特別レポート 

ブラジルの穀物生産および需給について

ブエノスアイレス駐在員事務所 玉井 明雄、犬塚 明伸




1. はじめに

 米農務省(USDA)が10月に発表した世界農産物需給予測によると、2001/02
年度ブラジルは、トウモロコシの世界生産量5億9,597万トンのうち3,550万ト
ン(シェア6.0%)、大豆1億8,378万トンのうち4,350万トン(同23.7%)、大
豆かす1億2,471万トンのうち1,947万トン(同15.6%)、をそれぞれ占めてい
る。特に同国の大豆生産は、中央部のセラード地帯(後述)で急速に拡大し、
米国に次ぐ生産量を誇る。また、2002/03年度における大豆の需給予測ではブ
ラジルとアルゼンチンを合わせた生産量は7,900万トンであり、米国の生産量
を上回っている。また、ブラジルでは、トウモロコシに対し養鶏、養豚産業の
拡大による強い国内需要があることから、生産量の大部分は国内市場に向けら
れるが、世界の貿易を見ると、大豆、大豆かすについては、それぞれ世界2位
の輸出国である。

 今回のレポートでは、同国の養鶏、養豚および飼料産業との関わりの深い穀
物、油糧種子などの生産および需給動向を中心に、セラード地帯の農業概況、
大豆の輸出ルートなどについても紹介したい。


2. ブラジルの一般概況

(1)ブラジルの一般概況

 ブラジルは北緯5度から南緯33度、西経34度から同73度の間に位置し、
国土面積は約8億5,470万ヘクタール(日本の約23倍)で、ロシア、カナダ、
中国、米国に次いで世界で5番目に大きい。

 国土が広大な面積にわたるため、気象条件も地域別に異なり、熱帯性、亜
熱帯性、および温帯性の各種の気候がある。正式な国名はブラジル連邦共和
国で、1連邦直轄区(首都のブラジリア市)と26州からなる。

 人口は1億6,980万人(2000年)で、人種は欧州系55%、混血38%、その他
(アフリカ系、東洋系など)から構成されている。各地域の面積比率は、ア
マゾン森林によって構成される北部が全体の45%を占めて最も多く、セラー
ド地帯が占める中西部が18%、乾燥地帯を含む北東部が19%、国内経済の中
心地である南東部が11%、伝統的な穀倉地帯である南部が7%を占める(図1)。

 2001年におけるブラジルの国内総生産(GDP)は5,039億ドルで農業部門が
GDP全体の約3割を占める。GDP成長率は1.5%で、部門別では農業部門が5.1
%で最も高い(表1)。全国農業連盟(CNA)によると、同国の農業粗生産
額は作物部門(20品目)と畜産部門(5品目)で構成され、2001年の粗生産額
は926億レアルとなっている。全体に占める部門別のシェアは、作物部門が5
9%、畜産部門が41%である。全粗生産額のうち、牛肉に次いで多い大豆は
全体の15%、トウモロコシは全体の8%を占める。一方、貿易統計を見ると、
2001年の貿易収支は94年以来7年ぶりに26億ドルの黒字となったが、これは、
全輸出額の41%を占める農業部門が190億ドルと大幅な黒字を計上したこ
とによるものである。また、農業部門の輸出額の内訳では、大豆製品(大豆、
大豆油、大豆かす)が約2割を占め最大である。

◇図 1:ブラジルの各州と地域区分◇


表 1 ブラジルの経済指標

資料:ブラジル中央銀行、ブラジル農務省
注1:GDP成長率はレアルベース
 2:1ドル=約122円、1レアル=約34円(11月5日現在)

表 2 ブラジルの地域別農村人口の推移

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)

表 3 ブラジルの部門別農村経済人口

資料:農業センサス(95/96年)


(2)農業人口と土地利用

 ブラジルの農村人口は3,393万3千人で、全人口の約2割を占める(表2)。農
村人口のうち14才以上の農村経済人口は1,793万人である。総人口に占める農
村人口の割合は、60年が55.3%であったが、96年は21.6%と減少している。ブ
ラジル地理統計院(IBGE)によると、この減少要因として、農業生産の近代化、
特に機械化の進展による労働力の需要の減少を挙げている。農村経済人口の部
門別内訳は表3の通りである。

 農場面積は3億5,361万ヘクタール(表4)で、国土面積の約4割を占める。開
墾面積、すなわち、資金を投下して農耕地や牧場の造成、植林を行った土地の
面積は農場面積の48.5%に相当する。95年の農場数、農場面積は、85年と比べ、
それぞれ減少しているが、要因としては農地の一部の市街化やレジャー用地へ
の転用などが挙げられている。

 こうした傾向の中で、同年の開墾面積が85年比で2.5%とわずかながら増加
したのは、改良牧野の増加によるもので、永年作や短期作の減少をカバーして
いる。短期作の面積がこの10年に減少したのは、草綿、コメ、フェイジョン豆、
および小麦の栽培面積の減少によるものであり、永年作の場合、コーヒー、木
綿がそれぞれ減少した。


(3)セラード地帯における農業の概要

ア セラード地帯の概況

 セラード地帯は、約2億400万ヘクタール(日本の面積の約5.4倍)にも及び、
長い間、農耕不適地と見なされてきた。セラードとは、ポルトガル語で「閉ざ
された」という意味で、1メートル弱の草本で連続的に覆われた中に断続的に
潅木が茂みを作っている植生の呼称である。セラード地帯は、酸性度が高い
「ラトソーロ」と呼ばれる土壌が大部分を占め、肥沃度が低いとされるが、地
域内には石灰鉱床が豊富にあり、これを利用した中和により、農業生産への土
地利用を可能としている。

 セラード地帯の気候は、熱帯性半湿潤気候を特徴としており、雨期と乾期が
明らかである。雨期は、9月〜4月、乾期は5月〜8月、年間降雨量は600〜2,000
ミリメートル、平均気温は18℃〜25℃である。表5を見ると、同地帯には、6,6
00万ヘクタールの未耕作地があるが、これはつまり、農業への開発が可能な土
地として、全国の主要穀物(油糧種子を含む12品目)作付総面積の約1.8倍に
相当する面積が同地帯に残されていることになる。

表 4 ブラジルの農用地の利用

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)

◇図2:ブラジルにおけるセラードの分布◇

表 5 セラード地帯における土地利用


イ セラード地帯における農業の特徴と生産の推移

 古くから粗放牧地帯であったセラード地帯で行われてきた農業は、酸性土壌
に強いコメ栽培を主体としていた。しかし、70年代に始まったセラード農業開
発を契機に、高い農業技術を持つ南部の生産者が、セラード地帯の安価な土地
を求めて移住したことは、同地帯の農業形態を変えた。それまで行われてきた
コメ作は次第に大豆に切り替えられ、70年代から80年代の始めにかけて、大豆
栽培はマットグロッソドスル州、ゴイアス州南東部、ミナスジェライス州西部
に拡大し、後に大豆の栽培地帯は、徐々に北上した。90年代にはマットグロッ
ソ州、トカンチンス州などにも拡大し、最近では、パラ州南東部、赤道を超え
て北半球に属するロライマ州北部でも試験的な栽培が行われている。

 伝統的な生産地帯である南部からセラード地帯へ農業生産が拡大した要因と
しては、セラードの土地価格が南部に比べ安価であったこと、ブラジル農牧研
究公社(EMBRAPA)による土壌や気象条件に適した品種の改良が行われたこと
などが挙げられる。なお、79年には日伯セラード農業開発事業(PRODECER)が
立ち上げられたが、日本は技術および資金面からその後21年間にわたりセラー
ド農業に多大な協力をしている。

 また、セラード地帯への南部生産者の入植とそれに伴う経済活動の活発化に
伴い、70年までに続いてきた地方の食糧供給確保を目的とした農業は、次第に、
機械化による輸出作物の大規模生産へと変わっていった。セラードの平坦な土
地は、機械化の進展を可能としたが、機械化による大型農業への発展は、穀物
メジャーなどの現地進出を促し、潤沢な生産資金の供給をもたらした。

 最近では、セラード地帯では飼料生産の増加に伴い、養鶏、養豚生産も伸び
ている。

ウ セラード地帯における主要穀物などの生産量 

 セラード地帯における主要穀物などの生産量(2001年)は表6の通りである。
大豆は、全国の生産量に占める割合が75年にはわずか3%に過ぎなかったが、
2001年には全国の約5割を占める1,837万トンに達しており、これは、世界の大
豆生産量の約1割に相当する。

 一方、冬作(第2期作)トウモロコシは、大豆の裏作として利用されている
ことから、大豆の生産増に伴ってトウモロコシ生産も増加し、2001年の生産量
は全国の約3割に当たる1,328万トンと、80年に比べると約3.6倍となった(表7)。
また、最近では、ゴイアス州を中心に大豆の裏作としてソルガムの作付けも増
加している。

表 6 セラード地帯における主要穀物、油糧種子の生産量

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)、EMBRAPAセラード研究所

表 7 セラード地帯における主要穀物、油糧種子の生産量の推移

資料:EMBRAPAセラード研究所


3. 穀物、油糧種子の生産動向

(1)主要穀物、油糧種子の生産動向

 2001年におけるブラジルの主要穀物(油糧種子を含む12品目)の生産量は、
80年に約5,300万トンであったが、2001年には1億トン近くに達している(表9)。
中でも大豆とトウモロコシが全体の約8割を占めている。トウモロコシと大豆
は作付けに当たり競合関係にあり、市況の良い方に生産者の作付意向が働くた
め、年によっては生産量の変動が大きい。最近では、2001年にトウモロコシが
史上最大の生産量となり、大豆の生産量を超えたが、供給の増加からトウモロ
コシの生産者価格が下落したのに対し、大豆は国際市況の回復や自国通貨が対
米ドルで下落したことから生産者価格が上昇したため、大豆の作付面積が増加
した(表8)。2002年の生産量は、大豆が史上最大の4,166万トン(前年比10.5
%増)、トウモロコシが3,717万トン(同10.4%減)と見込まれている。

 ここ20年間において、主要12品目の収穫総面積はあまり変化が見られないが、
1ヘクタール当たりの収量が増加し、総生産量は大幅に増加している。これは、
機械化を含む栽培技術の向上やEMBRAPAを中心とした国内各地に適した品種の
改良と栽培指導によるところが大きい。また、大豆とトウモロコシの収穫面積
が増加したにもかかわらず、収穫総面積に変化が見られなかった要因として、
一部の作物における収穫面積の大幅な減少が挙げられる。ここ20年間で、コメ
は、600万ヘクタールから300万ヘクタールに、小麦も310万ヘクタールから170
万ヘクタールに減少している。

 1ヘクタール当たりの収量の推移を見ると(表10)、大豆は、80年の1,727キ
ログラムから、2001年には2,705キログラムに増加し、米国の平均と肩を並べ
ている。トウモロコシは、80年の1,779キログラムから2001年には3,349キログ
ラムに増加したが、世界平均の4,300キログラムには及ばず、8,000キログラム
を超えている米国の水準にはほど遠い。

 ブラジル農務省では、同国農業生産の拡大の要因として、農業生産を一定方
向に誘導した農業政策に加え、品種改良や不耕起栽培法の普及を挙げている。
不耕起栽培の普及率は、同国の穀倉地帯であるパラナ州のカンポス・ジェイラ
ス地方では、大豆94%、トウモロコシ75%、小麦ほぼ100%となっている。不
耕起栽培の利点は、@土壌流亡の防止、A耕地・整地作業の省略による機械投
資の節減、B土壌に亀裂が生じることによる土壌深層の通気性の増加、C土壌
水分の保持、D地温上昇の抑制などが挙げられる。

表 8 ブラジルにおける主要穀物、油糧種子の収穫面積の推移

資料:資料:ブラジル地理統計院(IBGE)
 注:2001年、2002年は暫定値

表 9 ブラジルにおける主要な穀物、油糧種子の収穫量の推移

資料:資料:ブラジル地理統計院(IBGE)
 注:2001年、2002年は暫定値

表10 ブラジルにおける主要な穀物、油糧種子の1ヘクタール当たりの単収の推移

資料:資料:ブラジル地理統計院(IBGE)
 注:2001年、2002年は暫定値

(2)大豆、トウモロコシなどの生産動向

ア 大豆の生産動向

 大豆栽培の歴史は浅く、トウモロコシの栽培地帯が全国に広く分布し、60
年代にすでに1,000万トンの生産を行っていたのに対し、60年代まで南部地方
で100万トンの生産が行われていたに過ぎない。

 大豆生産が拡大したのは、70年代に開始されたセラード開発を引き金とする
が、大豆は72年から75年にかけてのエルニーニョの発生により、国際商品とし
て大いに注目された。それは、ペルー沖の漁獲量が激減し、当時の主要な高タ
ンパク飼料であった魚粉の供給が不足し、代替品としての大豆が求められたが
時を同じくして、米国大豆が減産したため、シカゴの大豆相場は記録的な高値
を記録した。国内供給の不足を恐れた米国は、大豆輸出を停止し、米国に依存
していた日本に脅威を与えたが、このことが、その後の資源外交を行う日本側
とセラード開発に資金と技術を求めていたブラジル側との共同開発計画につな
がったとされる。

 そして、75年の降霜によりコーヒーの生産地帯が壊滅的な被害を受けたのを
契機に、80年代に南部で生産が伸び、後に中西部で栽培が拡大した後飛躍的に
拡大した。

 80年以降の収穫面積の推移(図3)を見ると、南部が600万ヘクタール前後で
停滞する一方、中西部で大幅に増加している。生産量を見ても、中西部は75年
から2001年にかけて、35万トンから1,677万トンへ飛躍的に拡大した(図4)。
2001年の地域別生産量を見ると、全国の生産量3,769万トンのうち、中西部が
最大で44.5%、次いで南部が42.5%、南東部が7.3%である。中西部のマット
グロッソ州は、全体の約4分の1(2001年)を占め、ブラジルの農業フロンティ
アと呼ばれる地域である。

 1ヘクタール当たりの収量を見ると、2001年には南部が2,682キログラム、中
西部が2,912キログラムとなった。生産性においても中西部が南部を勝ってい
ることがうかがえる。

◇図 3 大豆の地域別収穫面積の推移◇

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)

◇図 4 大豆の地域別生産量の推移◇

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)

イ トウモロコシ・ソルガムの生産動向

 この20年間の収穫面積の推移を見ると、農業フロンティアの拡大に伴い著
しく増加した大豆と異なり、トウモロコシは、80年代の初めより現在に至るま
で、1,100〜1,300万ヘクタールで推移し、大きな変化はみられない(表8)。
しかし、1ヘクタール当たりの収量は、栽培技術の向上などに伴い、2001年は、
90年に比べ、79%増の3,349キログラムに達している。

 生産量については、90年代における養鶏・養豚部門の成長による飼料需要の
拡大などに伴い、2001年は、90年に比べて、94.2%増の4,146万トンとなった
(表10)。

 地域別の収穫面積の推移(図5)を見ると、中西部の増加傾向が顕著である
が、これは同地方における大豆栽培の拡大に伴い、その裏作として冬作(第2
期作)トウモロコシが利用されていることが大きい。

 過去20年間の生産量の推移(図6)を見ると、南部の生産量はほぼ倍増し、
中西部は約3.9倍増となった。なおトウモロコシは、北東部の伝統的作物であ
るが、北東部の栽培面積は変化が大きく、天候の影響、特に乾燥の被害が大き
い。生産量は不安定でかつ絶対量が不足しており、中西部産やアルゼンチン産
など国内外からの供給に依存することが多い。

 ブラジルでは、トウモロコシの生産が1年に2回行われる。夏作トウモロコシ
の収穫は、冬作に比べ格段に大きく、総生産量の約85%を占めている。また、
1ヘクタール当たりの収量についても、夏作の方がかなり上回っている。

 図7で、冬作(第2期作)のトウモロコシ生産量の推移を示したが、2001年に
は、南部が全国生産量の半分を占めた。中央南部では雨期が正常に開始される
年には、早生大豆と冬作トウモロコシの1年2毛作が行われる。中西部では、大
豆の生産拡大とともに冬作トウモロコシが増加している。冬作トウモロコシが
増加した要因としては、@非生産的な時期に生産要素(土地、機械、機材、労
働力)を合理的に活用できること、A夏作よりもトウモロコシの価格が高いこ
と、Bその時期に安全に収益を望める他のオプションがないことなどが挙げら
れる。

 近年、トウモロコシの代替飼料としてソルガムの重要性が増しているが、ブ
ラジルのソルガム栽培面積はまだ小さい。全国の収穫面積は、80年、約8万ヘ
クタールであったが、2001年には50万ヘクタール弱に増加し、生産量も約18万
トンから90万トン近くに増加した。これは養鶏、養豚生産の増加に伴うものと
推測される。

◇図 5 トウモロコシの地域別収穫面積の推移◇

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)

◇図 6 トウモロコシの地域別生産量の推移◇

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)

◇図 7 トウモロコシ(第2期作)の地域別生産量の推移◇

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)


(3)生産サイクル

 ブラジルで生産される穀物および油糧種子の大部分は、10〜12月にかけ
て作付けが行われ、3〜4月を収穫の最盛期としている。トウモロコシの作付時
期は、多くの地域で大豆と同じであるが、南部においては早く開始され、最大
の生産州であるパラナ州では9月始め頃である。栽培期間は、大豆で90〜120日、
トウモロコシで、120〜140日となっている。

 大豆、トウモロコシの生産サイクルは、図8の通りである。冬作(第2期作)
トウモロコシは、早生大豆の裏作として栽培されるが、栽培期間中に、霜害の
リスクがあるので作付けが遅くならぬよう栽培指導が行われている。

◇図 8 ブラジル主要地域における穀物、油糧種子の生産サイクル◇



(4)飼料原料の消費

 全国家畜飼料工業組合(SINDIRACOES)によると(表11)、2001年、中南米で
は8,182万トンの家畜飼料が生産され、うち、ブラジルが全体の47.4%を占めて
いる。2001年にブラジルで生産された家畜飼料の仕向け割合は、養鶏用が56%、
次いで養豚用31%、肉牛用1.2%、乳牛用6.4%などとなっている。つまり、養
鶏、養豚部門で、家畜飼料全体の9割近くを消費している。また、家畜飼料原
料の内訳を見ると、トウモロコシが62%、大豆かすが20%でこの2つで全体の8
割強を占めている。また、小麦かす、ソルガムの全体に占めるシェアは、それ
ぞれ5.7%、1.6%となっている(表12)。

表11 中南米における国別家畜飼料の生産量(2001年)

資料:全国家畜飼料工業組合(SINDIRACOES)

表12 ブラジルにおける家畜飼料原料の内訳(2001年)

資料:全国家畜飼料工業組合(SINDIRACOES)


ブラジルの大手調査会社FNPコンサルタント社の統計による主な畜産部門の
概況は以下の通りである。
 
○養鶏

 2001年のブロイラー用ひなの生産羽数は、34億7,365万羽で、地域別では、
インテグレーションが進む南部が最大で全体の54%を占める。また、同年の鶏
肉生産量は、92年と比べて約2.2倍の656万トン(骨付きベース)となっている。
94年のレアルプランの導入によるインフレの抑制で国民消費が増大し、2001年
の1人当たりの消費量は、95年に比べ、33%増の29.5キログラムである。輸出
量は生産量の約1〜2割を占め、2001年は124万9千トンであった。主な輸出先と
数量は、サウジアラビアに25万5千トン、日本に13万1千トン、香港に11万5千
トンである。なお、ブロイラー1キログラム当たりの生産費に占める飼料費の
割合は、61%(2001年)となっている。

 一方、2001年の採卵鶏の飼養羽数は、6,361万羽で、地域別には南東部が主
産地で全体の55%を占める。同年の鶏卵生産量は12億7,299万ダースで年間1人
当たりの消費量は84個と欧米諸国やアジア諸国と比べて低い水準である。

○養豚

 2001年の豚の飼養頭数は、3,302万頭で、地域別ではインテグレーションが
進む南部が最大で、全体の約5割を占め、南東部、北東部がこれに続いている。
中西部は全体の1割程度であるが、トウモロコシ、大豆生産が拡大する同地域
では、大手食肉企業などが養豚生産に進出し始めている。

 2001年のと畜頭数は2,858万頭、生産量(枝肉重量ベース)は224万トンで、
生産量の約88%に当たる198万トンが国内消費に仕向けられる。2001年の輸出
量は、26万6千トンで、主な輸出先と輸出量はロシア15万2千トン、香港4万8千
トン、アルゼンチン3万9千トンなどである。なお、豚1キログラム当たりの生
産費に占める飼料費の割合は全体の84%(2001年)となっている。

○肉用牛・酪農
 2001年の全国の牛(水牛を含む。)の飼養頭数は、1億6,440万頭で、地域別
には中西部が34%、南東部が21%、南部が16%となっている。2001年の牛肉生
産量(枝肉重量ベース)は、693万トンで、うち、47万9千トンが輸出され、最
大の輸出先はEUである。

 2001年の全国の乳用経産牛飼養頭数は1,586万頭で、地域別には、南東部が3
3%、中西部が23%、南部が21%などとなっている。年間の生乳生産量は、207
億リットルで、経産牛の1日当たりの平均乳量は4.83リットルである。


(5)穀物、油糧種子の国内価格形成

ア 大豆

 生産量のうち約4割が輸出され、残りは搾油に仕向けられる。生産された大
豆油のうち約4割が、また大豆かすのうち約6割が輸出される(図9)。同国の
主要な輸出産品である大豆は、輸出価格が国内価格形成に与える影響が大きい。
そして、国際市場(シカゴ)価格を基準とする輸出価格は世界最大の大豆生産
国である米国の作柄、特に中西部の気象条件やUSDAが定期的に発表する主要生
産国や消費国の在庫水準等の影響を受け変動する。

 また、価格形成に影響するもう1つの重要な要因は為替レートである。通常、
大豆の輸出取引はドル建てで行われ、輸出代金はドルで決済される。外国為替
銀行に入ったドルは商業レートによって現地通貨レアルに換算され、輸出業者
は、レアルで出荷者(生産者)との勘定を精算する。このため、為替レートが
下落すると、同一ドル価格に対するレアルの換算額が増加し、生産者受取価格
は増加する。このように為替の下落により同一ドル価格に対するレアル価格が
増加するため、国内価格に影響することになる。一方、為替の下落が生産資材
の輸入コストを高めるために生産コストも上昇するが、生産コストの中には労
働費、機械維持費など為替の変動に直接影響を受けないコストがあり、コスト
の上昇率は価格の上昇率を下回ることが多い。すなわち多くの場合、為替の下
落は生産者収益を高める効果を持つことになる。

イ トウモロコシ

 ブラジルでは、養鶏、養豚産業の拡大による強い国内需要から、生産された
トウモロコシの大部分は国内市場に向けられる。このため、国内の需要と供給
がトウモロコシの国内価格に影響を与える主要因となる。供給面では、夏作
(第1期作)の収穫量、冬作(第2期作)の生育状況、端境期における在庫予想
などが価格決定に影響を与える。国際価格も地域によっては、国内価格形成の
1つの指標とされることがある。これは、国内供給が不足し、アルゼンチンな
どからの輸入が行われる場合、輸入品の現地到着価格が国内価格の上限として
考えられるケースである。輸入品が国内価格よりも低い場合、需要者は輸入品
を優先して購入することになる。

◇図 9 ブラジルにおける大豆製品の流れ(2001年)◇

資料:ブラジル植物油工業協会(ABIOVE)
 注:CONABの統計と数値が異なる。


(6)大豆の生産コスト

 国家食糧供給公社(CONAB)は、ブラジルと米国の大豆の生産コスト比較を
まとめている。(表13)。

 種子は、米国が遺伝子組み換え品種を用いていることからブラジルを大きく
上回っているが、ブラジルは肥料の投入量が多く、変動コスト全体ではブラジ
ルが米国を上回る。しかし、ブラジルは、減価償却費や地代といった固定コス
トが安く、特に土地価格は米国の7分の1となっている。従って、ブラジルの生
産コストは、米国に比べかなり低い水準となる。

 このように、農場内のコストは、ブラジルは米国に比べ優位であるが、輸出
港までの輸送、港湾コストについては、米国に比べて高い。1例として、ブラ
ジルのマットグロッソ州ソリゾ地区からパラナグア港までの輸送コストは、積
込み、輸送、計量、通行税、荷卸し、船積み等を含めて1トン当たり62ドルを
要するのに対し、米国のイリノイ州からニューオリンズまでのコストは26ドル
である。港湾コストも米国の3ドルに対し、ブラジルは8〜9ドルとなっており、
これらのコストがブラジルの生産地における高い生産性により得られた競争力
を失わせている。

表13 主要大豆生産国における1ヘクタール当たりの生産コスト比較

資料:国家食糧供給公社(CONAB)
注1:生産コストは、米国がイリノイ州、ブラジルがマットグロッソ州のもの。
 2:米国の調査対象年度は2000/2001年度、ブラジルは2001/02年度。


(7)輸送形態と輸出経路

 ここでは、ブラジルの主要輸出産品である大豆について、同国の輸送形態と
主産地の中西部マットグロッソ州における大豆の輸出経路を見てみたい。

ア 大豆の輸送形態

 輸出港までのコストを高める最も大きな要因として同国の輸送形態が挙げら
れる。大豆輸送における主要国比較(表14)を見ると、ブラジルは、道路輸送
の割合が米国と比べて高い。アルゼンチンは、ブラジルに比べて道路輸送の割
合が高いが、穀倉地帯がパンパ地域に集中することから港までの平均距離が短
い。道路輸送は、鉄道、水路と比べて輸送コストが高いとされ、ブラジルでは
道路への依存度が高く、かつ、港までの距離が長いことから、競合国と比べ輸
送コストが割高となっている。なお、ブラジル運輸省によると、2000年におけ
る、ブラジルの道路の総延長距離は172万キロメートルで、舗装率はわずか9.6
%の16万4,900キロメートルである。

 ブラジルの大豆および大豆かす輸出は、パラナグア港(パラナ州)、サント
ス港(サンパウロ州)、リオグランデ港(リオグランデドスル港)が3大積出
港であり、それらはすべて、同国の南部、南東部に所在している(図10)。大
豆、大豆かすそれぞれの全輸出量に占める3港の割合は、大豆が80%、大豆か
すが75%である。最大の積出港はともにパラナグア港であり、全輸出に占める
同港の割合は、大豆が31%(489万トン)、大豆かすが43%(485万トン)であ
る(2001年)。
 
イ 南部、南東部への経路

 図10を見ると、中西部マットグロッソ州の大豆の輸出経路について、同州を
起点とした場合、南部、南東部への主要ルートは以下のように分けられる。

 @ 国道BR364号線の中でマットグロッソ州クイアバ市よりサンパウロ州に
  入り他の道路を結んでサンパウロ州サントス港へ通じるルート

 A マットグロッソ州クイアバ市よりマットグロッソドスル州を経由する国
  道BR163号線と他の道路と結んでパラナ州パラナグア港へ通じるルート

 B マットグロッソ州クイアバ市と同州南部アルトタクアリ市まで道路輸送、
  ここから北部線(FERRONORTE)と呼ばれる鉄道とサンパウロ州鉄道網(FE
  RROBAN)を結んでサントス港に通じるルート

 しかし、輸送コストを軽減するために、アマゾン地帯の水路を利用した道路
や鉄道との複合輸送の整備や開設が注目されている。

表14 主要大豆生産国における輸送形態の割合

資料:全国穀類輸出業者協会(ANEC)

◇図10 ブラジル中西部における大豆の輸出経路◇


ウ アマゾン地帯の水路を利用した複合輸送

 アマゾン地帯の水路を利用した複合輸送の例として以下が挙げられる。

@マデイラ川の水路と道路の複合輸送

 アマゾナス州政府、民間企業マギーグループなどとの出資によるアマゾン川
上流マデイラ川の水路を利用した経路の開設は、従来のサントス港およびパラ
ナグア港の道路輸送ルートと比較して距離を短縮し、大豆の輸送コストを低減
させている。これは、マットグロッソ州の大豆を国道BR364号でロンドニア州
ポルトベリョ港、同港よりマデイラ川を約1,000キロメートル下りアマゾン川
本流にあるイタコアティアラ港、同港からロッテルダムへ輸送するものである。
90年代以降に開設されたこの複合輸送もすでに年間100万トン近くを搬出する
規模になっていると言われる。

 この国道BR364号線は、クイアバ市を起点に北西へはロンドニア州ポルトベ
リョ市を経由しアクレ州のペルー国境まで続いているが、クイアバ市―ポルト
ベリョ市間の舗装工事が近いうちに終了する予定とされる。

Aアマゾン川本流の水路と道路の複合輸送

 クイアバ市より国道BR163号線とアマゾン川本流にあるサンタレン港を結ぶ
経路である。

 国道BR163号線は、クイアバ市から以北はパラ州内アマゾン川本流のサンタ
レン市まで続いているが、この間の距離約1,800キロメートルのうち約1,000キ
ロメートルは土道であることから、この舗装を生産者は切望している。米国資
本のカーギル社がサンタレン港に建設中の集積ターミナルが2003年の3月に完
成予定とされるが、今後、サンタレン港までの舗装道路を完成させることは大
豆の搬出にとって極めて重要な課題となっている。

 大豆生産の盛んなマットグロッソ州ソリゾ地区からサンパウロ州サントス港
への距離は約2,000キロメートルあるが、サンタレン港への距離は1,250キロメ
ートル、さらに同港からアマゾン川を利用し、ロッテルダムまで海上輸送する
と距離は、パラナグア港からロッテルダムまでよりも2,500km程度近いという。
また、これによって、パラナグア港に集中していたトラックの列も軽減するも
のと見込まれる。

 このサンタレン市−クイアバ市間の全面舗装は、ブラジル北部および北東部
の消費者にも輸送費の軽減から食料品などの小売価格が低下し、恩恵が期待さ
れる。また、マットグロッソ州の鶏肉・豚肉生産企業も同地域へ低価格で製品
を供給できる。

Bアマゾン地帯の水路と鉄道の複合輸送 

 イのBの鉄道(北部線)については、その第1段階としてマットグロッソ州の
大豆生産の中心部であるロンドノポリス市を経由して州都クイアバ市に到達す
るレートを建設し、第2段階として、クイアバ市よりポルトベリョ港までと、同
じくクイアバ市を起点とし、サンタレン港までを結ぶ構想がある。これらは、
ばく大な投資を必要とするので、短期の実現は不可能としても内陸地方の穀物
輸送にとって極めて重要なプロジェクトといえる。


ブラジルの農業政策

 ブラジルにおける農業政策は、1991年1月に成立した農業法に基づいて
実施されている。同法は、農業生産の拡大と生産性の向上、食糧供給の安定化、
地域格差の是正などを目的としている。これらの目的を達成するための主要制
度としては、農業融資制度や取引支援策がある。また、これらの中心的メカニ
ズムとしては、収穫時の価格暴落リスクの低減を目的として、生産者に対し生
産コストを保証する最低保証価格制度(PGPM)がある。最低価格は、毎年、作
付前に発表されるるが、各作物別の新しい最低価格は、生産者の作付意向に影
響する重要な要素となるため、作付けの方向を誘導する政策手段でもある。最
低価格の一例としては表1の通りである。

表1 収穫年度2002/2003年度最低価格及び北部、北東部の2003年度最低価格

 1 農業融資

 農業融資の対象は基本的に生産者(生産者組合を含む。以下同じ)であり、
営農融資、投資融資、販売融資に分けられる。営農融資は、各農期の初めに生
産者に提供され、作物の作付費、維持管理費、収穫費などをカバーし、年間金
利は8.75%である。投資融資は、農業機械などの準固定資産の購入および建築
物などの固定資産の購入のために提供される。販売融資は、収穫物販売のため
の資金として提供され、次の2種類がある。

@連邦政府貸し付け(EGF)

 農産物販売に際しては、収穫時における生産者の売り急ぎにより、市場価格
が大きく下落することがある。

 EGFとは、こうした収穫時の価格暴落リスクから生産者を保護することを目
的に、政府が、最低価格を基礎として農産物を担保に融資を行うものである。
EGFは政府への販売オプション付き (EGF/COV)と販売オプションなし(EGF
/SOV)に分類されるが、現在、EGF/COVは実施されていない。

 EGFの対象者としては、生産者と精製・加工業者があり、後者の場合、生産
者から最低価格以上の価格で収穫物を購入したことを金融機関に証明すること
が融資条件となる。2002年7月にブラジル農務省が発表した生産者に対する営
農融資、EGFの融資限度額は表2の通りである。

A農業約束手形(NPR)および農業為替手形(DR)

 農業生産活動の期限付き販売において発行される約束手形(買い手が発行す
る手形)または為替手形(売り手が発行する手形)に対し、金融機関が行う割
引に農業融資の資金を活用することが認められている。

 2  取引支援策

 取引支援策は、農産物の販売に際して価格暴落による生産者のリスクを軽減
し、所得の確保を図るものであり、取引支援策には、連邦政府買い上げ(AGF)、
農産物販売オプション契約、生産物流通助成金(PEP)などがある。

@連邦政府買い上げ(AGF)

 AGFは、生産者の所得水準を確保するため、政府が生産者に対し最低価格を
保証することを目的とした制度である。市場価格が最低価格を下回った地域に
おいて随時行われるものであるが、こうした介入は多額の国家予算を必要とし、
政府在庫の滞貨問題が生じるため、政府は、他の取引支援策の中で価格を保証
する手法をとっている。

A農産物販売オプション契約

 農産物販売オプション契約は、生産物の価格変動に対する生産者のリスク回
避を狙いとして、1996年に導入された制度である。同契約は、生産者または組
合が、オプション料を支払うことで、契約日の満期日に決められた価格(権利
行使価格)で生産物を政府に対し売却する権利を保有するものである。また、
同契約は、最低価格保証制度で対象となるすべての作物を対象とし、通常、収
穫期に実施され、端境期に満期となる。権利行使価格は、基本的に最低価格に
金利負担、貯蔵コストなど、収穫期から端境期まで作物を貯蔵することによっ
てかかるコストを上乗せして設定されている。なお、特定の作物の作付意欲を
刺激する手段として作付期に実施される場合もある。

B生産物流通助成金 (PEP)

 流通条件が不利な地域から生産物の搬出と停滞する流通在庫の減少を図るた
め、当該地域から消費地への流通を可能にするため1996年に導入された制度で
ある。同制度の仕組みは、生産物の購入希望者に対し、最低価格を基礎とし、
生産地から消費地の輸送コストを加えた現地到着価格と輸入品価格との差額に
割増分を加えた金額をプレミアムとして助成するものである。希望者が多い場
合、プレミアムは競売にかけられ、より低い価格を付けた購入希望者が落札す
る。落札者は、生産者から最低価格を下回らない価格で農産物を購入したこと
を証明することによって政府からプレミアムを受け取る。

 CONABによると、マットグロッソ州、ゴイアス州など中西部のトウモロコシ
市場価格は、消費地までの距離が遠い上、インフラ整備が十分ではなく貯蔵が
困難であるため、最低価格を下回ることが多い。一方、養鶏産業が盛んな北東
部では、乾燥地帯が多いため飼料基盤が十分でなく、トウモロコシ需要の一部
を内外に依存することになるが、北東部では、高い輸送費のため割高となる中
西部産を避け、より安価なアルゼンチンや米国などの外国産に依存している。
このように輸入品との価格差を補てんすることで国産品の流通を促進するため、
PEPが導入されたとしている。

表 2 営農融資およびEGFの融資限度額

注:1レアル=約34円(11月5日現在)


4. 穀物、油糧種子などの需給動向

 ここでは、60〜70年代以降におけるブラジルの大豆、大豆かす、トウモ
ロコシの需給、97年以降の大豆、トウモロコシの価格動向の概要について、同
国の経済的な変遷も加えながら説明したい。なお、過去3年間における大豆、
大豆かす、トウモロコシなどの貿易相手国および数量については、表16にまと
めた。

(1)大豆、大豆かす

 大豆は、70年代におけるセラード農業開発を契機として中西部において生産
が拡大し、2001年には主要12品目の総生産量の約4割を占め、また、大豆製品
(大豆、大豆かす、および大豆油)は、農業部門における全輸出額の約2割を
占める同国を代表する輸出産品となっている。

 70年から2001年までの大豆製品輸出量の推移(図11)を見ると、72年から95
年にかけて、大豆は100万トンから350万トンへ増加、大豆かすは141万トンか
ら1,160万トンと、それぞれ増加した。一方、96年から2001年にかけて、大豆
が365万トンから1,570万トンへと飛躍的に増加したのに対し、大豆かすは1,00
0万トン前後で停滞している。96年以降、一次産品としての大豆輸出が急増し
たのに対し、工業製品としての大豆かすが停滞しているのは、1996年、大幅な
貿易赤字解消を目的に、一次産品の輸出について、州に属する税金で主に商品
の流通に対し課税される付加価値税の一種である商品流通サービス税(ICMS)
を非課税とした補足令第87号(同法案の立案者であるアントニオ・カンジル下
院議員元企画相の名前をとって「カンジル法」と呼ばれる)が規定されたこと
が大きく影響したとされる。

 97年以降の需要動向(表15)および価格動向(図12)を見ると、97年の上半
期中、シカゴ相場がトン当たり 300ドル(以下同じ)を超える高値となった影
響で、ブラジルの生産者価格も高値で推移した。同年下半期に入り、シカゴ相
場は250ドルに落ちたが、ブラジルの生産者価格は、同年の輸出の増加から高
値が維持され、年末には60キログラム当たり19レアル(以下同じ)に達した。
輸出の増加要因は、外国からの強い需要に加え、カンジル法による輸出振興策
の影響に基づくものとされる。

 98年は、世界在庫の大幅な増加がシカゴ相場を低く抑えた年である。米国と
南米の生産増加による供給量の増大に対し、新興諸国に発生した経済危機が世
界の需要を減退させたため、世界の大豆市場は供給過剰を呈したことから、98
年12月のシカゴ相場は、前年同期比約20%安の205ドルと大幅に下落した。シ
カゴ相場に平行し、98年のブラジルの大豆価格は、収穫開始と共に13〜14レア
ルと低調に推移した。

 99年は同国の経済政策の変更が大豆価格に大きな影響を与えた。ブラジルで
は、94年の経済安定策であるレアルプランを実施し、急速にインフレが収束し、
内外の需要増加に支えられ安定成長を持続したが、97年7月のアジア通貨危機、
続いて98年8月のロシア危機を端緒とする新興国の危機はブラジルにも波及し、
99年1月に通貨切り下げ、変動相場制への移行を余儀なくされた。レアルプラ
ン実施以降、99年の通貨切り下げまで、通貨レアルの対米ドル相場を固定して
いたが、レアルの対米ドル相場が下落したことから、大豆生産者にとってレア
ル建ての国内価格は上昇しレアル貨での収入は増加した。通貨切り下げの最初
の反応としては大豆取引の中断があり、為替の安定を待つ空気があったが、99
年の収穫開始により販売は再び増加した。販売の増加と前年を下回る生産量と
が相まって、同年9月以降は19〜20レアルと高値で推移した。

 2000年は、通貨レアルの対米ドル為替相場が比較的安定していたため、国内
価格は基本的にシカゴ相場に平行した。ブラジルでは、2000年の生産量が3,23
0万トンと記録的な増産となったが、これは、特に中西部における1ヘクタール
当たりの収量の増加に負うところが大きい。

 2001年は、EUでの牛海綿状脳症(BSE)問題の再燃の影響で大豆および大豆
かすへの需要が増加したこと、また、自国通貨レアルの下落による競争力の高
まりにより、EUに限らず他の市場、特に中国への輸出が増大したことから、国
内価格は上昇し、9〜11月には、過去に例のない28レアルを上回る水準となっ
た。

◇図11 大豆製品の輸出量の推移◇

資料:ブラジル地理統計院(IBGE)

◇図12 大豆の価格◇

資料:国家食糧供給公社(CONAB)
 注:1ドル=約122円(11月5日現在)


資料:国家食糧供給公社(CONAB)
 注:1レアル=約34円(11月5日現在)

表15 ブラジルの主要穀物、油糧種子などの需給

資料:資料:国家食糧供給公社(CONAB)
注1:2001/2002年度の対象期間は、2002年2月〜2003年1月。
 2:生産量については、IBGEの統計と数値が異なる。

◇図13 トウモロコシの価格◇

資料:国家食糧供給公社(CONAB)
 注:1レアル=約34円(11月5日現在)

表16 ブラジルの主要穀物、油糧種子などの貿易量

大豆輸出量

大豆かす輸出量


トウモロコシ輸入量


小麦輸入量

資料:開発商工省貿易局


(2)トウモロコシ

 貿易量の推移を見ると、68年から77年にかけてはおおむね毎年100万
トンを超える輸出が行われ、76年には142万トンが輸出された。しかし、78年
以降は、生産量の減少と国内需要の増加などから輸出余力を失い、2001年にま
での24年間に年平均約90万トンが輸入された。なお、この間の最大の輸入量は
86年の240万トンである。

 97年(96/97年度)以降の需給については表15に示した通りである。

 97年以降の需給の推移を年別に見ると、同年の生産量は、気象条件に恵まれ
3,572万トンとなったことから、上半期中の取引は緩慢で価格は低迷し、連邦
政府買い上げ(AGF)による330万トンの買い上げが行われた。この年は、農産
物販売オプション契約制度の実施など農業政策において変化があった年であり、
価格の安定に新しい方法が導入されている。

 98年の生産量は、97年の価格下落の影響で生産者の作付意欲が減退し、生産
量が大幅に減少したことから、需給がひっ迫し、177万トンの輸入が行われた。
99年は需給バランスがとれたが、2000年は冬作(第2期作)トウモロコシが、
中西部および南部における長期的な乾燥や7月にパラナ州で発生した霜害によ
り、前年比36%減の390万トンと大幅に減少した。こうした減少を反映し、同
年7〜10月の価格は60キログラム当たり11レアルを超える高値となった。しか
し、アルゼンチンからの輸入、ソルガムや規格外の小麦などの代替品の供給で、
同年12月の価格は下落した。

 2001年の生産量は、気象条件に恵まれ一転して過去最大の4,229万トンとな
ったことから、上半期のトウモロコシ価格は7レアルまで下落した。一方、輸
出市場では、こうした記録的な増産、自国通貨の下落による輸出競争力の高ま
り、非遺伝子組み換え作物に対する海外からの需要増などにより、過去最大と
なる590万トンが輸出された。こうした内外からのおう盛な需要により、下半
期の価格は9〜10レアル台へと上昇した。

 また、国内市場では、鶏肉・豚肉部門の輸出増大に伴う飼料需要が増加した。


5. 遺伝子組み換え作物を巡る情勢

 ブラジルでは、遺伝子組み換え作物の生産・販売などについては、科学技術
・環境・保健等の関係省庁の代表7名と、バイオテクノロジー技術者8名および
消費者団体代表1名を含む民間代表3名から構成される国家バイオ安全技術委員
会(CTNBio)の管理下に置かれている。

 ブラジル農務省は、モンサント社の遺伝子組み換え大豆(ラウンドアップ・
レディ)は、環境および人体に負の影響を与えないとの報告を98年9月にCTNBi
oから受け、商業的な生産・販売につながる品種登録の受け付けを開始する予
定であったが消費者保護団体などの訴訟が繰り返され、連邦裁判所は2001年3
月に第一審判決を下し、大豆(ラウンドアップ・レディ)の栽培にあたっては、
@事前に環境アセスメントを実施すること、ACTNBioが食料安全に関する規則
を発効すること、B政府がラベル表示に関する規則を発行することとされた。
この判決に対し@モンサント社は環境アセスメントの実施には最高4年かかる可
能性があり、また、コストも高いこともあって、上訴し、ACTNBioは2002年1月
、食料安全に関する規則を制定B政府は、ラベル表示については、遺伝子組み
換え作物を4%以上含む食品に対する表示を義務付けた法令第3871号を同年7月1
8日に公布したが、1995年12月20日付け大統領令1752号でCTNBioに環境アセスメ
ントの必要性の有無を判断する権限が与えられていることを理由に、モンサン
ト社とともに上訴した。

 遺伝子組み換え作物を4%以上含む食品に対しラベル表示を義務付けた上で、
輸出競争力を高めるために遺伝子組み換え作物の自由化を目指す政府は、連邦
控訴裁判所が遺伝子組み換え大豆の生産・販売を解禁する判決を下すことを期
待している。一方、消費者保護団体などからは、遺伝子組み換え作物が原料と
して含まれているものすべてが、遺伝子組み換え食品であり、4%の数字に係
わらず表示を義務付けるべきであると反論している。

 また、3月12日、下院の遺伝子組み換えに係る特別委員会は、CTNBioが遺伝
子組み換え作物に関して、@環境および人体に対する最終安全評価を実施する、
A環境に対する影響の有無を判断する権限を有する、B生産・販売に対す許認
可権を有する、C試験計画と試験場の検査を所管する、から成る遺伝子組み換
え作物の作付けおよび販売法案を承認した。しかし遺伝子組み換え作物に対す
る権限が過度に集中しているとして消費者保護団体などからは問題視する声が
上がっている。

 同法案が今後、下院および上院での審議・可決され、併せて連邦控訴裁判所
の遺伝子組み換え大豆の生産・販売を解禁する判決が必要であることを踏まえ
ると、自由化までは紆余曲折が予想される。


6. 終わりに

 ブラジル農務省プラチニデモラエス農相は10月23日、国家食糧供給公社(CO
NAB)が9月29日から10月5日に実施した第1回生産状況調査の結果を発表した。
これによると、2002/03年度の主要穀物(油糧種子を含む13品目)の作付面積
が、前年度比2.9〜4.3%増の4,133万〜4,189万ヘクタール、生産量は8.1〜13.
9%増の1億496万〜1億1,065万トンで、いずれも過去最大と見込まれる。

 農業フロンティアとして大豆などの著しい生産増大を遂げているセラード地
帯は、2億400万ヘクタールの面積のうち、耕地として利用可能な面積は、日本
の耕地面積の約14倍に相当する6,600万ヘクタール(ブラジル全土では9,000万
ヘクタール)に及ぶとされる。このような大規模な農業開発の可能性のある地
域は世界的にも類を見ないと思われる。USDAによると、2011年には同国の大豆
生産は、6,700万トンに達するという試算もある。今年10月の現地取材の際、
パラナ州ロンドリナ市に所在するEMBRAPA大豆研究所では、セラード地帯での
生産コストの安さなどに着目し、米国の生産者団体などの来訪が増加している
との話を伺った。セラード地帯における飼料原料の生産拡大に伴い、大手食肉
企業が鶏肉、豚肉の生産を行うため、同地帯に進出するケースが見られる。ゴ
イアス州リオベルデ市に進出したブラジルのペルディガン社はその1例である。
また、米国のスミスフィールド・フーズ社がマットグロッソ州で大規模な豚肉
生産への投資を押し進めており、セラード地帯における今後の農畜産の発展の
可能性は計り知れない。

 ブラジルでは、南米経済安定化のカギを握るブラジル大統領選挙の決選投票
が10月27日行われ、左派の野党労働党のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ名
誉党首が当選した。左派政権の誕生で現行の経済政策が変更されるとの懸念か
ら、金融市場が再び動揺する恐れもある。今後の同国の政治・経済情勢におい
ては、不透明さが拭い切れない状況ではあるが、自由貿易体制の前進や世界の
人口爆発により、ブラジルの農業に改めて世界の注目が集まっており、今後と
も同国の農産物、畜産物の生産および需給動向、農政の動きなどに注視してい
く必要性があると思われる。

 最後に今回情報をご提供頂いたブラジル農務省、国家バイオ安全技術委員会
(CTNBio)、国家食糧供給公社(CONAB)、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)、
JICAブラジル事務所など関係者すべての方々にこの場を借りてお礼申し上げた
い。

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