安全性が求められる中国の豚肉


輸出拡大には安全性の確保が条件

 中国では、国民の生活レベル向上と健康に対する意識の高まりに伴い、食に対
する消費者の考えに大きな変化が生じている。特に近年、世界的な問題となりつ
つある「ダイオキシン」、「牛海綿状脳症(BSE)」、「口蹄疫」、「残留物質」
などの問題は、中国人に対しても食に対する不安感を抱かせている。このため、
国内の食品市場では、消費者のニーズに対応したオーガニック製品や安全性をう
たった農畜産物の生産が増加しつつある。中国は、世界貿易機関(WTO)への加
盟に伴い、新たな畜産物輸出拡大の機会に恵まれたが、世界市場への進出を図る
ためには、一層の安全性の確保が求められることになる。また、環境問題に適応
した生産も視野に入れなければならない。


さまざまな問題を抱える養豚現場

 畜産物に関して、現在、中国で最も輸出拡大が期待されるのは、世界最大の生
産量を誇る豚肉および豚肉製品である。しかし、国内の養豚産業では、安全性や
環境問題に配慮した肥育形態が行われていないのが実状とされている。一般的な
中国の養豚では、豚舎などの施設基準が無いに等しく、肥育豚は厳しい生育環境
に置かれており、不適切なふん尿処理などで衛生条件も劣悪とされている。また、
養豚経営における環境問題についても、豚舎からの汚水などにより都市部を中心
に水質汚染が深刻化しつつある。さらに、肥育豚への問題として、飼料メーカー
や肥育業者による飼料への使用禁止物質の混入事例が後を絶たない。動物用薬品
についても使用基準が明確でないため、肥育現場では豚への大量投与が日常的に
行われ、豚肉に多量の抗生物質の残留を招いている。


養豚業の意識改革は早急な課題

 これら、さまざまな問題を解決するために、行政組織が一体となった取り組み
も進められている。中でも、獣医師を対象とした全国レベルでの研修体制の確立
や、都市部を中心とした環境汚染の取締などに重点が置かれている。また、一部
養豚現場では、企業化を推進することで効率的な投資や融資が可能となり、衛生
的な飼育環境も整いつつある。しかし一方では、畜産物の検査態勢を見ても機材
などの不足から検査対象が限られ、わずかな現場でのサンプル検査が行われてい
るに過ぎない現実もある。衛生面や環境に対する法整備は進みつつあるものの、
それを適切に執行するためのハード面が整わないのが実態であるといえる。市場
経済への移行により利益のみを追求する傾向が高まる中で、養豚業界は豚肉の安
全性を大きな課題とは捉えていないとされている。WTO加盟により輸出促進を促
すためにも、早急に食品の検査体制を確立するとともに、養豚業界に対する意識
改革の必要性が叫ばれている。

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