EUの豚肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○ポンド高による輸入増などで、打撃を受けるイギリス養豚産業



99年上半期のイギリスの豚肉生産量、前年同期比6.8%減

 EUの豚肉生産は、97年に主要生産国の1つであるオランダで大規模な豚コレラ
が発生し、一時的に域内の需給がひっ迫したことを契機に拡大を続けていた。北
米などでも同時期に豚肉生産が拡大していたことから、主要生産国では豚肉の需
給バランスが失調し、98年末にかけて記録的な豚肉価格の暴落に見舞われた。そ
の後、EU各国は生産縮小に向けて調整に入っている。

 この中でも、EU第7位の生産国であるイギリスの生産縮小は目立ったものとな
っている。99年上半期(1〜6月)のイギリスの豚肉生産量(枝肉ベース)は、前
年同期比6.8%減の52万8千トンと他のEU主要生産国が前年同期を上回っている中、
唯一減少に転じた。

◇図:豚肉生産量の増減比(前年同月比)◇


デンマーク、オランダからの輸入が急増

 イギリスでも、98年末にかけての豚肉価格の暴落による採算性の悪化により、
養豚生産者のマージンが長期にわたってマイナスに落ち込んだ。このため、多く
の生産者が生産縮小や廃業に追い込まれたとみられている。加えて、デンマーク
やオランダなど域内からの安価な豚肉の輸入急増が、イギリスの生産者の経営状
況をさらに悪化させ、同国の生産縮小を加速した要因となっている。

 イギリスにおける99年上半期の豚肉輸出入の状況を見ると、輸入量(製品重量
ベース)は、同23.4%増の8万9千トンに急増したが、そのほとんどが域内からの
ものである。対照的に、輸出は同14.5%減の10万4千トンに落ち込んでいる。

イギリスの99年上半期の豚肉国別輸出入量
po-eu06.gif (4981 バイト)
 資料:MLC「UK Meat Market Review」


ポンド高が輸入急増の主要因

 このようなイギリスの輸入急増、輸出不振は、次の2つの要因により、同国産
豚肉の競争力が低下したためとみられる。

 第1に、為替レートの問題である。イギリスはEUの統一通貨であるユーロに参
加しなかったため、同国産豚肉の競争力は、域内貿易であってもポンドの為替レ
ートに強い影響を受ける。ユーロやEU最大の輸出国であるデンマーク(同国もユ
ーロに参加していない)の通貨であるクローネに対するポンドの為替相場は、堅
調なイギリス経済を反映し、ここ数年ポンド高の傾向で推移している。99年10月
のポンドの対ユーロ為替レートは、同年1月に比べて8.1%も高いものとなってい
る。

◇図:ポンドおよびクローネの対ユーロ為替レート◇


養豚業界にも重くのしかかるBSE対策経費

 第2に、牛海綿状脳症(BSE)の問題である。イギリス政府は、ばく大なBSE対
策経費をねん出するため、養豚産業に対しても1頭当たり5.26ポンド(約915円:
1ポンド=174円)を課しており、養豚業界ではこの措置に対する不満が日増しに
高まっている。

 こうした状況の中、イギリス食肉家畜委員会(MLC)は99年11月、豚肉消費拡
大事業のための課徴金(1頭当たり65ペンス(約113円))徴収を一時的に停止す
ることとした。しかし、今後もポンド高の傾向は続くとみられており、EUの豚肉
価格が、99年9月のロシア向け豚肉輸出補助金の引き下げや民間在庫補助の発動
解除の後、再び低下しているなど、イギリス養豚産業を取り巻く状況は厳しさを
増している。

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