牛乳の卸・小売り販売競争がし烈化(豪州)


取引自由化の影響が飲用乳メーカーの勢力図にも

 7月1日から飲用向け生乳の取引が自由化された豪州で、8月16日、国内最
大のスーパーマーケットチェーンが、飲用乳メーカーとの供給契約の更新を機に
プライベートブランド(PB)牛乳の小売価格の大幅な引き下げを実施した。これ
により、飲用乳メーカーの勢力地図が塗り替えられ、さらにメーカーブランド牛
乳の販売にも圧力がかかるなど、各方面に多大な影響が及んでおり、業界再編の
第一歩として大いに注目されている。

 豪州国内の食料品小売市場は、全販売額の約80%を3大スーパーマーケットチ
ェーンが占めるという寡占化状態にあるが、今回、牛乳の大幅値下げを実施した
のは、その中でも最大の販売網を持つウールワース社である。

 同社は、PB牛乳に係る飲用乳メーカーとの供給契約が更新時期を迎えたことを
契機に、先般、入札を実施して新たな取引相手先を選定した。


苦境に立つ飲用乳メーカー

 豪州の飲用乳市場は、ニューサウスウェールズ(NSW)州を基盤とする協同組
合デイリーファーマーズ社、ビクトリア(VIC)州の地元資本ナショナルフーズ
社、クインズランド(QLD)州に進出したイタリア資本パーマラット社の3社で、
ほぼ独占されているが、ウールワース社が州別に行った入札の結果、VIC州、
QLD州ともにデイリーファーマーズ社が落札し、ナショナルフーズ社およびパー
マラット社はそれぞれ地元州における供給契約を失った。

 全牛乳販売に占めるスーパーPB牛乳のシェアは、VIC州で15%、QLD州では30
%に達しており、今回の契約更新は飲用乳メーカーの今後の動向に大きな影響を
与える事態となった。

 3社中、唯一の上場企業であるナショナルフーズ社の株価は急落し、パーマラ
ット社も、2年前に豪州に本格進出するために行った多額の投資が問題視されて
いる。一方、新規契約を獲得したデイリーファーマーズ社も、強引に安値で落札
したことにより、株主である傘下の組合員から痛烈な批判を浴びている。落札価
格は公表されていないものの、安値落札のつけが最終的に組合員に回されること
に加え、採算が疑問視される事業拡大は企業評価(組合資産)を低下させるから
である。


乳価の引き下げを懸念する酪農家

 今回の一件は、大手スーパーの市場支配力の強さを改めて見せつけた。ウール
ワース社は入札の結果、PB牛乳の小売価格を最大27豪セント(約18円:1豪ドル
=65円)/リットルもカットしたが、他の大手スーパーも直ちに同額の値下げで
対抗した。これにより、PB牛乳とメーカーブランド牛乳の価格差が広がったため、
メーカー側は一層苦しい立場に置かれている。

 このような中、パーマラット社は、自社ブランド牛乳の価格に引き下げを発表
した。同社によると、PBブランドに対抗して市場競争力を維持するためには、価
格の引き下げはやむを得ないとしているが、一方では、長期間に及ぶ価格の引き
下げは経営に大きな影響を与えるとして、その終了時期を模索している。また、
ナショナルフーズ社は、PB牛乳に対抗するため、人員の削減や農家取引価格の見
直しなど、今後18カ月で4千万豪ドル(約26億円)にも上る経営改善案を発表し
ている。

 これらの事態を重く見た酪農団体は、飲用乳メーカーに対し酪農家に対する態
度によっては、取引先の変更も辞さないとの警告を発している。飲用向け乳価は
既に取引自由化前の6〜7割の水準に下落しているが、今後、さらに値下げ圧力が
かかるのは必至とみられるからである。豪州では、酪農乳業制度改革による影響
が早くも表れた様相を呈している。

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