海外駐在員レポート 

ブラジル鶏肉産業の概要

ブエノスアイレス駐在員事務所 玉井 明雄、浅木 仁志




1 はじめに

 ブラジルの鶏肉産業は、ここ10年間で大きく飛躍し、99年の生産量は91年に比
べ約2倍の552万6千トン(骨付きベース。以下同じ)と過去最高を記録している。
国内消費量は、生産量の約86%を占め、年間1人当たりの消費量は約29kgとなっ
た。特に94年のレアルプラン(米ドルと新通貨レアルの等価維持を狙いとしたイ
ンフレ抑制政策)導入後の経済の安定に伴い、鶏肉需要は大幅に増加した。輸出
量は、99年には通貨レアル切り下げにより、前年の輸出量を大きく上回り、約77
万トンとなった。なお、日本はサウジアラビアに次ぐ2番目の輸出市場である。

 また、ブラジルの鶏肉生産は、同国の穀倉地帯で、垂直的統合(インテグレー
ション)が進む南部や大消費地を抱えるサンパウロ州が中心であるが、近年、生
産コストの低減や潜在的な消費地を求め、中西部への拡大傾向が見られる。

 今回のレポートでは、処理加工業者の事例紹介なども交えて同国の鶏肉産業の
概観を紹介したい。


2 飼養動向

(1)飼養戸数と飼養羽数

 同国のデータ整備上の問題もあり、この項では、95/96年農業センサスにおけ
る家きんの統計を引用する。

 同センサスによると、家きんを主体に飼養する農場数は、全国で約16万2千戸
であった。また、これらの農場面積は、約506万3千ヘクタールであり、全農場面
積(3億5,361万ヘクタール)の1.4%に相当する。所有形態としては、自己所有地
が92%を占め、借地、歩合、占有(地権を持たないが実質的な土地所有)が残り
8%を占める。

◇図1 ブラジルの地域区分図◇
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 また、鶏の飼養戸数(庭先飼養も含む)は、全国で約316万4千戸である。これ
を地域別に見ると、北東部が47%と最も多く、南部および南東部がそれぞれ23%、
15%とこれに続く。北部や中西部の鶏飼養はごくわずかである。

表1 鶏飼養戸数および飼養羽数
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 資料:IBGE(ブラジル地理統計院)
 注1:採卵鶏を含む。
  2:四捨五入の関係で、必ずしも合計とは一致しない。

 飼養羽数のシェアを見ると、戸数の多い北東部は、14%にしかすぎず、自家消
費用や地元の市場に出荷する小規模な飼養形態が主であることが示されている。
一方、南東部、南部のシェアを見ると、南東部が37%、南部が39%で、商業的な
生産が集中していることがうかがえる。

表2 鶏飼養規模別飼養戸数および飼養羽数
re-ust02.gif (5685 バイト)
 資料:IBGE(ブラジル地理統計院)
 注1:採卵鶏を含む。
  2:四捨五入の関係で、必ずしも合計とは一致しない。


(2)飼養規模

 全国の鶏の飼養羽数を規模別に見ると、50羽未満の戸数が全飼養戸数の69%を
占め最も多いが、1万羽以上の飼養層が全飼養羽数の71%を占めている。

○種鶏をめぐる動向

 ブラジルにおける種鶏とそれをめぐる企業の動向について、主に養鶏団体など
から取材した内容を紹介する。

(1)種鶏について

@原原種鶏

 欧米の育種企業が遺伝子を保存しているため一般には門外不出である。ブラジ
ルでは、EMBRAPA(ブラジル農牧研究公社)が食糧安全保障、研究用の観点など
から原原種鶏を保有しているといわれる。

A原種鶏

 原種鶏は、そのほとんどが米国を主に欧州などから輸入される。品種はARBOR 
ACRES、ROSS 、COBB、HUBBARDなどである。原種鶏を輸入する会社のうち、
AGROCERES社は、スコットランドのROSS社と提携しROSS(スコットランド系品
種のもの)を輸入している。同社による輸入は、原種鶏の輸入の約4割を占める
といわれている。こうした業者は原種鶏、種鶏を国内企業(インテグレーターな
ど)に販売したり輸出を行ったりしている。そのほかSADIA社、PERDIGAO社など
も原種鶏を輸入しているがこれは主に自社生産用である。SADIA社は米国の
ARBOR ACRES社やPILCHES社と提携し原種鶏同士の交配により販売用の種鶏の飼
育も行っている。なお、企業別や種別の輸入内訳などは公表されていない。

B種鶏

 70年代は種鶏を輸入していたが、種鶏の衛生管理体制が整っていない理由など
から現在輸入は法律で禁止されている。

 種鶏同士の交配による種卵をふ化し、得られた初生ひながコマーシャル(実用)
鶏になる。一般に種鶏の産卵ピークは26〜30週で、64〜68週まで供与しその後廃
用にする。
 
Cコマーシャル鶏

 ふ化は21日目、出荷はおおむね40〜46日齢でその時の生体重量は2.3〜2.5kgで
ある。

(2)種鶏をめぐる企業戦略

 それぞれの種鶏の持つ優れた特性をいかに利用するか、すなわちどの種鶏の系
統とどの種鶏の系統を交配させ、いかに特徴のあるコマーシャル鶏を生産するか
が企業戦略になる。例えばARBOR ACRES社の系統は骨が少なく筋肉が多いうえ、
脂肪が少ないのでパーツ生産に適している。一方、PILCHES社の系統は大型で丸
どり生産に適している。SADIA社は、AGROCERES社からも種鶏を購入し、消費市
場に柔軟に対応する戦略を取っている。PERDIGAO社は同様な目的で米国の
COBB社と提携を進めている。

 ブラジル市場で活動しているAGROCERES社とGLOBOAVES社の戦略は特筆に値
する。AGROCERES ROSS社はAGROCERES社とスコットランドのROSS 
BREEDERS社の合弁会社でROSS308として世界的に知られるAGROSS系の
原種鶏と種鶏を生産している。この系統はブラジルの気候条件、飼料の品質、市
場や衛生環境に合わせて開発されたもので、強健で飼料効率、歩留まりがよく、
高品質の肉生産に適している。ブラジル国内でと鳥される3羽に1羽はAGROSS
系と推定されている。2000年初めにAGROSS508系が市場に出て特殊パーツと加工
向けに仕向けられている。

 GLOBOAVES社は高品質の鶏肉生産に向けた種鶏開発のため、米国のCOBB社と
提携している。


3 生産動向と生産構造の変化

(1)鶏肉生産量

 90年代におけるブラジルの鶏肉産業は、@技術導入による生産性の向上、A低
い生産コスト、B輸出や国内需要の増加などにより急速に成長し、この10年間で
鶏肉の生産量は倍増した。また、99年1月の通貨レアルの切り下げにより輸出競
争力が強まったことから生産意欲が高まり、99年のひなふ化羽数は、前年比10.3
%増の31億5千4百万羽、鶏肉生産量は、13.8%増の552万6千トン(骨付きベース)
と過去最高を記録した。

表3 鶏肉需給の推移
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 資料:APINCO(ブラジルブロイラー用ひな生産者協会)、
    SECEX(外国貿易局)、APA(パウリスタ養鶏協会)ほか
 注1:数量は骨付きベース(ひなふ化羽数を除く)、輸出額はFOBベース
  2:生産者価格、卸売価格はサンパウロ州
 参考:1ドル=107円


(2)インテグレーションについて

 ブラジルにおいてもブロイラー生産・流通は、鶏肉処理加工業者や食品加工会
社などが生産資材の提供から生産物の流通までを自己の支配下に組み入れるイン
テグレーションによるものが主流である。

 ブラジルのインテグレーションは、系列企業が生産農家にコマーシャル鶏のひ
な、飼料、各種技術などを提供し、養鶏農家から生産物を引き取る契約型統合が
一般的であると考えられるが、各種の小企業が直営の生産農場を所有し、生産と
販売を行う所有型(自営型)統合も見られる。

 インテグレーションの進展は、インテグレーターである大手企業のと鳥羽数ラ
ンキング(99年)を見ても明らかである。上位2社のシェアは、全体の約2割、上
位10社のシェアは48%に達しており、インテグレーションによる生産形態の拡大
は、同時に、鶏肉産業の寡占化の方向を示している。

◇図2 ブラジルの鶏肉生産の流れ
(一般のインテグレーションを例として)◇
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 注:数字は99年のブラジル国の平均値

表4 と鳥羽数の企業ランキング
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 資料:UBA(ブラジル養鶏連盟)、ABEF(ブラジル鶏肉輸出業者協会)
 注1:企業名は、いずれも略称である。
  2:四捨五入の関係で必ずしも合計とは一致しない。


(3)鶏肉主要生産地

 ブラジルの鶏肉生産量のうち、約半分が南部(パラナ州、サンタカタリナ州、
リオグランデドスル州)で生産される。トウモロコシや大豆の主要生産地である
南部は、インテグレーションによる生産形態が進展し、輸出志向の強い大手処理
加工施設が集中する。

 一方、サンパウロ州を中心とする南東部は、サンパウロ市(人口約1千万人)
やリオデジャネイロ市(人口約560万人)などの大消費地を抱え、伝統的に独立
した形態のもとで生産が行われてきた。また、国内向け主体の中小処理加工施設
が多いとされる地域であるが、近年は、南部の企業の進出などにより、インテグ
レーションによる生産形態が増加している。

表5 地域別鶏肉生産量の推移
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 資料:APINCO(ブラジルブロイラー用ひな生産者協会)
 注1:数量は骨付きベース
  2:四捨五入の関係で必ずしも合計とは一致しない。


(4)鶏肉産業の生産構造の変遷

・60年代までは南東部が中心的な養鶏地域

 20世紀初頭、ブラジルの養鶏は地鶏生産が主体で体系的な技術は用いられず、
ほとんどが奥地に点在する農家の副業としての庭先飼いで、自家生産の余剰分が
仲買人に集められ市場に出された程度だった。その後、第2次大戦中から戦後に
かけて牛肉が不足すると、リオデジャネイロやサンパウロなどにおいて鶏の処理
場が出現したことなどが示すように、大戦後に米国からビジネスとして鶏肉産業
が持ちこまれるようになり、60年代まで南東部が最も重要な養鶏地域であった。

・南部でインテグレーションの萌芽

 一方、南部では、40年代、サンタカタリナ州において、SADIA社が豚肉処理加
工と小麦の製粉、PERDIGAO社が豚肉処理加工を営んでいたが、これら食品企業
などが事業の多角化として、養鶏部門に進出し始めた。60年代初頭、SADIA社が、
国内市場への販売強化、輸出市場への進出などを図るべく、米国に技術者を派遣
し、インテグレーションによる生産形態を初めて養鶏部門に導入したとされる。

・70年代に生産構造が分化

 70年代に入ると、南東部と南部における生産形態に明確な差異が見られるよう
になる。南東部の企業が、鶏肉産業に関連する各分野、つまり飼料生産、種鶏生
産、コマーシャル鶏生産、処理加工、販売などそれぞれの分野を単独で行ったの
に対し、南部の企業は、多数の小規模な生産者を取り込み、インテグレーション
化を推進する。後者は、南東部や中西部など、他の地域にも進出し、やがて、イ
ンテグレーションによる生産形態は、ブラジルの主流となる。 

・90年代には中西部へ生産地が拡大

 99年の鶏肉生産量の地域別シェアを見ると、94年と比較し、南部が51%から
54%と増加したのに対し、南東部は34%から29%に低下している。州別に見ると、
首位の座を保っていたサンパウロ州は、99年にはサンタカタリナ州、パラナ州に
その座を奪われている。南東部における低迷の原因は、消費市場がある程度飽和
状態となったこと、他州と比べ土地代や輸送コストが高いことなどが挙げられる。

 また、99年の中西部の鶏肉生産量が、94年に比べ、約3.6倍に増加しているこ
とが示すように、鶏肉生産地の中西部への拡大傾向が見られる。要因としては、
@穀物生産地であり、飼料の調達が容易であること、A土地代、労賃、飼料コス
トなどが南部より安いこと、B潜在的な消費地であること、C州政府による産業
誘致のための優遇税制や企業のプロジェクトへの金融支援などが挙げられる。   

 ブラジルの穀物生産の推移を見ると、99年のトウモロコシ生産量は、93年に対
し、南部や南東部が減少したのに対し、中西部は52%増となっている(表6)。
また、99年の大豆生産量は、93年に対し、パラナ州が64%増となったものの、南
部全体では、12%の増加にとどまる一方、中西部は57%増となり、全国シェアで
は大豆生産量の43%を占めている(表7)。

表6 地域別トウモロコシ生産量の推移
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 資料:CONAB(国家食糧供給公社)
  注:四捨五入の関係で必ずしも合計とは一致しない。

表7 地域別大豆生産量の推移
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 資料:CONAB(国家食糧供給公社)
  注:四捨五入の関係で必ずしも合計とは一致しない。


4 需要動向

(1)消費

 国内消費量(骨付きベース)は、生産量の約86%(99年)を占める。鶏肉消費
は、牛肉や豚肉と比較して割安感があること、簡便な調理材料であること、健康
志向の高まりなどから増加しており、99年の1人当たりの鶏肉消費量は、91年に
比べ84%増の約29kgに達している。特に、94年のインフレ抑制政策であるレアル
プラン導入後の経済の安定に伴い、鶏肉需要は大幅に増加した。

 国内の消費形態は地域によってさまざまに異なるが、UBA(ブラジル養鶏連盟)
によると、丸どり55%、パーツ40%、加工品など(ソーセージ、ハンバーグなど)
5%とのことである。低価格であることなどから、丸どり需要が最も多い。

表8 食肉・鶏卵消費量の推移
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 資料:UBA(ブラジル養鶏連盟)ほか
  注:牛肉、豚肉は枝肉ベース、鶏肉は骨付きベース

表9 輸出相手国別形態別鶏肉輸出量・輸出額の推移
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 資料:SECEX(外国貿易局)
 注1:輸出量は骨付きベースで、輸出額はFOBベース
  2:四捨五入の関係で必ずしも合計とは一致しない。
 参考:1ドル=107円

表10 鶏肉輸出量の企業ランキング(99年)
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 資料:ABEF(ブラジル鶏肉輸出業者協会)ほか
 注1:数量は骨付きベース
  2:企業名は、いずれも略称である。


(2)輸出

 鶏肉輸出は、97年のアジア経済危機の影響で、98年に輸出量が減少したが、99
年1月の通貨レアル切り下げによる競争力の高まりなどから、99年は前年比25.8%
増の77万582トン(骨付きベース)となり、輸出量では過去最高となった。しか
し、1トン当たりの輸出平均価格は、前年比で5.8%低下している。

 輸出先としては、伝統的に中東向けが多い。輸出形態別のシェアで見ると、丸
どり輸出では、サウジアラビア(49%)が最大の市場で、次いでアルゼンチン
(11%)、クウェート(8.2%)である。一方、パーツ輸出では、日本(28%)と
香港(27%)が2大市場で、ドイツ(5.4%)、スペイン(5.3%)が次ぐ。

 99年の日本の鶏肉輸入量(調製品を除く)約55万トン(99年)のうち約19%が
ブラジル産で、中国、タイに次いで多い。

 輸出先別の主な輸出形態は、中近東向けは小型の丸どり(生体重量約1.5〜1.8
kg)、アルゼンチン向けは大型の丸どり(同約2.3〜2.6kg)、EU向けはむね肉、
日本向けはもも肉や手羽などとなっている。


5 事例紹介:大里食品株式会社(Osato・Alimentos)

 大里食品(株)は、上位10社がと鳥羽数の約48%(99年)を占める状態にあっ
て、中位程度の規模で業界を代表する日系人経営の企業である(99年は、と鳥ラ
ンキング32位、鶏肉輸出ランキング14位)。約130万人といわれるブラジル日系
人社会で鶏卵産業に携わる方々が多い中、鶏肉産業界で活躍する数少ない日系人
経営者の取り組みを紹介したい。

@会社設立の経緯

 1956年、家族でコーヒー農園の契約移民としてサンパウロ州カフェランジェに
入植。対応していただいた大里卓夫氏ご本人は4人の男兄弟の2番目で21歳の時に
入植。コーヒー農園で2年間働いた。1958年の大規模な霜害で農園がほぼ全滅し
たのを契機に家族で何をするか思案して、小さな養鶏を始めた。当初はブラジル
に移住した日系人によく見られるように採卵鶏経営を始めたが、現地の養鶏の組
合組織からブロイラー生産の技術を教えて欲しいという申し出があり、自ら学び、
かつ、教えているうちにブロイラーを業とするようになった。

 1963年に会社を設立、89年に日本の大手企業と提携し、資本比率は同シェアで
あったが、現在、持ち株比率は大里ファミリーが70%となり、「大里食品株式会
社(Osato・Alimentos)」として操業している。
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【快く取材に応じてくれた大里卓夫氏。
処理工場にて】
A会社の現況

 会社組織図は図3の通り。現在の従業員は約700名。生産量は丸どり、パーツ合
わせて月産2,600トン、年間の処理羽数は1,500万羽に上る。生産量の8割は国内向
けで残り2割が輸出向け、輸出量は日本と香港向けが多い。将来は、輸出を3割に
する計画である。

 現在の社長は大里卓夫氏の弟さんとのことであるが、兄弟4人でポストをロー
テーションしているとのことである。

 大手のインテグレーターなどは原種鶏を輸入した後、経営内部で種鶏を生産し、
そこからコマーシャル(実用)鶏を得るのが一般的だが、同社は原種鶏から種鶏
を生産している業者から種鶏を購入し、種鶏から得た種卵をふ化させ、初生ひな
の形で契約生産農家にコマーシャル鶏を提供している。

◇図3 Osato・Alimentos会社組織図◇
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B各部門の概要

・飼料生産

 会社の組織図からも明らかなように生産の主力はサンパウロ市から約60km離れ
たアチバイア地区にある。飼料工場も同地区にあり、契約生産農家に飼料を供給
している。飼料原料はすべて自国のブラジル産で、生産する飼料の配合割合はト
ウモロコシが65〜70%、大豆粕が約30%、それに補助飼料としてミネラル類など
を添加する。月に約6万トンの生産を行っている。契約農家にはバルク車で飼料
を搬送している。

・種鶏場、ふ化場

 この部門もアチバイア地区にある。ブラジル最大手の原種鶏の輸入業者である
AGROCERES社から種鶏のひなを購入している。品種はROSSで
スコットランド系と米国系の2種類があるという。

 種鶏は、コマーシャル鶏となる種卵を生産する親鶏のことであり、品種や系統
の特徴を備え、強健で繁殖性に優れたものでなければならない。そのため種鶏は
雑種強勢を期待した多元交配種で、その優れた能力は一代限りである。種鶏から
その親と同じ能力を持った子を生産できないので、種鶏は約1年半(同社の場合)
の供与期間を過ぎると廃鶏として専門業者に売られる。

 同社の種鶏場では雄鶏1に対して雌鶏10の割合で種鶏を購入している。種鶏か
ら生産される種卵のうち、状態が良好なもののみをふ化させ、初生ひなの形で契
約生産農家に提供している。

・契約生産農家

 契約農家は約120戸、初生ひなの搬送コストを考慮してふ化場のあるアチバイ
ア地区近郊に集中している。農家規模は1戸当たり最大約20万羽で、平均約2万
羽といったところ。大里氏の話では、生産コスト削減のため平均5万羽規模にし
たいそうだが個々の農家の事情もあり実現はなかなか困難という。 

 同社は契約農家に対して飼料、初生ひな、技術者、施設などを提供し、契約農
家はひなを48日齢、約2.3〜2.5kg(ブラジルの標準サイズ)にまで飼育し、トラ
ック1台分3千羽前後を単位としてモンテアレグレドスルのと鳥処理工場(後述)
に出荷する。農家でのへい死率は4〜5%でこれはブラジルの平均という。衛生関
係は3名の獣医師が一元的に管理するため見学者は入れないなど厳しい規制があ
る。

 生産農家との契約の形態はさまざまであり、この契約の中で農家の手取りが決
められるのが一般的であるが、同社では市場の相場とは切り離して、あくまで農
家の飼育成績などを基準に算出した飼育(委託)料を農家に支払っている。鶏肉
市場の変動リスクは会社が負担する。また、よほどの単純ミスを除き、一般的な
技術的ミスも100%会社負担という。このあたりのリスク負担はまさに契約書の
記載内容のポイントであるが、実際は会社ごとにいろいろな形態がある。

・と鳥処理工場

 と鳥処理工場は、サンパウロ市から約140kmのモンテアレグレドスルに位置し
ている。従業員約400名、総面積約5,000m2のかなり大規模な処理場であった。勤
務は2交代制で、1シフトは午前5時から午後2時まで、清掃後2シフトが午後5時か
ら始まり午前1時まで、その後清掃が入る。もともと、現在の本社加工工場があ
るマイリポランにあった処理施設を同地区の都市化によって閉鎖し、モンテアレ
グレドスルの他社のと鳥処理工場を借り、後に買い上げたのが今の工場である。

 国内向け、日本向け、香港向け、EU向けの生産をライン別に生産し、国内向け
は主に冷蔵で、輸出用はすべて冷凍にして出荷する。一部の日本向け用に細かい
スペックに対応させるための別室があり、計量、細分割、包装などの最終工程が
行われる。壁に各スペックの形、色、パック包装の形式などを示した写真図があ
り従業員に教育を施している様子が印象的だった。

 同工場はEU向け輸出に義務付けられている危害分析重要管理点(HACCP)
システムを今年から導入しているサンパウロ州唯一の工場とのことで、農務省の
認定に1年以上かかったなど当時の苦労を語っていただいた。ISO9002の取得
にも意欲的だ。

○処理工程

(コマーシャル鶏搬入からと鳥まで)

 トラック1台分約3千羽のコマーシャル鶏が昼夜を問わず契約農家から搬入され
る(鶏の生理からは夜の搬入のほうがストレスが少ないと言われている)。1つ
のプラスチックケージに7〜8羽が入れられ、トラックに積み重ねられたケージ全
体はまるでアパートのようだ。鶏のストレスを軽減するためにと鳥前の最低2時
間はトラックごとケージに水と風が送り込まれる。

 と鳥は電気ショックを与えた後、首を切り放血死させる。異常のある鶏は農場
段階で除去されるが、と鳥時にも農務省の検査官がチェックし、異常があれば精
密検査のため別室で解体する。異常が見つかると状況によりトラック1台分すべ
てを生産農場に返却させることもある。

(と鳥後、解体処理前まで)

 と鳥した鶏は羽根を剥ぐ機械(Greco製)に通して裸にし、首と後肢を引っ掛
け肛門を下にしてつるす。内臓除去を容易にするために肛門に処理機器を挿入し
内蔵を破砕する。この過程で3名の農務省の検査官(全体で12名が常駐)が内臓
などを検査する。製品として取り出す内臓は心臓(ハツ)、肝臓(レバー)、筋
胃(すなぎも)でこれらは水に入れて冷却し保存しておく。その後、不可食部の
小腸が除去され、モミジと呼ばれる足が切除される。


(解体処理)

 解体処理工程に入った丸どりは、まず手羽が処理され、むね肉、もも肉、ささ
みなどが順に個分けされる。処理室内は8〜10度に保たれる。

 工程は3ラインで、日本・香港向け解体処理ライン、国内・EU向けライン、日
本のみ向けラインの3つである。
kaitai.gif (46924 バイト)
【解体処理ライン。3つの処理ラインで
それぞれの製品が手際よく処理される。】
 日本向けにはもも肉、手羽なか(以上冷凍)、香港向けには手羽さき、モミジ、
すなぎも(以上冷凍)、ドイツ主体のEU向けにはレバー(冷凍)、薬品原料とし
ての軟骨、ブラジル国内向けにはむね肉、ハツ(以上冷蔵)が主に処理される。

 製品チェックは重要で、冷凍用のビニール袋に詰める前に、スペックで定めた
大きさや重量のチェック、かし(血斑、キズ、あななど)の有無について自社工
場の職員により厳しく検査される。

(解体処理後)

 解体処理室から出てきた、まさに鶏がらのようなと体は最後に首を引き抜かれ
残った骨とともに捨てられ、余分に付着している肉は特殊な機械により処理され
ソーセージなどの原料にされる。

 ビニール袋に詰められた輸出製品はおおむね8時間、−25〜−30度でチャンバ
ーにより急速凍結され、箱詰め時点では−18度で保管される。翌日にはサンパウ
ロ市に程近い農産物などの積出港として有名なサントス港に輸送される。
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【日本向けのもも肉の袋詰製品】

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【国内向けのむね肉】
・本社加工工場と直営販売部

 サンパウロ市にある直営販売部は都市の実需者からの注文を取り、これを処理
工場に仕向ける。本社加工工場はモンテアレグレドスルの処理工場から原材料を
搬入し、ソーセージ、腸詰、ハンバーグなどの加工品の製造を行っている。


6 おわりに

 今回は、日本の需給とのかかわりの深いブラジルの鶏肉を取り上げたが、政府
統計も限られ、全国規模のデータが少ないなど、情報収集の難しさも実感した。
今回のレポートでは、畜産関係者や農業コンサルタントからの聴取事項などをも
とに、同国の鶏肉産業の概観を紹介したが、今後は、少しでも同国の畜産情報を
体系的なものとして提供していきたい。

 最後に、この場を借りて、今回の調査に当たりご協力いただいた方々に心から
お礼を申し上げたい。

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