豪州政府、食肉業界の労使改革に意欲


大臣、タリー・システムの撤廃を表明

 リース雇用・労使関係大臣は、先ごろ行われた食肉業界の会合の席で、食肉加
工分野において著しく労働生産性の向上を阻害しているとされるタリー・システ
ム*の撤廃に向けて強い決意を表明するとともに、その実現に向けた関係機関へ
の強い働きかけなど今後の抱負を語った。


処理頭数当たりの賃金制度で生産性の低下を招く

 現政権が撤廃を目指すタリー・システムとは、食肉業界のなかでも、と畜、骨
抜きなどの加工業務に従事する労働者に適用される賃金制度で、連邦および州政
府が定める最低労働条件(アワード)の中に規定されている。タリー・システム
下での賃金は、時間給ではなく、と畜または骨抜きした頭数を基に算出され、一
定頭数(基準処理頭数=ノルマ)以上を処理した場合には大幅な割増賃金を支払
わなければならない。本来的には、頭数単位とすることにより、1日当たりの努
力目標を定めたものと言えるが、機械設備や周辺技術が日々進歩する今日では、
実質的に作業量の最高限度を設定することになり、設備投資や最新技術の導入な
どを図ったとしても、基準処理頭数を引き上げない限り、導入効果を100%発揮す
ることはできないのが現状となっている。

(注)通常、最低タリーと最高タリーが定め られ、最低タリー頭数(基準処理
頭数)の処理を達成した段階で基準賃金が支払われ、それ以上の頭数を処理した
場合、ボーナス(割増賃金)が支払われる。最も広く採用されている連邦アワー
ド(FMIA)を例にとると、ボーナスは最高タリー頭数までは25%、それ以上は37
.5%となっている(94年段階)。なお、最高タリー以上の処理は、事前に労働者
サイドの承認を得る必要がある。


労使の対立鮮明に

 政府のタリー・システム撤廃を目指す方針に対し、と畜加工業者関係団体や全
国農業者連盟は、国際食肉市場での価格競争力の向上につながるとして、政府方
針支持を表明している。

 これに対して、食肉産業従業員組合(AMIEU)は、タリー・システムと生産効率
とは無関係であり、同システムの撤廃は賃金の引下げを招くだけとして全面対決
の姿勢を表明している。


労使改革は現政権の重要課題の一つ

 現行の保守連合政権は、労使関係の改革について96年の政権奪還時から重要課
題の一つに掲げており、今年3月に発生した港湾労働争議の際も、政府は企業側
全面支援に回り組合側との対決姿勢を強めていた。10月3日の総選挙を受け2期
目に入った現政権にとって、港湾や石炭などと並び戦闘的な職業組合として知ら
れるAMIEUの弱体化は、アワード制の簡略化などと並び、第 2 段階に入った労使
関係改革の優先項目とされている。

 また、第 1 次保守連合政権でも労使関係担当相を務め、 3 月の港湾労働争議
では政府側窓口として組合側に強い態度で臨んでいたリース大臣は、ハワード首
相後の次期首相レースにおいて、コステロ蔵相とともに最有力とされており、労
使関係の改革には並々ならぬ決意を秘めているものと思われる。


業界の将来像は労使改革がカギ

 豪州のと畜・加工コストは、他の主要な牛肉輸出国である米国、アルゼンチン、
ニュージーランドといった国々よりも高く、その主因たるタリー・システムは、
食肉の国際競争力を向上する上で大きな障害になっているとの指摘もあるとおり、
現政権による労使改革の成否は食肉産業の将来を左右するものの一つといえ、今
後の動向が注目される。

 現在、と畜・加工業界において、業界横並びの雇用条件であるアワード制では
なく、労使間で個別の企業労使協定を結ぶ例は、タリー・システムをよりどころ
とする組合側の抵抗が根強いこともあり、未だ少数派であるが、今後の同システ
ム撤廃に向けて事態が進展した場合は、急速に普及するものとみられる。


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