次期WTO交渉の課題を公表(米国、カナダ)


両国とも国内でのコンセンサスに基づき公表

 米国およびカナダは7月29日および8月19日、次期世界貿易機関(WTO)交渉に
おいて取り組むべき課題を相次いで公表した。

 エッサーマン米通商代表部(USTR)次席代表は、声明文の中で、「米国は、こ
の数ヵ月間、国内において集中的な議論を行うとともに、議会、州および地方政
府、産業界、農業生産者団体、非政府組織からコメントを求め、次期WTO交渉に
おいて取り組むべき課題などに関するコンセンサス作りに励んできた。優先課題
は、市場アクセスの拡大、既存の約束の履行、加盟国の拡大である。次期交渉に
おいては、農業、サービスおよび非農産品の市場アクセスを主要議題とし、交渉
はスケジュール通りに進めるべきである」などと語った。

 その他の関心事項として同次席代表は、@貿易と労働基準の関係、A持続的発
展のための貿易と環境に関する委員会の活用、B労働、環境、農業生産者などの
関係市民団体の参画などの問題を挙げている。

 一方、カナダのバンクリフ農業・農産食料相は、ペティグルー国際貿易相との
共同声明の中で、カナダの農業分野における交渉の課題は、業界関係者および州
政府との過去2年間にわたる議論の末に決定されたものであるとコメントした。

 両国の農業分野における提案の概要は、以下の通りとなっている。


米国の提案は輸出競争など4分野

 米国の農業分野における提案は、輸出競争、市場アクセス、国内支持およびバ
イオテクノロジーを利用した農産品の貿易に影響を与える対策の4部で構成され
ている。

1 輸出競争

 輸出競争での目標は、@残存する輸出補助金の完全撤廃および将来における利
用の禁止、およびA輸出補助金規定を回避できる他の手段に関する規定の明確化
および輸出競争をわい曲する他の対策に対する新たな規定の構築である。具体的
には、輸出国家貿易企業に係る運営の透明性の改善、食料安全保障などの関心事
項に対処するための輸出補助金の使用禁止である。

2 市場アクセス

 市場アクセスでの目標は、市場アクセス機会の最大限の改善および全WTO加盟
国に対する関税譲許構造の統一化である。具体的には、@農業に関する関税のゼ
ロ・ゼロ提案(関税相互撤廃)を含め、関税率の削減およびその譲許(譲許表に
記載された関税率を超えて関税を一方的に引き上げないという約束)、A関税割
当品目に対する市場アクセスの拡大、B実行税率および譲許税率の格差の削減、
C複雑な関税制度の単純化、D関税制度運営の信頼性および透明性の拡大、E関
税割当制度を管理する機関および輸入国家貿易企業の透明性・競争に関する規律、
F後発発展途上加盟国に対する他のWTO加盟国によるさまざまな手段を通じた市
場アクセスの拡大である。

3 国内支持

 国内支持での目標は、貿易わい曲的支持の削減を図るとともに、貿易わい曲効
果の少ない「緑」の政策(ガット・ウルグアイラウンド(UR)合意において、削
減の対象とならないとされる国内支持)を保持しつつ、生産に関連したすべての
支持が規律に従うようルールを強化することである。

4 バイオテクノロジー

 バイオテクノロジーを利用した農産品の貿易での目標は、不必要で恣意的な貿
易障壁を築くことなく、意志決定過程が、透明で予想可能かつタイムリーな手続
きに基づくことである。


二重の基準を有するカナダの交渉ポジション

 カナダの農業分野における優先課題は、保護の削減を通じて国際的な競争条件
を対等化し、国内の農業および農産食品製造業者が、諸外国の市場において新し
い輸出機会を創出できるように努めることとする一方、市場の安定と利益を守る
ため、供給管理政策やカナダ小麦ボードのような秩序あるマーケティング・シス
テムの維持を目指すという相反する基準を有している。また、付加価値商品の輸
出機会の拡大も優先課題として挙げられている。

 交渉項目ごとに示された具体的な課題は、以下の通りである。
1 輸出補助金

 輸出補助金については、@可能な限り早く、農業に関するすべての輸出補助金
を撤廃すること、A政府助成に基づく輸出信用および輸出信用保証事業、輸出市
場販売促進および開拓事業、ある種の食料援助、あるいは他の形式による輸出支
援が、輸出補助金の代替措置とならないようにするためのルールを作ることであ
る。

2 国内支持

 国内支持については、@いわゆる「生産制限」または「青」の政策(UR合意に
おいて、削減対象の国内支持政策が削減を免除されたもの)を含む、生産および
貿易わい曲的支持の可能な限りの削減、A緑、青および黄色(削減の対象となる
国内支持)のすべてのタイプの政策について、国内支持の総量に対する全体的な
制限、B「緑」の政策が生産および貿易をわい曲しないことを確保するための
「緑」の政策の定義の再検討、C紛争処理に関するカナダの権利を制限する「平
和条項」(現行のWTOの農業に関する協定第13条の通称。削減対象外および削減
を免除された国内支持などについて、2003年1月1日までは相殺関税の賦課の対象
から除外すると規定)の撤廃である。

3 市場アクセス

 市場アクセスについては、@ゼロ・ゼロ提案:油糧種子・油糧種子製品、大麦
・モルトおよびその他可能な製品分野について、関税の相互撤廃(輸出補助金お
よび輸出税を含む。)、A通常関税:同種の競合産品に対する最終譲許税率の格
差および1次産品とその加工品間のタリフ・エスカレーション(1次産品に比べ加
工品の関税を高く設定すること。)の実質的な削減、B関税割当:消費量の最低
5%というミニマム・アクセスの義務化(バインディング)および産品ごとの適
用、国別割当の撤廃を含む関税割当の運営ルールの義務化、関税割当内の関税の
撤廃を求めるルールの義務化である。

4 輸出規制および輸出税

 輸出規制および輸出税については、食料純輸入国による食料安全保障の懸念に
配慮し、輸出税および輸出制限規定のルール化、および国家安全保障に係る輸出
禁止品目に食料および飼料を含めることを禁止することである。

5 その他

 このほか、衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)については現状
維持、また、バイオテクノロジーについてはWTO内に作業委員会を設置すること
などを提案している。

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