ホーチミン市の酪農事情(ベトナム)

(シンガポール駐在員事務所 小林 誠、宮本 敏行)


  
 ホーチミン市クチ地区の酪農家の牛
舎は、建設コストを抑えることとベト
ナムにおける酪農で最も問題となる暑
熱対策に重点を置いた設計となってい
る。屋根はかやぶきで吹きさらしのた
め、内部は湿度の低い乾期には、かな
り涼しくなっている。

    
 技術指導が徹底されており、先進地
区ではほとんどがフリーストール方式
であり、肢蹄保護のため牛床にはゴム
マットや砂が用いられている。

    

    

    

    
 手前の牛は日本の(社)家畜改良事業
団から提供された凍結精液により誕生
したもので、農家の話では、泌乳能力
が非常に高いという。農家では、もっ
と日本の牛が欲しいとのことで、牛の
能力向上に対する意欲がうかがわれる。

    
 ホーチミン市周辺では、パニカム類
(ギニアグラスなど)のうち「広葉」
と「細葉」と称する2系統の牧草が用
いられている。ベトナムには乾期もあ
るが、手作業でかんがいし、年間10回
から12回の収穫が可能であり、収量は
「広葉」で1ヘクタール当たり400トン、
「細葉」で同200トン程度に達する。
飼料畑の周辺には、豪州のBrigalowに似
たマメ科の樹木が植えられており、土
壌への窒素還元と葉の飼料化の兼用が
図られている。
ひとくちメモ

 ホーチミン(旧サイゴン)市は、人口約600万人であり、首都ハノイ(約2
50万人)をしのぎベトナム最大の都市となっている。同市は、近年、近代化の
進展が著しく、食品の小売も伝統的市場方式から、フランスとの合弁によるコラ
スーパーなど大規模かつ近代的なものへと変化してきており、牛乳・乳製品の消
費も大幅に伸びている。2000年末現在の同市の乳用牛頭数は約3万1千頭で、国
内総頭数の約90%を占めている。

 農業・農村開発省は、酪農開発を農業分野の最重要課題に掲げ、今後10年間に
乳用牛頭数を現在の約5.7倍に増頭し、生乳生産量を現在の5万5千トンから約
6.4倍の35万トンに引き上げるという目標を発表している。

 ホーチミン市周辺の生乳価格は1s当たり2,700〜2,800ドン(約21.3〜22.
1円)であり、この価格は周辺諸国の生乳価格や豪州やニュージーランドの輸出
提示価格である1s当たり2,200ドン(約17.4円)よりも高いものとなっている。
周辺諸国に比べると、国民性のためか、同市周辺の酪農家の技術水準は高く、高
い乳価水準もあいまって、酪農の収益性が高くなっている。
 
 飼料は、すべて人力による青刈り給
与が基本であり、飼料調達が生乳生産
コストに大きな比重を占めている。

    
 小規模乳業工場では、余乳の発生が
避けられず、余乳対策として加糖れん
乳を製造し、それを濃縮してミルクキ
ャラメルを製造・販売している。この
工場では、集乳量の15%程度をキャラ
メルに加工している。
  
 ベトナムでは、作物生産、畜産、果
樹、養魚の4つを組み合わせることが
推奨されており、ほとんどの農家で果
樹園を併設している。果樹園では、果
樹の下草を青刈り給与用に利用するほ
か、果実の残渣も飼料用に用いる。こ
の農家では、ジャックフルーツの果皮
を手作業で細切りし、乳牛に与えてい
る。果皮とはいえ、糖分含量が高いた
め、家畜の嗜好性が高いが、多数の花
アブや蜂がたかっており、作業は容易
ではない。

    
 ホーチミン市内のフランス資本によ
るコラスーパーの乳製品陳列棚。品揃
えも豊富で、日本のスーパーとそん色
ない状況である。コラスーパーは、市
内に同様の店舗を3ヵ所構えており、
今年中にはハノイへの進出も予定して
いる。このようなスーパーは、ホーチ
ミン市内に25店舗あり、同市では伝統
的なウエット・マーケットスタイルの
市場が衰退しつつある。牛乳は250ml
入りのものが1本4千ドン(約32円)
となっている。
 ホーチミン市近郊の小規模乳業工場。
小規模ながら、作業はスウェーデンの
アルファ社製の機械で行われている。
牛乳充填後の検品と出荷用ケースへの
詰め込みは手作業で行われている。

    
 コラスーパーのチーズ売場。フラン
ス資本だけあって、チーズの品揃えは
豊富だが、すべて輸入品で価格が高く、
かなり広いスペースをとっているにも
かかわらず、夕刻の買い物時に10分程
度待っても客は1人も現れなかった。

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