ホルモン牛肉問題がエスカレート(EU)


6月15日から米国産牛肉の輸入全面禁止の可能性

 EUは、米国産牛肉の輸入を6月15日から全面禁止にする可能性を明らかにした。
同国産牛肉から、成長促進のために使用されるホルモンの残留が発見されたため
である。このほか、EUはホルモンの発がん性などを指摘した新たな調査結果を発
表し、ホルモン牛肉輸入禁止措置の正当性を訴える構えを強めている。

検査の結果、米国産牛肉等の12%にホルモンが残留

 EUの指定検査機関が、EUに輸出された成長ホルモン剤を使用していないはずの
米国産の牛肉および肝臓258サンプルについて残留検査を行ったところ、12%に
3種類の合成ホルモン(トレンボロン、ゼラノール、メレンゲステロール)の残
留が認められた。米国で投与が禁止されている雄牛や子牛の肉からも検出されて
いる。このほか10%のサンプルには、これらのホルモンが残留している可能性が
あるものの、微量なため確定できなかったとしている。なお、天然型のホルモン
については、1サンプルに高濃度の残留が認められている。

 EUでは、天然型か合成型かを問わず、成長促進剤としてのホルモンの使用は禁
止されており、これらを使用した牛肉の輸入も禁止されている。このためEUは4
月28日、米国が十分な改善措置を講じない限りは、6月15日以降同国産牛肉の輸
入を全面禁止することを決定した。ホルモン剤不使用とされる米国産牛肉の対EU
輸出量は毎年7千〜8千トン(金額ベースで約24億円)である。


米国とのホルモン牛肉戦争はさらに激化する兆し

 EUのホルモン牛肉の輸入禁止措置は、世界貿易機関(WTO)により、衛生植物
検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)違反との裁定が下っており、本年5月13
日までに同協定に沿って改善するよう求められている。この期限を目前にした今
回の方針決定により、米国からの反発が高まることは必至である。

 さらに、EU・米国のホルモン牛肉戦争が激化する兆しが見えてきた。EUはもと
もとWTOの裁定について、輸入禁止措置の科学的根拠の欠如を指摘されたと解釈
している。このため、現在禁止措置の科学的な正当性を立証すべく、ホルモンの
安全性などに関する17の調査研究を実施中である。

 5月3日に発表された中間報告は、17βエストラジオール(天然型ホルモン)の
発がん性を示唆する最新の証拠が数多く得られているとしている。ただし、危険
性を定量的に推定するにはデータ不足としている。世界保健機関(WHO)などは、
天然型ホルモンは残留基準を設定せずに使用しても安全であるとしているが、EU
の今回の報告は、こういったいわゆる常識に真っ向から対立するものとなってい
る。プロゲステロン、テストステロン(以上天然型ホルモン)および前述の合成
ホルモンについては、現状の知見では危険性を定量的に推定できないとしている。
ただし、これらについても発がん性のほか、遺伝毒性や免疫毒性などが考えられ
るとしている。さらに、ホルモンはヒトの体内で生産され、また、代謝排せつ能
力も個人差、年齢差があることなどから、摂取許容量を定めることができないと
もしている。

 このほか、米国ではホルモン剤が獣医師の処方も監督もなく使用されているこ
と、使用禁止対象牛への違法使用が見つかっていることなど、ホルモン剤の乱用
を指摘している。EUは、この中間報告で科学的根拠が得られたとして、ホルモン
牛肉の輸入禁止措置を維持するとともに、この場合予想される米国の制裁関税の
発動に対しても根拠がないとして争う構えを見せている。


その後、補償金を支払う姿勢も示す

 しかし一方で、EUのブリタン副委員長(通商政策担当)は、この問題について
補償金を支払う姿勢を示し、5月12日から東京で開催される4極通商会議で米国の
バシェフスキー通商代表部代表に提案することを明らかにした。EUは、13日まで
に科学的正当性を立証できないことから、この措置を取ったとみられる。ブリタ
ン副委員長は、「EUは、依然としてホルモンの安全性などに関する科学的調査を
行っている。しばらくの間は、米国と補償のための交渉を行わなければならない。
今回の措置は、市場を閉ざすというよりはむしろ、貿易を公平な状態に保つもの
である」と述べた。

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