家畜の個体識別に電子標識の採用を決定(豪州)


全国レベルでの正式採用を決定

 豪州の食肉安全性を管理するセーフミート(SAFEMEAT)は、11月17日、2000
年から本格的に開始される全国家畜個体識別制度(NLIS)で使用する標準個体識
別装置として、電子標識を採用すると発表した。

 既に、ビクトリア州では、99年7月から、同州政府の協力の下で1百万個の電子
標識(耳標)が農家向けに無料配布され、個体識別装置としての有効性がテスト
されていたが、今回は、その成果を踏まえて正式に全国レベルでの採用が決定さ
れた。

 この間、電子標識のほか、バーコード標識の採用なども検討されたが、電子標
識は、コストがやや高いというデメリットがある反面、他の装置に比べてデータ
の認識・処理の自動化が容易であることや、誤認の可能性が低い点などが高く評
価されたとされている。

 電子標識は、牛の場合、耳標として装着されるか、または第一胃に据え置かれ、
そのデータの読み取りにはハンディタイプまたは固定式の専用機器が使用される
ことになる。


安全性の監視と併せて品質の改善にも貢献

 NLISにより、この電子標識には、牛の出生から飼養管理、流通販売、と畜処理
に至るまでの多くのデータが記録される。これらのデータは、豪州食肉家畜生産
者事業団(MLA)によって集中的に管理され、牛肉の安全性が監視される。また、
牛肉の品質に関するデータを生産者にフィードバックし、牛肉の品質改善にも貢
献すると期待されている。

 NLISは、世界的な規模で食品の安全性への関心が高まる中で、これに対処する
べく推進されているものであるが、現時点では、その参加・不参加は、あくまで
生産者の任意となっている。実際、クインズランド州などで一般的に営まれてい
る大規模で粗放的な肉牛生産に、これをそのまま適用することは、極めて困難で
あると想定される。


装着の義務化にはコスト面で抵抗感も

 牛肉の安全性の監視については、現行の体制の下でも、と畜後の輸出検査で残
留薬物などが発見された場合には、速やかにその生産牧場が特定できることから
も分かるように、既にかなりの程度、達成されていると言える。

 このため、肉牛生産者の間には、コストのかさむ制度を新たに導入することに
疑問を呈する向きも強く、今後、NLISの義務化が具体的に検討される場合には、
かなりの抵抗が出ると予想される。

 なお、豪州検疫検査局(AQIS)は、食肉輸入に厳しい条件を課しているEUの
要求に基づき、EU向け輸出についてのみ、12月1日から、電子標識の装着や流通
段階における他の牛との隔離を義務付けることとした。しかし、これはあくまで
もEUへの輸出を希望する関係者を対象とした措置であり、任意参加であることに
基本的に変わりはない。

 豪州は、世界の牛肉市場で競合するニュージーランドやカナダなどが相次いで
牛の個体識別制度の具体化を進める中で、この潮流に乗り遅れないように努力し
ていると言えよう。

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