
が続いていることにある。この背景には、96年以来の牛海綿状脳症(BSE)問題に
よる代替需要や、豚コレラの発生により97年上半期を中心に堅調であった域内豚
肉価格に養豚農家が生産意欲を刺激された影響がある。

 欧州統計局の推計によると、98年8月現在の繁殖用雌豚の飼養頭数は、ドイツ
が3.2%増(183万 5 千頭)、フランスが2.5%増(101万 9 千頭)、特にスペイ
ンでは豚コレラの発生が依然として続いているにもかかわらず、7.8%増(135万
3千頭)の目立った伸びとなった。また、EU最大の豚肉輸出国であるデンマーク
や、97年に豚コレラの深刻な影響を受けたオランダでも増加している。この結果、
欧州統計局は、EU15カ国の豚肉生産量は99年上半期まで増加が続くと予想してい
る。

 さらに、EU最大の豚肉の輸出先であるロシア(97年の輸出量は製品重量ベース
で前年比31.1%増の約34万 1 千トン)で98年 8 月に通貨急落による経済危機が
発生したことなどが、価格の低迷に一層拍車をかけている。EU委員会は需給回復
対策として、8月3日から豚肉の輸出補助金の約5割引き上げなど、9月28日か
らは民間在庫補助(PSA)を実施したが、10月15日からは輸出補助金をさらに3割
引き上げた。


ロシア向け輸出の動向と追加対策の実施に注目

 EUの豚肉価格暴落は、EU各国および中・東欧諸国の一部にも影響を及ぼし始め
ている。フランスやポルトガルでは、養豚農家が救済対策の実施を求めて抗議行
動を行った。これを受けて、フランスでは、9月から行っている独自の養豚農家
救済対策を拡充する見込みである。また、チェコやハンガリーでは、輸出補助金
による安価なEU産豚肉が輸入された結果、国内の豚肉価格が下落しており、チェ
コはEUに対して、今後、何らかの対策を取るよう申し入れた。

 こうした中で、EU委員会は、11月23日からロシア向け豚肉に限定して輸出補助
金を大幅に引き上げた。これにより、同国向けの枝肉や骨付きばら肉など(生鮮・
冷蔵)に対する輸出補助金は、10月15日以降の40ECU(約5,900円)/100kgから70
ECU(約10,400円)となった。さらに、EUは99年1 月以降、ロシア向けに対する
食糧援助物資として10万トンの豚肉を市場から購入し、同国へ輸出する計画であ
る。また、EU委員会は需給回復の追加対策として、現在、繁殖用雌豚のとう汰措
置や一時的な授精禁止措置などを行うことを協議している。今後しばらくの間、
EUの豚肉生産の増加が予測される中で、今後はロシア向け輸出の動向とともに、
追加対策の実施が注目される。


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