牛肉輸出検疫検査コストの政府負担を決定(豪州)


輸出検疫コストの40%を政府が負担

 豪州連邦政府のトラス農相は8月29日、牛肉を含む主要な農産物の輸出に関し、
豪州検疫検査局(AQIS)による輸出検疫検査コストの40%相当額を政府が負担す
ると発表した。豪州牛肉業界は、これによって年間約2千万豪ドル(約12億円:
1豪ドル=60円)のコストを軽減できるとしており、豪州産牛肉の輸出競争力の
強化につながると歓迎している。

 今後、AQISが牛肉業界団体などと具体的な協議を行うが、順調に行けば新施策
は本年11月1日から実施される見込みとされている。


農畜産業への依存度が高い地方経済の活性化が目的

 この新施策は、先般、アンダーソン副首相兼運輸・地方サービス大臣が公表し
た「強力な地方、強力なオーストラリア」という総額2億3,500万豪ドル(約14
1億円)の総合的な地方活性化政策の一貫として打ち出されたもので、牛肉、穀
物、乳製品、生体家畜、水産物、園芸作物、有機農産物の7品目を対象に、政府
が輸出検疫検査コストの一部を負担することによりこれらの輸出競争力を強化し、
農畜産業への依存度が極めて高い豪州地方経済の活性化を促進することを目的と
している。

 今回の施策の対象となった7品目のうち、その恩恵を最も強く受けるのは牛肉
業界だとみられている。豪州では、牛肉処理加工業者(パッカー)が牛肉を輸出
する場合、AQISによる厳しい工場検査に合格して輸出ライセンスを獲得しなけれ
ばならず、かつ、各工場に輸出数量に応じた複数のAQIS検査員を常駐させて毎日
その製品検査を受けなければならない。このため、輸出ライセンスを維持するた
めの設備投資や、AQIS検査員の駐在費用・検査コストが業界全体で年間5千万豪
ドル(約30億円)に達するといわれている。


政府によるコスト負担再開は牛肉業界にとって強力な援護

 豪州政府は78年までAQISの牛肉輸出検疫検査コストを全額負担していたが、財
政支出削減方針に基づき、その負担率を79年には50%、88年には40%と徐々に減
らし、91年には負担を全廃して全額を業界負担とした。ちなみに、豪州牛肉業界
関係者によると、牛肉輸出の競争相手国である米国は政府が関連コストの87%を
負担、アイルランドも50%の負担を受けているという。このため、豪州の肉牛・
牛肉関係者には当該コストの全額負担が豪州産牛肉の輸出競争力を著しく弱めて
いるとの不満が強く、業界団体がことあるごとに政府に負担の再開を要請してい
た。

 今回の豪州政府の決定に対し、豪州肉牛生産者協議会(CCA)は29日、過去10
年間にわたる地道な努力が報われたと歓迎する一方、海外のユーザーに対して安
全な牛肉を提供するべく、今後もAQISが現在の輸出検疫検査体制の高いレベルを
維持・向上させてほしいとのコメントを発表した。

 先般、発表された豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)の中期見通しでは、現在
の豪州肉牛・牛肉業界の活況が当分の間継続すると予測されているが、今回の政
府決定は、業界にとって強力な援護射撃になることは間違いないと思われる。

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