海外駐在員レポート 

アイルランドの牛個体識別制度およびオランダの豚移動管理制度

ブラッセル駐在員事務所 島森 宏夫、山田 理




1.はじめに

 EUでは近年、牛海綿状脳症(BSE)、口蹄疫、豚コレラ、畜産物のダイオキシン
汚染などが連続して発生しているが、家畜疾病管理および食品安全の観点から、家
畜の個体識別・移動履歴記録の徹底と食品のトレーサビリティ(由来の追跡可能性)
確保が重要な課題と位置付けられている。また、家畜の個体識別制度は各種奨励金
の適正交付のための管理目的にも使われている。本稿では、家畜の個体識別・移動
履歴記録に関するEU法令の概要と、本年4月に調査する機会を得たアイルランドと
オランダにおける対応事例を紹介する。

2.EU法令の概要

 家畜(牛、豚、羊・ヤギ)の個体識別・移動履歴記録に関する、畜種別の主なE
U法令(抜粋)は次のとおりである。牛の規定が最も細かくかつ進んでおり、羊・
ヤギが飼養形態等の関係もあり、最も遅れている。


(1)牛


○EU理事会指令92/102/EC

・加盟盟国の関係当局は、牛・豚・羊・ヤギを所有する農場のリストを作らなけれ
ばならない。(ただし、3頭以下の羊・ヤギを所有し奨励金を必要としない者また
は1頭以下の自家消費用の豚を所有する者について、移動時には本指令に従うこと
を条件として、リスト作成を免除することができる。)リストには、農場を個別に
識別するためのマーク(印・記号)を記載しなければならない。

・リストに載った農場では、牛の所有者は、牛の頭数、さらに、出生・死亡・移動
について、出生・死亡・移動頭数、移動元・先、出生・死亡・移動日を登録しなけ
ればならない。また、それぞれの場合に、個体および出生農場が特定できる、個体
識別マークを記載しなければならない。

・牛には、生後30日以内、かつ農場から離れる前に、耳標を用いて個体識別のため
のマークを付けなければならない。

・加盟国は、牛については、93年10月1日以降本指令に従うことができるよう、必
要な法律・規則等を施行しなければならない。


○EU議会・理事会規則(EC)No 1760/2000


@耳標

・耳標

・98年1月1日以降に生まれた牛、または98年1月2日以降にEU域内の加盟国間で貿易
(取引)が行われる牛には、個体識別コードを記載した耳標を両耳に着けなければ
ならない。

・耳標の取り付けは、生後20日以内(99年末までは30日以内)で、かつ出生農場を
離れる前に行わなければならない。また、EU域外国からの輸入牛も、輸入国内で検
疫後20日以内にと畜される場合を除き、耳標により個体識別を実施しなければなら
ない

・他のEU加盟国から輸入された牛について、元の耳標は着けたままにしておかなけ
ればならない。

・耳標は、関係当局の許可なく、はずしたり取り替えたりしてはならない。

 なお、電子式個体識別法(マイクロチップを搭載したトランスポンダに個体識別
情報を電子的に書き込み、リーダーで読み取る方法)の導入可能性について、EU議
会・理事会決定を2001年末までに行うこととされていたが、決定はまだ出されてお
らず、決定時期は2003年頃まで遅れる見込みである。


Aコンピューター・データベース

 99年末までに、牛の出生、死亡、移動に関するコンピューター・データベースを
完全に稼動するように整備しなければならない。


Bパスポート

・98年1月1日以降個体識別が行われる各々の牛について、関係当局は出生通知から
14日以内(EU域外国からの輸入牛では再個体識別通知後14日以内)に、パスポート
を発行しなければならない。ただし、コンピューター・データベースが完全に稼動
しているとEU委員会が認めた場合は、パスポート発行対象をEU域内貿易(EU内の他
国への輸出)を目的とする牛に限るとともに、パスポートの携行を、他国への移動
時にのみ義務付けることができる。

・牛の移動に際し、常にパスポートを携行しなければならない。

・牛が死亡した場合には、所有者は7日以内にパスポートを返却しなければならな
い。と畜場に送られた場合には、と畜場管理者がパスポートを返却しなければなら
ない。

・EU域外国に牛を輸出した場合、最終所有者から輸出地の関係当局へパスポートを
引き渡さなければならない。

C各農場での個別登録の保管

・牛の所有者(輸送者を除く)は、最新の登録情報を保管しなければならない。

・コンピューター・データベースが完全に稼動した後は、所有者は、農場への牛の
移出入および農場での牛の出生・死亡について、日付とともに3〜7日以内に関係当
局へ届けなければならない。ただし、牛の山岳地方での夏季放牧移動に
ついては、各国で特別規則を設けることができる。

・牛の所有者は、牛の移入後直ちにパスポートを完成し、移出時にパスポートを
携行させるようにしなければならない。

・牛の所有者は、関係当局の要請に応じ、入手先、個体識別およびこれまでに所有・
移動・販売・と畜した牛の行き先に関するすべての情報を提供しなければならない。

・登録情報は、関係当局の要請に応じいつでも提供できるよう、3年以上保管しな
ければならない。

 なお、本規則において、牛肉の表示義務についても定められている(本誌海外編
2002年2月号トピックスを参照されたい)。


(2)豚


○EU理事会指令64/432/EEC

 EU域内貿易における家畜衛生問題に関し、豚のコンピューター・データベースを、
豚飼育農場登録については2000年末まで、出生農場からの豚の移動については2001
年末まで、その他の農場からの移動については2002年末までに、それぞれ完全に稼
動するように整備しなければならない。豚の移動ごとに少なくとも、移動頭数、移
動元・先の農場(豚群)識別番号、移出日および移入日について、データベースに
記録しなければならない。


○EU理事会指令92/102/EC

・加盟国の関係当局は、牛・豚・羊・ヤギを所有する農場のリストを作らなければ
ならない。(ただし、3頭以下の羊・ヤギを所有し奨励金を必要としない者または1
頭以下の自家消費用の豚を所有する者について、移動時には本指令に従うことを条
件として、リスト作成を免除することができる。)リストには、農場を個別に識別
するためのマークを記載しなければならない。

・リストに載った農場では、豚の所有者は、豚の頭数、さらに移動について、移動
頭数、移動元・先、移動日を登録しなければならない。また、それぞれの場合に、
家畜の個体識別マーク(次項)を記載しなければならない。

・豚には、できるだけ早く、かつ農場から離れる前に、由来農場を特定できるよう
に耳標または入れ墨でマークを付けなければならない。

・加盟国は、豚については、93年末までに、本指令に従うことができるよう必要な
法律・規則等を施行しなければならない。


(3)羊・ヤギ


○EU理事会指令92/102/EC

・加盟国の関係当局は、牛・豚・羊・ヤギを所有する農場のリストを作らなければ
ならない。(ただし、3頭以下の羊・ヤギを所有し奨励金を必要としない者または1
頭以下の自家消費用の豚を所有する者について、移動時には本指令に従うことを条
件として、リスト作成を免除することができる。)リストには、農場を個別に識別
するためのマークを記載しなければならない。

・リストに載った農場では、羊・ヤギの所有者は、関係当局が決める日付における
各年の羊・ヤギの総頭数ならびに12ヵ月齢超または農場で分娩歴のある雌の羊・ヤ
ギの頭数を登録しなければならない。さらに、移動について、移動元・先、家畜の
個体識別マーク(次項)、移動日を登録しなければならない。

・羊・ヤギには、できるだけ早く、かつ農場から離れる前に、由来農場を特定でき
るように耳標または入れ墨でマークを付けなければならない。

・加盟国は、羊・ヤギについては、94年末までに、本指令に従うことができるよう、
必要な法律・規則等を施行しなければならない。


3−1 .アイルランドの牛個体識別制度

A 対応状況

 基本的には、EU議会・理事会規則(EC)No 1760/2000に則った措置がとられてい
る。実施機関は農業食料農村開発省で、個別事項ごとの対応状況は以下のとおりで
ある。


@耳標

・アイルランドでの耳標制度は、1950年代に開始された。

・99年から、EU規格に合った大型の耳標が使われている。耳標にはバーコードも入
っている。生後20日以内に耳標を装着する。昔は県の獣医師が行っていたが、現在
は農家が耳標を装着している。


A個体識別カード/パスポート

・アイルランドでの個体識別カードは、耳標と同じく1950年代に開始された。当初
は疾病検査状況を明らかにすることが目的だった。開始当初のパスポートには、個
体識別、由来牛群、疾病検査状況に関する情報が記載されていた。

・98年から、個体識別カードの内容は、EUのパスポート条件に適合したものになっ
た。すなわち、個体識別、由来牛群、疾病検査状況に関する情報に加え、奨励金の
交付状況、所有者・移動に関する情報も記載されるようになった。

−同国の公式耳標−



国コード(IE)、県コード−牛群(農場)
コード−チェック用数字、牛群内の個体番号
が記載されている。


− 個体識別カード/パスポート(表、裏)−








B各農場での個別登録の保管

・牛群の所有者は、牛群ごとに発行される登録簿に、農場で生まれた牛、農場に移
入または農場から移出した牛すべての情報(耳標番号、出生日、品種/毛色、性別、
移動牛では移動元/先、移動日)を登録し、関係当局の視察のために提供できるよ
うにしなければならない。


Cコンピューター・データベース

 コンピューター・データベースは、出生登録、位置情報、移動監視システムから
構成されている。


○ 出生登録
 96年に、すべての子牛の出生を中央データベースに記録するため、子牛出生登録
センターが設立された。子牛に耳標を取り付けてから7日以内に、所有者はセンタ
ーに登録手続きをしなければならない。登録に必要な情報は、耳標番号、性別、出
生日、母牛の品種、母牛の耳標番号、父牛の品種、そして(もし分かれば)人工授
精コードとなっている。この出生登録が完了すると、Aの個体識別カード/パスポ
ートが発行される。

−出生登録はがき(裏面)−

 


○ 位置情報ファイル

 コンピューターによる位置情報ファイルは、96年に開発された。位置情報ファイ
ルには、出生登録情報、奨励金交付および疾病検査時の情報、さらにと畜・生体輸
出に係る日付・場所が入力される。


○ 移動監視システム

 コンピューターによる移動監視システムは、97年に企画された。このシステムは、
位置情報ファイルにすべての移動情報を加えたもので、98年9月以降段階的に導入
され、2000年1月には、出生、移動、死亡などのすべての情報が把握されるように
なった。


(システムの手法)

 中央データベースに繋がるコンピューターが、家畜市場、食肉処理場、生体輸出
地に設置され、電子的に移動情報が記録される。農家間の直接取引の際は、販売者
および購入者からまず書面で移動情報を得た後、コンピューターに入力される。

 アイルランドでの家畜移動は家畜市場を通すことが多く、109ヵ所の家畜市場は
重要なデータ収集場所である。各家畜市場開催日に、市場にあるコンピューターを
通じて中央データベースに、移動データ(耳標番号、性別、家畜のロット番号、移
動元・先の牛群、移動日)が伝達される。

 農家の直接販売については、98年9月から、牛の販売者・購入者はそれぞれ、中
央移動通知機関に書面で移動を通知しなければならないことになっている。移動情
報は、中央移動通知機関を通じ、牛移動監視システムのデータベースに入力される。
なお、2001年5月には口蹄疫の発生に伴う移動管理のため、移動前に中央移動通知
機関に申請し許可を得なければならないと規定が改正された。農場での牛の死亡情
報は、2001年7月以降、へい死牛回収認可業者との連署による農家からの死亡通知
に基づき、データベースに入力されることとなっている。

 輸出用食肉処理場、生体輸出地の移動監視システムは中央データベースとオンラ
インで繋がっており、移動情報が収集されるとともに、と畜・輸出認可前に、個体
情報をデータベースと照合し間違いがないことを確認する目的で使われている。地
方の小規模と畜場では、中央データベースとの照合は、FAXによる通知に基づき、
地方獣医事務所が実施する。結果は、牛のと畜前・後の検査に活用されている。


(システム開始時の混乱データの整備)

 移動監視システムは、96年からの出生登録、98年からの移動登録と段階的に実施
されたため、2000年初めまでは移動等の記録が完全には行われなかった。この結果、
と畜・死亡が登録されないため、データベース上の牛頭数が実際より多かったり、
高齢牛では、登録がされず実際よりデータベース上の頭数が少ないという事態が生
じた。そうした実態を正確に把握し、データを修正するため、2001年初めに、2000
年12月末現在の牛群調査(センサス)を実施した。さらに、2000年には、96年以前
に発行された手書きの個体識別カードを、新しいバーコード付きカードと交換する
とともに、その情報を中央データベースに取り込むという事業を実施した。


B 制裁措置(2000年に実施されたもの)

 個体識別・トレーサビリティ制度に違反した場合の制裁措置として、奨励金支払
いに関する処罰のほか、移動制限、と畜命令、獣医証明書の発行停止、および起訴
が行われた。


C 正確な運用のためのチェック方法

 制度の運用上、間違えをなくすためのチェック方法として、次のようなことを行
っている。


○ 耳標

・不正防止、かつ管理を容易にするため、2001年から公式耳標はオールフレックス
社製のものi1i種類(ALLFLEX ULTRA)を採用している。また、バーコードの活用で
人的ミスを防いでいる。

・耳標は、各牛飼育農家に、地方獣医事務所が定めた上限枚数(=過去の出生実績
を考慮して決定される)の範囲内で発行される。それ以上の発行には、同事務所の
許可がいる。

・耳標は、登録飼育農家に書留で送られる。

・耳標番号にはチェック用数字が含まれる。番号は、県、牛群、個体を特定するも
のである。

・耳標の取り替え(再発行)に関して2000年には、死亡・と畜・輸出ファイル(コ
ンピューターに入力された情報記録)を耳標発行機関に提供し、存在しない牛に対
して、取り替え耳標を発行しないようにさせている。

・2001年には、完全な牛移動監視システムファイルを耳標発行機関に提供し、シス
テム上、申請牛群にその牛が存在しない場合には、取り替え耳標を発行しないよう
にさせている。


○ 子牛出生登録とパスポートの発行

・子牛出生登録機関は登録に関し、登録前に基礎的なチェックを行い、もし登録内
容に矛盾がある場合には、フォローアップ(継続管理)を行う。

・牛群番号については、牛群が活動中か休眠中か(現実に存在するか)をチェック
する。

・耳標番号は、既に登録されていないかチェックする。

・母牛番号が有効か、さらに雄牛として登録されていないかをチェックする。96年
以降に生まれた母牛はデータベース上に登録記録がなければならない。

・96/97年には、牛の飼育者に個体識別カードを作る責任があったが、98年1月1日
以降、パスポート・システムに移行し子牛出生登録機関が、有効な登録情報の提出
に基づき、パスポートを発行するようになった。パスポートは、正しい飼育者にの
み届くように、窓付き封筒に入れて発行されている。

・99年1月以降、母牛の前回出産から300日以内の出生登録は認められなくなった。

・登録の遅延は、99年から2000年に大きく改善された。2001年1月以降は、出生か
ら90日を過ぎた登録には地方獣医事務所の承認が必要となった。登録遅延割合が20
%を超えると、その農家に対し、それ以上の遅延登録は認めない旨の警告書が発行
される。

・2001年1月1日以降は、母牛が18ヵ月齢以上でないと、獣医師の証明なしに子牛は
登録できない。

・パスポートの再発行には、地方獣医事務所の承認が必要である。2000年3月以降
は、その承認前に牛移動監視システム上の整合性チェックが行われるようになった。
2001年3月からは、子牛出生登録機関に対し、完全な牛移動監視システムファイル
が提供されている。

・双子登録の際のチェックはより厳格に行われる。

・母牛の品種登録について、以前の登録時のデータとの整合性がチェックされてい
る。


○ 牛移動監視システム

・耳標および牛群確認プログラムがシステムに組み込まれており、両者が整合しな
いとシステムに受け入れられない。もし、家畜市場など中間地点でこのプログラム
が無視され、無効数字が記録されるとシステム上に無効のメッセージが表示される
のでフォローアップが可能である。

・さらに、通知事項の矛盾や不整合はシステム上に表示される。食肉工場および輸
出港では、システムはオンラインで繋がっており、異常があれば、当該動物が食品
として流通していく前に発見・解決される仕組みとなっている。

・家畜市場においては、それぞれの取引に係るすべてのデータが、すべての取引で
得られることが必須である。多くの市場で使われているコンピューターシステムは、
取引の部分情報を送ることはできない(すべての情報が送られる)仕組みになって
いる。また、システムが稼動して以来、送られたデータと書類、販売日の整合性を
確認するため、役所の職員が数多くの特別チェックを行っている。

・農家間の直接取引でも、データ確認は行われている。購入者・販売者の両者が通
報を行うことで、通報が完全なものとなっている。2001年5月に、口蹄疫管理対策
として導入された改定通報システムでは、移動承認申請はすべて中央データベース
と照合し、購入者、販売者と牛群、耳標番号の有効性が確認されることとなってい
る。移動後には購入者の確認が行われ、確認できない移動については、フォローア
ップが実施される。

・牛移動監視システムでは、二重登録が発見される事例も多いが、(2頭目が登録
される際コンピューター画面上に)「既に死亡」と警告表示される。この場合、身
体検査、書類チェック、飼育者からの事情聴取、記録の調査、DNA検査などにより、
正しい個体識別ができるまで、牛をと畜できない。もし、個体識別ができなかった
場合には、牛は滅却され、補償はされない。なお、二重登録時の調査・解決法は20
00年後期に標準化された。


○ 農場の実地検査

・毎年、全農家の51%に政府職員が立ち入り検査を実施している。その直接の目的
は補助金交付および家畜衛生対策の監視であるが、間接的に、農家レベルでの個体
識別制度の適正運用のチェックにも役立っている。


3−2.同国のスーパーでの牛肉トレーサビリティ確保の事例

 EU規則上の牛肉トレーサビリティは、販売される牛肉に個体を特定できる参照番
号を表示することにより確保することとされている。通常の参照番号は、処理され
た牛肉のバッチ(同時期に処理された複数の牛から得られた一群)ごとに、同一番
号が付けられるため、牛肉と牛個体を1:1に結びつけることはできない。以下に、
より厳密なトレーサビリティを実現している事例を紹介する。


○同国のスーパーチェーンの1つである「スーパークイーンSUPERQUINN」では、牛
肉のトレーサビリティ確保に力を入れ、消費者の信頼に応えている。90年頃から農
場と契約を結び、契約農場で生産された牛肉を販売している。







○97年からは、アイデンティジェンIdentiGEN社のDNA検査により、確実に個体確認
ができる体制を整えている。すなわち、と畜場に送られた牛は、枝肉段階で、個体
別に肉片(ただし、毛などほかの材料も利用可能)が採取される。この肉片と販売
される牛肉のDNAを照合することで、牛個体(枝肉または生体)と販売される牛肉
の同一性が1対1に確認できるという仕組みである。牛肉売り場には、DNA検査システ
ムの導入を周知するためのパンフレットが置かれていた。なお、アイデンティジェ
ン社は、トリニティ大学(在ダブリン)の研究を基礎に96年に設立された、ベンチ
ャー企業であり、遺伝子組み換え食品検査なども手がけている。

 同スーパーに仕入れられる部分肉には、農家番号およびバッチ番号がラベル表示
されている。対面販売では、切り売りされる牛肉のそばに同ラベルが置かれており、
そのうちの1農家名を看板で掲示していた。






 
 陳列商品棚でも同様に、生産農家名が掲示されていた。ただし、個別パックには
農家番号の表示はなく、参照番号が記載されていた。






 
 なお、アイルランド政府も、国として、DNA検査による個体識別法の実用化(普
及)に向け、取り組んでいる。国立牧場では、耳標装着時にDNA検査用の耳片(穴
を空けた部分)を採取できるという耳標(アイデンティジェン社のほか2社が開発
)の比較試験を実施している(次頁左側の写真の牛が着けている耳標は、現在の個
体識別用公式耳標とアイデンティジェン社製耳標)。






4−1.オランダの豚移動管理制度

(実施責任機関)

 オランダでは、豚の個体識別(由来農場の特定と移動情報の管理)は95年から導
入されている。2001年までは、家畜食肉ボード(Product Board for Livestock an
d Meat (PVV))が実施責任機関で、家畜衛生サービス(GD)が実務を担当していた
が、2002年からは、農業自然管理漁業省が実施責任機関となるとともに、近々実務
担当も同省が受け持つことになる(GDの関係部門が同省に移管される)予定である。


(耳標の装着)

 子豚には、離乳後1週間以内、かつ農場から移動する前に、農場番号とシリアル
番号が記載されたプラスチック製耳標(片側に1個)を装着する。繁殖用豚では、
耳標の代わりに入れ墨を使うこともできるが、入れ墨の利用は限られている。複数
の豚に同じシリアル番号が適用されているため、耳標からは各個体を1頭ごとには
区別できず、由来農場(豚群)の特定のみが可能である。耳標が外れたときには、
農家は直ちに再装着をしなければならない。さらに、と畜場への出荷に際し、その
2日前以降に、金属製の耳標が装着される(この金属製耳標の装着は、脱毛処理で
毛を燃やす時に番号が読み取れなくなるのを防ぐ目的がある)。なお、耳標の供給
メーカー数は、プラスチック製で5社、金属製で2社となっている。EUのほかの加盟
国からの輸入豚については、既に付けられている耳標をそのまま活用する。EU域外
国からの輸入豚については、最終目的地到着後3日以内に耳標を装着する。ただし、
最終目的地がと畜場であり納入30日以内にと畜される場合は、耳標の装着は必要と
しない。


(中央データベースへの移動登録)

 豚の移動および死亡に関して、中央データベースに登録する。移動について、豚
を送る者/受け取る者は2日以内に、それぞれが各自の農場(会社)番号、豚の番
号・種類(子豚、繁殖用豚、肉豚など)、輸送日、輸送トラック番号を中央データ
ベースに、1日中受付可能な自動応答システムを通じて入力する。この両者の通報
が一致しない場合には、確認手続きが行われる。輸入、輸出、死亡については、単
方向の通報のみになる。なお、出生については記録されない。

 輸入時に登録される事項は、由来地の国名および住所、目的地の農場番号、豚の
番号と種類、輸送日、輸送トラックの番号である。


(豚移動管理制度)

 97、98年の豚コレラの大発生(オランダでは429件発生)を契機として、家畜疾
病のまん延防止の観点から、豚移動管理システムが導入された。近年、豚飼育は繁
殖・肥育の専業化が進み、豚の移動が不可避となっている中で、豚の移動を極力制
限しようというのが目的である。システムでは、豚は基本的に生涯に1回(繁殖用
豚は2回)しか農場間を移動できないこととなっている。さらに、豚群(農場)を、
飼育される豚の種類と衛生基準に応じてA〜Dの4種類に分類した上で、豚の供給元
・出荷先に関し、規則(それぞれの義務と権利)を次のように定めている。なお、
分類別に見た現在の豚群数(概数)は、A:450、B:4,500、C:250、D: 10,000と
なっている。

 豚の出荷農家は出荷日の2日前に、中央データベースに通知し、システムに則った
出荷である旨の承認を受ける必要がある。なお、この豚関係のデータベースの維持
・管理は15人程度の職員が行っている。規則に違反した場合の罰則は、疾病発生時
の損害賠償金の35%減額となっている。システムを適正に実施しているかについて、
国の2機関が農家を監視している。


○A豚群(経産豚が高い衛生基準で飼育されている豚群)

 義務−4ヵ月ごとに、一定の衛生検査を受けること。新たな豚の導入時には検疫
    を行うこと。C豚群への豚の出荷先については、最多3ヵ所まで(1年間は変
       更不可)とする。

 権利−A〜Dのすべての豚群に対して、豚を出荷できる。


○B豚群(経産豚が標準的な衛生基準で飼育されている豚群)

 義務      −一定の衛生基準に沿うこと。
  義務・権利−6週間ごとに1回まで、繁殖用豚の供給を受けることができる。A豚
              群またはC豚群に属する1豚群だけから豚の供給を受けることができ
              る(1年間は変更不可)。豚の出荷先(最多ヵ所数)は、1ヵ月にD
              豚群の4ヵ所まで、1年間では12ヵ所までとする。


○C豚群(2〜7ヵ月齢の繁殖用豚が高い衛生基準で飼育されている豚群)

 義務      −4ヵ月ごとに、一定の衛生検査を受けること。
  義務・権利−A豚群に属する1豚群だけから豚の供給を受けることができる。豚の
              出荷先(最多ヵ所数)は、D豚群またはB豚群の20〜28ヵ所までとす
              る。


○D豚群(と畜場へ豚を出荷している豚群)
 
  義務・権利−6週間ごとに1回まで、繁殖用豚の供給を受けることができる。A豚
              群またはB豚群に属する4ヵ所以下の豚群から子豚の供給を受けるこ
              とができる。豚の出荷先は、と畜場だけとする。



4−2.同国の家畜個体識別制度についての今後の計画

 同国の家畜個体識別制度については、2001年9月から見直し作業中である。事前
調査では、すべての家畜(牛、豚、羊・ヤギ)で、共通の新たなコンピューター情
報管理システムを開発すること、システムは・個体識別の実施、・中央データベー
スの整備、・電子耳標の活用を基礎とすることとの勧告が出された。現在、勧告の
実施に向け、IT(情報技術)コンサルタントも含んだプロジェクトチーム、ならび
に農業自然管理漁業省および家畜ごとの代表者でそれぞれ構成される4つの諮問会
議が設けられ、最適のシステム実施方法、実行可能性などについて検討が進められ
ている。


5.おわりに

 EU各国では、家畜の個体識別・移動管理、農場から食肉に至るまでのトレーサビ
リティ確保に積極的に取り組んでいる。過去の苦い体験から、家畜・食品の衛生管
理は、予防的管理を確実にすることが重要かつ適切との認識が広く行き渡ってきて
いることの賜物と思われる。わが国も、BSE問題を契機に、牛の個体識別制度が全
国的に導入・整備されつつあるところであるが、本稿で紹介した、先進的なEUでの
事例が何らかの参考になれば幸いである。

 おわりに、アイルランド農業食料農村開発省、オランダ農業自然管理漁業省、ア
イデンティジェン社、農林水産省畜産技術課ほか各種情報提供などにご協力頂いた
多くの方々に感謝申し上げる。




              

参考資料

・アイルランド農業食料農村開発省資料             
・アイデンティジェン社ホームページ:http://www.identigen.com/              
・オランダ農業自然管理漁業省資料             
・「Review Vol. 20(2)(Traceability of animals and animal products)」(OIE
 (国際獣疫事務局)、2001年8月)             
・「耳標を用いた個体識別システムの研究・開発事業調査実施報告書−電子式家畜
 個体識別(RFID)を中心として−」(家畜改良事業団、平成14年3月)              



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