海外駐在員レポート 

垂直的な結び付きが強化される米国豚肉産業

ワシントン駐在員事務所 渡辺 裕一郎、樋口 英俊




1 はじめに

 米国の豚肉産業は、これまで、広大な土地資源によって生み出される安価な飼
料穀物等、コスト面での有利性を生かしながら順調な発展を遂げ、今や、その生
産量は、中国に次いで第2位、輸出量は、96年にデンマークを抜いて以来、第1
位を占めている。

 近年における、国の内外からの多様化・高度化する消費者ニーズ、周期性と変
則性を併せ持つ価格変動の波、自由貿易の流れの中での輸出競争の激化、さらに
は、環境問題に対する国民の関心の高まりといった課題は、米国の豚肉産業だけ
が直面しているものではない。

 こうした中にあって、米国産豚肉が、一向に国際的な競争力を失わないのは、
単に、価格面において優れているというだけでなく、これにユーザーの求める品
質・規格への対応が伴っているためであり、その大きな推進力の1つが、ここ10
年間で急速に進展している、国内豚肉産業における垂直的調整(Vertical 
Coordination)という動きであると考えられる。これは、生産から処理、加工、
流通、消費に至る供給チェーンにおける、各分野間の結び付きが、契約や統合と
いった垂直的な管理手法により、強化されることを意味する。

 今月号では、米農務省(USDA)や業界団体の報告等を基にしながら、このよ
うな垂直的調整が進展している背景と、その現状および今後の見通しについて報
告する。


2 養豚産業の構造変化

(1)豚および豚肉の供給チェーン

 米国の養豚産業は、歴史的に見ると、トウモロコシや大豆の栽培との複合が主
体の養豚経営と、そこから出荷される豚のと畜・解体処理を行うパッカーとが数
多く存在する中西部のコーンベルト地帯を中心に順調な発展を遂げてきたが、そ
の構造は大きく変化してきている。

 第二次世界大戦後、安価な植物油脂とラードとの競合が見られるようになる中
で、消費者の健康志向の高まりにより、リーン・ミート(赤身肉)に対する需要
が急速に拡大した。このため、育種改良により、背脂肪の薄い、斉一性に優れた
遺伝資源(種豚)を擁する企業的な養豚経営が台頭し始め、80年代以降、飼養管
理技術の高度化等を背景に、生産性の高い企業養豚経営を中心に大規模化が進ん
だ。さらに、90年代になると、飼料コスト面で有利な伝統的地帯(コーンベルト
地帯)から、南東部の新興地帯へと、その生産地域をシフトさせながら、規模拡
大が加速化した。

 また、近年、こうした消費者ニーズの変化に的確に対応しながら、品質や供給
量の安定化、低コスト化を実現していくためには、生産段階にとどまらず、流通、
加工等の分野を含む川上から川下に至る豚肉の供給チェーン全体としての取り組
みが重要となってきていることから(図1)、このようなタテの流れの中での各
段階・分野内における構造変化、さらには、分野間における結び付きの強化が見
られるところとなっている。

◇図1 豚肉の供給チェーン◇
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 注:【 】内は、99年における産業規模である。

 まず、本項では、供給チェーンの各段階において、どのような動きが見られる
のかについて追ってみた。


(2)生産部門

ア 全体的な飼養動向の変化

 養豚経営体数は、80年代に入ってから減少の一途をたどり、この5年間だけで
も、94年の27万1千戸から、99年には9万8千戸へと、4割弱の水準まで激減してい
る。一方、豚の総飼養頭数は、ピッグサイクルによる変動を繰り返しながらも、
87年以降、長期的には増加傾向で推移し、99年12月現在で、5,951万頭(うち肥
育豚5,326万頭、繁殖豚624万頭)となっている。こうした結果、1経営体当たり
の飼養規模は急速に拡大し、94年には288頭だったのが、99年は607頭と、この5
年間で倍増している。

◇図2 養豚経営体数および飼養規模の推移◇

 これを飼養頭数規模別に見ると、500頭未満の小規模層の減少が大きく、94年
の19万5千戸から99年には8万4千戸へと約6割減少する一方、2千頭以上層は、94
年の4,630戸から99年には7,125戸へと増加している。特に、5千頭以上の大規模
層は、99年に2,005戸と、飼養戸数では全体のわずか2%にすぎないが、飼養頭数
では約5割弱を占めており、大規模層への生産の集中が著しく進展している。

 また、米国では、農業経営が商業ベースで行われているかどうか、いわゆるコ
マーシャル・ファームかどうかという目安を、農産物の販売金額ベースで25万ド
ル(2,675万円:1ドル=107円)とする見方がある。養豚経営の場合、中西部を中
心に、トウモロコシ等の耕種作物との複合経営が多いため、こうしたコマーシャ
ル・ファームに該当する農家以外がすべて零細農家やホビー・ファーム的な農家
というわけではなく、いわば、主たる収入源が養豚部門である経営というべきか
もしれないが、97年では、全体の約2割を占める2万3千戸が、コマーシャル・フ
ァームに該当し、豚の販売金額では全体の8割強を占めている(表1)。

表1 豚の販売金額別に見た養豚経営の状況(97年)
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 資料:Sparks Companies,Inc.(SCI)

イ 地域的な飼養状況の変化

 養豚経営が集約化され、大規模化が進展していく中で、地域的な飼養状況にも
大きな変化が見られる。その動きは、先にも述べた通り、伝統的産地である中西
部のコーンベルト地帯において、全米第1位の飼養頭数を誇るアイオワ州等の一
部州を除き、飼養頭数が減少傾向にある一方、ノースカロライナ州を中心とする
南東部、さらに近年においては、環境規制や企業経営の参入規制(後述)が緩や
かなオクラホマ州を中心とする南西部、そして、ワイオミング州やユタ州といっ
た西部山岳地帯における飼養頭数が大幅に増加してきているというものである
(図3)。

◇図3 地域的な飼養頭数の増減率(94〜99年)◇
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 資料:SCI

 特に、ノースカロライナ州は,この10年間で飼養頭数が3倍以上にまで膨らみ、
また、このような頭数の伸びに対応して、スミスフィールド社による世界最大の
食肉処理プラントが操業を開始している。

 なお、コーンベルト地帯に属するミネソタ、アイオワ、イリノイの3州におい
ては、全米の約3分の1に相当する養豚経営が存在し、4割を超える生産量がある
とされているが、飼養規模5千頭以上の経営から出荷されるのは、その16%にす
ぎず、5千頭以上層が出荷の8割近くを占めるノースカロライナ、サウスカロライ
ナおよびバージニアの南東部3州に比べると、小規模層のシェアが圧倒的に高い。

ウ 企業経営における生産の集中

 ここ5年間に養豚経営から脱落した約17万戸の経営体の大半は、飼養頭数が1
千頭未満の小規模層であり、逆に、大規模経営への生産の集中が顕著なものとな
っている。

 この傾向を、繁殖雌豚の飼養状況で見ると、99年においては、1万頭以上の繁
殖雌豚を所有する47経営体における飼養頭数は、全体の45%にも達している。そ
のほとんどが、企業経営によるものであり、特に、全米最大の豚肉パッカーでも
あるスミスフィールド社は、マーフィー社(合併前:32万5千頭)およびキャロ
ル・フーズ社(同17万頭)の買収により、1年間で52万頭も頭数を増やし、一躍
トップに踊り出た(表2)。なお、その増頭分のほとんどは、買収前にスミスフ
ィールド社との間で販売契約関係にあったものであり、同社が、生産部門の直接
的な管理(垂直的統合)に力点を置き始めたことを示すものと見られている。

表2 繁殖雌豚飼養規模上位10社における飼養頭数の推移
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 資料:SCI
 注1:順位は99年における繁殖雌豚飼養頭数に基づくもの。
  2:スミスフィールド社については、2000年1月に完了した
    マーフィー社およびキャロル・フーズ社の買収を含む。


(3)と畜・解体部門

ア 大手パッカーへの集中

 豚のと畜頭数は、86年には約8千万頭であったのが、99年には約1億頭に達して
いる。この間、大手パッカーへのと畜・解体部門の集中も進展し、99年には、上
位8社の処理能力が、全体の81%(80年は50%)にまで増大している(図4)。

◇図4 大手豚肉パッカーのと畜能力の割合◇

イ パッカーによる肉豚管理の進展

 パッカーにおける施設の稼働率と、と畜・解体される肉豚1頭当たりの収益性
との間には、密接な関連性がある(図5)。

◇図5 パッカーにおける施設の稼働率とマージンの推移◇

 その時の肉豚価格によっても左右されるため、一概に断定することは適切では
ないが、近年における状況を見ると、稼働率が85%を下回った場合、1頭当たり
のマージンはマイナスとなり、稼働率が上昇するにつれ、マージンも増加してい
ることが分かる。

 こうしたことから、パッカーは、自らの施設の稼働率を上げるため、肉豚の安
定的な集荷ルートを確保せざるを得ず、養豚経営との間で販売契約を結ぶか、パ
ッカー自らが肉豚を所有するという方法により、肉豚そのものをパッカーが管理
している形態が増える結果となっている。具体的には、大手豚肉のパッカー上位
10社における契約豚または自己所有豚の割合(と畜能力比)は、平均すると約5
割を占める状況となっている(表3)。なお、これらの頭数が、と畜能力を上回
っているのは、他のパッカーへの売却用が含まれているためであると考えられる。

表3 大手豚肉パッカー10社における豚の所有形態(99年)
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 資料:SCI
  注:と畜能力に占める割合

ウ 地域的な変化
 豚の飼養状況と同様に、と畜頭数についても、地域的に大きな変化が見られる。
表4は、全国を4つの地域に分け、それぞれの地域におけると畜シェアの経年的な
推移を示したものである。これによると、長期的には、東部コーンベルト地帯や
北東部では、と畜シェアが減少しているのに対して、西部コーンベルト地帯や、
南東部においては、その割合が増加しているのが分かる。なお、表中にはないが、
92年以降、南東部におけると畜頭数は、急速に増加し続けている。

表4 豚の地域別と畜シェアの推移
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 資料:USDA/ERS「Consolidation in U.S. Meatpacking」
  注:東部コーンベルト地帯
     イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ウィスコンシン
    西部コーンベルト地帯
     アイオワ、カンザス、ミネソタ、ミズーリ、ノースダコタ、
     ネブラスカ、サウスダコタ
    南東部
     フロリダ、ジョージア、ケンタッキー、ノースカロライナ、
     サウスカロライナ、テネシー、バージニア
    北東部
     コネチカット、デラウェア、マサチューセッツ、メリーランド、
     メイン、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューヨーク、
     ペンシルバニア、ロードアイランド、バーモント


(4)処理・加工部門

 かつて、豚肉パッカーのと畜・処理施設においては、と畜・解体から、部分肉
処理、さらには、ベーコン、ハム、ソーセージといった加工品等の生産までもが
行われていたが、近年、こうした加工品の生産が専門の食肉加工会社で行われる
ようになってきたため、と畜・処理施設から出荷される製品は、部分肉の形態で
ある場合が多くなってきており、この傾向は、大規模なプラントになるほど顕著
である(表5)。

表5 豚肉のと畜・処理施設における部分肉出荷割合の推移
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 資料:表4に同じ

 逆にこのことは、多くの食肉加工会社が、と畜・解体部門から撤退し、パッカ
ーから部分肉を仕入れ、加工品の製造に専念するようになってきたとも言える。
その理由は、原料として用いる特定の部位だけを仕入れた方が効率的であるため
だが、同時に、パッカーも含めて、ユーザーからのニーズに応じた柔軟な対応が
可能になってきたと見るべきなのかもしれない。


(5)消費部門

 米国における食肉の消費動向の推移を 見ると(図6)、消費者の健康志向の
高まりを背景として、家きん肉の需要が増加傾向であるのに対し、牛肉は、70年
半ばを境に、それまでの増加基調から減少基調に転じている(最近は、好景気を
背景に増加傾向)。一方、豚肉の需要は、80年代以降、安定的に推移してきてい
る。その最大の理由としては、先に述べた赤身肉需要への対応に加え、近年にお
けるファストフードでのベーコン・ハンバーガーの伸びに見られるような、新た
な消費者・実需者のニーズに応じて、一定の品質のものを、定時、定量に供給す
るための商品管理が、生産から流通に至る供給チェーンの中で強化されてきたた
めであると考えられる。

◇図6 1人当たり食肉消費量の推移◇

 また、米国は95年から、豚肉の純輸出国になるなど、その輸出量は着実に増加
しており、中でも日本が最大の輸出先となっている(図7)。こうした輸入国か
らの高品質で規格のそろった豚肉に対するニーズが、米国産豚肉の供給チェーン
に与えてきた影響も見逃してはならない。

◇図7 豚肉の輸出量(主要輸出先別)の推移◇ 


3 垂直的調整の現状

 以上のように、豚肉の供給チェーンが、各段階において変化する中で、特に、
生産段階と、と畜・処理段階の結び付き、すなわち、生産者とパッカーとの関係
(あるいは、生産者同士の関係)が緊密なものとなってきている。このような、
供給チェーンの中での生産、処理、加工、販売といった異なる部門を管理するた
めの手法としては、「垂直的統合(Vertical Integration)」や「生産契約
(Production Contracts)」、「販売契約(Marketing Contracts)」といった
形態が挙げられ、また、こうした手法を総称して、「垂直的調整(Vertical 
Coordination)」という言葉が用いられるようになってきている。


(1)垂直的統合(Vertical Integration)

 「垂直的統合」とは、供給チェーンの中で隣接する部門同士が、同一の所有者
によって管理される形態を指し、養豚産業の場合、パッカーが養豚場を自ら所有
する形態や、さらには、種豚経営までも行う形態が見られる。97年においては、
肉豚の出荷頭数の9.4%がパッカー所有のものであり、また、5%弱が飼料部門も
有するパッカーによって占められているとの調査報告(アイオワ州立大学)もあ
る。

 こうした動きは、生産・処理・販売というプロセスを自らが一貫して行うこと
により、供給量の変動や、品質のばらつきなどによるリスクの回避、肉豚の調達
にかかる取引・流通コストの低減、および市場ニーズへの迅速な対応等による効
率性を実現しようとするものである。

 ただし、垂直的統合は、一般的に多くの資本を要するため、これによらず、
「契約」という手法によって供給チェーンの管理を行おうとする動きが、近年、
著しく進展してきている。


(2)生産契約(Production Contracts)

ア 生産者が生産契約を結ぶ相手先は、ブロイラーの場合には処理加工業者が大
 半であるが、肉用牛や豚の場合には、パッカーとの間のものはほとんどなく、
 生産者同士が契約を取り交わすというケースが大宗を占めている。概して、資
 本力と経営管理能力に富む大規模繁殖経営(ここでは、「インテグレーター」
 と呼ぶ。)が、小規模の生産者に対して、肉豚が肥育されて市場に出荷される
 までの間、その飼養管理を委託する場合が多く(豚の所有権は、インテグレー
 ターに帰属する)、前者が、経営管理のノウハウや、肥育素豚、動物用医薬品
 等の資材を提供する代わりに、後者は、自らの労働力と機械・施設を提供する
 という関係にあり、その対価は、生産性の程度によって調整された固定額によ
 って支払われるとされている。

イ これによると、例えば、インテグレーターは、生産者の育成施設や肥育施設
 に対して資本を投下する代わりに、自らの繁殖・分娩施設を充実させることに
 より、その規模を拡大することができ、一方、生産者にとっても、インテグレ
 ーターとの契約で資材や安定した収入を担保することにより、資材および最終
 生産物の価格変動リスクをインテグレーターに転嫁することができるというメ
 リットがある。

ウ なお、97年には、子豚の40%、肥育豚の44%が、生産者同士の契約に基づい
 て生産されたものであるとされ、肥育豚に関しては、94年の29%という水準か
 ら大きく増加しているとの報告(アイオワ州立大学)もある。


(3)販売契約(Marketing Contracts)

ア 販売契約は、供給チェーンのさらに次の段階、つまり、肥育豚を出荷する生
 産者と、そのと畜・処理を行うパッカーとの間で締結されるものである。肥育
 豚の所有権は、パッカーに出荷されるまで生産者に帰属し、出荷頭数、出荷体
 重、出荷場所、出荷時期、価格の設定方法などが、契約の中であらかじめ取り
 決められる。

  このような販売契約に基づく取引形態も、90年代に入って急速に増加してき
 ており、99年には、全体の過半を超え、垂直的統合によるものも含めれば、約
 6割のシェアを占めるに至っている(図8)。

◇図8 取引形態別豚の取引シェアの推移◇

  また、販売契約と経営規模との間には、明らかな相関関係があり、出荷頭数
 が1〜2千頭層における販売契約のシェアは25%にすぎないが、50万頭以上の規
 模になると、その約9割が販売契約によるとの報告(アイオワ州立大学)もある。

イ 販売契約に基づく価格設定方法は、主に次のようなタイプに分けられる。

【市況公式】

 大量の先渡し契約(延べ取引)を行うときなどに用いられる方式で、市場等が
公表する取引価格を基礎として、これに、契約期間、場所、品質(主として背脂
肪厚と赤身率)等の要素を加味した一定の公式によって設定される価格。その時
々の市場価格等の影響を受けるため、価格変動リスクは回避されない。

 【コスト公式】

 主として、生産費の中で最も大きなウエイトを占める飼料費(飼料価格)に基
づく公式によって設定される価格であり、一定の最低価格が決められる場合が多
いため、飼料価格の変動に対するリスク回避効果を有する。市場価格がコスト加
算価格を下回った場合に支払われる差額は、その状況が逆転した場合に返済しな
ければならないという、バランス(貸借)条項が加えられることもある。契約期
間は、通常、4〜7年の長期。

 【ウィンドウ】
 一般的に、一定の公式によって最高価格と最低価格とがあらかじめ設定され、
市場価格がその価格帯(ウィンドウ)の中で推移しているときは、当該市場価格
が取引価格となり、市場価格が価格帯から外れた場合には、価格帯の中間的な価
格を取引価格として設定する方式で、コスト公式と同様に、バランス条項が加え
られることもある。

 【先物固定】

 先物価格に基づく固定価格を契約時に設定する方式で、短期契約の場合に用い
られる。キャッシュ・コントラクト(現金契約)とも呼ばれる。

 なお、本年1月に行われたミズーリ大学による大手パッカー12社の事例調査に
よると、市況公式によって販売された肉豚のシェアは47%、コスト公式によるも
のが12%、ウィンドウによるものが5%、先物固定が8%、販売契約全体で73%と
いう結果が出ている。

【垂直的調整の事例】

○スミスフィールド社

・同社は、バージニア州スミスフィールドに本社を持つ、米国における垂直的統
 合による豚肉の処理・加工の代表的企業(パッカー部門は全米最大)。

・肉豚の生産部門への取り組みは、80年代半ばにおける、大手養豚企業のキャロ
 ル・フーズ社(ノースカロライナ州)と長期的な販売契約を締結したことに始
 まる。

・91年、両社は、英国のNPD社が持つ赤身肉の多い種豚の独占的なフランチャイ
 ズ権を獲得し、国内における本格的な赤身肉の生産・販売を開始。最近では、
 "Smithfield Lean Generation Pork"というブランドによる精肉の販売を
 伸ばしている。

・92年には、ノースカロライナ州に肉豚生産を行う子会社を設立するなどにより、
 生産部門を強化し、99年には、キャロル・フーズ社およびマーフィー社の買収
 により、全米最大の生産者ともなる。

○ファームランド・インダストリーズ社

・同社は、ミズーリ州カンザスシティーに本部を置き、豚肉および牛肉製品の製
 造販売を行う、全米最大の農業協同組合(組合員数は約60万戸)。

・繁殖部門については、99年で6万7千頭の繁殖雌豚を有しているが、肥育部門に
 関しては、自らが肉豚を所有することはせず、地方の協同組合および生産者と
 の間で、販売契約を締結し、生産者に対する子豚の供給、技術的・財政的支援
 等を実施。

・契約農家においては、と畜施設から200マイル以内、オールイン・オールアウ
 トによる900頭規模の2階建て肥育豚舎による飼養が行われることを、同社の目
 標として掲げている。取引価格には、1頭当たりの年間最低価格が設定され、
 大半が5〜10年の長期契約による。

・契約農家から出荷された肥育豚は、アイオワ、ミネソタ南部、サウスダコタ南
 東部およびカンザス北東部にある同社のパッキング・プラントで処理される。


4 垂直的調整の進展の外的要因

 これまでは、米国の豚肉産業における供給チェーンが構造的に変化し、その中
で急速に進展している垂直的調整の状況について記述した。その大きな理由の1
つに挙げられるのは、これまでにも述べてきたような消費者・実需者ニーズの変
化という点であるが、本項では、それ以外の社会的・経済的な外的要因に着目し
て記述することとする。


(1)技術の進展

 近年におけるコンピューター技術等の著しい進歩は、豚肉産業の分野にも多大
な影響を及ぼしている。

 まず、豚の育種改良の分野においては、肉豚の評価システムが、生体重量と生
体評価によるものから枝肉評価へと変化し、増体面、品質面、そして斉一性の面
に優れた種豚の供給が行われるようになってきた。そして、人工授精技術の進展、
(注:その普及率は、現行では半数程度とされているが、近い将来は、これが8
割程度にまで増加するとの見方もある。)とも相まって、消費者ニーズを敏感に
感知する豚肉のマーケティング部門が、こうしたニーズにかなうような種豚の利
用を通じて、生産段階を管理することが可能となり、結果的に、大規模化や垂直
的調整の進展を支えてきたと言える。また、分離早期離乳方式(注)に代表され
るような飼養管理技術の進展・導入という点も、同様の意味を有している。

 (注)分離早期離乳方式(SEW:Segregated Early Weaning):母子の感染遮断、
 分娩回転率の改善を図るため、通常より早期に離乳(21日齢未満)し、繁殖舎
 から隔離して飼育する方式。さらに、繁殖舎、育成舎、肥育舎の各単位(サイ
 ト)も含めてオールイン・オールアウトとする方式は、マルチプルサイトシス
 テムと呼ばれ、オクラホマ州を拠点として垂直的統合を行っているシーボード
 ファームス社などにより採用されている。

 さらに、情報技術(IT)に代表されるようなコンピューター技術の活用も、大
規模化や垂直的調整が進むにつれて複雑化、多様化する資材の調達、飼養管理、
経営管理、資金管理、販売管理等を適切に実施していく上で、不可欠なものとな
っている。


(2)パッカー労働者の賃金の低下

 食肉産業に従事する労働者の労働組合への加入率は、80年には46%の水準であ
ったのが、87年には21%にまで低下し、以降も低い水準で推移している。

 こうした動きと平行して、パッカー労働者の賃金水準は、東南アジア、メキシ
コ、中米などからの移民の割合が増えていることもあり、80年代初頭に比べて減
少している。また、以前のような、大規模なパッカーになるほど賃金水準が高い
という傾向も見られなくなっている(表6)。

表6 パッカー労働者の平均賃金の推移
re-ust06.gif (4056 バイト)
 資料:表4に同じ
  注:豚肉を含む食肉パッカー

 このため、パッカーが規模拡大を行う上で労働コストが与える影響は、以前に
比べると少なくなってきており、パッカーの大規模化・集中化をより容易なもの
としているとも言える。なお、パッカー労働者の賃金の低下や、ヒスパニック系
労働者の増加は、地域社会にさまざまな問題を投げかけており、今後、無視でき
ない要素となる可能性もある。


(3)環境規制と企業的農業経営の規制

ア 米国における水質や悪臭といった環境問題に対する規制は、年々厳しくなっ
 てきており、畜産経営の中でも、集約化、大規模化が進展する養豚経営は、連
 邦および州政府が講じる規制の内容いかんによって、大きな影響を受けること
 となり、これが、生産地域の移動を引き起こす要因の1つにもなっている。

  その具体的な状況等については、本誌「畜産の情報」(海外編 98年2月号、
 99年3月号)に詳しいので、ここでは、USDAによる各州の環境問題に対する取
 り組みの評価分類のみを再掲する。これは、環境保護に関する法律・規則の制
 定状況、制度的対処能力等によって、環境規制の厳しさの程度を、4段階にラ
 ンク付けしたものである(図9)。

◇図9 環境保護に係る能力と公約の州別ランキング◇
re-usg09.gif (48313 バイト)
 資料:SCI「The North American Livestock, Meat and Poultry Industry」

  これと、前掲した図3の飼養頭数の増減とを見比べてみると、近年頭数の伸
 びが著しいオクラホマ、ユタ、ワイオミングといった州においては、環境規制
 が「緩い」とされており、新規参入が行われやすい条件にあるということが分
 かる。逆に、飼養頭数の全米上位3州であるアイオワ、ミネソタ、ノースカロ
 ライナの環境規制ランキングは、いずれも「厳しい」とされており、今後、こ
 れがどう影響していくのか、注目されるところである。

イ また、家族経営の発展を目的として、カンザス、アイオワ、ミネソタ、ミズ
 ーリ、ネブラスカ、ノースダコタ、オクラホマ、サウスダコタ、ウィスコンシ
 ンの9州は、企業的農業経営を法的に禁止している。ただし、その一部では、
 有限会社や家族農業法人的な企業を認めている州や、オクラホマ、ミズーリ、
 カンザスなどのように、産業誘致的な観点から、養豚や養鶏については、州ま
 たは郡単位で例外を認めている州もある。

ウ 地域によっては、こうした生産部門への規制強化が行われることによって、
 生産頭数とパッカーにおける処理能力との間に較差が生じている。この較差が、
 他州からの生体豚の移入という動き、さらには、生産・販売契約といった垂直
 的調整の進展を加速化させている要因の1つになっているものと考えられる。


5 垂直的調整の進展の内的要因

(1)経済面での有利性

 次に、供給チェーンの内部に目を移してみる。その中で、垂直的調整の進展を
後押ししている最も大きな要因は、大規模化・効率化によってもたらされる経済
面での有利性のさらなる追求にあると考えられる。

 先に述べたように生産段階、パッカー段階ともに、大規模化、集中化が進展す
る中で、大規模な生産者ほど、販売契約に依存する割合が高くなっている。この
ように、生産者・パッカー双方の結びつきが緊密化し、相互の情報伝達が強化さ
れることによって、労働力の配分や施設等に対する資本の投下が合理的に行われ
るようになるため、それぞれの段階における効率化・低コスト化は、一層進展し
ていくことになる。

 例えば、垂直的調整が行われた結果、背脂肪の薄い、大きさもそろった肉豚が
まとまった頭数で生産・出荷されれば、これを処理するパッカーにおいては、ト
リミング等に要する労働コストが低減され、また、歩留まりも向上するため、1
頭当たりの販売利益も上がる。


(2)販売契約を締結する意義(動機)

 ここでは、最近の報告等を基に、特に、パッカーおよび生産者それぞれの立場
からみた販売契約の意義(動機)について記述する。

ア パッカー

@供給量の確保

 肉豚の生産は、ピッグ・サイクルに加えて、季節的にも大きく変動するという
特徴を有している。一方、パッカーにとっては、大規模になるほど、前述の労働
コストのほかにも、施設維持費、減価償却費、借入資本金利といった短期的な固
定経費の負担が大きいことから、稼働率を高めるための肉豚の安定した供給量の
確保が重要になってくる。このため、販売契約や垂直的統合によって生産部門の
動向を管理しながら、こうしたリスクを回避することは、重要な意味を持ってい
る。

A品質の確保

 品質の確保という点では、先に述べた赤身肉という要素以外にも、PSE豚肉
(むれ肉)の発生防止、味や軟らかさ、さらには、安全性という面も重要となっ
てきている。また、スミスフィールド社の例に代表されるような、パッカーや小
売店等による特定の品質特性を持ったブランドの確立といった取り組みも活発化
してきている。このため、品質に関する基準は、より厳格になってきており、パ
ッカーによる生産の管理の重要性がますます高まってきていると言える。

B価格リスクの分散・回避

 肉豚の供給量の変動による価格変動は、生産者だけでなくパッカーの収益性を
も大きく左右し、パッカーのキャッシュ・フローや資金調達にも悪影響を与える。
このため、販売契約において、前述したような価格変動リスクを分散・回避させ
る価格設定方式を採用することが有効となる。

C地域的な供給変化への対処

 地域的な生産のシフトにより、生産量が減少傾向にある中西部のパッカーは、
域内農家を支援することによって肉豚の安定確保を図り、短期的なキャッシュ・
フローに係るリスクを回避するとの観点から、これら生産者との販売契約を結ぶ
ケースが増えてきている。

 このような取り組みは、生産が増大している南東部や南西部においても同様で
あり、多大な投資を行うパッカーと、規模拡大を図ろうとする生産者双方にとっ
ての投資リスクの分散という意味合いもある。

イ 生産者

@価格リスクの分散・回避

 生産者にとっても、販売契約は、価格変動リスクの影響が和らげられることに
より、安定した収入が確保されるとともに、信用度が増すことによって資金の調
達が可能になるというメリットがある。ただし、価格水準という点に限って言え
ば、生産者とパッカーとは、そもそも利害が反するものである。このため、取引
価格の設定方法によっても左右されるが、短期的に見ると、価格変動リスクが緩
和される代わりに、市場価格の上昇時においては、それに見合った収入増が期待
できない場合もあるという面を併せ持っている。

A販売先の確保と販売管理の効率化

 販売契約においては、肉豚の品質・規格、出荷頭数、出荷時期等があらかじめ
設定されるため、出荷すべき時期を迎えた肉豚の販売先に困るといった事態を回
避することができる。これは、大規模経営や、オールイン・オールアウト方式を
採用する生産者において、特に重要な問題である。

 また、長期的な販売契約を結ぶことにより、累次の販売手続き等に要する時間
が不要となるため、これを余暇等に振り向けることができる。


6 垂直的調整の今後の展開

 最後に、垂直的調整の進展に影響を及ぼすと思われる最近の動きにも着目しな
がら、今後の見通しについて考えてみたい。


(1)規制強化の動き

 環境規制や企業的農業経営に対する参入規制のほかにも、特に、大規模化・集
中化が進展するパッカーに対し、こうした動きを直接的に規制しようとする動き
がある。

 この問題については、大規模なパッカーによる市場に対する不当な力が働いて
いないかどうかという観点で、過去にもUSDAや司法省などによる調査が行われ
たが、明らかな証拠を見いだすことはできていない。また、USDAは、集中化の
進展について、「監視を行っていく必要がある」としつつも、「効率化や低コス
ト化の先導役となり、市場の競争力と拡大とを促進している」と結論付けている。

 しかし、こうした問題は、これまでもたびたび政治問題化しており、一部の議
員の間には、パッカーの買収・合併に対する独占禁止法の適用を求める声や、パ
ッカーの生産部門への進出を制限すべしとの声もあるため、今後、このような動
きについても注視していく必要があると考えられる。

 なお、垂直的調整の進展によってスポット市場における取引頭数が減少する中
で、取引状況の透明化や価格形成の適正化を図るとの観点から、昨年10月、99年
家畜強制報告法が制定され、本年中にも、パッカーなどに対する取引情報の報告
義務が課せられることになった。これが垂直的調整の動きを阻害することは想定
されないが、価格形成にどのような影響を与えるのか、興味深いところである。


(2)生産者団体の動き

 では、垂直的調整に対する生産者または生産者団体の評価はどうであろうか。

 生産契約に関しては、アイオワ州立大学が98年に行った契約生産者の意向調査
(240人が回答)の結果があり、これによると、「不満」を表明した者は13%で、
87%が「満足」と回答し、そのうち、「非常に満足」とした者は64%に上ったと
報告されている。

 養豚経営者が組織する全国豚肉生産者協議会(NPPC)も、生産契約に関しては、
@家族経営にも参加の機会が与えられていること、A複数のインテグレーターと
の交渉が可能であるため、契約条件を改善することが可能であることなどを挙げ、
「大きな成功を収めている」との評価をしている。一方、パッカーとの契約が主
体の販売契約に関しては、「生産者の意思を尊重する」としつつも、契約の内容
いかんによっては生産者が不利になる場合もあるため、生産者とパッカーが同等
の立場で契約を交わすことが重要であるとしている。こうした観点から、本年3
月には、販売契約に参加する生産者に向け、価格設定方法や契約条件等について
解説した「販売契約ガイド」という冊子を発行し、契約の内容・条件を十分精査
することの必要性等を強調している。

 一方、NPPCは昨年6月、生産者協同組合方式による、肉豚のと畜、加工から製
品の販売までを行うためのプラント建設構想を発表している。これは、養豚農家
自らが、産品の安定的な販路を確保し、経営の安定を図っていくとの趣旨による
ものであり、現在、家族養豚経営者の協同組合組織であるポーク・アメリカを中
心に、構想の実現に向けた検討などが行われている。


(3)今後の見通し

 豚肉の供給チェーンにおいて、生産者やパッカーの大規模化が進む中で、今後
とも、各事業者における経済的な有利性がより追求されていく限り、垂直的調整
の動きは、ここ10年間のような急速な伸びはないにしても、引き続き進展してい
くと見て間違いないだろう。

 中でも、上記(1)のような状況を考え合わせると、パッカーが直接的に生産
部門を管理する垂直的統合の動きよりも、販売契約という間接的な管理形態が進
展していくものと考えられる。これには、パッカーの投資コストが少なくて済む
という面も関係するからである。

 もう1つの問題は、家族養豚経営の将来である。これについては、上記(2)で
述べたような生産者独自の垂直的な取り組みが模索される一方で、生産契約また
は販売契約のいずれかに参加しない限り、冒頭(表1参照)で紹介したような、
いわゆるコマーシャル・ファームとしては生き残れないという厳しい見方もある
ようだ。

 ただし、特に、販売契約を生産者サイドの視点で見た場合、取引価格の設定に
関し、その方法および市況の状況いかんによっては、価格変動リスクの回避とい
うメリットだけでなく、相対的な収入減といったデメリットも想定されるため、
このような点については、関係者の声なども聴取した上で、改めて報告する機会
があればと考えている。


7 おわりに

 以上のように、米国の豚肉産業においては、今後も、垂直的調整の動きが進展
することにより、豚肉の供給チェーン全体の効率化が図られていくことが予想さ
れ、輸出競争力もこれまで以上に高まっていくものと考えられる。

 また、こうした動きは、米国だけにとどまらない。特に、デンマークは、その
輸出する豚肉の大半が、生産者の協同組合組織によるパッキング・プラントを中
心とした販売契約に基づくものであるとされている。一方、カナダも、各州のマ
ーケッティング・ボードによる独占的販売制度が廃止された後、パッカーへの直
接販売が可能となり、契約による販売の動きが進展してきており、こうした動き
が、各国間の輸出競争にも影響を与え、競争がますます激化していくものと予想
される。

 このような、主要輸出国における垂直的調整の動きを、直ちに日本国内に当て
はめて考えるのは、適当ではないかもしれない。しかし、消費者ニーズという情
報を敏感にキャッチし、これに即した対応を、生産・流通・加工・販売の各部門
が一体となって行っていく必要があるという意味では共通しており、現に、日本
国内では、生産者グループを中心とした流通分野への進出といった取り組みが増
えてきていることも考え合わせると、今後、参考にしていくべき部分は多いので
はなかろうか。


主要参考文献

・USDA/Economic Research Service(ERS)"Agricultural Outlook"
 (97年12月、99年2月)

・USDA/Grain Inspection, Packers and Stockyards Administration
 "Concentration in the Red Meat Packing Industry"(96年2月)

・USDA/ERS"Vertical Coordination in the Pork and Broiler Industries : 
 Implications for Pork and Chicken Products"(99年4月)

・USDA/ERS"Consolidation in U.S. Meatpacking"(2000年2月)

・National Pork Producers Council(NPPC)
 "Guide to Marketing Contracts"(2000年3月)

・University of  Missouri and NPPC
 "2000 Hog Marketing Contract Study"(2000年3月)

・Marvin Hayenga, Ted Schroeder, John Lawrence, Dermot Hayes, 
 Tomislav Vukina, Clement Ward, Wayne Purcell, and American Meat Institute
 "Meat Packer Vertical Integration and Contract Linkages
  in the Beef and Pork Industries : An Economic Perspective"(2000年5月)

・農中総合研究所"アメリカの養豚における構造的変化と垂直的調整の強化" 
 「農林金融(2000年3月号)」

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