EU委員会、羊、ヤギ肉に関する制度改革案を公表


現行制度ではいくつかの問題点が指摘

 EU委員会は5月16日、羊およびヤギ肉に関するEU制度について、制度の単純
化などを盛り込んだ改革案を公表した。羊およびヤギ肉に関する現行のEU制度は、
92年のCAP改革に基づき飼養者への直接支払いと民間在庫に対する補助を柱とし
ている。しかし、制度内容は複雑であり、中でも直接支払いの対象となる雌羊奨
励金の単価については、毎年設定される基準価格と平均市場価格の差に係数を乗
じて算出されるが、この係数は、雌羊1頭が生産する子羊肉の平均的な量を勘案
して算定されているに過ぎず、実際には関係統計情報が整備されていないため、
推計値を基に算出せざるを得ない状況にある。このため、イギリスやスペインな
ど生産量が大きい国の価格変動が、EU全体に適用される奨励金単価に大きく影響
することや、算出された奨励金の単価が基準価格の水準を補償するには十分でな
い、などの欠点が指摘されていた。


制度の単純化と飼養者の意識改革が主点

 今回公表された制度改革案では、制度の単純化とともに、飼養者に市場動向を
より意識させるよう誘導するものとなっている。改革案の概要は次の通りである。

@奨励金単価を固定化し、羊飼養者に対し、雌羊1頭当たり21ユーロ(約2,300
円:1ユーロ=109円)の奨励金を支払う(93年から2000年の奨励金の平均単価
を基に算出)

A羊乳および乳製品を販売する羊飼養者やヤギ飼養者に対し、1頭当たり16.8ユ
ーロ(約1,800円、@の単価の80%)の奨励金を支払う

B個々の飼養者に対する奨励金交付限度の設定は継続する

C条件不利地域の羊飼養者に対し、1頭当たり7ユーロ(約800円)を加算する。
(羊乳および乳製品を販売する羊飼養者やヤギ飼養者に対する単価はこの90%)

 今回の改革案についてEU委員会のフィシュラー委員(農業・農村開発・漁業担
当)は「安定的で、事前に単価水準を知ることができる。また、一定単価による
直接支払いは、羊などの飼養者に対し、経営を発展させる確かな基盤を提供する
ものである」と述べている。


各加盟国は好意的に受け入れるとの感触

 現在、EUにおける羊およびヤギ肉の生産量は、豚肉の1割以下、牛肉および
子牛肉の12%程度にしか過ぎない。しかし、一部地域、特に条件不利地域にとっ
て、羊およびヤギの飼養は地域を維持するための重要な産業となっている。加盟
国別に見ると、イギリスが最大(EU全体の約1/3)の生産国で、次いでスペイ
ン(22%)、フランス(13%)と続いている。羊肉などの域内自給率は100%を
割り込んでおり、域内消費の約2割を域外から輸入している。こうしたことから、
この部門は、生産過剰の解消と価格支持等に対する財政負担の軽減を主目的とし
た99年のアジェンダ2000に基づく共通農業政策(CAP)改革の対象には含まれて
いなかった。今回のEU委員会の提案は、奨励金交付事務の簡素化にもつながるだ
けに、各加盟国からは好意的に受け入れられるものとみられている。また、農業
団体からは、透明性が向上するとして評価する声が上がっている。

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