カナダ、用途別乳価分類などに関するWTO裁定を不服として控訴を決定


課徴金を廃止し、95年に輸出乳製品向けの乳価分類を新設

 カナダでは、生乳供給管理制度の下で、国内の乳脂肪の需要に合わせて生乳が
生産されるため、乳製品の輸出は極めて限定的である。乳脂肪分に比べ無脂乳固
形分の国内需要が少ないため、脱脂粉乳などが輸出に仕向けられている。

 乳製品の輸出は、従来、生産者からの課徴金を原資として、国際価格水準で実
施されていた。しかし、ガット・ウルグアイラウンド(UR)合意により、これが
輸出補助金と見なされたため廃止されることとなった。これを受けて、カナダ政
府は、用途別乳価分類の見直しを行い、95年8月から新たにスペシャルクラス
(クラス5)を設定した。なお、クラス5は、その用途に合わせて(a)〜(e)の
5段階に細分されるが、主に輸出乳製品向けの生乳価格として設定されており、
乳製品の国際価格水準に見合うよう引き下げられている。

カナダの各州共通の用途別乳価分類
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 注1:乳価は、アルバータ州における97年の乳脂肪分3.6%の基準乳価である。
  2:1カナダドル=82円


WTOパネル、カナダの輸出乳製品向け乳価は輸出補助金に当たると裁定

 米国の酪農・乳業団体である全国生乳生産者連盟(NMPF)、米国乳製品輸出協
議会(USDEC)および国際乳製品協会(IDFA)は、輸出向けのクラス5の設定は、
国内消費向けの価格との二重価格制度となっており、低価格で定められるクラス
5は輸出補助金のう回措置であり、世界貿易機関(WTO)協定に基づく約束に違反
しているなどとして、97年9月、米通商代表部(USTR)に対し、WTOに提訴する
よう陳情書を提出した。この結果、米国・カナダの2国間協議が行われた後、WTO
紛争処理小委員会(パネル)が設置されることとなった。なお、その後、ニュー
ジーランドも米国に同調して提訴に加わった。

 WTOパネルでは、上記の問題に加えて、カナダが飲用牛乳向けに設定した年間
64,500トンの関税割当枠の運用についても議論された。カナダは米国からの入国
に際して飲用牛乳の持ち込みを許可する一方で、飲用牛乳の輸入を認めていない。
この点について、カナダは、米国からの旅行者や米国から戻ってくるカナダ市民
が、その割当量を満たすのに十分な飲用牛乳を購入してカナダ国内に持ち込んで
いると主張していた。

 WTOパネルは本年3月17日、輸出のみを目的として生産される乳製品向け生乳価
格を低く設定する乳価分類は、輸出補助金に当たるとの見解を示すとともに、飲
用牛乳向けの関税割当枠の執行改善を求めるとの裁定を下した。なお、最終報告
書は夏以降に発表されるものと見込まれている。


米国はWTO裁定を歓迎、今後の市場アクセス拡大を期待 カナダは控訴を決定

 これに対して、カナダ政府は同日、今回の裁定が輸出に対して言及されたのみ
で、カナダの生乳供給管理制度自体については何ら影響がないとの見解を示した。
これは、WTOパネルが、クラス5のうち、輸出だけに仕向けられる(d)および
(e)クラスのみに言及しただけで、国内または輸出に仕向けられる(a)〜(c)
については問題にならなかったことから、二重価格制度への言及がなかったこと
が背景となっている。その後、カナダ政府は3月25日、WTOパネルの裁定を不服
として、上級委員会に控訴する意向を明らかにした。

 一方、米国は、今回のWTO裁定を歓迎するとともに、今後、カナダの飲用牛乳
の関税割当履行により年間4千5百万ドル(54億円:1ドル=121円で換算)程度の
市場アクセスの拡大につながるものと期待している。

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