海外駐在員レポート 

米国の鶏肉産業の状況

ワシントン駐在員事務所 渡辺裕一郎、樋口 英俊




1 はじめに

 米国は、中国に次ぐ鶏卵生産国であり、生産量は世界の約1割を占めている。
また、鶏卵およびその加工品の輸出量は全世界の約3割を占め、最大の輸出国で
もある。一方、日本における鶏卵の自給率(重量ベース)は96%であり、また、
鶏卵イコール生鮮食品というイメージがあるためか、その貿易状況については、
あまり注目されてこなかったきらいもあるが、液卵や凍結卵といった加工品につ
いて見れば、日本は米国にとって最大の輸出先となっている。

 今回は、このような世界の鶏卵産業のトップ・リーダーともいえる米国におけ
る鶏卵の生産・流通事情に加え、近年において回復傾向にある国内消費をめぐる
状況、さらには、業界が直面する食品安全性や動物福祉の問題に関する対応状況
についてレポートする。


2 鶏卵の需給概況

 米国における鶏卵の全体的な需給動向は、表1の通りである。

表1 米国における鶏卵の需給動向

 資料:USDA/ERS
 注1:国内消費仕向量は、年間の在庫の増減量を加味している。
  2:1人当たり消費量は食用のみ(粗食料ベース)であり、
    殻付き卵と鶏卵加工品が含まれる。
  3:自給率は、国内生産量を濃くk内消費仕向量で除したものである。

 国内生産量は、80年代はほぼ横ばい傾向で推移してきたが、90年代に入ってか
らは着実に拡大し、この10年間で約24%も増加している。一方、貿易量について
は、輸入量がおおむね1千万ダース以下で推移する中、輸出量は、長期的には増
加傾向にあり、近年は2億ダース前後で推移している。

 国内消費仕向量については、ブロイラー生産の拡大を背景に、種卵用が著しく
増加する中で、80年代以降、1人当たり消費量(食用)が減少したため、人口の
増加にもかかわらず食用の全体需要量は伸び悩み、50億ダース前後で推移したが、
90年代半ばからは、需要の回復が見られるところとなっている。

 米国における鶏卵の自給率は、かなり以前から既に100%を超えていたが、80
年代後半以降は生産過剰基調が顕著となり、近年では102〜104%程度で推移して
いる。

 こうした需給動向を反映し、国内における鶏卵価格は、80年代前半まで上昇傾
向で推移していたが、80年代後半以降は、国内における鶏卵需要の減退によって
需給のアンバランスが生じ、価格変動が著しくなってきている。また、米国にお
ける小売段階での一般的な販売単位である1ダース(12個)当たりの価格を見る
と、農家販売価格、卸売価格および小売価格の間には、明らかな相関関係が見ら
れる(図1)。後述するように、近年、大規模な企業的経営体が市場シェアを拡
大していく中で、これらの経営体における生産コスト、中でも飼料コストの水準
が、鶏卵の価格水準を決定する要因の1つになっており、80年代後半以降の飼料
穀物価格の変動と鶏卵の価格変動との関連性も指摘されている。

 なお、米国では、殻付き卵が供給過剰となった場合、これら余剰分は一般的に
加工用(さらには輸出用)に仕向けられるが、さらにこうした加工用の需要を上
回るような供給がなされる場合においては、鶏卵生産者(種鶏生産者、ふ化業者、
採卵鶏経営、農協など)によって組織された鶏卵生産者連合(United Egg Prod
ucers:UEP)が羽数制限に関する任意の勧告を行う以外には、政府による買入措
置といった需給調整は行われていない。

◇図1:鶏卵価格の推移◇

○UEPマーケティング委員会による羽数制限に関する勧告(2001年6月)

 今年4月のひなふ化羽数が、前年同月比14%増(5ヵ月連続の前年比増)とな
る中、5月1日現在の採卵鶏飼養羽数は、前年同月比で1千万羽増にも上ってい
る(年末には前年比1,300万羽増とも予測)。増加分のうち、300万〜500万羽相
当によって生産される鶏卵は、人口の増加と1人当たり消費量の増加によって吸
収されるが、残りの500万〜700万羽相当による部分は供給過剰となり、鶏卵価格
に大きな悪影響を及ぼすことが想定される。このため、UEPマーケティング委員
会は、すべての会員に対し、次の行動を取るよう勧告する。

【短期的な勧告】

1.6月18日から10月1日までの16週間において、廃用の予定を4週間早める
  こと

2.同期間中、62週齢時点で換羽させること

【長期的な勧告】

1.2002年末または今後通知するまでの間、あらゆる可能な手段によって、鶏群
  の平均週齢を2週間短縮させること

2.委員会は、近々、ふ化羽数減少計画を策定し、会員に通知する(注:UEP事
  務局によると、同計画は8月中に公表予定とのこと)。


3 鶏卵の生産構造

(1)生産の概況

 米国においては、採卵鶏の飼養羽数が、多少の変動を伴いながらも長期的には
ほぼ横ばい傾向で推移する中で、改良の進展や飼養管理技術の向上により、成鶏
めす1羽当たりの鶏卵生産量が、75年の232個から2000年には257個へと増加し
たため、2000年の生産量は、過去最高の約844億個を記録した。

表2 採卵鶏飼養羽数および鶏卵生産量の推移

 資料:USDA/NASS「Chickens and Eggs」
  注:数値は前年12月〜当該年11月のものであり、
    成鶏めす羽数は期間中の平均である。

 ブロイラーにおいて顕著であるように、採卵鶏経営においても、近年は垂直的
調整が進展し、少数の大規模な企業的経営による生産の寡占化が見られる。現在
では、全経営体のうち7割強が、ふ化、育すう、採卵、さらには鶏卵の選別・包
装に至るまでの垂直的統合によるものであり、また、残りの大半も、企業的経営
と個々の農家との間の契約生産が行われているとされている(ただし、大規模な
経営を除けば、種卵は、種鶏場からの購入による場合が多い)。

 採卵鶏経営体数は、86年には約2,500経営(契約生産農家を含む)が存在した
が、現在は、採卵鶏飼養羽数が3千羽以上の経営体が約700経営、うち7万5千
羽以上が295経営となっており、飼養羽数7万5千羽以上の経営体で全飼養羽数
の約95%を占めている。さらに、飼養羽数が100万羽以上の経営体は、80年には
22社であったのが、95年には43社、2000年には63社と大幅に増加し、全飼養羽数
の約7割を占めるに至っている。上位5社の飼養羽数はいずれも1千万羽を超え、
上位10社では全米の約3割が飼養されている(表3)。

表3 採卵鶏飼養羽数上位10社(2000年)

 資料:Egg Industry magazine, January 2001
  注:全米シェアは表2の成鶏めす羽数(2000年)に基づき、当方で推計

 歴史的に見ると、70年代までは、カリフォルニア州およびブロイラー産業が盛
んな南東部が有数の生産地帯であったが、地域内における生産過剰による価格の
低迷や飼料の輸送コストの問題などから、80年代以降、飼料穀物の生産地帯であ
る中西部や大消費地を控える北東部に生産の拠点がシフトしてきている。

◇図2:州別の鶏卵生産量シェア(95年/2000年)◇


(2)生産の特徴

 米国における採卵鶏の品種としては、日本と同様に、多産で飼料効率にも優れ
た白色レグホン種が主流であるが、米国北東部のニューイングランド地域(コネ
ティカット、メイン、マサチューセッツ、ニューハンプシャー、ロードアイラン
ド、バーモントの6州を含む地域)においては、赤褐色の卵が好まれるため、ロ
ードアイランドレッド種やニューハンプシャー種などが中心を占めている。

 一般的な採卵鶏のライフサイクルは、下図の通りである。産卵のピーク(週6
〜7個または月25個程度)は、30〜32週齢ころとされ、それ以降は産卵量が減少
し、60〜70週齢で産卵量はピーク時の約半分に減る。この時期には、産卵量の回
復を図るため、米国でも強制換羽が実施されることが多い。110週齢ころには、
約3〜5割の生産者が2回目の強制換羽を行うとされているが、卵価低迷時や採
卵鶏の更新が可能である場合には、廃用に向けられる。

◇採卵鶏のライフサイクル◇


 採卵鶏舎は、温度、湿度、照明および換気が自動的にコントロールされたウィ
ンドウレス(無窓)のケージ飼い方式で、自動給餌機による飼料給与や、鶏ふん
の自動搬出が一般的となってきている。集卵は、ベルトコンベアーによって数時
間おきに行われ、鶏舎に併設された低温貯蔵施設やGPセンター(選別包装施設)
に直接運ばれる。
【GPセンター(右)と併設された
ウィンドウレス鶏舎】
 飼料は、配合飼料主体の日本の場合とは異なり、自家配合飼料によるものが多
く、産卵のステージに応じて、たんぱく質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラ
ルなどがバランス良く摂取できるよう設計されている。飼料コストは、鶏卵生産
費の約6割を占め、その変動は収益性にも大きく影響する。このため、給与飼料
の主要原料であるトウモロコシ、マイロ、綿実かす、大豆かすなどの構成割合は、
これらの作付地域からの距離によっても左右され、また、このことが、中西部を
中心とした穀物生産地帯への経営移動の誘因ともなっている。

◇図3:カリフォルニア州南部における鶏卵生産費の推移◇


4 鶏卵の流通構造

(1)垂直的統合の進展

 垂直的統合がなされた大規模な採卵鶏経営においては、殻付き卵の選別、包装、
販売までが一貫して行われる。これによって、品質管理の徹底や、市況に応じた
柔軟な生産・供給が可能となり、さらにスケールメリットによる効率化・低コス
ト化が図られるため、こうした垂直的統合による寡占化の流れは、今後も継続す
るものと考えられる。

 表3で紹介した採卵鶏飼養羽数第1位のカルメイン・フーズ(Cal‐Maine 
Foods)社は、殻付き卵の販売部門でも全米最大である。同社は、鶏卵の生産か
ら選別・包装、加工に至るまでの垂直的統合を行っており、特に、殻付き卵は、
全米のスーパーマーケット・チェーンに直接販売されている。また、同社の鶏卵
生産量の約22%は、個々の農家との生産契約によるものであり、同社所有の採卵
鶏が、契約農家の所有施設で飼養されている。生産された鶏卵も、同社に属する
ものである。2000会計年度における同社の純販売額は約2億8,700万ドル(約36
1億6千万円:1ドル=126円)であり、その約98%が殻付き卵によるものである。


(2)鶏卵の加工

 鶏卵は、食品メーカーや外食産業における業務用原料、小売店における販売の
ほか、輸出用として、ブレーカー(egg breaker:割卵業者)と呼ばれる企業に
よって、液卵、凍結卵、乾燥卵、調理品などに加工される。加工に仕向けられる
鶏卵は、毎年着実に増加しており、2000年においては、88年に比べるとほぼ倍
増し、鶏卵生産量(食用)の約3割を占めている。

表4 鶏卵加工仕向量の推移

 資料:USDA/NASS

表5 鶏卵ブレーカー(液卵製造)上位10社(2000年)

 資料:Egg Industry magazine, February 2001

 マイケル・フーズ(Michael Foods)社は、全米第3位の鶏卵生産者であると
ともに(表3)、年間約9億ダース(全米加工仕向量の約4割)を加工し、その
加工品を食品産業や小売段階に販売する世界最大のブレーカーである。また、乳
製品やポテト加工品などの製造も手がけており、鶏卵加工品は、同社の製品販売
額の約6割を占めている。

○鶏卵の格付(品質規格)

 小売店で販売される殻付き卵には、米農務省(USDA)による一定の品質規格
に基づく格付けがなされている。しかし、USDAへの1ダース当たり1セント
(約13円)程度に相当する格付け手数料負担がネックとなっているため、USDA
の格付けによるものは全体の3割程度であり、残りの約7割については、メーカ
ーによる自主的な格付けが行われている。ただし、これら自主格付けにおいては、
もちろんUSDAのグレード・マークは使用できない。USDAの格付けは、75ケース
(2万7千個:1ケースは30ダース(360個))に1ケース(さらにその中の10
0個)の割合でサンプリングされ、内容物(卵黄、卵白など)の品質、卵殻の外
観および状態によって、グレードAA、A、Bの3段階に区分されている。

・グレードAA:卵殻は清浄、無傷、正常。卵白は透明で硬く、卵黄は透光検査
 で輪郭がわずかに(slightly)見られ、欠点のないもの。

・グレードA :卵殻は清浄、無傷、正常。卵白は透明でほどよく(reaso
 nably)硬く、卵黄は 透光検査で輪郭がはっきりと(fairly)見られ、
 欠点のないもの。なお、このクラスが、小売店において最もよく売られている。

・グレードB :卵殻は無傷だが、異常があり、わずかに汚染。卵白は軟弱で液
 状、卵黄は透光検査で輪郭が明瞭で、暗く、拡大し、へん平であり、欠点のあ
 るもの。なお、通常このクラスは、液卵、凍結卵、乾燥卵に加工される。
【GPセンターでケース詰めされる鶏卵】

    
【18個入りの鶏卵パック
(USDAのグレードA、Largeサイズ)】
○鶏卵の重量区分

 GPセンターにおいては、採卵場から運ばれた卵が洗卵(pH11程度の塩素温水
をくぐり、細菌の侵入や水分の損失を防ぐため、FDA認可済みの鉱油でコーティ
ングされた後に乾燥)、検卵(破卵や異常卵を除外)、計量された後、通常、1
ダース(12個)入りのパックに、重量別に包装される(6個入りや18個入りのも
のもある)。この場合の重量区分は、次の6段階とされている(数値は最小重量)。

・Jumbo	:30オンス/ダース(約71グラム/個)
・Extra Large:27   〃   (約64  〃  )
・Large	:24   〃   (約57  〃  )
・Medium	:21   〃   (約50  〃  )
・Small	:18   〃   (約43  〃  )
・Peewee	:15   〃   (約35  〃  )


5 鶏卵の消費構造

(1)鶏卵消費量の変化とその要因

 米国は、中国に次ぐ鶏卵消費国であり、2000年においては約59億ダース(約7
11億個)が消費されている(日本は約440億個)。

 同年における米国の1人当たり消費量は258個となっており、日本の347個、
台湾の338個などに比べると少ないが、カナダの178個や欧州諸国(ドイツ226個
など)よりも高水準にある。長期的には、90年代半ばまで減少傾向が続いたが、
これは、健康面における懸念や、生活スタイルの変化などの影響によるものとみ
られている。

◇図4:米国における1人当たり年間鶏卵消費量の推移◇

 健康面からの鶏卵消費の減少は、1960年代において、アメリカ心臓協会(Am
erican Heart Association)が、鶏卵の消費による健康への危険性についての
キャンペーンを大々的に行い、これに飛びついたメディアが、食物中のコレステ
ロールと心臓病との因果関係を挙げ、鶏卵の消費を控えるよう呼びかけたことが
大きいとされている。また、家庭内消費(殻付き卵)については、女性の就労が
増加したことにより、家庭での調理の時間や食事の回数が減り、卵を含む食材の
アイテム数が減少したことなども原因とされている。

 しかし、@80年代から90年代にかけて、低コレステロール卵の生産が進む中で、
鶏卵由来のコレステロール摂取と健康との関連性についての認識を改めるような
新しい知見が明らかにされるとともに、A近年における牛肉消費量の増加要因の
1つともされる高たんぱく質ダイエットの流行(本誌2001年6月号「特別レポー
ト」参照)、さらには、B後述するように、関係者の取り組みによって、鶏卵を
介するサルモネラ性食中毒の発生が抑制されていることなどもあって、90年代後
半以降、1人当たりの鶏卵消費量は増加傾向にある。特に、@については、97年
アリゾナ大学の研究者による報告や、99年4月に発表されたハーバード大学の研
究報告が有名である。

 殻付き卵の消費量の変動に比べ、鶏卵加工品の消費量は安定的に増加し、2000
年においては、80年代前半のほぼ倍の水準(殻付き卵換算で約76個/人)となっ
ている。これは、食の簡素化が進み、卵を使った調理済み製品やファストフード
(特に、ハンバーガーチェーンにおけるエッグマフィンやオムレツ・パティなど)
の需要増によるものとされている。

○アリゾナ大学の研究報告(Plasma Lipid and Lipoprotein 
Responses to Dietary Fat and Cholesterol:A Meta‐analysis)

・10万人以上のデータに基づき、食生活が血中コレステロール値に及ぼす影響に
 関する統計学的分析を行った結果、飽和脂肪酸が、血中のコレステロール値を
 高める最大の要因であると論証した。鶏卵には飽和脂肪酸が少量しか含まれて
 いないことから、健康な男女の場合、1日1個の鶏卵の摂取が心臓疾患の危険
 性に及ぼす影響はほとんどないと結論

○ハーバード大学の研究報告
(A Prospective study of Egg Consumption and Risk of 
Cardiovascular Disease in Men and Women)

・40〜75歳の男性37,851人および34〜59歳の女性80,082人のデータを基に、年
 齢、喫煙その他の心臓疾患(coronary heart disease)に係る要因を補正し
 て分析した結果、健康な男女の場合、1日1個までの鶏卵の摂取と、心臓疾患
 や脈拍に及ぼす危険性との間には、有意な関連性はないと結論

・具体的には、鶏卵を1週間に1個未満摂取する場合を1としたとき、心臓疾患
 の相対的な危険性は、週1個で男性1.06/女性0.82、週2〜4個で同1.12/0.
 99、週5〜6個で同0.90/0.95、1日1個以上では同1.08/0.82と分析


(2)輸出状況

 世界的な鶏卵の貿易状況を見ても、輸出量は生産量の1%にも満たないが、米
国は、世界の輸出量の約3割を占める最大の輸出国である。

 2000年における輸出金額は約1億8,100万ドル(約228億1千万円)であり、
その内訳は、殻付き卵が約1億800万ドル(約136億1千万円・うち食用3割、
種卵用7割)、加工品が約7,300万ドル(約92億円)となっている。食用殻付き
卵の主要な輸出先は、カナダ(35%)、香港(32%)、日本(7%)、メキシコ
(5%)、オランダ(3%)であり、また、加工品については、日本が最大の輸
出先で(49%)、次いでブラジル(11%)、韓国(5%)、メキシコ(5%)、
イギリス(5%)の順となっている(数量ベースの製品ごとの内訳については、
巻末の参考資料を参照)。

 USDAによると、特にアジア市場における輸出国間の競争が激しくなってきてい
るため、2001年においては、米国産の輸出量は前年と同程度であるが、日本につ
いては、国内生産量が高水準であることや円安の影響により、殻付き卵および加
工品の輸入は減るものと見込まれている。


(3)鶏卵の消費拡大策

 UEPは、生産者に対する市況や政策などに関する情報提供をはじめとする各種事
業を実施しているが、鶏卵の消費拡大策としては、84年に米国鶏卵ボード(Ame
rican Egg Board:AEB)の協力の下、鶏卵栄養センター(Egg Nutritional 
Center)を設立し、鶏卵に関する正しい知見の普及・啓もうに努めている。

 AEBは、74年鶏卵調査・消費者情報法(Egg Research and Consumer 
Information Act)に基づき、USDAの監督の下で鶏卵の消費拡大、研究、教育
に関するチェックオフ・プログラムを実施するために設立された機関である。こ
のプログラムは、7万5千羽超の採卵鶏を飼養する生産者からの賦課金(販売さ
れる鶏卵30ダース(360個)当たり10セント(約13円):年間約1,400万ドル
(約17億6千万円)相当)によって賄われており、関連するUSDAの行政コスト
にも充てられている。

 また、輸出に関しては、アメリカ家禽鶏卵輸出協会(USA Poultry & 
Egg Export Council:USAPEEC)が、USDAからの助成やAEBのチェックオ
フ資金などを元に、海外市場における鶏卵や家きん肉の販売促進活動などを実施
している。


6 直面する課題と対応

(1)サルモネラによる食中毒の防止対策

 米国内において供給される鶏卵の2万個に1個は、サルモネラ腸炎菌(Sal
monella enteritidis:SE)に汚染されていると推定されている。SE
汚染は、鶏の体内における卵形成の段階や、産卵後の卵殻表面からの内部への侵
入によるものであり、また、汚染された卵が、温度管理の不徹底によってSEの増
殖を招くとの報告もある。米国疾病管理センター(Center for Disease 
Control and Prevention:CDC)の報告によると、米国におけるSEによる
食中毒などの発生件数は、76年には人口10万人当たり0.6人であったのが、96年
では同3.6人にまで増加しており、これには、生卵や加熱が不十分な卵の摂取が
関係しているとみられている。しかし、96〜98年の間のCDCへの届け出によると、
人口10万人当たりの発生件数は2.2人(98年だけでは1.9人)まで減少している。
これには、以下に紹介するように、鶏卵の生産から処理・加工、流通、消費に至
るまでの、政府や業界関係者の食中毒防止への取り組みによる効果が大きいとい
われている。

ア 政府レベルの対応

 USDAでは、動植物検査局(APHIS)が、全国家きん改良計画(National 
Poultry Improvement Plan:NPIP)に基づくSEフリーの鶏群作出に関す
る証明制度を実施している。州を越えて種卵を販売する生産者には、NPIPへの参
加が義務付けられており、APHISと州の検査官は毎月、参加農家の実地検査と種
鶏群の血清検査を行い、SEに汚染されていないかどうかを確認する。また、食品
安全検査局(FSIS)においても、鶏卵加工品検査法(Egg Products 
Inspection Act)に基づき、鶏卵加工品を製造する工場におけるサル
モネラの殺菌処理の実施状況についてのサンプル検査を実施している。

 保健社会福祉省食品医薬品局(FDA)は、連邦食品医薬品化粧品法(Federal 
Food, Drug, and Cosmetic Act)の下、鶏卵の販売者や鶏肉加工品の
工場に対する監督権限を有しており、SEを含む食中毒の発生防止のため、州政府
と協力して、鶏群にまで遡ったSEの追跡調査などを行っている。さらにFDAは昨
年12月5日、サルモネラに汚染された鶏卵による食中毒の発生を予防するため、
鶏卵の取り扱いや表示方法に関する最終規則を制定した。この規則では、

@ 加工処理によるサルモネラの殺菌が施されていない殻付き卵の保管・販売段
 階(レストラン、小売店など)においては、華氏45度(摂氏7度)以下の温度
 で冷蔵されなければならないこと

A 小売段階における殻付き卵のパックには、「安全のための取り扱い注意事項
 :細菌を原因とする疾病を防ぐため、鶏卵は冷蔵庫に保管し、調理においては、
 卵黄が固くなるまで加熱し、また、鶏卵を材料とする食品も十分に加熱するこ
 と」という表示を行わなければならないこと(写真参照)

が規定されており、@が既に今年6月4日から施行され、また、Aは今年9月4
日から施行予定となっている。
【FDA規制の施行に先立ち、
取り扱いに関する表示が行われた
鶏卵パック】
イ アクション・プランに基づく自主的取り組み

 上記のような政府の規制措置に加え、業界関係者は、当時のクリントン大統領
が招集した食品安全性審議会によって99年12月に作成された「鶏卵由来のSE疾
病撲滅のためのアクションプラン」(Egg Safety From Production 
to Consumption:An Action Plan to Eliminate Salmonella 
Enteritidis Illness Due to Eggs)にのっとり、生産から消費に
至るまでの自主的な努力を行っている。このアクションプランにおいては、鶏卵
由来のSE疾病を2010年までに撲滅させるべく、中間目標として、98年を基準とし
て2005年までに半減させることを目指し、これを実現させるための各段階におけ
る取り組みの年次計画が示されている。

○「鶏卵由来のSE疾病撲滅のためのアクションプラン」(99年12月)の概要

 @農家段階におけるSE検査済み卵の供給システムへの転換、A処理・加工業者
におけるSEの殺菌処理という2本立ての戦略で、次の8つの目的を達成するため
の具体策とその実施年次を規定

目標:1 消費者に販売されるSE汚染卵の減少
   2 SE汚染食品が消費者段階へ出回る機会の減少
   3 人のSE感染を防止するためのサーベイランスの拡大と改善
   4 鶏のSE感染を防止するためのサーベイランスの拡大と改善
   5 SEによる疾病発生の早期発見、発生後の早期追跡調査の開始、発生後
     調査の完全実施
   6 SEによる疾病の発見・追跡調査に携わる連邦・州・地方機関の間の情
     報伝達と、これら機関による業界や国民に対する情報伝達の向上
   7 十分な科学的根拠に基づくSEによる疾病の予防管理、サーベイランス
     および啓もうに関する意思決定を行うための適切かつ最新の情報管理
     の確保
   8 科学的根拠に基づく資料を用いた個々の生産者から消費者に至るまで
     の啓もう


(2)動物福祉への配慮

 近年、動物の人道的な扱いや権利保護を訴える活動家グループを中心に、畜産
分野における動物福祉に基づく飼養環境などの改善を求める声が高まってきてい
る。

 特に、養鶏分野においては、米国の動物愛護団体PETA(People for 
Ethical Treatment of Animals)が、99年10月以降、ハンバーガー・
チェーンの最大手であるマクドナルド社(全米の鶏卵生産量の2〜2.5%を使用)
に対する抗議行動を展開した。同社は、これを受けて、エッグマフィンなどの材
料となる鶏卵を供給する生産者に対し、採卵鶏のケージ面積の拡大(1羽当たり
50平方インチ→72平方インチ)、強制換羽やくちばし切り(debeaking:デビー
ク、断嘴(だんし)などともいい、鶏同士の尻つつきなどによる損害を防止する
ため、くちばし先端の上側3分の2および下側3分の1を切除すること)の中止
などを要求した。

 一方、生産者団体であるUEPも、動物福祉に関する科学諮問委員会を組織し、
2000年秋、同委員会の勧告に基づいた「米国の採卵鶏群のための動物飼養ガイド
ライン」(Animal Husbandry Guidelines for U.S. 
Egg Laying Flocks)を採択している。その内容は、
PETAの抗議を受けたマクドナルド社の要求におおむねかなうものであり、これら
の動きを受け、PETAは同社に対する抗議行動を休止すると表明した。その後、そ
の矛先は、業界第2位のバーガー・キング社に向けられたが、今年6月に同社は、
家畜の飼養環境の改善基準を公表したため、PETAの抗議行動は中止された。次い
でその矛先は、第3位のウェンディーズ社にも向けられている。

 今回、マクドナルド社からの要請を業界で最初に実行したという大手企業を訪
問したところ、その要請は新規投資を必要とするものではなく、飼養管理面での
改善が主体であるため、インパクトはあまり大きくなかったが、単位当たりの生
産量が減少して固定費が増加したことから、販売価格へのコスト転嫁は避けられ
ないという。USDAや業界は、ケージ面積の拡大(1ケージ当たりの羽数の減少)
によって、鶏卵1ダース当たり10セント(約13円)または鶏卵1個当たり1セン
ト(約1円)のコスト増加につながるとも試算されており、今後、ユーザーから
の圧力が強まることによって、影響を受ける生産者も少なからず出てくるものと
考えられる。

○「米国の採卵鳥群のための動物飼養ガイドライン」(UEP)の主な勧告内容

 【鶏舎およびケージ面積】

・ケージ上段の鶏のふんが、下段の鶏に直接落ちてこないような配置にすること
・ケージ床面の傾斜度は8度を超えないこと
・鶏の福祉向上のため、1羽当たりのケージ面積は67〜86平方インチ(約432〜
 555平方センチ)以上とし、一定の期限までに段階的に増加させること
・給水、給餌、換気、照明などに関する基準を順守すること

 【くちばし切り】

・くちばし切りは、精密自動機械を用いて、10日齢以内のひなに対して行うこと
・傷口の治ゆを早め、ストレスを和らげ、脱水症状を防ぐため、切除の約2日前
 から2〜3日後にかけて、ビタミンKやビタミンCを添加した水を与えること
・再度切除が必要な場合には、その時点で8週齢未満であること など

 【強制換羽】

 生産者と研究者は、以下に掲げるような強制換羽のために行われる絶食に代わ
る方法の開発に向けて取り組むことおよびそれまでの間、絶食は必要最小限の期
間とすること など

・鶏には、適度な栄養を含む採食可能(palatable)な飼料が与えられること
・換羽後の体重の減少は、鶏の福祉を損なうような水準であってはならないこと
・換羽期間中のへい死率は、通常の鶏群の水準を超えないこと

 【捕獲、運搬、と鳥】

・骨折や損傷を最小限にするような捕獲方法をとること
・鶏は、清潔で管理の行き届いたコンテナや輸送手段によって運搬されること
・食鳥処理場の協力の下、と鳥の24時間以上前からの断食は避けることおよび農
 場からの搬出前の絶水も行うべきではないこと など


7 おわりに

 米国の鶏卵産業においては、大規模な企業的経営体による寡占化が進む中、政
府と業界の協力・連携の下で、栄養面、安全性、さらには動物福祉などに関する
消費者・ユーザーからの要請に対処しながら、国内外の市場の維持・拡大に向け
た取り組みが精力的に行われているということを、本レポートによって多少なり
ともご理解いただければ幸いである。

 なお、生産の集中化に伴い、個々の経営体からの鶏ふん発生量が増加傾向にあ
る中で、環境保護庁(EPA)による畜産経営体に対する環境規制強化の動きもあ
るなど、環境問題への対応も大きな課題となっている。これについては、畜産経
営全般に関わることでもあり、今後の状況に応じ、改めて紹介する機会があれば
とも考える。

参考資料:

1. Journal of American Medical Association 
 「A prospective Study of Egg Consumption and 
 Risk of Cardiovascular Disease in Men and Women」(99年4月)

2. Center for Disease Control and Prevention (CDC) 
 「Outbreaks of Salmonella Serotype Enteritidis 
 Infection Associated with Eating Raw or Undercooked 
 Shell Eggs‐United States, 1996‐1998」(2000年2月)

3. President's Council on Food Safety 
 「Egg Safety From Production to Consumption:
 An Action Plan to Eliminate Salmonella Enteritidis 
 Illness Due to Eggs」(99年12月)

4. United Egg Producers (UEP) 
 「Animal Husbandry Guidelines for U.S. 
 Egg Laying Flocks」(2000年秋)

(ほか、USDA、FDA、UEP、AEBなどの公表資料、Egg Industry 
 magazineなどの業界紙・各種報道)

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