バイオガスの利用意識高まる(タイ)


全国的な取り組みのバイオガス振興プロジェクトが発足

 タイでバイオガスの利用による環境保全および省エネ対策が進んでいる。タイ
政府は92年以降、500頭以上の豚を飼養する者に一定の基準を満たすふん尿処理
施設の設置を義務付けており、環境汚染に対する畜産農家の関心が急速に高まっ
ていることもこの一因となっている。

 政府はこのほど、養豚農家を集めた環境保全に関するセミナーを中部のペチャ
ブリ県で開催した。数年前の同セミナーには100名程度しか集まらなかったが、
今回は400名に近い参加者があり、養豚農家の環境問題に対する関心の高まりを
裏付けるものとなった。タイでは、2001〜2008年を対象期間として9億バーツ
(約25億2千万円:1バーツ=2.8円)を投じた全国的な取り組みのバイオガス
振興プロジェクトが発足している。この試みには全国で総飼養頭数230万頭を保
有する600戸の中〜大規模養豚農家が参加している。予算の3割は政府が拠出す
るエネルギー保護振興基金から充当される。同プロジェクトによって、毎時9,1
00万キロワットの電力供給が期待され、さらに、副産物として7万6千トンの有
機肥料の生産が可能とされている。


民間レベルでも事業の将来性に期待

 このプロジェクトに参加する養豚農家に対し、バンコク銀行はバイオガス事業
の進ちょく度合いおよび従前の借入額に応じて低利で資金を融資するとしており、
民間レベルでもこの事業の将来性に期待を寄せている。バイオガスの研究は、95
年からチェンマイ大学のバイオガス推進チームによって本格的に取り組まれてき
たが、一般に普及するには多額の初期投資がネックになるとされる。銀行をはじ
めとした民間企業の積極的な資金協力は、同事業を普及させていく上で大きく望
まれているところとなっている。

 近年では、タイでも家畜のふん尿などから発生する悪臭を畜産公害としてとら
える風潮が強くなっており、98年に1,400万バーツ(約3,900万円)を投じてバ
イオガス装置を導入したラチャブリ県の養豚農家は、導入の理由として、近所の
住民からの苦情件数が年々増え、養豚経営の継続が困難になりつつあることを挙
げている。同農家は2万頭の豚を飼養しており、バイオガス装置の導入で養豚業
および家庭消費における電力費の負担は従来の三分の一に低減できたという。同
農家は、養豚農家が一般社会と共存できるこの方法を是非広めていきたいとして
いる。


将来的な普及は、課題の解決と政府の支援体制整備がかぎ

 しかし、このプロジェクトを推進する国家エネルギー政策局は、幾つかの解決
すべき問題があることを指摘している。タイでは現在のところ、バイオガスによ
って生産された電気を電力会社に売却することができず、また、余剰ガスの専用
ボンベへの圧縮にも多大なコストが必要となる。同局は、こうした諸問題を解決
していけるかが将来的な普及のかぎになるとしている。

 タイをはじめとした途上国におけるバイオガス利用の意義は大きい。近年では、
研究機関がバイオガス装置を養鶏やゾウ飼育の分野にも導入するなど同技術利用
のすそ野は広がりつつある。政府の支援体制の整備が望まれている。

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