フィリピン、豪州からの生体牛輸入を毎年2割削減


果実の貿易をめぐり豪州との関係が悪化

 フィリピン政府は、同国産果実(バナナ、パイナップル)の輸入禁止措置をめ
ぐる豪州政府の対応を不満として、豪州からの農産物輸入額の約8%強を占める
豪州産生体牛の一部について、輸入制限措置をとってきた(本誌7月号「トピッ
クス」参照)。

 これに加え、同国のアンガラ農業長官は先般、同措置を強化する目的で、向こ
う5年間にわたり、豪州から輸入される生体牛の頭数を、毎年前年比で2割ずつ削
減するという計画を発表した。これは、豪州政府が5月、フィリピン産果実の病
害虫の検査に2年程度の期間を必要とし、これらが終わらない限り輸入を許可し
ないと述べたことへの対抗措置とみられている。

 なお、この措置では、前年の各社の輸入実績からそれぞれ2割を削減し、当年
分として割り当てることとされている。


政府はNZ、米国及び中国からの輸入を準備

 フィリピン政府の公表している貿易統計によると、97年における生体牛の輸入
は約24万頭で、繁殖用純粋種として米国から輸入された8頭以外はすべて豪州か
らの輸入となっている。また、その頭数も最近の経済の急速な回復に伴って増加
傾向で推移しており、農業省は、99年における豪州からの輸入頭数を約25万頭と
発表している。

 一方、今年については約5万頭近く削減される豪州産生体牛の代わりの輸入相
手国として、同国政府はニュージーランド、米国、中国を候補に挙げている。ニ
ュージーランドと米国については、豪州から育種改良用として輸入していた純粋
種を、今年についてはそれぞれ2千頭および8千頭輸入する計画としている。また、
中国については、5月にエストラーダ大統領が訪中した際、両国間で専門家を派
遣し、その可能性について調査することで同意した旨を公表している。また、農
業省では、既に獣医師や検疫官を含む専門家からなる調査団を構成し、衛生問題
について検討する段階に入っているとしている。


生体牛貿易摩擦の影響で混乱する肥育業界

 こうした一方で、過去6回以上にわたり、輸入許可証を偽造して豪州産生体牛
を輸入してきたとして、生体牛輸入および肥育業界では国内最大手の企業が6月
6日、提出済みの輸入許可申請10件分の凍結を言い渡された。これを不服とした
同社は、農業省が、エストラーダ大統領やアンガラ農業長官と親しい企業を優遇
しているとして、政府の措置について法廷で争う構えを見せた。

 しかし、農業省と同社によるこの係争は、マニラ市長が仲裁に入り、企業側が
自己の非を認めるとともに、5百万ペソ(約1千3百万円:1ペソ=約2.6円)の罰
金を支払うことで一応の決着を見たが、今回の出来事は、豪州産生体牛の輸入制
限措置などに焦りを感じた生体牛輸入業者の「勇み足」との感も否めない。


豪州がフィリピン産果実の検疫迅速化を表明

 だが、6月下旬、豪州のベイル貿易相が、フィリピン産果実の検疫手続きの迅
速化要求を受諾すると発表したことで、事態は急展開した。これを受け、フィリ
ピン政府は豪州産生体牛の輸入制限措置の撤廃を発表し、農産物をめぐる両国間
の貿易紛争は、およそ半年ぶりに収束に向かうこととなった。しかし、現地の一
部報道によれば、フィリピン側は、豪州産生体牛の輸入頭数を毎年2割ずつ削減
するという措置については当面そのまま実施するとしているほか、豪州側も、バ
ナナとパイナップルの検疫を同時に開始するものではないことを示唆するなど、
今後の両国の動向が注目される。

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