ひき肉製品の安全性対策をめぐる官民の攻防(米国)


司法当局はメーカーに軍配

 テキサス州の連邦地方裁判所は5月25日、危害分析重要管理点システム(HAC
CP)の実施をめぐる訴訟で、サルモネラ菌検査をクリアできなかった大手ひき肉
製品会社のシュープリーム・ビーフ・プロセッサーズ社(本社:テキサス州)に
対する米農務省(USDA)の操業停止措置を否定する判決を下した。

 USDA食品安全検査局(FSIS)は、96年7月に制定されたHACCPに基づく食肉検
査規則により、すべての食肉処理・加工施設に対しHACCPの導入を義務付け、ま
た、それが病原菌の削減に有効に機能しているかどうかを確認するため、生肉ま
たはひき肉製品の工場に対しては、サルモネラ菌の削減達成基準を設けている。
具体的には、@一定のサンプル検査により、サルモネラ菌の付着が認められた場
合、当該工場は改善措置を講じ、Aその後の再検査にも適合しない場合には、さ
らなる是正措置をとる必要があり、B最終的に3回の検査もクリアしなければ、
FSISによる食肉検査が中止されるというもので、これは事実上の工場の操業停止
を意味する。

 同社は、この検査を3回ともクリアできず、99年10月、FSISによる食肉検査の
中止が宣告されたことから、その正当性を問うための訴訟を起こしていた。


制度見直しを求める業界

 連邦地方裁判所による判決の要旨は、「USDAによるサルモネラ菌の検査が、
必ずしも食肉加工場の衛生状況を評価するための唯一の手法であるとは限らず、
連邦食肉検査法においては、食肉検査を中止することができるという権限は、U
SDAには与えられていない」というものである。これについて、パッカーや食肉
加工業者等からなる米国食肉協議会(AMI)をはじめとする業界12団体は、「H
ACCPの適合状況を評価するため、微生物学的なサンプル検査を行うこと自体に
は賛成だが、USDAによるサルモネラ菌の削減達成基準には欠陥があることが今
日の判決で明らかになった」として、現行基準の再考を促す共同声明を発表した。

政府は強硬姿勢を崩さず

 一方、グリックマン農務長官は判決の下された25日、「この誤った判決を覆す
ため、あらゆる法的手段を講じるとともに、米国産食品の安全性確保のために必
要な追加的規制を模索していく」と述べ、翌26日には、ホワイトハウスの報道官
も、同様の緊急声明を公表した。

 さらに、FSISは6月13日、同社が本年2月以降に行われた4回目のサルモネラ菌
検査においても不合格であったことから、同社に対して、牛ひき肉製品の製造を
自主的に停止するよう求めるとともに、基準に適合させるためのさらなる改善措
置を検討するよう要請したことを明らかにし、米国政府の揺るぎない立場を改め
て強調した。

 なお、同社は、連邦政府が行う学校給食プログラムで用いられる牛ひき肉製品
の約15%を供給しているとされている。こうした中で、USDA農業マーケティン
グ局(AMS)は、本年9月の新学期から学校給食用に買い上げる牛ひき肉製品に
ついて、サルモネラ菌の付着を一切認めないとの方針(ゼロ・トレランス)を明
らかにしており、これについても、関係業界に大きな波紋が広がっている。

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