海外駐在員レポート 

タイにおける畜産物の価格安定制度

シンガポール駐在員事務所 外山 高士、宮本 敏行




1 はじめに

 タイでは、近年の経済の急速な発展などによる所得向上により、畜産物の消費
量が増加傾向で推移していた。しかし、97年に発生した通貨危機を境に、輸入品
をはじめとする物価の上昇などによる消費の減退と、金融機関の破綻で、融資を
受けられなくなった中小規模農家の生産中止などにより、国内生産量が減少した
ことから、消費は一転して減少傾向で推移している。また、エルニーニョをはじ
めとする異常気象による生産効率の低下や飼料価格の高騰など、畜産物の価格を
大幅に変動させる要因が国内には多く見られている。さらに、タイの畜産は、農
家に対する需給動向の情報提供が十分でないことなどから、大幅な価格上昇の直
後に、生産過剰による価格暴落を引き起こしやすいという生産構造を持っている。
このような中で、生産と価格の安定により、農家の収入確保を図ることは、農家
経営と農産物の供給を維持し、消費者の負担を増加させないという点からも重要
なものとなっている。

 タイでは通貨危機以降、農産物に関する価格安定の事業が、主要な輸出産品で
あるコメをはじめとする多くの農産物に実施されている。このレポートでは、畜
産物の価格安定制度の概要と、99年において、政府が豚肉と鶏肉、鶏卵について
実施した市場介入について紹介したい。


2 価格安定制度の概要

(1)価格安定制度の関係機関

 タイにおける価格安定制度は、農産物の価格が暴騰もしくは暴落した場合に、
生産に要した経費に見合う収入を得られるよう生産農家を援助する方法か、ある
いは消費者の家計への影響を緩和するため、期間を限定して農産物の価格を調整
する方法により実施されている。この制度に関係する機関は、大きく次の3つに
分類される。

@政策決定機関である農民援助政策および措置委員会(Farmers
 Assisting Policy and Measures Committee:FAPMC)

A制度の計画立案機関である商務省国内貿易局(Department of 
 Internal Trade)と農業協同組合省協同組合振興局
(Department of Cooperatives Promotion)

B制度実施委託機関である公共倉庫機構(Public Warehouse 
 Organization:PWO)と農民市場機構
(Marketing Organization for Farmers:MOF)、
 農業協同組合銀行(Bank of agriculture and Agricultural Cooperatives)

@政策決定機関

 価格安定制度の実施を決定する政府機関は、FAPMCである。FAPMCは、委員長
に副首相、副委員長に蔵相、商務相、農業協同組合相の3人が任命されており、
関係各省の担当者のほか、農業協同組合銀行、タイ農業協同組合、タイ農民中央
協議会から選任された委員により構成されている。FAPMCはほかのどの政策委員
会とも連携していない独立した機関で、これらの委員は全員首相によって任命さ
れる。

 この委員会の任務は、@価格安定方法の提案および設定、A価格安定を実施す
る期間の設定、B生産動向の調査、C価格安定を行う際の目標価格の設定、D価
格安定に要する予算の認可、E価格安定に関係する機関の調整となっている。ま
た、これらの任務を補完する目的で、農産物価格小委員会と市場援助小委員会を
設置し、それぞれ目標価格の設定と販売市場の拡大を担っている。

 なお、この委員会の市場介入の対象となる農産物は、豚肉、鶏肉、鶏卵の畜産
物のほか、コメ、トウモロコシなど全部で14品目となっている。

A計画立案機関

 価格安定制度の計画立案を行う政府機関は、商務省国内貿易局と農業協同組合
省協同組合振興局である。国内貿易局の任務は、市場介入の対象となる14品目の
農産物について価格の安定と市場拡大などの販売の援助、そして価格や市場独占
の監視を法律に基づいて実施することである。また、同局はFAPMCの事務局を担
当している。

 なお、国内貿易局は11の課から構成されているが、畜産物の価格安定に関する
立案を担当しているのは農産物価格安定課(Agricultural Price 
Stabilization Bureau)であり、この中に畜産物と水産物の
担当部署が配置されている。

 一方、協同組合振興局の任務は、個人農家の農協組織への加入援助とその広報
である。この中には、農家に対する技術訓練や講習会による新技術の普及と、協
同組合の設立および運営に関する援助・指導を含んでいる。また、これらの農協
およびその構成員に対する市場介入実施の権利付与を、FAPMCから委ねられてい
る。なお、価格安定には直接責任を負っていないが、農業協同組合省には畜産振
興局(Department of Livestock Development)があり、
増加する国内消費量に見合う畜産物の確保を目的として、生産量増加のための育
種改良をはじめ、飼料作物の品種改良や家畜衛生水準の向上を通じた安定生産へ
の取り組みも行っている。

B委託実施機関

 FAPMCで決定された価格安定事業を委託実施する機関は、商務省所管の公共倉
庫機構(PWO)と、農業協同組合省所管の農民市場機構(MOF)および農業協同
組合銀行である。なお、価格安定事業には、計画立案機関である商務省と農業協
同組合省による直接実施の方法もあり、99年の畜産物に関してはこの方法がとら
れている。

 PWOは、コメなどの穀物を中心としたタイ国内における需要に対して、適切で
十分な供給を確保するための機関である。FAPMCから、農産物の市場に介入し、
農産物の市場隔離を実施する機関として指定されている。なお、99年にPWOが市
場介入した農産物は、コメ、トウモロコシ、タピオカ、パームヤシ、タマネギお
よびパイナップルであった。

 MOFには、特設小売市場の設立が認められており、ここでは農家が生産物を直
接持ち込み、販売することが可能となっている。このため、流通経費の削減を図
ることができ、価格高騰時に消費者の支出を抑える機能を果たしている。また、
ここで販売される農産物は、政府が目標価格を策定する対象となっていることか
ら、農家は販売額との差額について補助されることとなっている。MOFは、
FAPMCから、農産物市場に介入し、農産物の低価格での小売販売を実施する
機関として指定されている。なお、99年にMOFが市場介入を実施した農産物はコ
メである。

 農業協同組合銀行は、農家に対して低金利での貸し付けの提供と、農産物を担
保にしての貸し付けを行っている機関である。価格の下落時に、これらの機能に
より農家経営の安定を図る機能を果たしている。また、農業協同組合銀行は、F
APMCから、農産物市場に介入し、農産物を市場隔離する機関として指定
されている。なお、99年に農業協同組合銀行が市場介入を実施した農産物はコメ、
トウモロコシ、タピオカ、サトウキビである。


(2)価格安定の方法

 タイ政府がこれまでに実施した価格安定の方法は、次の4つに分類される。

 価格の下落時には、

@農業協同組合や生産者協会、家畜商、加工品工場などで農産物の保管(冷凍保
 存)を実施し、これに要した経費について、低金利もしくは無利子での貸し付
 けを実施する。

A生産量の調整のため、種畜のとう汰などの生産調整を行った生産者に対して、
 無利子での貸し付けを実施する。

B農産物の輸出を支援するため、輸出経費や輸出市場の開拓に要した経費を直接
 補助する。

 一方、価格の高騰時には、

C生産者が、市場において直接農産物を市場価格より安価で販売し、この販売に
 要した経費などについて、低金利もしくは無利子での貸し付けを実施する。

 しかし、Bの方法は92年に鶏卵で実施されたことがあるものの、ガット・ウル
グアイラウンド合意の中で輸出補助金とみなされていること、タイが農産物の自
由貿易を推進するケアンズグループの一員であることなどから、現在は実施され
ていない。また、これらの方法は、すべて実施機関を限定した緊急対策としての
み実施され、その予算額も、対象となる農産物の生産額の1%未満と大変少なく
なっている。これは、市場介入を行うことで市場メカニズムが弱体化するという
タイ政府の基本的な考え方が背景にあるためとみられている。


(3)目標価格の算定基準

 FAPMCは、価格安定に当たっては、目標価格を設定し、この価格に実際の
卸売価格が近づくよう事業を実施する。過去において、この目標価格の設定に当
たっては、

@すべての農産物について、生産農家における1年間の収入予測を立て、実際の
 対象農産物の収量と農家収入予測から算出する方法

A過去3ヵ月間における平均価格を、異常に高騰もしくは下落しているときの数
 値を除いて算出する方法

 の2通りが用いられているが、最近ではAの方法がもっぱら採用されている。


3 各品目における価格安定事業の概要

(1)豚肉

ア 需給動向

 タイにおける豚肉の生産量は、堅調な経済成長を背景に増大する消費量を受け、
増加傾向で推移していた。97年における豚枝肉生産量は、前年比7.3%増の約91
万5千トンであった。しかし、98年からは一転して減少傾向となっており、枝肉
生産量は前年比13.5%減の79万2千トン、99年も2.0%減の77万6千トンとなって
いる。

 これは、97年後半に発生した通貨危機の影響により、消費者の購買力が低下し
たうえ、輸入飼料を中心として家畜飼料の価格が急上昇したことが主な原因であ
るとされている。このため、同様の傾向が消費量にも見られており、97年に前年
比20.7%増の95万3千トンであったものが、98年には12.3%減の83万5千トン、99
年も9.9%減の75万2千トンとなっている(表1参照)。なお、タイにおける豚の
平均生体重はおよそ100kgで、枝肉重量には脚と頭部を含んでいるため、平均83
.4kgと日本の枝肉重量よりも重くなっている。

表1 タイにおける豚肉生産量と消費量の推移
re-spt01.gif (4065 バイト)
 資料:タイ農業協同組合省農業経済事務所
  注:枝肉重量=83.4kg/頭

 一方、輸入は主に育種改良用の種豚が中心で、豚肉または豚肉加工品としての
輸入は、一部の高級レストランやホテルなどで使われるものに限られており、非
常に少ない。また、輸出についても、以前は香港やシンガポールなどに肥育豚を
生体で輸出していたものの、中国やマレーシアとの価格競争に勝つことができず、
現在はラオスやベトナムに種豚として輸出しているほかは、生体での輸出はほと
んどない状況となっている。さらに、タイ国内では口蹄疫が依然として発生して
いることから、輸出品の多くは加熱処理された豚肉加工品であり、輸出相手国は
香港と日本が中心となっている。

 この結果、豚肉について、タイはほぼ自給自足している状況となっている。

イ 流通状況

 養豚農家は大きく小規模独立農家、中規模独立農家および大規模インテグレー
ターの3つに分類される。小規模独立農家が家畜商や農協を経由して豚を販売し
ているのに対して、中規模独立農家と大規模インテグレーターは、バンコクの卸
売業者や独自の販売ルートにより、小売業者や食肉加工品会社へ販売していると
いう特徴がある(図1)。また、最近では、小規模養豚農家が減少する傾向にあ
ることから、家畜商を経由して出荷される豚の頭数が減少しており、これに従っ
て家畜商の数も減少傾向にあるといわれている。それぞれの市場占有率は、小規
模独立農家と中規模独立農家がそれぞれ約2割ずつ、大規模インテグレーターが
約6割となっている。なお、タイにおける豚の主産地はラチャブリ県、ナコンラ
チャシマ県、チャチェンサオ県などバンコク近郊の中央地域と、北部地域のチェ
ンマイ県、東北地域のナコーンパノム県となっている。

◇図1 豚の流通経路の模式図◇
re-spg01.gif (18760 バイト)

 豚肉の取引価格は、主にタイ養豚協会や、業界最大手のチャロン・ポカパン
(CP)グループによって公表されている価格が指標とされることが多い。CPグ
ループでは、豚肉価格の透明性を高めるため、バンコク市内にノンチョック(N
ongjok)生体豚市場を設置し、同グループの契約農家で生産された豚を、
バンコク市内もしくはその近隣地域の小売店に販売している。このため、豚肉の
価格は、市場における実際の豚肉の流通量や需要動向などと密接にリンクしてい
る(図2参照)。

◇図2 タイにおける豚肉価格の推移◇

ウ 価格安定の手法と99年における市場介入の状況

 これまで政府によって実施されてきた豚肉価格の安定手法は、価格下落時の農
家などに対する無利子融資の実施と、価格高騰時の固定価格による産地からの直
接販売の2つに大別される。

 価格下落時の無利子融資には、@指定された価格で豚を買い入れる卸売業者に
対し、実勢価格との差額を貸し付けるもの、A豚肉を冷凍または加工して保管す
る場合の経費を貸し付けるもの、B種付けを遅らせるなど生産調整を行う養豚農
家に貸し付けを行うものがある。なお、97年に豚肉価格が下落した際には、2,0
00万バーツ(約5,460円:1バーツ=2.73円)の予算で@の方法を発動し、国内
貿易局による価格安定が図られた。

 価格高騰時の直接販売には、@養豚農家から実勢価格で豚を買い上げ、目標価
格で直接消費者に豚肉を販売する方法、A豚肉の小売価格を統制する方法、B主
産地の中央地域から、供給が不足している南部地域への豚の輸送に補助する方法、
C生産した子豚を小規模農家に販売した農家に、通常価格との差額を補助する方
法がある。

 99年に実施された市場介入では、供給過剰によって発生した豚肉価格の下落に
対し、FAPMCは同年9月28日、総額2億3,500万バーツ(約6億4,155万円)の予算
で、国内貿易局が次の措置による市場介入を行うこととした。

@バンコク市内における生体豚の目標価格を、1kg当たり39.28バーツ(約107
 .2円)に設定する。

A99年10月から2000年3月まで、2kg当たり100バーツ(約273円)で豚を買い上
 げ、バンコク市内で安価に販売する。このための予算として、3,500万バーツ
(約9,555万円)を割り振る。

B市場に流通している豚肉の量を減らすため、99年10月から2000年9月まで、
 養豚農家や家畜商、加工品製造業者による豚肉の冷凍保管事業を実施する。こ
 のための予算として、2億バーツ(約5億4,600万円)を割り振る。

 これらの市場介入を実施したものの、2000年5月における生体豚の農家販売価
格は、前年比29.9%安の1kg当たり33.7バーツ(約92.0円)と、依然として目標価
格を下回る低価格で推移している。


(2)鶏肉

ア 需給動向

 タイにおける鶏肉の生産量は、豚肉と同様に、増加する国内消費量と堅調な輸
出を背景に、増加傾向で推移している(巻末資料参照)。1人当たりの消費量も、
通貨危機の影響により98年は、前年比2.5%減の10.83kgと落ち込んでいるものの、
99年には前年比5.0%増の11.37kgとすぐに増加に転じ、通貨危機以前の97年をも
上回って推移している。商務省は、これについて、外資系のファストフード業者
の進出が活発になったことにより、家計消費よりも外食産業で消費される鶏肉が、
特に青少年層を中心に伸びていることに伴うものと見ている。また、この傾向は
首都バンコクだけでなく、チェーン店の拡大とともにタイの国内全域に広がりつ
つある。

 一方、輸入は、ブロイラーひな生産のための原種および原々種鶏が中心となっ
ており、鶏肉としての輸入はほとんどない。輸入相手国は米国、イギリス、フラ
ンスなどで、そのほとんどがコマーシャルびなとなっている(表2参照)。また、
輸出については、国内生産量の2〜3割が向けられており、タイを代表する輸出農
産品の1つとなっている。特に日本は、近年減少傾向にあるものの、冷凍鶏肉の
約60%、鶏肉調製品の約50%が向けられ、輸出相手国としては最大のシェアを誇
っている。また、97年の通貨危機により、輸入飼料などの生産費が上昇している
中で、輸出価格はバーツの切り下げなど低下傾向で推移しており、これにより輸
出量は増加傾向で推移している。しかし、最近では、冷凍鶏肉については、ブラ
ジルや中国などとの価格競争が激化していることから、徐々に加工度を高めた鶏
肉調製品の輸出へとシフトする傾向にある(表3参照)。

表2 タイにおける輸入鶏の主なブランド
re-spt02.gif (3309 バイト)

表3 タイにおける鶏肉と鶏肉調製品の輸出の推移
re-spt03.gif (3472 バイト)
資料:タイ大蔵省関税局

イ 流通状況

 ブロイラーを生産する養鶏農家は、大きく2つに区分されている。1つは、自営
型の養鶏農家で、主に地鶏の育成を自らの投資による施設で行っている農家であ
り、比較的規模の小さいものが中心となっている。もう1つは、いわゆるインテ
グレーターによる大規模生産農家や、インテグレーターとの契約生産を行ってい
る養鶏農家で、それぞれの市場占有率は、自営型が2〜3割、インテグレーター系
が7〜8割程度である。自営型の養鶏農家が、家畜商などを経由して、生産地域の
卸売業者や小売業者に生産物を販売しているのに対して、インテグレーター系の
ものは、主にバンコクの市場や鶏肉調製品工場に出荷されている。また、輸出に
仕向けられるものも、主にインテグレーター系のものとなっている(図3参照)。
なお、タイにおけるブロイラーの主産地は、首都バンコク近郊のチャチェンサオ
県、ナコンパトム県、ラチャブリ県などとなっている。

◇図3 ブロイラーの流通経路模式図◇
【インテグレーターと契約飼育している場合】
re-spg03a.gif (23811 バイト)
【自営型農家の場合】
re-spg03b.gif (19932 バイト)

 鶏肉の取引価格は、総生産量の約3割を占めると言われている最大のインテグ
レーター、CPグループの公表価格が指標とされることが多い。また、多くの場合、
買い手側が価格の決定権を持っているようである。このため、ブロイラー価格は、
市場での流通量や輸出品の需要動向、国内での消費動向によって変動していると
みられている。なお、インテグレーターとの契約生産を行っている農家では、契
約時に1羽当たりの販売価格が決定されており、短期的な価格の変動による農家
収入への直接的な影響は少ないが、逆に農家がそのときの相場に応じて販売価格
を決定することはできない。

ウ 価格安定の手法と99年における市場介入の状況

 FAMPCは、養鶏農家の経営に影響を及ぼすほどの価格下落、もしくは消費者に
とってあまりにも不利益となるほどの価格上昇が見られたとき、市場介入を実施
することとされている。また、この場合の目標価格は、生産費と一致させること
となっている。

 過去において鶏肉の価格下落の際に用いられた手法は、冷凍保管により市場隔
離をすることで価格を維持するものである。また、長期的な対応として、中近東
やアフリカなどの新しい輸出市場の開拓を、政府と民間企業が協力して行うこと
や、輸出相手国の求める品質への向上対策も行っている。一方、価格高騰時に用
いられた手法は、生産者協会などと協力して、MOFなどで鶏肉の直接販売を実施
することで、より安い鶏肉を消費者に提供するというものである。

 99年に実施された市場介入では、輸出の停滞によって発生した価格の暴落に対
し、FAMPCは同年9月、総額3億バーツ(約8億1,900万円)の予算で、国内貿易局
が次の措置により市場介入を行うこととした。

@目標価格を、1kg当たり28バーツ(約76.4円)に設定する。

A99年10月から2000年9月まで、タイブロイラー加工輸出協会、タイブロイラ
 ー農家振興協会および輸出養鶏農家協会の3団体による鶏肉3,500トンの冷凍
 保管事業を実施する。

 この市場介入の結果、99年10月に1kg当たり19.0バーツ(約51.9円)まで下落し
ていた農家販売価格は、2000年2月には25.9バーツ(約70.7円)と、目標価格を上
回るまでは回復していないものの、上昇傾向で推移している(巻末資料参照)。


(3)鶏卵

ア 需給動向

 タイにおける鶏卵の消費は、97年の通貨危機までは、他の畜産物と同様に増加
傾向で推移してきた。1人当たりの消費量は、96年には前年比2.1%増の143個と
なっていた。しかし、97年以降は減少傾向で推移しており、97年が142個、98年
が138個、99年が128個となっている(表4参照)。これは、鶏卵の生産が近年の
異常気象により大きく変化したため、価格が不安定になっていることが原因とさ
れている。

 一方、輸入は大幅に生産量が減少したときに、緊急輸入を行ったこともあった
が、最近5年間では実施されていない。また、輸出については、国内での生産過
剰を緩和する手段として行われていたものの、生産量と輸出金額が一定していな
いことや、米国や中国などの輸出競争相手国に比べて輸出価格が高いため、香港
やベトナム、ラオスなどのアジア諸国を除き、固定した輸出先を確保するまでに
は至っていない。輸出量は、通貨危機後の98年に為替相場の関係から一時的に増
加しているものの、生産量の1%にも満たないほど低い水準である(表5参照)。
なお、タイにおける鶏卵の平均重量は、日本と同じ約58gである。

表4 タイにおける鶏卵生産量と消費量の推移
re-spt04.gif (3924 バイト)
 資料:タイ農業協同組合省農業経済事務所

表5 タイにおける殻付き鶏卵の輸出の推移
re-spt05.gif (2309 バイト)
 資料:タイ大蔵省関税局

イ 流通状況

 タイにおける鶏卵生産は、米国をはじめとする外国からコマーシャルびなを輸
入し、鶏卵を生産するという、ほぼ完成された産業となっている。このため、通
貨危機による輸入種鶏価格上昇の影響を直接受ける形となり、これが、98年以降
生産量が減少傾向で推移している原因となっている。主産地は、チャチュンサオ
県、チョンブリ県、スパンブリー県、アーントーン県、サラブリ県、アユタヤ県、
ナコーンナーヨク県など中央地域の県となっており、これらの地域で、タイで生
産される鶏卵全体の6割を占めている。なお、これらの地域では、鶏卵の流通量
が多いことから価格も安くなっており、鶏卵については、価格の地域格差が見ら
れている。

 鶏卵生産農家は、大きく2つに区分されている。1つは自営型の農家で、首都バ
ンコク近郊に生産地帯を形成している。もう1つは、インテグレーターとの契約
生産を行っている農家である。それぞれの市場占有率は、自営型が8割、インテ
グレーター系が2割程度と言われており、鶏肉の市場占有率と逆転している(図
4参照)。これは、採卵鶏の輸入を民間企業が独占的に行っていることから価格
が高く、恒常的な採卵鶏不足にあることと、土地代などの経費が高いことから、
新規参入や規模拡大が行われにくいことが主要な原因であるといわれている。こ
のため、流通経路も個々の養鶏農家と小規模卸売業者との取引が高い比率を占め、
このことが農家における販売価格の決定能力の低下につながっているとされてい
る。

◇図4 鶏卵の流通経路模式図◇
re-spg04.gif (17337 バイト)

ウ 価格安定手法と99年における市場介入の状況

 FAMPCは、鶏卵に関する価格安定事業を行っていなかったが、92年に価格が暴
落したことをきっかけに、鶏卵の価格安定に関する事項を取り決めた。その内容
は、価格が高騰もしくは下落した場合、短期的に価格を維持するために市場介入
することができること、国内での取引効率化のための重量による規格の設定、採
卵農家の協同組合の設立支援、新しい輸出市場の開拓などとなっている。また、
このときに実施された市場介入では、

@国内貿易局と協同組合振興局による、鶏卵が目標価格に達するまでの冷凍保管

A各県の国内貿易局事務所を通じ、農家から購入した鶏卵の、消費者に対する適
 切な価格での販売

Bタイ養鶏農家協会に対し、鶏卵輸出に係る市場開拓経費と輸送費補助が行われ
 ている。しかし、Bについては現在、前述したようにガット・ウルグアイラウ
 ンド合意上、輸出補助金とみなされることなどから実施できなくなっている。

 なお、価格高騰時の手法として、鶏卵を目標価格で販売すること、農家から直
接鶏卵を購入して安価で販売する方法もとれることとなっている。

 99年に実施された市場介入では、供給過剰によって発生した価格暴落に対し、
FAPMCは同年10月22日、総額4,000万バーツ(約1億1千万円)の予算で次の
措置により市場介入を行うこととした。

@鶏卵の目標価格を1個当たり1.5バーツ(約4.1円)に設定する。

A99年11月から2000年4月まで農家から直接鶏卵を買い上げ、バンコク市内で販
 売することを、各県の国内貿易局事務所に割り当てる。このための予算として、
 1,000万バーツ(約2,730万円)を割り振る。

B市場に流通している鶏卵の量を減らすため、99年11月から2000年4月まで、採
 卵農家や卸売業者、輸出業者による鶏卵の冷凍保管事業を実施する。このため
 の予算として、2,000万バーツ(約5,460万円)を割り振る。
 さらに、99年11月8日、次の追加措置を決定した。

C市場に流通している鶏卵の量を減らすため、99年11月から2000年4月まで、鶏
 卵生産者組合による鶏卵の冷凍保管事業を実施する。このための予算として、
 2,500万バーツ(約6,825万円)を割り振る。

 しかし、これら市場介入を実施したものの、2000年4月における鶏卵の農家販
売価格は、前年比28.8%安の100個当たり134バーツ(約365.8円)と、依然として
目標価格(100個当たり150バーツ)を下回る低価格で推移している(図5参照)。

◇図5 タイにおける鶏卵価格の推移◇


4 おわりに

 今回は、東南アジアにおける農産物輸出の拠点でもある、タイにおける畜産物
の価格安定制度について紹介した。これらの政策は、主に農家経営を支援するた
めの補助的な手法として実施されているものである。このため、短期的には効果
が現れるものの、価格暴落の主要因となっている供給過剰の解消という構造的な
問題には対応し切れていないという側面を持っている。これらの問題の解決には、
協同組合の設立と適切な運営など生産地域での対策が必要なほかに、価格高騰の
引き金とならないよう家畜飼料を国内生産で自給できる体制を作ることや、価格
低落時には輸出による国内需給の調整ができるよう、国外市場の拡大などの長期
的な対策が不可欠となっている。これには、口蹄疫など家畜伝染病対策をはじめ
とする国家的な取り組みが必要であり、今後、これらの課題を解決するタイ政府
の政策に期待がかかっている。

〈参考文献〉

1.IC Net(Thailand) Co., Ltd. "Report on Price 
 Controlled System of Livestock Products in Thailand" (2000)
2
.Ministry of Commerce / Department of Internal Trade 
 "Approach of Stabilize Price of Swine" (1995)

3.Ministry of Commerce / Department of Internal Trade 
 "Summary of Farmers Assisting Policy and Measures Committee Meting"

4.Ministry of Agriculture Cooperatives / Office of 
 Agricultural Economics "Research Document of 
 Agricultural Economics No2 & No3 /1994"(1995)

5.Ministry of Agriculture Cooperatives / Office of 
 Agricultural Economics " Research Document of 
 Agricultural Economics No18 /1998" (1998)

6.Ministry of Agriculture Cooperatives / Office of 
 Agricultural Economics "Documents of 
 Agricultural Economics"(2000)

7.Ministry of Agriculture Cooperatives / Office of 
 Agricultural Economics "Measures for Helping 
 Farmers in the Year 2541/2542 and the 
 Year 2542-2543" (2000)

8.Kasetsart University "Feasibility Study of Approaches 
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