豪州連邦政府が全国家畜個体識別制度の義務化に難色


CCA、政府援助を条件に義務化を求める

 豪州では、電子耳標を用いた全国家畜個体識別制度(NLIS)が肉用牛生産者の
任意参加で開始されているが、豪州肉牛生産者協議会(CCA)は、政府の援助を
条件にこれを直ちに義務化することを求めている。これに対し、連邦政府のトラ
ス農相は、先日行われた豪州連邦・各州農相会議において、その重要性を認識し
ながらも、生産者による自発的な導入を優先すべきであり、直ちに義務化するこ
とについては難色を示した。

 豪州では、99年12月からNLISが開始されている。NLISは、農林漁業省、豪州検
疫検査局、CCA、豪州肉牛フィードロット協会など、政府・業界の団体で構成す
るセーフミートが管理運営の責任を負っているが、実際には豪州食肉家畜生産者
事業団(MLA)がセーフミートからの委託によりその事務等を行っている。その
目的は、疾病予防管理(ブルセラ病、牛の結核等)、残留農薬など事故発生時の
追跡可能性などとされている。


電子耳標にかかる費用負担が問題

 MLAによると昨年12月現在、EU向けに牛肉を輸出するためにNLISを導入してい
る生産者数は2,871戸で118万6千頭に耳標装着されたとしている。

 現在NLISに使用される電子耳標は、最低価格のもので1個約3.5豪ドル(約221
円:1豪ドル=63円)であり、その費用は生産者が負担している。NLISの義務化
をめぐる今後の議論の焦点は、その費用を誰が負担するかであり、CCAは、連邦
・各州政府の援助を求めているが、トラス農相は、当面は業界内で導入を促した
うえで将来的に義務化することが望ましいと消極的な発言を行った。

 豪州の2000年の牛飼養頭数が約2,700万頭、そのすべてに電子耳標を装着すると
単純に9,450万豪ドル(約59億5千万円)、さらに現在MLAが行っている個体のデ
ータベースシステムへのすべての家畜市場、食肉処理場でのデータの読み取り、
入力装置の導入などインフラ整備も必要となり、そのコストはかなり大きいもの
になると予想され、個体識別の重要性を認識している政府も義務化に対し消極的
になっているものと思われる。


個体識別制度は豪州産牛肉の安全性、信頼性をアピールする上で重要

 豪州は、その牛肉生産量の約6割を輸出する牛肉輸出国であり、世界の各地で
発生している口蹄疫やEUでみられる牛海綿状脳症(BSE)に対する豪州産牛肉の
安全性、信頼性のアピールや国内防疫面から個体識別制度の重要性が議論されて
いる。

 先ごろMLAが試算したところによると口蹄疫が豪州で発生した場合の損失額は
40億ドル(約2,520億円)に達するとされ、牛肉産業界の危機意識も高い。NLIS
が開始された背景には、EUが、98年にEU向け輸出牛肉への成長促進ホルモン剤の
使用に関する検査体制の見直しと肉牛生産農場まで確実にトレースできる個体識
別制度の確立を要求したことが挙げられる。その後、EU向け輸出牛肉に限りNLIS
が義務化された(「畜産の情報」海外編2000年6月号参照)。

 豪州の牛肉輸出量は毎年増加し続けており、昨年ついに90万トンを超えた(船
積み重量ベース)。今年に入ってもその勢いは、豪ドル安、相次ぐ競争相手国に
おける疾病の発生などの影響により依然衰えていない。肉牛業界の輸出部門は、
96年にイギリスを中心に発生したBSE問題などの影響により、輸出量が減少した
苦い経験があり、食品の安全性に関する輸入国の消費者ニーズに対応するべく
NLISの導入に努力を続けている。今年、MLAはNLIS制度開始以来2年間の蓄積デ
ータを生産者へフィードバックする予定である。NLISの義務化が実現するか、今
後の動向に注目したい。

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