海外駐在員レポート 

EUの共通農業政策改革の概要

ブラッセル駐在員事務所 池田一樹、井田俊二




T はじめに

 EUの実質的な最高意志決定機関であるEU首脳会議が、共通農業政策(CAP)の
改革の枠組みに合意した(ベルリンサミット)。これで足かけ3年にわたって続
けられてきた改革議論に一応の終止符が打たれた。

 EU委員会は97年7月、アジェンダ2000と呼ばれる新政策パッケージ案を発表し、
財政や構造政策と並んでCAPの具体的な改革方針を示した。翌98年3月には公式
な改革案を提出した。この改革案をベースに、今年に入って加盟国間の調整作業
が急ピッチに進み、3月12日には農相理事会において、3週間もの長期にわたる異
例の調整を重ねた末、改革の合意に達した。この農相理事会合意の最終決定を委
ねられたベルリンサミットでは、緊縮財政の実現が最優先課題となった。このた
め、農相理事会合意の予算枠を縮小することとし、これに伴って改革内容にも一
部修正を加えて、3月26日に合意に至った。

 現在、EU委員会は、ベルリンサミット合意に基づいてCAP改革法案を起草して
いる。今回のレポートでは、現在(5月6日)までに知り得た法案の内容を基に、
改革の概要を紹介することとしたい。ただし、ベルリンサミット合意の解釈をめ
ぐり、加盟国の意見が分かれており、今回レポートする内容に修正が加わる可能
性もある。


U 牛肉分野の改革

 牛肉分野は、2000年度から2002年度にかけて、牛肉の買い上げ価格の段階的引
き下げなどの市場介入制度の改革、この代償としての直接所得補償制度の拡充な
どを柱とする改革が実施される。


1 市場介入制度について

(1) 介入買い上げ

 EUは、牛肉の介入買い上げ価格(以下「牛肉介入価格」と言う。)を定め、市
場価格がその一定の割合以下となった場合に、牛肉を買い上げ、市場価格を支持
している。介入買い上げには、通常買い上げとセーフティーネット買い上げがあ
る。通常買い上げは、域内および加盟国の市場平均価格が2週間連続して牛肉介
入価格のそれぞれ84%、80%以下となった場合に、当該加盟国で発動されるもの
で、買い上げ数量には上限量が設定されている。一方、セーフティーネット買い
上げは、域内および加盟国の市場平均価格が2週間連続して牛肉介入価格のそれ
ぞれ78%、60%以下となった場合に、当該加盟国で発動される。牛肉価格が暴落
した場合の措置であり、買い上げ数量に上限はない。

 今回の改革で、牛肉介入価格は2000年度、2001年度と段階的に引き下げられる
こととなった(表1)。2002年度以降は通常買い上げが廃止される。したがって
牛肉介入価格も廃止される。一方、セーフティネット買い上げ制度は、2002年度
以降も存続するが、これまで発動の基準となっていた牛肉介入価格が廃止された
ため、新たに発動基準価格が設けられ、1,560ユーロ(20万6千円:1ユーロ=132
円)/トンに設定された。牛肉の市場価格が2週間連続して発動基準価格を下回
った加盟国で発動される。域内価格はもはや発動要件には含まれていない。

(2)民間在庫補助

 2002年度以降は新たに「牛肉基本価格」が設けられ、牛肉の市場価格がこの10
3%を下回った場合に民間在庫補助を実施できることとされた。民間の牛肉在庫
に対して、EUが保管費用を補助するものである。この制度は現在も設置されてい
るが、明確な発動基準は定められておらず、89年を最後に適用されていない。牛
肉基本価格は2,224ユーロ(29万4千円)/トンに設定された。今回の改革をめぐ
っては、牛肉介入価格の引き下げ幅が1つの焦点であったが、ここで言う引き下
げ幅とは現行の介入買い上げのトリガー価格(牛肉介入価格×0.8。2,780ユーロ
(36万7千円)/トン)と牛肉基本価格の差のことであり、▲20%となった。

(3)臨時的な介入買い上げ(”ad hoc intervention buying-in”)

 ベルリンサミットの合意に基づき、EU委員会はセーフティーネット買い上げの
ほかに、必要に応じて臨時的な介入買い上げを実施することとした。発動基準は
数値では示されず、EU委員会の判断に委ねられることとなる。EU委員会の判断に
際して、加盟国の政治レベルで圧力が影響することは否定できない。EU委員会は
当初、EUの市場介入を、セーフティーネット買い上げおよび民間在庫補助に縮小
し、市場原理に委ねる部分を拡大することを提案していたが、この措置の導入に
より、当初案に比べて市場介入の幅が広がることになる。


2 直接所得補償制度の改革

 牛肉介入価格の引き下げの代償として、生産者に直接支払われる各種奨励金の
単価が引き上げられ、また、新たな奨励金制度が設けられた。さらに、新たに、
加盟国が独自の裁量で奨励金制度の一部を運用できることとされた。

 なお、奨励金制度で用いられている牛の区分に関する用語は次の通り定義され
ている。

○ 牛:CNコード0102-10、0102-9050〜9079に分類される家畜牛科の生きてい
    る動物

○ 雄牛:去勢されていない雄の牛

○ 去勢牛:去勢された雄の牛

○ 繁殖雌牛:肉専用種あるいは肉専用種との交雑種の雌の経産牛であって、肉
       用子牛の生産を目的とするもの

○ 未経産牛:8ヵ月齢以上の分娩歴のない雌の牛

表1 牛肉分野の支持価格、奨励金
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 注1:97年7月のEU委員会の非公式提案「アジェンダ2000」での提案。2002年の
         価格のみ提案。

  2:各年の7月1日から適用。

  3:現行制度では介入買い上げ価格の80%。

  4:表中の「EU委提案」は、98年3月のEU委員会の公式提案。

  5:現行の介入買い上げを廃止し、価格急落時のセーフティーネット買い上
         げに移行。
         域内価格が1,560ユーロ/トンを下回った場合に買い上げを発動。

  6:2,224ユーロ/トンは、現行の介入買い上げトリガー価格に比べ▲20%。
         EU委提案の1,950ユーロ/トンは、同▲30%。2002年7月以降、域内牛肉
         価格が2,224ユーロ/トンの103%を下回った場合、民間在庫補助を発動
         できる。

  7:各年の1月1日から適用。

  8:注8以外に、加盟国は独自予算で50ユーロ/頭の追加支払いを行うことが
         できる。この際、条件不利地域の農家への支払いについては、EUが24.15
         ユーロ/頭を上限として共同負担する。現在も同様の措置が採られている。

  9:表中の「追加上限額」は、加盟国が、配分された予算の範囲内で、独自
         に支払うことのできる上限額。
         注8については、繁殖雌牛奨励金への上乗せの形で支払われる。

  10:「α」は、加盟国独自の裁量で支払うことができることを示した。

  11:生涯に1度、9ヵ月齢以上の時点で支払われる。ただし、加盟国は、と畜時
         点での支払いを採用することもできる。この場合、9ヵ月齢以上という規
         定は、枝肉重量185kg以上に置き換えられる。

  12:雄牛特別奨励金への上乗せ支払いのほか、奨励金を得ていない牛への支払
         いも可能。

  13:生涯に2度、9ヵ月齢時および21ヵ月齢時以上の時点で支払われる。単価は
         1回の支払額。

  14:EU委提案にはなかった。

  15:と畜奨励金への上乗せの形で支払われる。

  16:子牛への追加支払いはない。

(1)奨励金単価の引き上げおよび新設(表1)

 現在、EUでは@繁殖雌牛奨励金、A雄牛特別奨励金、B粗放化奨励金、C季節
是正奨励金、D子牛のと畜奨励金およびE子牛の早期出荷奨励金が生産者へ直接
支払われている(「畜産の情報」(海外編)95年5月号、98年8月号参照)。今回
の改革で@〜Cが単価の引き上げられ、Dの適用が加盟国の判断に任されること
となり、Eは廃止された。さらに、新たにF「と畜奨励金」が設置されることと
なった。主な改正点は次の通りである。

@ 繁殖雌牛奨励金

 ア 単価の引き上げ

 イ 国別交付上限頭数の改正(表2)

 ウ 繁殖雌牛および未経産牛の60%が山岳地域で飼養されている加盟国は、イ
  の国別交付上限頭数とは別枠で、同上限頭数の20%以内の未経産牛に繁殖雌
  牛奨励金を交付することができる。対象となる未経産牛は、上記の定義に加
  えて、肉専用種あるいは肉専用種との交雑種であることとされている。

 エ 加盟国は、アの単価に50ユーロ(6,600円)/頭を上限として上乗せを行う
  ことができる(現行は30ユーロ(4,000円)/頭。後述する加盟国の裁量での
  上乗せとは異なる。)。この際、条件不利地域の農家等については、EUがそ
  の一部を負担することとしている(上限24.15ユーロ(3,200円)/頭)。

表 2  繁殖雌牛奨励金の国別交付上限頭数
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A 雄牛特別奨励金

 ア 単価の引き上げ

 イ 国別交付上限頭数の改正(表3)

 ウ 雄牛への支払いに当たり、加盟国は、生涯に1回9ヵ月齢以上の時点で支払
  う方法(現行は10ヵ月齢以上)と、と畜時に支払う方法のいずれかを選択す
  ることができる。ただし、と畜時の支払いの場合、対象牛の枝肉重量は185
  kg以上でなければならない(現行は200kg)。去勢牛へは、生涯に2回、9ヵ
  月齢時および21ヵ月齢以上の時点で支払われる(同、10ヵ月齢、22ヵ月齢)。 

 エ 農家1戸当たりの交付対象頭数は次のように制限される。

 (ア)月齢区分(9ヵ月齢および21ヵ月齢以上)ごとの交付頭数が年間90頭以
   下であること。この上限頭数は従来通りであるが、加盟国は異なる上限頭
   数を設定したり、上限頭数を適用しないこともできることとされた。

 (イ)繁殖雌牛奨励金および雄牛特別奨励金の交付頭数の合計が、年間2家畜
   単位/ha以下であること(従来通り)。


表 3  雄牛奨励金の国別交付上限頭数
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  注1:イギリスは6ヵ月以上の子牛の輸出が再開されるまでの暫定措置とし
     て、このほかに10万頭が追加された。

   2:頭数が、EU委員会提案(98年3月)と異なる場合は、提案の頭数を
     ( )で付記した。

B 粗放化奨励金(表4)

 対象農家の飼養密度条件が変更されるとともに、奨励金単価が底上げされた。
飼養密度の算定に当たっては、新たに対象面積(畜産用地)の50%以上が放牧用
地でなければならないこととされた。放牧用地の定義は加盟国に任された。この
奨励金は、従来通り繁殖雌牛奨励金および雄牛特別奨励金に上乗せして支払われ
る。ただし、今回の改革で、生乳生産量の50%以上を山岳地帯で生産している加
盟国については、飼養密度にかかわらず、山岳地帯の農家の乳牛が交付対象に加
えられた。

表 4  粗放化奨励金
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注1:EU委員会提案(98年3月)は支払方法1と同じ。
 2:現行は、1.4LU/ha以下の場合36ユーロ/頭、1LU/ha以下の場合52ユーロ
   /頭。
 3:雄牛奨励金および繁殖雌牛奨励金への上乗せとして支払われる。

C 季節是正奨励金(表5)

 交付対象国の条件に、雄牛の年間と畜頭数の6割以上が去勢牛でなければなら
ないことが追加された。奨励金の単価は現行通り。従来通り雄牛特別奨励金に上
乗せして支払われる。

D と畜奨励金(新設:前述のF)

 性別や用途を問わず、すべての牛を対象として、と畜時あるいは第3国への輸
出時に交付される。単価は8ヵ月齢以上の牛と8ヵ月齢未満で枝肉重量が160kg以
下の子牛に分けて設定されている。なお、95年のと畜頭数および輸出頭数を基準
として、単価の区分ごとに国別で交付上限頭数を設定することとされている。

(2)運用の一部を加盟国の裁量に委任(新設)

 奨励金は従来、原則としてEU全域で一律の単価で支払われてきた。今回の改革
により、加盟国は独自の裁量で、各種奨励金への上乗せ支払いやその他の形の直
接所得補償支払いを実施することができることとなった。加盟国は、この措置の
ために配分された予算(表6)の範囲内で、以下のメニューの支払いを行うこと
ができる。

 @ と畜奨励金への上乗せ支払い。ただし、子牛へのと畜奨励金は対象としな
  い。

 A 繁殖雌牛奨励金への上乗せ支払い。

 B 乳牛奨励金への上乗せ支払い(農家が保有する生乳生産クオータの重量
  (トン)当たりの支払い)。

 C 雄牛への支払い。国別の支払い上限頭数を、雄牛特別奨励金の国別交付上
  限頭数、雄牛特別奨励金の97年の交付実績頭数あるいは97年、98年および99
  年の雄牛の年間と畜頭数の平均頭数のいずれかとして定める。

 D 未経産牛への支払い(頭数当たりの支払い)。97年、98年および99年の加
  盟国別の年間未経産牛のと畜頭数の平均頭数を国別年間支払い上限頭数とす
  る。

 E 永年放牧地面積当たりの支払い(表7)

 上記A、CおよびDについては、特別な飼養密度条件が付される。永年牧草地
面積当たりの支払いは、この飼養密度の算定対象以外の放牧地を対象としてその
面積当たりで支払われる。95年、96年および97年の加盟国別の永年放牧地の平均
面積が国別交付上限面積となる。牛肉分野と同様に加盟国の裁量に任されて執行
されるものとして、各国に配分される酪農分野の予算からも支払うことができる。

表 5  季節是正奨励金
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 注:雄牛特別奨励金の対象牛で、それぞれの時期にと畜された牛に対して支払
   われる。EU委員会提案(98年3月)通り。	

表 6  牛肉分野の国別追加交付予算額
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V 酪農分野の改革

 酪農分野は、2005年度から2007年度にかけて、乳製品の買い上げ価格の段階的
引き下げなどの市場介入制度の改革、この代償としての直接所得補償制度の新設
などを柱とする改革が実施される。


1 改革期間について

 農相理事会は、酪農分野の改革期間について、介入買い上げ価格の引き下げお
よびその代償措置としての直接所得補償支払いを2003年度から2005年度にかけて
段階的に実施することで合意した。また、クオータ制度は2005年度まで延長し、
2003年に見直しを行うこととした。

 しかしながら、ベルリンサミットでは、農相理事会の合意を早急に実施すると
しながらも、改革の開始時期を2005年度からに繰り延べることとした。改革期間
については触れられていない。ただし、CAP改革全般の予算枠は、2000年度から
2005年度までの期間について合意がなされている。

 この首脳会議の合意の解釈に当たり、特にベルリンサミットで直接触れられて
いないクオータ制度の延長期限や同制度の見直し時期に関する議論が続いている。

 EU委員会が現在考えている改革案では、介入買い上げ価格の引き下げや直接所
得補償制度の導入は、農相理事会合意を単純に2年間繰り延べ、2005年度から200
7年度にかけて行うとしている。焦点となっているクオータ制度は、2007年度ま
で延長することとしている。

 ただし、もう1つの焦点であるクオータ制度の見直しは、農相理事会合意通り、
「現行のクオータ制度を2006年以降に終了させることを目的として」2003年に実
施することとされた。一方でクオータ制度を2007年度まで延長することとし、他
方でそれ以前にクオータ制度を終了させる可能性を残すこととなった。クオータ
制度の存廃をめぐっては加盟国間で意見が対立しており、調整の結果、両論併記
となったものと思われる。現時点でクオータ制度の廃止や廃止時期が決定された
わけではなく、その決定はまず2003年の見直しに委ねられることとなる。


2 介入買い上げ価格の引き下げ

 EUは、乳製品(バターおよび脱脂粉乳)の介入買い上げを通して、乳製品価格
を支持し、結果として生乳価格を支持している。バターについては、市場価格が
介入価格の92%以下になった場合、当該国の介入機関が、入札によりバターの買
い入れを行っている。買い入れ価格は介入価格の90%以上とされている。脱脂粉
乳については、毎年3月1日から8月31日までの期間、加盟国の介入機関が介入価
格による買い入れを行っている。

 今回の改革により、乳製品の介入価格を2005年度から2007年度まで段階的に引
き下げることとされた(表7)。


3 直接所得補償制度

(1)直接所得補償制度の導入

 これまで、酪農分野の共通農業政策には、直接所得補償支払いは取り入れられ
ていなかった。今回の改革では、乳製品の支持価格を引き下げる代償として、生
乳生産クオータ量(トン)に応じて支払われる直接所得補償支払い制度が導入さ
れた(表7)。

(2)運用の一部を加盟国の裁量に委任

 今回の改革により、牛肉分野と同様に、加盟国は独自の裁量で、直接所得補償
支払いへの上乗せなどを実施することができることとなった。加盟国は、この目
的のために配分された酪農分野の予算(表8)の範囲内で、以下のメニューの支
払いを行うことができる。さらに、Uの2の(2)で述べた牛肉分野の予算を使用
することもできることとされている。

 @ 生乳生産クオータ量(トン)当たりで支払われる直接所得補償支払単価へ
  の上乗せ。

 A 永年放牧地面積当たりの支払い
  牛肉分野で述べたものと同じである。

(3)生乳生産クオータの増枠(表9)

 加盟国一律に生乳生産クオータが1.5%増枠されることとなった。2005年度から
2007年度にかけて、毎年度0.5%分のクオータ枠が追加配分される。ただし、ギリ
シア、スペイン、アイルランド、イタリアの増枠は1.5%を上回り、また、増枠分
の追加配分も2000年度および2001年度の2年間で完了する。イギリスについては、
北アイルランド向けに2000年度および2001年度に追加配分される特別枠が設定さ
れた。

表7 酪農分野の支持価格、奨励金
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注1:97年7月のEU委員会の非公式提案「アジェンダ2000」での提案。2002年の
   価格のみ提案。

 2:年度は、7月1日〜6月30日。

 3:表中の「EU委提案」は、98年3月のEU委員会の公式提案。改革期間は、20
   00年度〜2003年度。

 4:年度は、7月1日〜6月30日

 5:Intervention Milk Price Equivalent:バターおよび脱脂粉乳を介入価格で販売
   する場合に、製造経費などを差し引いて算定した推定支払可能乳代(事業
   団試算)。

 6:暦年。EU委提案は、5,800kg/年の泌乳量の牛を1頭とし、1頭当たりで定め
   られていたため、これをクオータトン当たりに換算した。追加配分クオー
   タは対象外。

 7:酪農分野の予算でカバーされる単価。

 8:牛肉分野の予算でカバーされる単価。

 9:酪農分野および牛肉分野の予算であって、加盟国が独自の裁量で執行でき
   るものとして配分されたものでカバーされる。

 10:暦年。

表 8  酪農分野の財源からの追加交付総額
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 *:98年3月のEU委員会の公式提案	    

(参考)配分予算÷クオータ配分量(改革による追加配分は対象外)=乳牛奨励
   金への酪農分野の予算からの追加配分

	上限額(例:イギリス、2005年;28.4百万ユーロ÷14,590千トン=1.95
   ユーロ/トン)


3 その他、分野を問わず適用される制度

(1)環境保護条件(クロスコンプライアンス)

 加盟国は、直接所得補償支払いの支払条件として、それぞれの国の環境保全上
適当と思われる措置を定めることとされた。また、条件に違反した場合の罰則と
して、支払いの削減や停止といった措置を定めなければならないことともされて
いる。従来、雄牛奨励金と繁殖雌牛奨励金の交付条件には、加盟国が任意で環境
関連の条件を付すことができるとされていたが、今回の改革で、これが義務化さ
れた。
 
(2)モデュレーション

 加盟国は、農家が以下の条件に当てはまる場合、年間(暦年)の直接所得補償
支払い総額について、その20%を上回らない範囲で減額することができることと
された。

 @ 農家の労働力(労働単位に換算)が、加盟国の定める下限を下回った場合。
  1労働単位は、加盟国あるいは地域における専業農業従事者の年間平均労働
  時間として定める。

 A 農家で生産した製品の価値と原価の差額が、加盟国が定める上限を超えた
  場合

 B 農家が受け取った直接所得補償支払額の総額が加盟国が定める上限を超え
  た場合

 なお、このモデュレーション措置および前述のクロスコンプライアンス措置の
結果生じた差額は、一定の期間は、農業と環境保護制度、早期離農奨励制度、条
件不利地域制度などに流用できることとされている。

表 9  生乳生産クオータの増加
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注1:出荷クオータ115,577.4千トン、自家消費クオータ1,915.1千トン。	           

 2:2005年度から2007年度まで、毎年増枠分の1/3ずつ増加(各年0.5%のクオ
   ータ増)。クオータ年度は4月〜3月。	           

 3:2000年度64%、2001年度36%の増加。
	ギリシャ:2000年度44.8千トン、2001年度25.2千トン。	           
   アイルランド:96千トン、54千トン。イタリア:384千トン、216千トン。	           
   イギリス(北アイルランド):12.6千トン、7.1千トン。	           

 4:1.5%増枠を受ける国については、2007年度以降の量。特別増枠を受ける国
   については、2001年度以降の量。	           

 5:2001年度から2004年度まで毎年増枠分の1/4ずつ増加。	           

 6:2004年度以降の量。


W おわりに

 今回のCAP改革は、市場政策から所得政策への転換を進めた前回の改革(92年)
を踏襲するものとなった。ただし、改革の内容を見ると、EU委員会によるアジェ
ンダ2000での非公式提案や昨年の公式提案から後退した結果となっている。

 牛肉分野では当初、介入買い上げ価格の引き下げ幅を30%と提案していたが、
最終的には20%に縮小された。これにより、期待される牛肉市場価格の低下幅も
縮小することとなる。また、最終的に介入買い上げ(セーフティーネット買い上
げを含む)を廃止し、市場介入は民間在庫補助のみによって行うことを提案して
いたが、セーフティーネット買い上げは存続し、さらに、そのほか緊急事態が生
じた場合にはEU委員会の権限で買い上げを実施できる余地が残された。当初のEU
委員会の提案から見れば、市場志向型の政策への転換が一歩後退したと言えよう。
また、介入買い上げ価格の引き下げの代償として、奨励金の単価引き上げや新設
が図られたが、これらは見方を変えれば、輸出補助金の拡充といった性格を有し
ているとも考えられる。特に、今回新設されたと畜奨励金は、と畜牛への支払い
もさることながら、第3国向け生体輸出にも適用されることから、輸出補助金と
しての性格が強いと言えるのではなかろうか。このほか、加盟国の実状にあった
農政の実現という目的のため、加盟国は、EUから配分された一定の予算枠内で、
独自の裁量により奨励金への上乗せ支払いなどが実施できるといった新たな仕組
みの導入が図られた。しかしながら、改革の調整作業の最終段階で導入されたと
畜奨励金の財源を賄うため、各国配分予算枠が縮小された。加盟国の裁量の範囲
が狭まったと言えよう。

 酪農分野では、介入買い上げ価格の引き下げ幅は正式提案通りの15%となった
が、改革の開始時期が当初案の2000年度から大幅にずれ込み2005年度からとなっ
た。また、生乳生産クオータ制度は当面2007年度まで維持することとはしている
ものの、他方で、2003年にその存続について見通しを行うこととしている。

 酪農分野の改革については、当初から酪農分野の改革は必要ないとする意見や、
現段階で改革を実施した場合、世界貿易機関(WTO)次期交渉で一層の譲歩を迫
られる可能性があることから、改革自体を今行う必要はないとする意見もあった。
こういった状況からみると、今回の改革時期の繰り延べは、WTO交渉の行方を見
てから、しきり直しができる余地を残したものとも考えられる。さらに、2000年
度から2005年度をとらえれば、実質的な改革が行われない中で、特定国への生乳
生産クオータの増枠だけが実施される。増加枠は140万トンであり、バターに換
算すると約6万トン以上、脱脂粉乳に換算すると約13万トンに相当する。これは、
それぞれ97年のEUの総輸出量の約3分の1、約2分の1に相当し、国際需給が緩んだ
場合にはEUの乳製品市場の重荷になりかねない。

 クオータ制度については2007年度までの延長とそれ以前の廃止の可能性が併記
されるというあいまいな決着となった。同制度の廃止を求めるいわゆるロンドン
クラブ(イギリス、デンマーク、スウェーデン、イタリア)の声が反映された結
果である。今後は、まず2003年に制度の存廃をめぐって議論が交わされることと
なる。議論の場では、WTO次期交渉の行方や今後の牛乳乳製品市場の動向が大き
な影響を持つことになろう。さらに、2007年度以前に制度を廃止することとなれ
ば、クオータ量に応じて配分されることとなった乳牛奨励金の運用など、実行面
でも問題が生ずることとなる。さらに、2005年以降に実施されるクオータ増粋も
無効になるため、加盟国からの強い反発も予想される。これらの問題を先送りせ
ざるを得なっかたことは、酪農市場の改革そのものの困難さに加え、15加盟国の
意見の調整の困難さを物語っている。  

 現在、一連の奨励金制度はWTO協定に基づく国内支持の削減約束の対象とはな
っていない。今回の改革では両分野を通じてこれらの奨励金制度の維持拡充が図
られた。環境関連条件を支払い要件に加えるなどの手直しはあるものの、制度自
体の基本的な仕組みは変わっていない。むしろ、先に述べたように輸出補助金的
性格が色濃くなってきたこともあり、次期WTO交渉では議論の焦点の1つとなる
ことは間違いないであろう。

 今回の改革は、国際競争力の強化、加盟国への分権化、次期WTO交渉で譲れな
い線の確立などが目標とされている。これらの目標に向かって前進したことは間
違いないが、当初の意欲的な提案からは大きく後退したと言わざるを得ない。

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