豪州連邦政府、酪農改革法案を国会に上程


補償総額は豪州史上最大

 豪州では、規制緩和の流れを受け、今年6月末をもって加工原料乳の価格補て
ん制度と、飲用向け生乳の価格支持制度を撤廃する準備が進められているが、連
邦政府は2月16日、両制度の撤廃に伴う酪農生産者の収入低下を補うべく、すべ

ての酪農生産者に補償金を支払うという酪農改革法案を国会に上程した。
 上程された法案の中身は、両制度の撤廃を条件に、今後8年間、加工乳を含む
飲用乳すべてに対し、11豪セント(約7.7円:1豪ドル=70円)/リットルの課徴
金を卸売段階で賦課し、これを財源に、すべての酪農生産者に対して、98/99年
度の生産実績に基づき、加工原料乳生産者については8.96豪セント(約6.3円)/
リットル、飲用向け生乳生産者については46.23豪セント(約32.4円)/リットル
の補償金を一律に支払うというもので、既に公表された改革案に沿ったものとな
っている。

 なお、この改革に要する補償総額は、別途用意された酪農廃業者への廃業補償
を含めると17億4千万豪ドル(約1,218億円)に達し、単独の産業分野に対する支
援政策としては豪州史上最大規模とされている。


法案の成立には2つの関門

 しかし、当該法案の成立、施行に向けては、まだ少なくとも2つの関門が残さ
れている。

 第1は、議会における野党の合意取り付けである。最大野党の労働党は、政府
補償案に一定の理解を示しているものの、特に上院でキャスティング・ボートを
握る民主党は、飲用乳課徴金を消費者のみに負担させるのは不公平だとし、連邦
政府の財源支出による補償上乗せを求めて与党に揺さ振りをかけている。

 第2は、補償案実施の前提とされている各州での飲用乳制度の撤廃である。飲
用乳制度は州政府の管轄であるため、各州の議会で撤廃を決議しなければならな
い。現時点ではクインズランド州のみが具体的な撤廃法案を上程しているにすぎ
ない。

 しかしながら、3月3日に行われた連邦政府と各州農相との会議において、原則
として両制度の撤廃が合意されたため、近日中には、各州での法案上程が見込ま
れている。

 今後の争点は、連邦政府に対する補償総額の上乗せに絞られると予想されてい
る。酪農家からの強い突き上げを背景に、各酪農団体は州政府に対し制度撤廃の
見返りとして追加補償を要求しており、州政府は連邦政府に対し、地域対策など
による別途の補償を要求せざるを得ない状況にある。


生産者の関心は乳価と飲用乳業界の再編

 連邦政府は、両制度の撤廃後、酪農家に対する補償金受給資格の審査や、実際
の補償金支払いを管理監督するため、酪農調整機関(DAA)を法律に基づいて設
立するとしており、この立ち上げ作業を改革法案審議と並行して行っている。

 現在のところ、改革実施に経過措置を設けることは検討されておらず、今年7
月からの完全自由化が唯一の案とされているため、生産者の関心は7月以降の乳
価動向とこれに向けた飲用乳業界の再編に集中している。

 こうした中、豪州の3大飲用乳メーカーの1つであるナショナルフーズ社は、昨
日、新たに4万トンの飲用向け生乳を加工原料乳地帯のビクトリア州から調達す
る計画を公表した。

 豪州の酪農改革は、まだ幾多の不確定要素があるものの、その実現に向けて着
々と進行しつつある。

元のページに戻る