西部大開発に向け動き出す中国


「西部大開発」は全人代のキーワード

 中国の経済は、その基盤や地理的な有利性などから、これまで東南の沿海部を
中心に発展してきた。これに対し、今年3月に開催された全国人民代表大会(全
人代:国会に相当)では、沿海部と内陸部(中西部地区)の経済格差の縮小と、
内陸部における新たな市場形成の本格化によって内需拡大を図るという一石二鳥
を狙った政策として、四川省や内モンゴル自治区、重慶市など中西部の20省・自
治区・直轄市にわたる西部大開発が、長期的な総合国家プロジェクトとして位置
付けられた。

 この西部大開発では、特に外資導入が開発推進の大きなカギとなるとされ、政
府はその誘致のため、一定条件を満たす外国企業が、「中西部地区外国企業投資
優位産業目録」(6月22日公布)に掲載された農畜産物の加工業や営林植林事業
など255項目の産業に投資する場合には、その投資総額の範囲内で輸入された自
社使用設備については、原則として関税や増値税(付加価値税)などが減免され
るなどの優遇措置をとっている。また、同国は今後も、西部大開発促進のための
優遇政策を次々と制定することとしている。


重点事業の設備導入などを優遇

 西部大開発に当たり、中国では今年3月、国務院(政府)に西部開発弁公室を
正式に設立させ、総額8千億元(約10兆4千億円:1元=約13円)の投入を予定し
て本格的な開発を始動させた。また、国家発展計画委員会は4月、鉄道や道路、
空港、ダム建設などのインフラ整備や、カリウム肥料の生産など塩水湖資源の活
用による農業支援、中西部の耕地を草地や林地に戻す地域生態系改造事業など新
たな10大プロジェクトの実施を明らかにした。

 さらに、西部大開発の支援のため、国家出入境検験検疫局も、国家重点事業な
どに指定された事業向けに輸入される設備の優先検査や、牛肉および羊肉、ナッ
ツ、果物やその加工品など中西部が主な産地となっている農産物について、検査・
検疫などで優先的にサポートし、農業振興と農産物の輸出を促進するなど、10項
目の具体的な措置を打ち出している。


開発に当たっては環境保護を重視

 開発を提唱する一方で、中国首脳は、生態環境の保護についても配慮している。
李鵬全人代委員長は6月5日、西部大開発を行うことは重要であるが、経済発展と
環境保護の調和に配慮し、生態環境の破壊という代償を支払わないようにすべき
であることを強調した。

 また、国家環境保護総局はこのほど、西部大開発では、すべての大型プロジェ
クトは、事前に環境保護評価を済ませなければ許可しないことを表明した。併せ
て同総局は、環境を無視して経済開発を進め、後から環境破壊に気付いて対策を
とることは、最も愚かな開発方式であるとも指摘している。

 地域生態系改造事業は、こうした環境保護の一環としても位置付けられている。
これは先にも述べたように、中西部の耕地に植林などをして草地や林地に戻すと
いうものであるが、その背景には、このところ5年連続する食糧の豊作があると
いわれている。これにより、国の倉庫には、1年分の生産量に相当する約5億トン
もの食糧備蓄があるとされる。


農村部での畜産経営も振興

 農業部の関係者は、この事業の実施とともに、今後は農村部での畜産経営を振
興するとしている。これによると、畜産振興による飼料穀物の需要増加で市場価
格が上昇するため、政府による保護価格での買い上げなどの財政負担が軽減され
るとともに、価格に刺激されて穀物生産も自然に増える。また、畜産廃棄物に由
来する大量の有機肥料により穀物の単収も増え、さらに畜産物の加工業も発展す
るという。

 西部大開発は、短期的な活動ではなく、今後何十年という期間で何代もの人々
の努力によって達成することができるものである。西部開発弁公室は、今年中に
開発の基本的な全体計画を完成させるとしており、その内容が注目される。

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