飲用乳制度改革で生産者投票の実施を決定(豪州)


酪農生産者による投票で飲用乳制度撤廃の是非を

 豪州最大の酪農生産州であるビクトリア(VIC)州政府は、11月9日、同州の飲
用乳制度の撤廃についての是非を問う酪農生産者投票を12月20日までに実施する
と発表した。

 豪州では、飲用向け生乳の生産者価格を規制する制度が州ごとに実施され、各
州の飲用乳価格は、加工原料乳価格の約2倍の高い水準に維持されている。

 このため、連邦政府(自由・国民党連合)は、規制緩和政策に基づいて同制度
の撤廃を提案しているが、これは飲用向け生乳価格の引き下げにつながるため、
生産者に多大な影響を及ぼすとみられている。

 一方、加工原料乳に対しては、定額の補てん金を支払う加工原料乳制度が実施
されている。しかし、その支払額は長年にわたって徐々に引き下げられており、
2000年6月末には完全に撤廃されることが既に決定されている。


中小の酪農家を中心に不安と反発が高まる

 豪州最大の酪農生産州であり、加工原料乳制度による恩恵を最も多く享受して
きたVIC州は、これを機に自州の飲用乳制度を廃し、生乳の生産流通を完全に自
由化することにより、他州への影響力を強めようとしている。同州の飲用向け比
率が他州に比べて極めて低い(約8%)こともその立場を有利にしている。

 このため、VIC州政府(自由・国民党連合)は、99年7月中旬、飲用乳制度の撤
廃を公約し、制度改革は順調に進むかに見えた。ところが、9月の州議会選挙で
与党が予想外の惨敗を喫し、野党(労働党)に政権を明け渡す結果となり、主要
な酪農生産地で多数の議席を失った。

 これについては、前政権が経済合理化を急ぐあまり効率の悪い地方への投資を
大幅に削減したため、地方住民の反発を招いたことが主因と分析されている。

 酪農に関して言えば、補償金と引き換えに自分達が切り捨てられるのではない
かという、主に中小の酪農生産者を中心に不安と反発が高まったとみられている。

 予想外の結果に慌てた連邦政府は、9月末、総額18億豪ドル(約1,260億円:1
豪ドル=70円)の大型酪農補償パッケージを急きょ発表した。また、連邦上院の
特別調査委員会も、飲用乳制度の撤廃はやむを得ないとの報告を発表したが、対
応が後手にまわった。


課題が山積みするVIC州新政権

 VIC州の新政権は、前政権による強引な制度改革を批判し、生産者による投票
を実施して意見を聴取すべきだと主張した。今回、決定された生産者投票は、こ
の公約に基づくものである。

 しかし、新政権にも課題が山積みしている。選挙では生産者への補償が十分で
ないと批判したが、連邦政府がこれ以上の補償上乗せに合意する可能性はほとん
どない。また、州独自の具体的な対策を用意しているわけでもない。仮に、連邦
政府の意向に背いて飲用乳制度を維持または延長した場合、18億豪ドルの補償パ
ッケージはすべて御破算となり、2000年6月末には、何の補償もなしに加工原料
乳制度の撤廃に直面せざるを得ないことになる。

 新政権は、生産者投票の結果を酪農政策の参考にする(投票結果だけで政策決
定はしない)としているが、いずれにせよ、今後は非常に難しい政策のかじ取り
を迫られることになる。12月20日に締め切られる投票の結果と、新政権の対応ぶ
りが注目される。

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