ITC、カナダ産生体牛のダンピング問題でシロ認定(米国、カナダ)


米国の肉牛産業は損害を受けていないとの判断

 米国際貿易委員会(ITC)は99年11月9日、カナダ産生体牛輸入のダンピング問
題について、当該産品の輸入によって米国の肉牛産業は実質的な損害を受けてお
らず、また、損害を受ける恐れもないとして、これをシロとする決定を下した。

 決定理由の詳細はまだ明らかにされていないが、@米国の牛肉市場規模と比較
してカナダ産生体牛の占める割合が少ないこと(98年では、米国の総牛肉需要量
に占めるカナダ産生体牛の割合は3.7%。)、Aカナダ産生体牛が生産コストを
下回る価格で販売されたとしても、その価格は自由な取り引きの下で形成された
ものであることなどの要因が勘案されたものとみられている。


商務省のクロ認定を覆す決定

 ITCの決定は、米商務省(DOC)のダンピング認定を覆すものである。この問
題は、米国の肉牛生産者団体の1つである牧場主・肉用牛生産者行動法律財団
(R−CALF)が98年11月、カナダ産生体牛の輸入に対するアンチダンピングなど
に関して、ITCに提訴したことに端を発する。DOCはこれを受けて調査を実施し、
99年7月にダンピングとする仮決定を下したのに続き、同年10月13日には最終的
にクロと認定する決定を発表していた。

 DOCの最終決定に基づき、カナダ産生体牛の輸入に対しては、ITCの判断が下
されるまでの間、個別に関税率が示された6社を除き、5.63%のアンチダンピン
グ関税が暫定的に課されていた。今回のITCの決定に従って、当該関税の適用は
中止され、既に徴収された関税は納税者に返還されることになる。


カナダ側はITCの決定を歓迎

 カナダ政府は、DOCがクロ認定を発表した際、カナダからの輸入が米国の肉牛
生産者に損害を与えていないのは明らかであると主張するとともに、調査対象期
間中の肉牛価格が国境を挟む両国で下降局面にあり、カナダからの生体牛の輸入
は米国の肉牛価格の低下に対して責任がない旨のコメントを発表していた。この
ため、バンクリフ農業・農産食料相は、ITCの決定を「論理的に唯一可能な結論」
と述べ、「今後アンチダンピング関税を支払う必要がなくなり、通常の競争条件
で生体牛を輸出できるようになるため、カナダの肉牛生産者にとって喜ばしいニ
ュース」と歓迎の意を表した。


両国間の生体牛貿易問題に一応の区切り

 今回のアンチダンピング調査は、ITCの最終決定をもって打ち切りとされる。ま
た、R−CALFがアンチダンピングと同時に提訴した相殺関税問題について、DOC
は、ダンピングのクロ認定を下した99年10月13日に、カナダの肉牛生産に対する
補助金の割合は、0.77%と無視できる水準であるとしてシロの最終決定を下し、
調査は既に打ち切られている。しかし、R−CALFのレオ・マクダネル会長は、ITC
のアンチダンピングに関する決定について「極めて失望した」と述べるとともに、
「決定理由を精査して今後の方針を決めたい」としている。また、カナダ近隣の
北部生産州選出議員もITCの判断に批判的で、トム・ダッシェル上院議員(民主党
・サウスダコタ州)は、「肉牛市場が、生産コストを下回って輸入されるカナダ
産生体牛により被害を受けているのは明らかで、ITCの決定は納得できない。今後
も生産者とともにこの問題に取り組んでいく」と語った。こうしたことから、今
後は、R−CALFが、ダンピング問題を北米自由貿易協定(NAFTA)に基づく紛争処
理パネルに提訴するかどうかといった点に関心が移される。

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