混乱が続くマレーシアの養豚業界


一時は壊滅的な養豚産業、最近は需要回復で豚価が上昇

 マレーシアでは、98〜99年にかけて豚を介するウイルス性脳炎がまん延し、死
者100人以上を出す事態となった。この影響により、国内の豚約100万頭が処分さ
れ、同国の養豚産業は一時壊滅的な打撃を受けた。しかし、最近では、豚肉需要
が回復し、豚価は上昇傾向にある。

 国内取引消費者行政省の調査によると、昨年は100kg当たり460リンギ(約1万2
千9百円:1リンギ=約28円)であった豚の農家販売価格が、今年5月上旬は500リ
ンギ(約1万4千円)、下旬には520リンギ(約1万4千6百円)となっている。

 このため、政府は生産者との緊急会合で、豚価の高騰について、緊急輸入も含
めた対策を行うことを示唆した。しかし、生産者からは、豚肉の供給量に問題は
なく、現在の価格の上昇は季節的な需要の増大によるものであるとの意見が出さ
れ、結果的には、需要が通常ペースに戻る7月には、価格も低下するという見通
しにより、緊急輸入は当面見送られることとなった。


養豚産業は着々と復興準備

 ウイルス性脳炎発生時、全国で処分された豚の約7割は、ヌグリスンビラン州
のものだった。現在、同州では、被害にあった養豚農家を、州政府が新しく設置
する養豚団地に受け入れる準備を進めるなど、養豚産業の復興に向けた動きが見
られている。

 また、これまでに処分された豚に対する補償金は、1頭当たり50リンギ(約1千
4百円)とされているが、今般、これに70リンギ(約2千円)の上乗せ補助を実施
することも決定した。しかし、この上乗せは、同州で近く実施される国会議員の
補欠選挙向けで、同州の6割以上を占め、養豚に従事する中華系住民の人気取り
との見方が強いようである。


ニパウイルス感染症再発か?

 一方、ニパウイルスなど、豚を介するウイルス性脳炎の初発地であるペラ州で
は、最近になって約1千7百頭の豚が処分された。これは、政府の定期検査でニパ
ウイルス陽性と疑われるものが検出され、豪州にサンプルを送ったところ、陽性
が確認されたことによるものである。処分の対象となった養豚農家は1戸のみ
(6月17日までに処分完了)だが、政府はすべての養豚農家に対し、衛生水準を
高レベルに維持すること、政府のマニュアルに沿った飼養方法をとることを指導
している。

 なお、今回の抗体検査では、人間からも陽性反応が出ている。しかし、マレー
シア政府は、一度ニパウイルスに感染すれば、その後の検査で抗体陽性となるこ
とから、今回陽性反応が出たとしても、既往の感染に由来するもので、新たな発
病の心配はないとしている。

 マレーシアにおける豚を介するウイルス性脳炎は、初回の発生が確認されてか
ら、既に2年近くを経ようとしている。しかし、壊滅的な状況から立ち直ろうと
する中、同国の養豚業界はいまだ混乱のうちにあるようである。

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