EU、すべての家畜に対し肉骨粉の飼料使用禁止など強化対策を決定


2001年1月から6ヵ月間、強化対策を実施

 EUでは12月4日に緊急農相理事会を開催し、最近EUで急速に広がっている牛海
綿状脳症(BSE)問題に対する強化対策を決定した。この対策は、EUにおける消
費者の牛肉に対する信頼を回復し、域内の牛肉需給バランスを改善することを目
的としている。決定の内容は次の通りである。

@すべての家畜に対し、肉骨粉の飼料向け使用を6ヵ月間の暫定的禁:

 実施は2001年1月1日から6ヵ月間で、その後、状況により期間の延長も有り得
る。

 EUでは、94年に牛など反すう家畜に対して肉骨粉の飼料向け使用を禁止してい
たが、今回の決定で豚、鶏にも適用範囲が広がった。ただし、魚、豚、鶏に対す
る魚粉の飼料向け使用は引続き認められる。また、非反すう家畜由来のゼラチン、
動物脂肪は禁止の対象外。

A30ヵ月齢以上の牛のすべてを対象にしたBSE検査の実施:

 2001年1月1日からは感染の可能性の高い牛(原因不明のへい死、緊急と畜など)
を対象とするが、7月1日からはすべての牛が対象となる。

Bすべての月齢の牛の腸すべてを、BSEの感染源となる可能性の高い特定危険部
 位(SRM)として除去・廃棄:

 これまで牛の腸としては、12カ月齢以上の牛の回腸(イギリス、ポルトガルで
は腸のすべて)がSRMとして除去・廃棄されていた。

C30ヵ月齢以上の牛から得られた牛肉の買い上げ・廃棄(ただし、BSE検査を受
 け健康であると確認できた牛を除く):

 対象となる牛は、市場価格に近い水準で買い上げ・廃棄。総費用は12億5千万
ユーロ(約1,213億円:1ユーロ=97円)が見込まれており、経費負担はEUで70%、
加盟国で30%。この対策は12月12日に牛肉管理委員会で審議された結果、2001年
1月1日から6カ月間実施予定である。また、BSE発生の危険性の低い国(フィンラ
ンド、オーストリア、スウェーデン)に対しては、対策の適用除外(BSE検査を
受けていない30カ月齢以上の牛から得られた牛肉を、自国内に限って食肉販売で
きる)が認められる予定である。

D生産者価格の低下に対応するため、介入買入制度の弾力的運用

E肉牛生産農家の経営状況に配慮し、牛肉関連の奨励金の前渡し率を60%から80
 %に引き上げ

 このほかEU委員会は、現在加盟国が独自に講じているBSE対策への対応方法に
ついて、今後、2回(それぞれ2001年1月1日および1月15日以前)に分けて提案・
検討していくこととしている。


フランスにおけるBSE疑惑牛肉の販売が発端

 EUでは96年3月、イギリス政府がBSEとクロイツフェルト・ヤコブ病の関連性を
指摘したことに端を発した問題で、消費者の牛肉の安全性に対する信頼が失墜し、
EUに消費者の牛肉離れを誘発すると同時に、その対策としてばく大な財政負担を
強いられることとなった。その後、牛肉消費は徐々に回復に向かっていたものの、
BSE防止対策の実施に関しては必ずしもすべての加盟国で足並みが揃ってはいな
かった。

 今回のBSE問題再燃の発端は、フランスで今年に入り、検査方法の改善などに
よりBSEの発生件数が大幅に増加する中、10月下旬、BSE感染の疑いのある牛から
得られた牛肉が大手スーパーマーケットで販売されたことが明らかとなったこと
である。このため、レストランなどでは、BSE感染の可能性が高いとされる骨付
き牛肉の販売自粛、また、スペインなどでフランスから牛の輸入を禁止するなど、
牛肉の安全性に対する消費者の不安が急速に広まった。フランス政府は、この問
題に対処するため、牛に対するBSE検査プログラムの早期実施や、牛腸の食用利
用の全面禁止など、独自のBSE対策を打ち出してきた。また、11月にはドイツや
スペインで初めて自国牛からBSE感染牛が確認されるなど、牛肉の安全性に対す
る消費者の不安がEU各地で一層拡大したと言える。


EUの牛肉価格が急落

 11月30日時点のEU平均成牛価格(市場参考価格)は、前月末に比べて13.4%安
の115.1ユーロ(約1万1,200円:1ユーロ=97円)/100kgとなり、最近10年間で最
低の水準に落ち込んでいる。

 特に、フランスでは、騒動の発端となったBSE感染疑惑牛肉の回収事件が報道
された10月末から、また、ドイツでは、初めてBSE感染が確認された11月後半以
降、価格低下が著しく見られる。両国の11月末の成牛価格を前月末と比較すると
17.5%安(フランス)および24.7%安(ドイツ)と記録的な大暴落となっている。
また、牛肉の消費減退の広がりとともに、価格低下の動きも周辺諸国に拡大し、
EU平均価格の低下を加速させている。

 EUの牛肉管理委員会は11月17日、価格急落を受けて、影響が最も大きい経産牛
から生産した牛肉(カウミート)に対し民間在庫補助の発動を承認した。詳細は
以下のとおりである。

 @交付申し込み期間は、2000年11月27日から2001年2月2日まで

 A期間は3ヵ月(最大6ヵ月まで延長可)

 B補助単価は3ヵ月の保管に対し、枝肉換算1トン当たり472ユーロ(約4万
  5,800円)、保管延長に対しては1日当たり0.93ユーロ(約90円)

 また、11月25日には、カウミートに対する輸出補助金が100kg当たり20ユーロ
(約1,900円)から46ユーロ(約4,500円)と2倍以上の水準に引き上げられた。


肉骨粉の飼料使用禁止で急務となる代替飼料の確保

 農相理事会の決定により、2001年1月からすべての家畜に対し肉骨粉の飼料向
け使用が禁止されることとなり、EUでは今後代替飼料の確保が急務になるとみら
れる。EUでは、飼料として肉骨粉を年間約300万トン(250万トン:域内消費、
50万トン:輸出)生産しており、肉骨粉の飼料は重要なタンパク質供給源となっ
ている。今回の禁止措置により、今後代替飼料として大豆ミールなど油糧種子類
の大幅な需要の増加が見込まれる。

 EUでは、現在飼料として年間5千万トン以上の油糧種子などの需要があり、そ
の3分の2を輸入に依存している。このため、今後これら油糧種子などの増産を図
るとともに、輸入の拡大により飼料を確保することが必要になるとみられる。

元のページに戻る