再開し始めた養豚産業(マレーシア)


州を越えた豚の移動が一部可能に

 マレーシアでは、豚を媒介とする伝染病のまん延を防止するため、昨年11月か
ら各州間での生体豚の移動を禁止していた。しかし、7月からこの措置が一部解
除され、州外のと畜場へ出荷ができることとなった。

 同国では、昨年10月頃から、豚を介した日本脳炎やニパ・ウイルスによる脳炎
が流行し、100人以上の死者が出る事態となっていた。このため政府は、感染豚
の処分を実施し、1千戸以上の養豚農家で約150万頭の豚が処分された。これによ
り、主要な豚の産地であったヌグリスンビラン州では、州内の農家のうち700戸
のすべての豚、合わせて64万頭を処分したことから、現在繁殖農家1戸のみが残
っている状況となっている。

 一方、同国獣医局では豚の血液検査を実施し、汚染農場の早期発見と流行状況
の確認を行ってきた。先ごろ、セランゴール州とペナン州で、3週間の間隔で2
回の血液検査を実施したところ、陽性の豚が出なかったことから、獣医局では移
動証明書の発行を再開すると発表している。これに伴い、上記2州839戸の農家で
は、と畜と移動の証明書により州外への豚の出荷が可能となり、消費地であるク
アラルンプールへも出荷できることとなった。しかし、ケランタン州の9戸の農
家では、血液検査でまだ陰性が確認されておらず、今回の措置からは除外されて
いる。


小売店、負担軽減に向けと畜場再開を要望

 豚肉小売店の協会では、今回の移動禁止の一部解除を受け、現在病気のまん延
防止を理由に閉鎖していると畜場の操業再開を政府に要望している。この背景に
は、食肉の販売が主にウェットマーケット(東南アジアや中国などで一般市民が
食料品など生活必需品を購入する伝統的な自由市場。食肉は通常、室温で取り引
きされ、と畜直後の生鮮品が販売される。)で行われてきたマレーシアで、昨年
から多くの豚肉小売店が、輸入品の冷凍豚肉を扱わざるを得ない状況になってい
ることがある。このため、小売店は、通常は小売店側の負担とはならない輸送や
保管時の冷凍費用を払わされており、その負担がかなり大きいものとなっている。
同協会では、今後ウィルスのまん延の心配はなく、また、10月から始まるフェス
ティバルシーズンに向け、豚肉の供給不足が予想されるとして、早期の再開を期
待している。


豚肉の需要回復にはなお時間

 しかし、ウェットマーケットにおける豚肉の小売価格は、100ケティ(約60.5kg)
当たり140リンギ(約4,200円:1リンギ=約30円)と生産コストの200リンギ(約
6,000円)を大きく下回っている上、需要は依然として低水準にあるとみられてい
る。また、主要な輸出市場であったシンガポールにおいても、3月からの輸入禁
止措置が継続されており、マレーシアの養豚農家が、シンガポールが輸入豚に求
める衛生水準に達していないことから、輸出解禁にはかなりの時間がかかるとみ
られている。このため、今回生体豚の移動の一部解禁措置が実施されたものの、
豚肉の需要回復にはまだ時間がかかるとの見方が強いようである。

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