豚肉小売店に冷蔵陳列棚の設置を義務化(シンガポール)


冷蔵陳列棚の設置が営業の必須条件に

 シンガポール政府は、99年11月1日からすべての豚肉小売店に、冷蔵陳列棚の
設置を義務付けた。

 豚肉小売店を営むためには、政府の営業許可証が必要であるが、今回の措置に
より、これまでの許可証は10月31日までで無効とされた。このため、小売店は改
めて許可を取り直すことが必要となったが、許可の条件として、政府が公認する
冷蔵陳列棚の設置が必須となっている。ただし、電源供給などのため、大規模な
修繕工事を行っている小売店については、その工事が終了するまでの間、アイス
ボックスなどの使用による一時的な営業が許可されている。


豚を媒介とするウイルス性脳炎が契機

 シンガポールでは、豚肉の供給を、従来は隣国マレーシアからの生体輸入のみ
に頼っていたが、マレーシアで、98年10月ころから豚を媒介とするウイルス性脳
炎が発生したため、その供給を主に豪州などからの冷蔵肉に切り替えている。さ
らに、99年3月、マレーシアから輸入された豚のと畜作業を行っていた作業員11
人がウイルス性脳炎に感染、うち1名が死亡したことを受け、マレーシアからの
生体豚の輸入が全面的に禁止されることとなった。このため、現在、輸入が許可
されているインドネシア産の生体豚についても、と畜後冷蔵庫で冷却してから流
通させており、豚肉の流通形態は、これまでの温と体(おんとたい)から冷蔵へ
と大きく変化している。

 今回の措置も、この流通形態の変革に伴うもので、今後、鶏肉小売店について
は2000年5月1日から、羊肉小売店および牛肉小売店については2000年11月1日か
ら、それぞれ冷蔵陳列棚の設置が義務付けられることとなっている。

 なお、シンガポール政府は、消費者が伝統的に温と体流通に慣れ親しんでいた
ことから、冷蔵肉の取り扱いについて、@肉の保存は冷蔵庫で行うこと、A肉の
保存期間は、4度で5日間もしくはマイナス18度で2週間までが目安であること、
B冷凍肉の解凍は、常温ではなく冷蔵室か電子レンジを用いること、C一度解凍
した肉は再凍結させず、3日以内に食べてしまうことという基礎的なアドバイス
を公表している。


取り扱いの不満はあるものの、消費者からは衛生的と好評

 一方、冷蔵陳列棚を導入した豚肉小売店には、その取り扱いに苦労していると
ころも見受けられている。政府は、内部の温度が4度で均一な状態となる、フラ
ットベッド型と呼ばれるタイプのみを公認の陳列棚としているため、その中に豚
肉を並べきれないという店も出ている。このような場合、豚肉を重ねて並べると、
肉色が変化して売れなくなってしまうため、店によっては、仕方なく陳列棚の中
にフックでつるしたり、別に保管用の冷蔵庫を購入するなどの対応をしていると
ころもある。また、肉の取り出し口をその都度閉める必要があるため、売り手側、
買い手側双方から、豚肉が買い手に渡るまでの時間が、従来に比べて長くなった
という不満も出ている。しかし、多くの消費者からは衛生的になったと好評で、
豚肉の流通形態の変化は、シンガポールの社会におおむね受け入れられているよ
うである。

 なお、冷蔵陳列棚を設置した豚肉小売店の様子については、本誌「変貌するシ
ンガポールのウェットマーケット」(59頁)を参照されたい。

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