酪農乳業制度改革がスタート(豪州)


70年に及ぶ飲用向け生乳への規制が終了

 豪州の新たな酪農・乳業の指針となる、酪農乳業制度改革が7月1日にスタート
した。酪農・乳業に対する規制は、政府の政策転換により、90年代に入り徐々に
緩和政策が打ち出され、州間の流通規制の撤廃や支持価格の見直しなどが実施さ
れてきた。今回の制度改革実施により、70年以上にわたり行われてきた各州の飲
用向け生乳への規制は、これで完全に廃止された。

 今回の酪農乳業制度改革における最大の目的は、飲用向け生乳の流通取引を完
全自由化することにより市場経済を導入し、国内酪農保護の地域的なアンバラン
スを是正するとともに、長期的視野に立って豪州酪農産業全体の国際競争力を高
めることにある。


制度実施をめぐり激しい攻防も

 改革の実施に際しては、加工原料乳生産地域を中心とした推進運動とは別に、
飲用乳生産地域では度重なる反対運動が行われていたことも事実である。これは、
制度実施により、従来、規制により維持されてきた飲用向け生乳取引価格の大幅
な下落が想定されたためである。特に、シドニーなど大都市向けの飲用乳生産地
域を抱え、最大の影響を受けるニューサウスウェールズ(NSW)州では、酪農家
を中心に改革実施の延期や、補償措置の上乗せを求める動きが活発となり、政治
問題へと発展していた。

 連邦政府は、制度改革に伴う補償金の支給について、各州の制度撤廃を前提と
していたことから、直前まで、酪農関係者と州政府との間で、補償額の見直しな
どを求める激しい攻防が繰り返されていた。


乳業メーカーは厳しい生乳取引条件を提示

 このような酪農関係者と州政府の攻防とは裏腹に、乳業メーカー各社は、自由
化を前提に酪農経営者に対し、厳しい価格提示を行っている。制度実施前のNSW
州における飲用向け生乳取引の最低価格は、53豪セント(約34円:1豪ドル=約
65円)/リットルと定められていたが、7月1日以降の契約分としてメーカー側か
ら提示された新価格は37豪セント(24円)/リットルと、同州政府や酪農経営者
の見込みを大幅に下回る水準であることが明らかとなった。また、乳牛に対する
飼料についても、遺伝子組み換え(GM)作物を与えないなどの条件が付けられ
ている場合もある。制度実施に伴う自由化により、今後の飲用向け生乳取引の価
格は、最大の生乳生産地であるビクトリア州の取引価格が指標とされ、これに輸
送費を加算したものが各州の取引価格となると見込まれる。

 NSW州では、制度実施により約1,800戸の酪農経営のうち、約半数が2年以内に
廃業せざるを得なくなると予測されていが、その真偽はともかく、少なくとも酪
農乳業制度改革が、飲用乳規制の撤廃を通じて豪州の酪農生産構造全体に多大な
影響を及ぼすことは間違いない。

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