酪農振興を最重点課題に(ベトナム)


継続的な現金収入獲得を目指し、酪農振興を最重点課題に

 ベトナムでは、4月下旬に開催された第9回全国党大会において、今後10年間
の社会・経済開発計画を含む新たな政策方針が採択された。この新方針を受け、
農業・農村開発省(MARD)は、酪農振興を最重点課題として小規模農家の所得
向上を目指す畜産振興策を発表した。

 新たな政策方針の背景には、最近の少数民族問題と同国の外貨不足問題がある。
特に乳製品については自給率が低く、ベトナムも所得向上に伴ってその消費量が
伸びるという一般原則に従うとすれば、現状の生産体制のままでは、輸入によっ
て貴重な外貨を失う可能性が高い。また、酪農には、素牛の価格が高く、初期投
資額が大きいという難点はあるものの、いったん生産が始まれば、小規模でも継
続的に現金収入が得られるという利点があることが、今回、酪農振興を最重点課
題とした背景にあるものとみられる。


都市部と農村部の所得格差拡大も背景の1つ

 ベトナム総合統計局によると、同国の農村地帯の1戸当たりの月収は、94年に
14万1千ドン(約1,175円:100ドン=約0.83円)であったものが、99年には約6
割増の22万5千ドン(約1,875円)にまで増加している。しかし、この間、都市
生活者の平均世帯収入は、94年の1ヵ月当たり35万9,700ドン(約2,998円)から、
99年には2.5倍の83万2,500ドン(約6,938円)へと増加しており、農村と都市との
所得格差は、むしろ大幅に拡大しており、農村部での不満が高まる一因となって
いる。

 ベトナムには、2000年末現在、約3万5千頭の乳用牛(うち経産牛:約2万4
千頭)がおり、年間約5万5千トンの生乳が生産されている。MARDでは、2005
年には乳用牛頭数が約10万頭(うち経産牛:約6万8千頭)で生乳生産量が約16
万3千トン、2010年には乳用牛頭数を約20万頭(うち経産牛:約13万6千頭)、
生乳生産量を約35万トンにまで増産したい考えである。

 2000年における同国の1人当たりの乳製品消費量は、生乳換算で約6.5kgであ
るが、自給率は10.8%にすぎない。MARDでは、乳製品消費量を2005年には約9
kg、2010年には約12kgに引き上げるとともに、自給率も2005年には21%、2010年
には32%まで引き上げたいとしている。


酪農振興策に大型予算投入、しかし、生産・流通には南北格差も

 MARDでは、今回の酪農振興策のための予算として、今後10年間で約5,150億ド
ン(約42億8千万円)という、同国としては大型の基本計画予算を組んでいるほ
か、農家向けの低利融資枠として総額1兆2,050億ドン(約100億円)を確保して
いる。政府の基本予算の内訳は明らかにされていないが、少数民族を多く抱える
北部山岳地帯への乳用牛の投入や、首都ハノイや南部の中心都市ホーチミンなど、
大都市近郊における酪農振興が中心となるとみられる。しかし、同国では、南北
で一般経済事情のみならず、畜産農家の経営形態も大きく異なっている。南のホ
ーチミン市周辺では、酪農家の規模が大きく、流通経路も含めて発展が著しいの
に対し、中部以北では、経営規模も公社を除くと平均10頭程度以下であり、流通
経路にも問題があるようだ。

 今回発表された酪農振興策は、飼養頭数の拡大が中心で周辺状況の整備が含ま
れておらず、かなり無理があるとみられる面もある。しかし、2000年末からは日
本の技術協力による人工授精技術改善計画も開始されており、同計画を通じた乳
量の改善が同国酪農の発展に与える影響と併せ、今後の動向が注目される。

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