海外駐在員レポート
ブラッセル駐在員事務所 山田 理、島森 宏夫 企画情報部企画課 横田 徹
EUでは、牛海綿状脳症(BSE)による牛肉消費の減少を過去に2度経験してい る。1度目は、イギリス政府が96年3月に、BSEが牛肉摂取を通じ人にもうつる 可能性があるとの報告を行ったことで、イギリスのみならずEU全体の牛肉消費は 大きな後退を強いられた。2度目は記憶に新しいが、2000年10月に、フランス でBSEの疑いのある牛肉が販売されたことが発端となった。加えて、同11月にド イツ、スペインでのBSE初発例の相次ぐ発見などにより、EU全体で牛肉の安全性 に対する消費者の信頼が失われる結果につながった。EU域内の牛肉需給バランス に与えた影響も大きく、EUおよび各国政府は、この問題に対処するため巨額の財 政支出を余儀なくされているものの、現在、EUの牛肉消費は徐々に回復してきて いる。 イギリスおよびEUレベルで実施されたBSE対策については、本誌駐在員レポー トを始め、既に多くのレポート・記事等で紹介されている。ただし、EUのBSE対 策については、EUとして共通で実施するもののほか、各国がそれぞれの国内状 況に応じて独自に実施しているものがある。 今回のレポートでは、先行し実施された後、EUの共通対策としての導入例も多 いフランスのBSE対策の概要とともに、同国の食肉処理・加工現場での具体的な 対応や問題点を中心に報告する。
フランスでは、96年3月まで、家畜衛生の観点から、国内へのBSE侵入防止お よび撲滅のための対策が実施されてきた。91年2月に自国産の牛から初めてのB SEが確認されているが、この時点では、BSEは人にうつらない家畜特有の疾病 と考えられていたため、特に大きな混乱は起こらなかった。また、96年以降は、 さらに公衆衛生対策も追加され、同国のBSE対策は徐々に拡充されている。 1.フランスのBSE対策に関する組織体制 フランス政府は、現在、BSE対策を実行するための組織体制に関して、以下の 3原則を掲げている。 @リスク評価とリスク管理(対策の実施)の分離 フランスでは、家畜衛生および食品衛生の両方の分野を農業漁業省が一手に所 管している。しかし、BSE対策は広範な分野に影響を及ぼすことから、農業漁業 省、保健省、財務省などから構成される伝達性海綿状脳症(TSE)に関する省庁 間委員会(CIESST)が96年に設置され、公衆衛生の観点からのBSE対策に関する 勧告が行われた。 この結果、98年には、他の省庁から独立した組織として仏食品安全庁(AFSSA) が創設され、食品全般に関して科学的見地から勧告を行うこととなった。現在、 BSE対策に関しては、AFSSAがリスク評価を担い、科学的見地に基づいて勧告を 行っており、AFSSAの勧告を受けて、農業漁業省および関係省庁が対策を実行す る体制が取られている。 A継続的な再評価と見直しの実施 実施された対策に関して、継続的に科学的見地から再評価を行うとともに、そ の結果および新たな科学的知見に対応して、常に対策を見直していくことが重要 であるとしている。 B透明性の確保 すべての情報を公表することを基本としている。特に、2000年末のBSE問題の 再燃後は、農業漁業省のホームページにBSEに関する情報ページが設けられ、イ ンターネットを活用した迅速な情報提供が行われている。
【フランス農業漁業省のホームページから (http://www.agriculture.gouv.fr/ esbinfo/esbinfo.htm)】 |
2.予防対策 フランスにおけるBSEに関する予防対策の概要および開始時期は次のとおりで ある。フランスで実施された対策が、数ヵ月後または数年後にEU共通の対策と して取り上げられる場合が多く見られる。しかし、逆に、EUレベルで決定された 対策をフランスで実施する場合、国内法の整備等のため、若干開始時期が遅れる 場合がある。なお、EUレベルのBSE対策については、「EUにおける牛海綿状脳症 (BSE)対策の強化」(本誌2001年9月号)も参照されたい。 (1)飼料関係対策 (2)消費者保護(食品安全性確保)対策 3.監視対策(サーベランス) (1)臨床症状を呈する牛の調査 フランスでは90年から、報告を義務付けられる家畜疾病の1つにBSEが指定さ れ、神経学的または行動異常を15日以上示し、この症状がBSE以外の他の原因に よるものと認められない場合、当該牛の脳組織の検査が行われることとなった。 91年2月に最初のBSEが確認され、現在(2001年11月9日)までに合計266件が 確認されている。 BSEが疑われる牛が発見された場合には、当該農場で飼養される牛全体の移動 が制限される。確定診断によりBSEが確認された場合、農場で飼養されるすべて の牛、BSE牛の生年月日以降に同農場から販売されたすべての牛、およびこれら の子畜がすべて殺処分され、焼却などにより完全に処理される。 (2)リスクのある牛に関する検査 農場で死亡および緊急と畜された24ヵ月齢超の牛を対象にした抽出検査が、E Uでの検査計画に先行する形で2000年6月から開始された。検査開始から2001 年3月までに73件のBSEが確認されている。緊急と畜される牛ではBSEリス クが高いことが認められたため、AFSSAの勧告に従い、2000年末に緊急と畜は禁 止され、農場で安楽死させる処置へ移行した(と体は、食用や飼料原料としては 使用禁止)。2001年6月19日からは、24ヵ月齢超の農場で死亡した牛について の全頭検査が開始された。その後、10月26日までに56件のBSEが確認されている。 検査後のと体は、検査結果に関わらずSRMとして処理されている。 (3)食用に供する健康な牛の全頭検査 2001年1月1日から、他のEU諸国と同様に30ヵ月齢超の食用に供する牛の全 頭検査が開始された。また、7月24日からは、AFSSAの勧告に従い検査対象が24 ヵ月超の牛に拡大された。 枝肉および畜産副産物は迅速検査の結果が判明するまで、と畜処理場内に留め 置かれる。陽性となったものについては、当該家畜のと体のすべてが廃棄される (内臓等の管理・廃棄方法の詳細については、69ページ参照)。さらに、当該牛 を出荷した農場で飼養されるすべての牛、BSE感染牛の生年月日以降、同農場か ら販売されたすべての牛、およびこれらの子畜すべてが殺処分され、焼却などに より完全に処理される。 BSEの迅速検査を実施できる承認検査所数は、2000年始めには5〜10ヵ所程度 であったが、現在では67ヵ所(海外1ヵ所を含む)に達している。同国で使用さ れている迅速検査法は主にプリオニクス(約8割)とバイオラッド(約2割)の 2つである。なお、10月29日までに187万6千頭の牛が検査され、55件のBSE感 染が見つかっている。 ◇BSEの迅速検査を実施できる承認検査所(フランス) (2001年11月7日現在)◇ (4)各検査プログラムのBSE確定数 上記の各検査プログラムの年別のBSE確定数は、右グラフのとおりである。臨 床症状からBSEが疑われた牛の検査では、検査を実施した7頭のうち1頭の割合 で確認されている。また、2001年におけるBSE確定数のうち、健康な牛の検査に よるものが約4分の1を占めており、臨床症状からのBSE牛の発見は必ずしも容 易ではないことを示していると考えられる。 ◇図:監視対策(サーベランス)によるBSE確認件数◇
と畜場におけるBSE対策の対応対況等を調査するため、2001年10月にフランス の2ヵ所の牛と畜処理場(A社:リヨン近郊、B社:レンヌ近郊)を訪問した。 以下に紹介する対応例は、A社での調査結果を中心としたものである。 1.A社の概要 取り扱い畜種:牛 と畜処理頭数:530頭/日(最大処理頭数550頭/日:汚水処理能力で算定) 従業員数:500人(と畜、カット、管理部門) 就業時間(2交代制):と畜部門 午前5時〜午後4時半 カット部門 午前5時〜午後9時(季節により変動) 国の衛生検査官:25人(常駐) BSE迅速検査所(施設内に所有:検査は県の機関が担当) 同社の検査所(ひき肉製造などのための衛生品質管理) 96年のBSE問題発生を受けて、と畜処理の安全性を高めるため、97年に旧工場 が所在した近隣地から移転し、と畜場を新設した。工場はコの字型の形状で、家 畜搬入と食肉搬出口は逆サイドに設けられている。また、家畜搬出からと畜処理 ・加工および食肉搬出までを同じフロアーに設置し、内臓処理等はこれらとは区 分して階下に設けるなど、作業効率および衛生管理を重視したレイアウトがなさ れている。 【工場のレイアウト】 2.と畜処理の流れ と畜処理の流れおよび各工程の作業員の人数は次のとおり。 生体搬入:2名(当日搬入のみ:係留施設での待機は最短で1時間) ▽ 生体検査(検査官による目視検査:異常があるものは分離) ▽ 耳標・パスポート照合:2名(重量測定時に、個体パスポートと 耳標を1頭ずつ確認) ▽ BSE検査牛のマーキング(24ヵ月齢以上の牛) ▽ と畜整理番号用耳標装着(個体パスポートからと畜用の耳標に変換) ▽ 追い込み:2名 ▽ ノッキング:1名(説明@) ▽ 懸垂:1名(チェーン装着) ▽ 放血作業(作業員は懸垂と同じ) ▽ 電気刺激(説明A) ▽ 前脚処理・除角:2名(副産物として活用) ▽ 食道結紮:1名 ▽ 後脚処理・架け替え:2名 ▽ 肛門結紮:1名 ▽ 胸部・腹部等のはく皮処理:2名(両耳の付根にナイフを入れ、 機械はく皮による耳標の欠落を防止する) ▽ 機械はく皮:2名 ▽ 頭部切除:1名(個体識別のため、耳標の付いた両耳は枝肉に残す :頭部は口部からホースにより水洗浄後、BSE検査のためのサンプルを 採集。舌、頬肉は食用に)(説明B) ▽ 内臓摘出:2名(赤白分離。赤物は部位別に懸垂する) ▽ ▽ 内臓検査 内臓処理へ(説明C) ▽ せき髄吸引:1名(説明D) ▽ 背割り作業:1名(説明E) ▽ せき髄除去:2名(説明F) ▽ 整形作業:2名 ▽ せき髄片の除去:1名(説明G) ▽ 枝肉検査 ▽ 冷却庫へ(BSE対策以前の処理能力:60頭/時→現在:56頭/時) ▽ 保管 (説明H)
【せき髄吸引除去機】 |
【せき髄の吸引作業】 |
(説明@:ノッキング〜放血)《BSE関連対策》 ノッキングペンでの銃撃による失神後、(従来はワイヤーによるピッシングを 行っていたが、BSEを拡大させる恐れから現在は禁止されている)と体受台で速 やかにチェーンによる懸垂を行う。なお、ピッシングを行わないため、非動化が 十分でない場合もあり、放血作業員の安全を確保するための防護柵が設置されて いる。 (説明A:電気刺激) 放血ラインに沿って設置された機械(上下可動式のものでテニスラケットの面 のようなもの)を頭部に接着させ、20秒間と体に電流を流す。この目的は、@放 血の促進、APH値の低下の2つである。枝肉は、と畜から24時間後にPH値を測定 し、PH6以上の枝肉は品質劣化が早いため、ひき肉(冷凍)原料として仕向けて いる。同装置には大きく2つに分けて高電圧型と低電圧型があるが、A社では低 電圧型を導入している。 (説明B:BSE検査用検体の採取等)《BSE関連対策》 と体から頭骸を除去し、舌を分離した後、BSE検査のための検体採取を行う。 採取部分は延髄で、スプーンを差込み、延髄部分を採取後、周辺の脂肪組織を除 去し1頭ごとパレットへ入れる。採取員はゴーグル、マスクの着用が求められる。 なお、採取時に使用するスプーン・手袋は1頭採取ごとに交換・廃棄(医療用 廃棄物と同様に処理)される。延髄採取後の頭がいは、頬肉を取られた後、SRM として廃棄される。 (説明C:内臓処理) 内臓:可食部分(心臓、肝臓、胃、腎臓) いくつかのバッチに分けて処理・保管する。鮮度の落ちるものは、真空包 装により冷却される。BSE検査で陽性が出た場合は、当該牛が含まれるバ ッチすべてをSRMとして廃棄する。 SRM:黄色に染色後、SRMとして廃棄する。ただし、腸については、許可を得て、 テニスのガット向け原料として出荷している。 原皮:処理場内で塩蔵するが、1枚ごとに個体番号を入れているため、個体識別 は可能である。BSE検査で陽性のものは、SRMとして廃棄する。原皮の用途 は ハンドバック等の皮革製品向けとなる。 血液:ペットフード向け、レンダリング向けにタンクを分けている。保管タンク はそれぞれ2つの計4つ。1日分の血液がタンク1つになる。BSE検査で 陽性のものが見つかった場合は、当該牛の血液が含まれる1日分をすべて SRMとして廃棄する。 (説明D:.せき髄吸引)《BSE関連対策》 食肉衛生規則の改正により、フランスでは2002年1月から、SRMであるせき髄 の除去を背割り前に行うことが義務付けられる予定である。A社やB社などの大 規模と畜場では既にせき髄吸引除去機を導入し、作業を行っている。機械の導入 経費は約15万フラン(約255万円:1フラン=17円、導入に対しては国からの補 助なし)程度である。せき髄の吸引に要する作業時間は、1頭あたり約3分であ る。除去作業の手順は以下のとおり。 1)約30センチ長さの樹脂管を頭がい側からせき柱管に差し込む。 2)吸引用の樹脂管を1)の管を通してせき柱管に差込み、陰圧をかけながら上 下に動かし、せき髄を吸引する(管の長さはテール部に達する長さ)。 3)上述の2つの管をと体から引き抜き、熱湯で消毒する。 なお、せき髄の吸引については、作業員は安全性への配慮からゴーグルの着用 が求められている。 (説明E:背割り作業) 機械によるせき髄の吸引後、バンドソーにより正中線に沿ってと体を2分割す る。背割中は切りくずの飛散を押えるため、刃の上部から水を流して背割りを行 う。仮にBSE検査で陽性のと体が判明した場合でも、バンドリーに対する特別な 消毒処理は行っていない。 なお、背割り作業によって生じた肉片などは、背割り作業台の下に設置された 汚水受台を通じて排出される(汚水処理は73ページ参照)。 (説明F:せき髄除去)《BSE関連対策》 背割りにより露出した枝肉断面のせき柱管内には、吸引ができなかったせき髄 が残っている場合があるため(枝肉によっては数センチから20センチ前後の幅で せき髄がせき柱管内に残っているものも見られた)、手作業によるせき髄の除去 作業が行われる。除去されたせき髄は、SRMとして廃棄される。せき髄除去装置 の能力は、現段階では完全にせき髄を除去できる水準には達していないとみられ る。なお、せき髄吸引作業と同様に作業員にはゴーグルの着用が求められる。 (説明G:せき髄片の除去)《BSE関連対策》 手作業によるせき髄の除去作業の後、最終的には掃除機様の吸引機で、枝肉分 割断面に付着した小片をすべて吸引し除去する。作業時間は1枝肉あたり約1分。 回収片は、すべてSRMとして廃棄される。また、ここでの作業員も同様にゴーグ ルの着用が求められる。 (説明H:BSE検査の結果判明まで) BSE検査の結果が判明するまで(約24時間)、と体の全部分について、と畜処 理場内に留め置かれる。BSE検査の陰性のもののみ、枝肉に衛生検査合格の印が 押される。その後、部分肉加工または枝肉として出荷される。 3.部分肉処理 部分肉製造ラインでは、SRMとされるせき柱(12ヵ月齢以上)の除去について は、除去専用のスペースを設け、専用のナイフと赤色のまな板(他は白いまな板)、 赤色の廃棄箱を用い、SRM以外のものと明確に区分している。 また、これら作業用具の消毒処理も通常のものと分けて行われる。なお、と畜 ラインと同様に、作業員はゴーグルの着用が求められる。 せき柱の除去については、2001年9月から規制が強化され、今まで枝肉または 4分体で仕入れ、バックヤードでせき柱の除去を行っていたスーパーなどでも、 許可を得なければせき柱の除去ができなくなった。このため、食肉処理・加工場 でせき柱の除去を行った上で出荷するケースが増加している。 ※フランスでの一般的な出荷の形態は次のとおり ハイパーマート(大規模スーパー)向け: バキュームパックされた部分肉、包装されたスライス製品 スーパー、小売店向け:枝肉または4分体 4.トレーサビリティー 耳標およびパスポートにより、牛の個体識別は既に100%実施されている。食 肉処理・加工場への牛搬入時に耳標、パスポートを照合し、電算システムにデー タを入力することで情報を管理する。BSE検査の要件となる月齢(24ヵ月齢超) の確認は、パスポートの情報を基に行われる。 食肉処理・加工場から出荷される際には、枝肉または4分体で出荷される場合、 個体識別番号が出荷ラベルに表示される(写真4)。ただし、部分肉に加工した 場合には、処理単位(最大40頭(以前は100頭))ごとのロット番号が製品ラベ ルに表示される(写真5)。このため、部分肉と牛個体との関連付けは完全とは なっていない。EU基準では、2002年1月から牛肉に牛の個体登録番号を表示する ことを求めており、今後、この種の食肉処理・加工場においても、部分肉の出荷 についてはロット管理から個体管理へと改善が求められるであろう。 (写真4) @と場番号 A個体番号 (写真5) @ロット番号 A加工場番号 5.BSE関連対策にかかった設備投資等 A社における、BSE関連設備投資等は次のとおりである。 と畜ラインの改修等:200万フラン (約3,400万円、せき髄吸引機15万フランを含む) BSE検査の研究室設置関連:150万フラン (約2,550万円、以前は食肉処理・加工場外に立地していたが、 BSE検査の実施に伴い内部に移転) と畜部門職員の増員:80万フラン(年間約1,360万円、4人分) と畜能力の低下:と畜から冷蔵庫まで60頭/時間⇒56頭/時間 ※なお、2001年1月〜2月に実施したBSEの迅速テストの際に一部経費について 国からの補助を受けているが、設備投資などに対する公的補助は行われていな い。(ただし、迅速テストに用いる検査キットについては、EUから1キット当 たり15ユーロ(約1,650円:1ユーロ=110円)の補助が行われている。) 6.SRMの保管・廃棄 SRMは、黄色に染色後、防水処理を施した専用コンテナに保管されSRM専用レ ンダリング工場へ運ばれ、処理される。なお、と畜場内でのSRM回収容器につい ては、専用コンテナへの搬送後に、温水および塩素により洗浄される。この時の 洗浄水については、通常の汚水として排出される。 7.と畜・部分肉処理施設の清掃 作業終了後、温水および塩素により洗浄される。なお、この時の洗浄水につい ては、通常の汚水として排出される。 8.汚水処理 SRMの除去は吸引および手作業により行われ、この工程では水による洗浄は極 力行っていない。除去されたSRMは防水容器で保管され、水分とともにSRM処理レ ンダリング工場で処理される。ただし、せき柱切断時の洗浄やSRM保管・運搬用 の箱の洗浄は必要であるため、排水中の固形物をフィルター(網の目の幅は約2 o)で除去(固形物はSRMとして処理)後、一般的な汚水処理を行う。なお、排 水処理で生じる汚泥は、業者に引き取られ肥料原料となっている。
フランスでは、ドイツなど他のEU諸国(イギリス、ポルトガルなどのBSE高発 生国を除く)と比較して、BSE牛の発生が比較的早かったこともあり、AFSSAな どの科学的見地からの勧告に基づき、EU共通で実施される対策に先行して、家畜 衛生および牛肉安全性確保の各種対策が着実に実施されてきた。しかし、2000年 10月に、ある大手スーパーマーケットでBSEの疑いのある牛肉が店頭から回収さ れたことが発端となり、消費者の間に牛肉の安全性に対する疑念が高まった。ま た、同国政府は、2000年からBSE対策の一環としてサーベランス(リスクのある 牛に対する抽出検査)を充実させていたが、この結果、数字上のBSE確認数が増 加していた。このため、BSEが同国内で急速に広がっているとの誤認も重なり、 牛肉に対する不信感の増大に拍車をかけた。2000年末から年明けにかけて牛 肉消費は激減し、学校給食のメニューから牛肉が排除されるなどの騒動が起こっ たことは、消費者への正確な情報提供がいかに難しいかを示す一例といえる。 同国政府や関係機関は、この反省から、『透明性の確保』をBSE対策の実行に 当たっての原則の1つに掲げ、消費者への情報提供を充実させるとともに、テレ ビや女性雑誌など幅広いメディアを活用し、正確な情報の伝達に努めている。1 度失った信頼を取り戻すのは容易ではないが、BSE問題再燃から1年近く経過し、 徐々に牛肉消費は回復している。 日本では、BSEの確定後、わずかの期間で、SRMの除去、と畜牛の全頭検査など の牛肉安全確保対策が整えられた。日本の国産牛肉の安全性が消費者に広く理解 され、肉牛生産者が安心して経営できる状況が1日も早く実現されることを祈り たい。
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